エピソード 2.14O『姫達に送る前奏曲・第四』


レグニスVSバッドラックの戦いは、バッドラックの降参で幕を閉じた。本人曰く。
バッド「やっぱり歳には勝んね」ということだった。

その場に、白銀の暁に参加しているはずの新見忍もいた。

何をしてるんだろうなあの人は、忍も先の戦いを見ていた。それは今日一番の名勝負といっていいほど、見事なものだった。

忍  「まあそれは、それとして・・・」忍は自分の、格好を見直した。

そこに鏡があったならば、りっぱな女性英雄が映ったことだろう。
髪はかつらを被り、服装はバッドラックがどこから見付けてきたのか、ブレザーとスカート・・それに簡単な鎧と剣を携えていた。

同じように変装したアーデルネイドが合流する。
アール「どうだ、忍・・・!?・・しかし・・ほんとにおまえは無駄に似合うな・・」深いため息をつく。
忍  「・・・ほっといてください」もう怒る気力も無い。
アール「ああ、それと奏甲の偽造と機奏英雄登録は済ませたぞ。
    このバトルでおまえは桔梗、私はフェェイルズ・アリアストレートだ、私のことはフェイでいいぞ、桔梗殿」ポンと肩を叩く。
忍  「何ですかそれ?」
アール「知らん、どうせあの男の趣味だろう」

ヴァッサァマインへ迂回ルートを通っていた忍達の部隊、補給のためによった街にバッドラックがいた。
見つけて開口一番。
バッド「いいところに来た、手伝え」の一言。

内容は、今回行われている奏甲バトルの調査をするので、陽動として出場しろとのことだったが・・。
あの人普通に出てるじゃないか、まったくわけがわからない。
だが、忍の部隊の隊長、バージルにも『協力するように』と言われたので断るわけにもいかない。

アール「そろそろ試合の時間だな、いくぞ」ぐずぐずしている忍を促す。
忍  「そういえば、対戦相手は・・・」
アール「大丈夫だ、おまえの知らない人間だ、機奏英雄は天凪優夜、歌姫はルルカといったな」
忍  「帰る」速攻で部屋に戻ろうとする。

慌てて手を掴む。
アール「待て待て待て、冗談だ。大丈夫、あの二人ならばれないだろう」
忍  「絶対ばれる、笑われる、帰る」スタスタと元来た道を歩き出す。
アール「これも仕事だぞ、部隊から正式な命令書を見ただろう」
忍  「絶対、陰謀です。策略です。こんなこと有るわけ無いです」 
アール「大丈夫だ、実際対戦では、姿を見せることも少ない。ぱっと始めてそれらしく戦ってすぐ終わりだ」

忍が立ち止まって振り向く。
忍  「本当に?」
アール「本当だ」
忍  「絶対に?」
アール「絶対にだ」
忍  「何を賭ける?」
アール「おまえの好きなものを・・・」
忍  「・・・・」途端に少し赤くなる。
アール「・・それは却下だ」 
忍  「何も言ってない・・・」
アール「言わなくも、なんとなくわかる」

二人がそんなやりとりをしている所に・・。
???「お楽しみのところ、邪魔するよ〜」
アール「誰だ!」

優夜 「大きな声じゃ言えないが、小さな声じゃ聞こえない、トラブルの有る所にその人有り、天凪優夜たぁ俺のことだ」ビシッとポーズを決めている。
忍  「げっ」顔が青くなる。
アール「おまえ、何でここにいる控え室は反対側だろう」
優夜 「だってさぁ〜、対戦相手が女性英雄って聞いたら挨拶しとかなきゃじゃん」
アール「まさかここまでとは、うかつだった」
忍  「あ、あ、あのですね、これはぁ〜」
優夜 「ちっちっち、みなまで言うな忍君!、話しはだいたい聞かせてもらった」
忍  「ど、どこからです」
優夜 「『まあそれは、それとして』から」
忍  「って最初からじゃないですか!!」
優夜 「まあ、そうとも言う」
忍  「と、とりあえず。この事は内密に・・・」
優夜 「大丈夫、大丈夫、僕に任せていたまえ忍君!
    別に秘密をばらされたくなければうまく負けてくれとか、生活が厳しいからここで負けるとルルカと路頭に迷うとか、
    その格好をルルカが見たら『不潔です、忍さんてそんな特殊な趣味があったんですね』とか言って即倒間違い無しだから、
    穏便にすませたければ・・・とか、でも反応がちょっと見てみたいとか、ぜんっぜん考えてないから」満面の笑みで早口でまくしたてる。
忍  「あは、あははは」もう笑うしかない。
アール「まあ、この場合はしかたあるまい」

忍の受難はその後、優夜との奏甲バトルが終わるまで続いた。
無事、陽動という任務は果たしたが、戦闘中は・・
優夜「はっはっは、動きが遅いぞ、しの・・」
忍 「わ〜わ〜わ〜」と大騒ぎなバトルになっていた。

しかし・・・
ルルカ「やりましたね優夜さん、後はレグニスという人を倒せば今回優勝ですよ♪」
優夜(・・・勝てる気がしない・・・・)
後に試合を見た者の証言では、一騎の奏甲が伝説的な逃げを見せたという・・・。


忍  「・・・疲れた・・」散々遊ばれたあげく、結局ルルカにもばれてしまった。
ルルカは『忍さん可愛いです』と言ってくれたのが、救いなのかそうでないのか・・。

早く戻って着替えたかったが、身体がいうことを聞かない。
とりあえず、エントランスのイスに腰掛ける。黙っていれば女の子だ。
ここでは圧倒的に女性が多い、知り合いもいないし・・・。と辺りを見まわして少し休むことにする。

