エピソード 2.05S『英雄達の狂想曲・第五』 アーデルネイドが捕われるのとほぼ同時刻。 エタファ〜シュベェレ間の空域に一騎の有翼式絶対奏甲、ハルニッシュ・ヴルムがいた。 優夜 「俺のマシンはぁ〜♪幻糸の3重織り〜♪」調子はずれの歌が奏甲内に響く。 ルルカ(ちょっと、優夜さん!その変な歌をやめてください、気が散ちります) 優夜 「どんなぁ奴でも〜♪って人が機嫌良く歌っているのに邪魔するな」 ルルカ(邪魔をしているのは、優夜さんの方です!この子が落ちてもしりませんよ!) 優夜 「ふむ、それは怖いな。所でルルカ、なんで『交感』で話す、話せば聞こえる距離だろうに」 確かにこのハルニッシュ・ヴルムは、ツインコックピットを採用していて、優夜が前、ルルカが後ろに座っている。 ルルカ(さっきから何度も、声をかけました。なのに優夜さんが気が付かないから、おかげで私は喉をつぶしかけたんですよ!) 優夜 「あ〜それは悪かった、謝る。しかしな、ルルカ。こんなおいしい依頼は滅多に無いぞ。 この奏甲の長距離テスト飛行をしつつ、物を届けるだけで、あの報酬だ。歌の一つの歌もいたくなるだろう」 ルルカ「確かに依頼主ははっきりしていて、奏甲自体も特に問題無く、運ぶ物も手紙が一つ。優夜さんが持ってきた依頼の中ではまともな部類に入りますが・・」 やっと歌をやめてくれたので、普通の会話に戻す。 優夜 「だからな〜。今は歌いたくってたまらないんだよ。俺の歌姫はぁ〜♪病弱でぇ〜♪」調子はずれの歌が再開される。 ルルカ(あ〜も〜、何なんですかその歌とその歌詞はぁ〜)頭を抱える。 優夜 「俺テーマソング♪」ビシっとルルカに見えるように。 ルルカ(・・・・もういいです、それより一つ聞きたいことが・・) 優夜 「・・・何かな?」ビクッと身をすくめる。 ルルカ(・・・さっきから同じ所を、飛んでいるようなのですが・・・) 優夜 「俺のやる気はぁ〜♪空っぽでぇ〜♪」いきなり歌をいだす。 ルルカ(・・・もしかして・・・迷った?)ルルカの額に血管が浮き上がる。 優夜 「成り行き任せのぉ〜♪渡り鳥ぃ〜♪」更に1オクターブ高く歌う。 ルルカ(・・・腹痛と頭痛に効くハーブ、あったかな・・・) 中の会話をよそに、ハルニッシュ・ヴルムは軽快に空に滑って行くのだった。 それから数刻して、夜が明ける頃。ようやく忍は目を醒ました。 バッド 「ようやくお目覚めか、眠りの王子様」 忍 「ここは?、僕はどうなったんですか?」 バッドラックはかいつまんで今までの事を説明する。 忍 「じゃあ、アールはそのデッド・アングルに連れて行かれたんですか!」 バッド 「騒ぐな!どちらかというと、状況打開のために自分から着いて行ったんだが」 忍 「なんで、・・そんな」 バッド 「案外、おまえに愛想が尽きたのかもな」意地悪く毒を吐く。 忍 「・・・!?」 シィギュン「バッド様、忍様の気持ちを考えてください」バッドラックをたしなめる バッド 「冗談だよ、おまえを助けるためと言って行ったんだ。今のところは無事だろう夕刻になるまではな」 忍 「夕刻・・・、急がなきゃ。バッドさん僕、行きます!」立ちあがって準備をする。 バッド 「歌姫がいないのに一体どうするつもりだ?」 忍 「うっ、そうか。どうしよう」 バッド 「しゃあない、ここは俺達に任せろ、悪いようにはしない」 忍 「でも、これは・・」 そのとき、洞窟の外から衝撃音が響く。身構える三人。 忍 「この音は・・・」 バッド 「有翼奏甲だな。意外と早かったな」 そういって外に向かっていくバッドラック。忍も後を着いて行く。 しかし、そこにいのはバッドラックの予想外の人物と奏甲だった。 バージル「坊主、生きているか」忍の部隊の小隊長、バージルとその部下達だった。 忍 「バージルさん」駆け寄る忍。 バッド 「なんでぇ、人違いか」近寄らず様子を伺う。 忍 「どうしたんですか?部隊はもう出発したんんでしょう?」 バージル「そうだ、だが部隊の再編成で、今は偵察小隊をまとめていてな。今は偵察中だ」にっと笑う。 部下 「隊長。輸送してきた、隊長の奏甲を降ろしましたが」 バージル「うむ、ご苦労。そのまましばらく待機だ」 見ると谷の下の方に見慣れた。奏甲、プルプァ・ケーファだった。 忍 「奏甲を?どうしたんですこんな所に?」 