エピソード 2.06S『英雄達の狂想曲・第六』 その奏甲が現れたのは、空と湖が鮮やかな赤に染まりはじめる頃だった。 D・A「まさか夕刻まで来ないとはね、たいしたものだよ」 D・Aが乗る奏甲、メンシュハイト・ノイの側らには、縄で腕を拘束されたアーデルネイドがいた。 アール「忍!いくらなんでも遅すぎじゃないか」 現れた奏甲、プルプァ・ケーファからはなんの返答も無い。 D・A「もはや語ることは無い、とゆうことか。いいだろう」 ナイフを水平に構え戦闘態勢にはいる。 だが、ケーファから意外な声が響いてきた。 バッド「残念ながら、あいつは来ないぜ」 ケーファはライフルを構える。 アール「・・・!?」驚いて声も出ない。 D・A「おじさんじゃないか、バカをいうな、このゲームをあのガキが降りるわけが無い」 すり足で進み、様子を伺う。 バッド「こんなくだらない、茶番にはつきあえんのだとさ」 D・A「・・その程度で騙しているつもりか?その奏甲に乗っているのはおまえじゃない」 バッド「やれやれ、何を言うかと思えば・・しょうがない。おい、シィギュン」 声と同時に奏甲の後ろからシィギュンが現れる。 アール「そんな!?本当に忍は・・・」 D・A「・・・失望したよ、ゲームの主役が現れないのでは・・」振りかえりアーデルネイドに迫る。 D・A「ゲームオーバーだ!」ナイフを振りかざす。 バッド 「シィギュン、戦闘起動!リミッターOFF!」 シィギュン(はい) ライフルの発射と同時に物陰に隠れていた、シャルラッハロートTが凄まじい勢いで突っ込む。 D・A「・・何!?謀ったな!」ライフルを回避しながら叫ぶ。 バッド「バーカ、騙される方が悪い。忍!ライフルで援護!頼むぞ」シャルTを全力疾走させる。 忍 「了解!アールをしっかり確保してくださいよ!」忍のケーファが慎重に狙いをつける。 忍 「付け焼刃だけど、今まで特訓したんだ!」その射撃は、正確にメンシュハイトを捉える。 アール(忍!ほんとうに忍か!)『交感』でアーデルネイドが呼ぶ。 忍 (ごめんね、アール、君まで騙して。僕が直接助けたかったんだけど・・) アール(途中で気が付いた、あれはシィギュンの歌術だな) 忍 (そうだよ、やっぱりアールだね。知ってて叫んだんだ、かなわないな) 回避で手一杯のメンシュハイトに、タックルをかます。 D・A「貴様らぁ、味な真似を」 バッド「よし、お姫様は返してもらったぜ」アーデルネイドを回収し、安全圏まで離脱する。 バッド「あとは一対一だ好きにやんな」 忍 「わかってます。アール、リミッターOFFで再起動!一気に勝負をつける」ライフルを捨てて、愛用のブロードソードを構える。 アール(わかった、必ず勝て) D・A「貴様ぁ、ただでは返さん」低い声で唸る。 忍 「僕も、あなたを野放しにする気はありません」 D・A「言ってくれるな、ガキが!」 そうして、戦いがはじまった。 何回となく打ち合いが続く、日はかなり傾きかけ、夜の帳が落ちようとしていた。 D・A「どうした、息が上がっているぞ?」そう言っているD・Aの声にも疲れがみえる。 忍 「・・・まだまだ・・」なんとか言葉を返すが、肩で息をしている。 持久戦になり、途中で起動モードを通常に戻したものの、基本的に完全一人乗り対応のメンシュハイトには持久戦の面では先をいかれている。 短期決戦を考えてのリミッターOFFだったが、D・Aの実力はそれを上回るものだった。 シィギュン「バット様、忍様が・・・」心配そうに戦いを見守る。 