桜花「失礼します、隣いいですか」見知らぬ人に声を掛けられる。
忍 「あっどうぞ」少し横にどける。
桜花「すいません、少し疲れてしまって・・」
忍 「そうですよね、ぼ・・私も人ゴミはちょっと」女装していたことを思い出す。
桜花「ああ、実は私もなのです、知り合いとはぐれてしまって・・・」
忍 「大変ですね、本当に・・あの失礼ですけど、召喚された人・・・ですよね?」
桜花「あっ、はい。そうです。あなたも・・・ですよね?」
忍 「・あ・はい・・・大変・・ですよね・・・」不意に、自分が女性でここに来たらと考える。
桜花「・え、ええ。でも、もう慣れました」
忍 「・・強いん・・ですね・・」
桜花「そんなことないです。周りのみんなに迷惑を掛けてばかりですけど・・」
忍 「私もです。自分の力でやっているつもりでも、助けられているばかりで・・」
桜花「私も今回の戦いで、いろいろと教わりました・・・」

桜花は、これまでの簡単ないきさつとレグニスとの会話のことを話した。
忍 「すごいですね、武家の人だなんて・・・」
桜花「昔の話しです。それにもう、このまま戻れるかもわからぬ身。家のことは忘れました」
忍 「でも、その刀は持っているんですね・・・」塵乃桜雪を見る。
桜花「『我を抜くに至りし思い、夢々忘るるべからず』この言葉気になって・・・」
忍 「ちょっと見せてもらっていいですか?あっ、すいません大切な物、なんですよね」
桜花「いえ、どうぞ。こんな所で同郷の同姓に会えるとは思わなかったので・・」そう言って桜雪渡す。
忍 「・・・・すいません」少し後ろめたい思いで受け取る。

抜いて見て、刻んである文字を確認する忍。
忍 「やっぱり、これは・・・」
桜花「どうしたのですか?」
忍 「この文字は、造られたときに刻まれたものですね・・」
桜花「わかるのですか?」
忍 「多少、心得があって・・・」適当に言葉を濁す。
桜花「これは、創始者が持っていたとされている物ですが・・・」
忍 「武門の創始者ですか・・・その人の思いがわかるような気がします」
桜花「そんな簡単にわかるものとは・・・」

忍 「あ、すいません。ここからは自分の憶測です。創始者の人もこれをもらったのだと思うのです。
   新しい事を始める・・、それは大変なことです。これを贈った人も創始者の新しく武門を開くという決意の後押しとして刻んだものだと思います」
桜花「なるほど・・・そういう考え方もありますね」
忍 「それと、あなたのお爺様もきっと同じ思いだったと思いますよ」
桜花「えっ、お爺様がですか?」
忍 「一つの流派に収まるなと、言いたかったのだと思います。新しく何かを開拓する心、それをあなたのお爺様は教えたかった・・」
桜花「・・・・・」考えてもみなかった。紅野の中で一人立ちすることばかりを考えていた桜花には、思いもつかないことだった。
忍 「まあ、自分の憶測ですけど・・でも」
桜花「・・・でも?」
忍 「そう考えた方が、素敵じゃないですか。がんばろうって気になりません?」おどけて聞き返す。
桜花「・・・そう・・ですね、いい考え方をおもちなのですね・・」年下と思っていたが、自分よりしっかりしているので驚いていた。

忍 「受け売りなんですけど・・・。『常に新しきを見、刃の心を研ぎ澄ませたもうべし』元居た所で聞いた言葉です。
桜花「どんな意味なんです?」
忍 「いろいろな解釈が出きると思います。自分は『自分に無いものを見て、己の力を鍛えろ』と言うことだと思っています」
桜花「素敵な言葉ですね・・・」

当然後ろから声が掛かる。
アール「桔梗殿!!」
忍  「わ、わ、はい?」偽名よりも、アーデルネイドに呼ばれたことに反射的に返事をする。
アール「桔梗殿、何をしていたのですか、みなさんがお待ちですぞ」
忍  「み、みなさん?」後ろを見ると、バッドラックと優夜が笑いながらが手をヒラヒラさせている。
アール「ささ、お早く、お早く」忍の手を無理やり引っ張る。
忍  「あ、じゃあ、さよなら。またどこかで・・・・」
そうして忍達は行ってしまった。
名前聞くの忘れたな・・・それだけが少し残念だった。

桜花 「『常に新しきを見、刃の心を研ぎ澄ませたもうべし』・・・」先程の言葉を反芻してみる。
桜花 「新しきを見る、刃の・・心か・・・」不思議な響きを感じる。

ベルティ 「桜花♪なにしてんの?」いつのまにかベルティーナがいる。
桜花   「捜してたんですよ、何処に居たんです?」
シュレット「ブラーマさんとお茶してたの♪なんか仲良くなっちゃって」
桜花   「ブラーマさん?レグニスさん歌姫の方・・」うろ覚え記憶を引っ張り出す。
シュレット「そう、桜花の事を話したら。今度ゆっくりお話がしたいですねって言ってた」
桜花   「そうですか、そうですね、ご挨拶もしてませんでしたし・・」
ベルティ 「それじゃあ今から行こっか」
シュレット「今度は、ベルティの奢りだよ」
ベルティ 「任せなさいって、愛のパワー稼いだお金で奢ってあげる♪」
桜花   「え、え?今からですか?」
ベルティ 「そうそう、いっくよ〜」

それぞれの道、それは多様にからまり様々な歌を紡ぐ・・・。
それはアーカイアが混沌の坂を転がり始めてまもない、まだ、人に希望があった頃の出来事だった。

エピソード 2.14O END

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