エピソード 2.13O『姫達に送る前奏曲・第三』 シュレット「結局、負けちゃったね」残念そうに振り向く。 ベルティ 「仕方が無いよ、相手・・強かったもん」 勝負がついて、歌を紡ぐのをやめたベルティーナが応える。 奏甲バトルは、桜花の最後の抵抗も空しく、桜花達が負けてしまった。 シュレット「あ〜あ、せっかく桜花が勝つのに3000も賭けてたのに」 ベルティ 「ふふふ、それは残念でした。私は相手の英雄様に賭けてたから、儲かっちゃった♪」 シュレット「あんた、なにやってんの?」ジト目で睨む。 ベルティ 「だぁってぇ〜、対戦が始まる前に、ちらっと見たらカッコ良かったんだも〜ん」 シュレット「奏甲起動に三回も失敗したのは、そのせいか!コラ!」そう言ってハンマーを振り回す。 ベルティ 「わ、わ、わ〜、降参、降参」走って逃げ回る。 程なく桜花が、合流する。 シュレット「あ、桜花お帰り〜、残念だったね」追うのをやめて桜花をねぎらう。 桜花 「ん、ええ・・・」対戦で疲れたのか、反応が悪い。 ベルティ 「あ、ああ、桜花ぁ〜、シュレットがいじめるの」桜花の後ろに隠れる。 シュレット「桜花聞いてよ!この色ボケ女がね・・・」 言いかけたシュレットを制して、桜花が尋ねる。 桜花 「ごめんなさい。対戦した、相手はどこにいるか、知ってる?」 シュレット「え〜と、確か反対側じゃないかな?」建物の構造を思い出しながら答える。 桜花 「そう・・・ありがとう」そう言って反対側に向かう。 ベルティ 「どしたの、桜花?まさか、惚れた?」先に回って聞く。 シュレット「それはあんたでしょ!まったくもう、それより桜花、疲れてない?」付いて行きながら訪ねる。 桜花 「大丈夫・・ちょっと気になった事があって・・」そのまま二人を見ずに歩く。顔を見合わせながら付いて行く二人。 一方、反対側では、レグニスとブラーマが休憩していた。 ブラーマ「レグニスさっきの相手には・・」 レグニス「大丈夫だ、ちゃんと最小限の被害に留めた」 ブラーマ「中の人間にもか?」少し真顔で聞く。 レグニス「中の人間にもだ」ブラーマを見てしっかりと答える。 ブラーマ「それなら、いいのだが・・・」 言いかけたブラーマの言葉を、部屋をノックのする音が遮る。 レグニス「誰だ」 桜花 「すいません、こちらにレグニス・ハンプホーンさんはいらっしゃいますか」 丁寧な言葉が返ってくる。 危険が無いことを確認し、ドアを開けて尋ねてきた人物を確かめる。 レグニス「俺がレグニスだが」 桜花 「お疲れの所をすいません、私は紅野桜花。先程・・・あなたと剣を交えた者です」 レグニス「ほう、おまえが・・。で、何の用だ。納得がいかず、再戦でもしに来たか?」 桜花の身に付けている、刀を見ながら答える。 視線に気が付いて、あわてて否定する。 桜花「これは、違います。その・・少し、お聞きしたいことがあるのですが、お時間いただけますか?」 レグニス「ここでは、まずいのか」 桜花 「できれば、二人だけで話しがしたいのですが・・・」真剣にレグニスを見つめる。 レグニス「・・・・いいだろう。ブラーマすぐ戻る、そこで待っていろ」そういって部屋をでる。 ブラーマ「レグ?・・・」会話は聞こえていたが、意外な展開に驚く。 レグニスと桜花は、廊下の先の方に行ってしまった。 ブラーマ「おい、レグ!・・・・・なんだ、おまえ達?」廊下で不信な二つの人影を見つけた。 ベルティ「う、い、いや〜、私達はただの通りすがりの・・・」 シュレット「・・・桜花の付き添いですぅ〜」そそくさと逃げようとする。 ブラーマ「待て!・・・ちょうどいい、おまえ達に聞きたいことがある」そう言って二人を部屋に引きずる。 ベルティ「あは、あははははは」 シュレット「だから、やめようっていったのに〜」 問答無用で引きずられる二人。 レグニス「最後の技を見切った理由?」 廊下の奥、人通りは少ないその場所にレグニスと桜花はいた。 桜花 「そうです。あの技は私の家に伝わる奥義の一つ、それを簡単にあなたは見切った・・」 それは紅野家に伝わる、二刀技の戦法の一つ。左の刀を場合によっては、左腕ごと犠牲にして相手の攻撃を受けて、隙をつくり、右の刀で居合斬りをする。 これは相手の武器、受け流し方等様々な要因で幾重にも変化する高等技だった。 レグニス「簡単なことだ、おまえの左の刀に刃が無かったのが見えた、それだけのことだ」 桜花 「・・・左が囮だと気が付いたと?