バッド 「アールを助けた時点で、これは決闘だ。あいつが負けを認めるまで、俺は動かん」厳しい眼差しで、同じく戦いを見守る。 バッド 「しかし、まずいな。これほどの腕とは」アーデルネイドを助けるあの時点までは、本当に遊んでいたのではないか、そんな疑問が浮かんでくる。 D・A「もう降参したらどうだ?おまえの負けだ」ナイフの構えをとく。 忍 「・・まだだ、まだやれる・・・」 D・A「なぜ、そこまでこだわる?これ以上はよせ」 忍 「あなたを助けるんだ、まだあきらめない」 D・A「助ける、私を?おまえが?」 忍 「そうだ、あなたは僕とあなたが同じだと言った。確かに同じだ、人の死を見過ぎたと言う点では」 D・A「なんだ、その話しか。今更まだ自分は殺ってないというのか」 忍 「それなら、まだ楽だった。自由に生きることも死ぬことも許されずに、ただまわりの人間が一人、また一人と死んでいくんだ」淡々と呟く。 忍 「気が狂った奴から、順番に消えていくんだ。僕は生きたかった、だから見てきたよ何人も何人も・・」 アール(・・!?本当なのか) 忍 「ごめんね、アール黙っていて。でもおかしとは思ったでしょ。 こんな子供が簡単に奏甲を動かして、剣を振るって、戦いの恐怖に怯えずに『蟲』を倒していくなんて」 アール(あれは、単に自分のやっている事に自覚が無くて、ゲームのような感覚だと・・) 忍 「そうゆう風に見せていたんだ、ごめん。誰も僕の過去を見ちゃいけない、そう思っていた。でも、それじゃ何もならない。弱さを見せる強さが必要なんだ」 忍 「だから、殺人鬼を気取ってみても、仲間を求めてしまう、孤独に耐えられないあなたには絶対に負けない」 D・A「言わせておけばぁ!付けあがるな!」ナイフを構え突進する。 忍 「あなたに僕は殺せない!」剣を構えて駆け出す。 2騎の奏甲が交錯し、そのまま硬直する。 ケーファの片腕が吹き飛び、メンシュハイトはそのまま崩れ落ちた。 長い戦いは終わった。 バッドラックと忍の前にD・Aが降りてくる。 D・A「さっさと殺せよ」その場に座りこむ。 バッド「言わんでもそうするさ」バッドラックが剣を抜く。 忍 「いや、やめましょう。D・Aいやデッド、あなた、歌姫は?」剣をさえぎり、問いただす。 D・A「そんなもん。ここにきてずっと一人だ」 忍 「なら、歌姫をさがしてください。あなたと『宿縁』で結ばれた歌姫を・・」 D・A「バカ言ってんじゃない!今更できるか!」 忍 「今すぐとはいいません。でもここで生きていればきっと『宿縁』を感じるはずです。そのときは迷わないで下さい」 D・A「逃がすのか、またおまえを殺しにくるかもしれないぜ」 忍 「そのときは、そのときです。今度はちゃんと勝って見せます」おどけて言う。 D・A「もっとたくさん人間を殺すかもしれないぞ」 忍 「もうあなたは、無駄な殺人はできない。僕にはわかります」きっぱりと言い放つ。 しばらく、睨み合う二人、やがて。 D・A「次に会う時は、もう少し腕を磨いておけ。殺し甲斐が無い」 忍 「わかりました、対等に戦えるようにがんばります」 D・A「次は殺す、絶対だ」そういって、D・Aは去って行った。 バッド「なあ、忍よう、ほんとうに良かったのかあれで」バッドラックはまだ腑に落ちない。 忍 「良いんじゃないですか、丸く収まったし」 バッド「それは、そうだけどよお」 アール「しのぶー」 シィギュンとアーデルネイドが駆け寄ってくる。 