バージル「お前の奏甲を引き上げようと思ってな、これだけの奏甲があればなんとかなるだろう。どうした浮かない顔だな、おまえの歌姫も見当たらないが」 忍 「それが・・・」これまでの事情を説明する。 事情を聴き、考えこむバージル。そして。 バージル「そうか。よし、スパイツ!」そう言って先程の部下を呼ぶ。 スパイツ「なんでしょうか」フォイアロート・シュヴァルベに乗ったまま、聴き返す。 バージル「我々は、評議会軍の状況をいち早く察知した。よって即時帰還する。尚、私の奏甲は輸送中の事故により損傷。やむおえなく現場に放置する!いいな」 スパイツの方を見て、命令を下す。 スパイツ「はっ?しかし」状況が飲みこめず、対応に困る。 バージル「どうした、復唱せぬか。安心しろ責任は私が取る」イタズラを思いついた子供のようににっと笑う。 スパイツ「はっ、了解しました。隊長騎の損傷を確認、また、自分も、情報の有用性から即時帰還を進言します」しっかりと復唱したが、声は笑っている。 バージル「よろしい」満足げに頷く。 忍 「バージルさん、いったい?」 バージル「聞いての通りだ忍。私の奏甲を使え。あれなら一人でもなんとか、動かすことができる」 忍 「でも、バージルさんは・・・」 バージル「安心しろ、万年管理職にはこれくらいどうということはない」 忍 「ありがとう、ございます」 バージル「よろしい、では忍。合流地点でまっているぞ」そう言って敬礼する。 忍 「はい、新見忍。必ず帰還致します」ピッと敬礼を返す。 そのやりとりを遠くで見ていたバッドラックは、 バッド 「今時、あんな奴もいるんだな。類は友を・・というが」 シィギュン「バッド様もその御一人でしょうに?」いつのまにか傍らにいたシィギュンが言う。 バッド 「・・・ふ、そうだな俺も同じか」 スパイツの奏甲に同乗して、朝焼けの空にバージル達は去って行った。 それから、すぐに助けに行こうという忍を、バッドラックが止める。 バッド「ちょっと顔貸せよ、何、イジメはせんから」 緊急な時にもかかわらず、相変わらずの調子のバッドラックに釈然しないものがあったが、忍は着いて行くことにした。 谷を少し上ったところ、わずかに丘のようになった所まで来て。先を行くバッドラックが突然止まった。 忍 「なんです?はやく助けに行かなきゃならないのに」 バッド「まあ、落ち着け。ちょっと確かめたいことがあってな」 忍 「・・・!?」ビクっと少し下がる。 バッド「いや、おまえのことをいろいろ聞こうというわけじゃない。そんなことに興味は無いからな」 忍 「・・・・・・」緊張した面持ちで聞く。 バッド「誰しも、人に言いたくないこのと一つや二つあるだろうし」 忍 「何が言いたいんです」少し冷たい口調で聞き返す。 バッド「俺が言いたいのは一つ、あの嬢ちゃんのことだ」 忍 「アールがどうしたって言うんです」 バッド「まあ聞けよ、おまえが他人に対して一定の距離を持っているのはわかる、決してどんな人間もその中に入れない。 俺も、シィギュンも、さっきの隊長さん達にさえもだ、どんな人間にもやさしく、物分り良く接しているのはその現れだ」 バッド「それ自体も、まあ構わん、だが、あの嬢ちゃん、アーデルネイドだけはおまえの内に入れてやってくれ」 忍 「僕は、アーデルネイドには・・・・」 バッド「本当に全てを見せているといえるか?弱みは、おまえの弱い所はどこにある」 忍 「・・・それを見せたら、・・きっとアールは絶えられない」搾り出すように呟く。 バッド「じゃあ、今ままでのように明るくいい子で、このまま続けるか。 これからはもっとたくさん同じようなことが有る、 その度におまえは嬢ちゃんを欺くことに傷つき、嬢ちゃんはおまえの得体の知れない記憶に怯えていくんだ」 バッド「全く傷つかない関係なんて、無いのも同じだ。もう少し人を傷つけることも覚えろ、そうでなきゃ、いざって時にどうしたらいいか、わからないだろ」 バッド「俺が言いたいのはそれだけだ、あとは自分で考えろ」 丁度、言い終えた頃。上空から近づいてくる物があった。 バッド「やっときやがったな、遅すぎるんだよ」 見上げて呟く、もう普段のバッドラックに戻っていた。忍も見上げる、最初は豆粒ぐらいだった点が、みるみる大きくなる。 