そんな、あの速さで、そんな所まで・・・」 確かに左の刀は受け流すことだけを考えたため、剛性を上げて刃を無くしていたのだが。 実際、刃が無いのを悟られないために、踏み込みのスピード、刀の持ち方など気を配ったのだったが。 レグニス「それでも、見えてしまった。それだけのことだ」事も無げに言う。 桜花 「では、それだけわかっていながらなぜ、右を抜かせたのです?」 確かに左が囮だと気が付けが、右の居合を出す前にいくらでも止めることができた。 レグニス「おまえは、あそこで死にたかったのか?」 桜花 「・・・・!?」 レグニス「ん、ああ、少し飛躍しすぎたか、・・・そうだな、あの一戦だけが戦いではないだろう、おまえの奏甲は内部機関が相当痛んでいた。 もし、あそこで奏甲の左腕を失って勝ったとしても、次は無い。これは、殺し合いではないからいいが、実戦では2、3回戦っただけでおまえは死ぬ」 桜花 「・・・・・」返す言葉が無い。 レグニス「思い切りはいいが、常に2手3手先を読んで行動することだな。 それと、修理する人間の労力、それに掛かる費用も考えてだ・・・まあ、これは合い方の受け売りだが」 桜花 「・・・・ありがとう・・・ございます」それだけ言うのがやっとだった。 レグニス「死にたくなければ、負け方も覚えろ。負けが負けで済むうちにな」 そう言い残しレグニスは部屋に戻って行った。 一方ブラーマ達は・・・ ブラーマ「・・・ふむ、だいたいわかった」お互いのこれまでのいきさつを、一通り聞いた所だった。 シュレット「そうゆうわけで、僕が桜花のために奏甲用と桜花用に刀を鍛えたんだ」 少し自慢げにふんぞり返る。 ブラーマ「小さいのに、たいしたものだな」 ベルティ 「何言ってんの、鉱石をあんなに無駄にして〜」横からこずく。 シュレット「でも、桜花は全部自分が払うって言ってくれたよ」 ベルティ 「桜花がお人好しすぎるの!だからこうやって稼いでいるんじゃない」 シュレット「ヘぇ〜相手の英雄に賭けるのが、稼ぐって言うんだ〜」 ブラーマ 「なんだおまえ、レグニスに賭けたのか?」 ベルティ 「え!?だってカッコイイじゃんあのひと」真顔で答える。 ブラーマ 「ん、うむ、まあな」少し顔が赤くなる。 シュレット「いいよね〜、ブラーマさん。ずっと一緒なんでしょ?」 ブラーマ 「そうでもないぞ、あれはあれでいろいろとな・・・・」 たまりにたまった愚痴が続く。ベルティーナは話しを振ってしまったことを後悔した。 シュレットはシュレットで、それだけ相手の事を思ってるんだと解釈して、 自分も姉達と一緒に歌姫になれば良かったかなと思い、楽しそうに話すブラーマを羨ましそうに見ていた。 翌日・・・ レグニスは次のバトルの対戦相手と対峙していた。 相手の奏甲、シャルラッハロートUから話しかけられる。 バッド 「おまえさん、昨日、紅野の嬢ちゃんを倒した奴だな」 レグニス「ぶしつけな奴だ。確かに紅野桜花を倒したのは俺だが」 バッド 「やっぱりそうか、おまえさん、過保護だねぇ」 レグニス「どうゆうことだ?」 バッド 「おまえさんの腕なら、技を見切り。嬢ちゃんが触れる前に、最低限のダメージで奏甲を止めることもできたはずだぜ」 レグニス「買かぶりすぎだな、根拠は?」 バッド 「動こうとして一度止まっただろ?あんたほどの腕だ、それは迷いじゃない。それと、技を出させた理由もわかるぜ」 レグニス「・・・・」 バッド 「あんたは、あれは嬢ちゃんが始めて使う技だと気が付いた。 だから、それを最後までやらせてちゃんと失敗させてやったんだ、嬢ちゃんの今後のためにな。まあ本当は俺がそうしてやるつもりだったんだが・・・」 レグニス「ならば、なぜここにいる?役目は終わったのだろう」 バッド 「いろいろ抱えこんじまってね、俺と同じ事ができる奴とやってみたくなったのが一つ」 レグニス「もう一つは」 バッド 「おまえさんの血の臭いを、嗅がせたくない奴がいるからな」 レグニス「・・・・・・・過保護・・・だな」 バッド 「はっはぁ〜、良く言われる、それじゃ、そろそろ」 互いに剣を構える。 レグニス「久しぶりに・・・」 バッド 「本気でいこうかぁ!」 これは、相手が自分に本気を出させるための作戦だったかもしれない、だがそれでも良かった。 ここはおもしろい所だな。レグニスはここにきて何度目かの笑みをこぼした。 エピソード 2.13O END |