忍 「ごめん心配をかけ・・」振りかえった矢先。 バチンと派手な音が響く。 忍 「えっ・・・」ようやく自分の頬が叩かれたのだと気が付いた。 涙目のアーデルネイドが睨んでいる。 アール「なぜ、いままで黙っていた、私はおまえの半身だぞ。確かにおまえのことを見抜けなかった私にも落ち度はあった。 しかし、もっと私のことを信用してくれ。そうでなければ、そうでなければ有翼奏甲に一人で乗せて途中でリンクを切ってやる!」 バッド「それ死なないか、普通」 忍 「もしかして、すごく怒ってる?」シィギュンに助けを求めるが、シィギュンは笑っているだけで何も言わない。 アール「聞いているのか!忍!」 忍 「あ、は、はい。聞いてます聞いてます」 アール「私は、なあ・・・」そう言うと忍を抱いて泣き崩れた。 忍 (アールってこんなに泣き虫だったんだ) 今まで見せた事の無いアーデルネイドの感情と、抱かれている心地よさは、叩かれた頬の痛みを消すには十分だった。 バッド 「さあて帰るか、いくぞシィギュン」 シィギュン「はい」出発の準備を整える二人。 忍 「やっぱり、行っちゃうんですか?」 バッド 「まあな、やっぱり俺は、自由の身が一番ってね。まあ、エタファでやり残した事も有るしな」 忍 「そうですか・・・」 バッド 「そう寂しそうな顔をするな、またどっかで会えるさ」 忍 「はい」 バッド 「しかし、遠いなエタファ。アールじゃないが有翼奏甲が欲しくなる」 そう言っていると、聞きなれた衝撃音が聞こえてくる。 バッド 「この音は・・・」 忍 「確か・・宅配便の・・・」ほどなく風が沸き起こる。 優夜 「バッドの旦那ぁ、呼んだ」見慣れたハルニッシュ・ブルムが低空をかすめる。 バッド 「優夜ぁ、てめえなんでここにいやがる!」 優夜 「いやだなぁ、旦那が困っているだろうと思って戻ってきたのに」 ルルカ (本当は地図を見たのにまた迷って、戻って来ちゃっただけじゃないですか!) 優夜 「まあ、そうとも言うかな。大丈夫、迷ったのを棚に上げて、旦那の奏甲の輸送をしつつ道案内してもらって、 報酬をもらおうなんて一石二鳥な事を思いついた俺って天才なんて、前々考えてないから♪」 ルルカ (いっぺん死にますか?いやマジで)何度目かの後悔が先に立つ。 バッド 「成功報酬だぞこれは!」なかばあきれて漫才に付き合う。 優夜 「了解、早くしないと夜間割増になっちゃうよ?」 バッド 「いいから早く降りて来い!」 優夜 「そうしたいんだけど〜、ルルカ、どうやって降りるんだっけこれ?」 ルルカ (さっき降りたじゃないですか、同じようにやってください) 優夜 「実はたまたま成功しただけで、自信無い・・・」 ルルカ (ああ、もうだめです。眩暈が・・)あまりの無責任振りに目の前が暗くなる。 優夜 「あ、こら、こんな所で発作か?、つわりか?誰の子だ、おい」緊急事態でも冗談は忘れない。 ルルカ (実は・・長時間の慣れない・・飛行で・・酔いと・・疲れが・・)すでに冗談が耳に入らず気を失う。失速していくハルニッシュ・ヴルム 優夜 「ってまじか、おい。旦那〜助けて〜」さすがに慌てる。 バッド 「これは報酬から差っぴくぞ、いいな?」 優夜 「なんでもいいから命だけは〜」 バッド 「よし、聞いたぞ。忍、おまえも手伝え」 忍 「え、あ、は、はい」しばらく呆然と見ていたが我に返る。 広大なアーカイアの片隅で起こった、小さな一つの事件はこうして夕暮れとともに幕を閉じた。 エピソード 2.06S END |