優夜 「は〜い、『優夜とルルカの宅配便』ただいま到着〜」 ルルカ(やめてください、そんな恥ずかしい言い方) 到着の衝撃で風が吹き荒れる中、妙に陽気な声が辺りに響く。 絶対奏甲、ハルニッシュ・ヴルム。ロールアウトして間も無い奏甲だったので、忍は見覚えが無かった。 バッド「遅いぞ、こっちはしっかり金を払っているんだ」風の中で大声で文句言う。 優夜 「そんなこといいっこ無し。そっちだって信号弾撃つの遅かったっしょ」待ったく入に返さず切り返す。 ルルカ(優夜さん!自分が迷ったのを棚上げして何言ってるんです!) 優夜 (バカ、言わなきゃばれないんだから黙っとけ、明日の飯のためだ) ルルカ(うー、そんな所ばかり頭が回るんですから)実際、台所事情はかなり厳しいものだったので、この話題をだされると強く言えない。 バッド「とにかく、物はしっかり持ってきたんだろうな」 優夜 「安心してよ、こっちだってプロだよプロ」そう言って奏甲を降りてくる。 バッド「まったくふてぶてしい奴、とにかく中を確かめさせてもらおう」手紙を受け取り中を確かめる。 忍 「なんです、それ」やり取りを呆気に取られて見ていたのが、ようやく我にかえって会話に加わる。 バッド「敵を倒すにはまず情報からってね、奴の奏甲のデータだ」広げた紙には、図入りで詳しく解説が載っている。 忍 「バッドさん、いつの間にこんな物を?」 バッド「いつのまにか、ほら俺って頭良いから」 優夜 「よくいうぜ、三十路を過ぎたおっさんが」無言で突っ込むルルカ。多少よろめく優夜、まだ平気らしい。 忍 「・・・?」やり取りに着いていけず、取り残される。 バッド「賑やかだな、相変わらず。俺も混ぜろよ、そのうちな」いいながら目は奏甲データを確認している。 優夜 「メンシュハイト・ノイ、新型じゃん」ひょいと覗きこみ答える。 ルルカ「ちょっと優夜さん、依頼物を見ちゃだめですって」慌てて止める。 バッド「別に構わんよ、それより空からこれ見なかったか?」 それを聞くと優夜は、すっとバッドラック手をだす。 バッド「何の真似だ?」 優夜 「特別料金♪」さらに激しく突っ込むルルカ、優夜はみぞおちを抑えているがまだまだ平気らしい。 バッド「・・で、見たのか?」 優夜 「見たよ、ここより少し下った所の湖の近くにいた」すでにみぞおちのダメージは回復しているのか、さらりと答える。 優夜 「それと、エタファを経つ前に、いい事聞いちゃったんだけど、聞きたい?」 バッド「なんだ、聞かせろ」 また、バッドラックに手をだす。 優夜 「追加料金♪」まだ懲りてないらしい、そしてルルカの更に激しい突っ込みで、頭がおもしろい方向に曲がりそうになったのを慌てて直す。 優夜 「まあ、いいや。これはサービスで。酒場で呑んでて、たまたま聞いちゃったんだけど・・・」 ルルカ「優夜さん、いつの間にそんな所に。 お酒はいけません!」ビシッと優夜の鼻先に指を付きつける。 優夜 「いいの、いいの。元居た所では、16からOKだったんだから」 バッド「嘘だ、嘘。知ってんぞ」今度はバッドラックが突っ込む。 忍 「・・・・あの、話しは・・」たまりかねて合いの手を入れる。 一瞬、風が吹き抜ける。 優夜 「あっ、そうそう。何の話だっけ?あっ酒場での話しね。そう、どうもね、その奏甲の生産と輸送にベーゼン商会がかかわっているらしいよ」 バッド「確かなのか?」 優夜 「なんかねぇ。気持ち良くなってうとうとしていたら、後ろでぼそぼそ話しているのがいてね。 寝たふりして聞いていたら、そんなこと言ってた」 バッド「なるほどね、これでだいたい繋がったな」 優夜 「あとね、最後のとっておきがあるんだけど聞きたい?」今までより自信をもって言う。 バッド「なんだ、報酬はださんぞ」さすがに呆れている。 優夜 「いや、これは物々交換でいいや」 バッド「何とだ?緊急時だし、たいした物は持ってないぞ」 優夜 「そんな大した物じゃない・・」 ルルカは話しの先を察したのか、袖を引っ張って止めようとする。 優夜 「・・・地図、この辺の」 ルルカは赤面したまま下を向き、バッドラックは返す言葉が無く、忍はただこの場が収まるのを待つだけだった。 先程より、強い風が拭きぬける。紆余曲折があったものの、これで決闘の準備は整った・・・。 エピソード 2.05S END |