エピソード 2.22D 『迷子達の夜想曲・第二』 カイゼル「・・・で、状況は」 ネレイス「はい、見回り中に不信な音を聞きつけて、ご息女様の部屋を確認。ここで室内に進入した族を発見。緊急事態と判断し発砲しました」顔は強張っている。 カイゼル「ふむ・・・で、サレナは何をしていた?」 サレナ 「はい、ネレイスさんと一緒に部屋に入り、同じく一大事と思いまして・・その・・攻撃歌術を少々・・・」 カイゼル「うむ・・見事なものだな・・・」 サレナ 「・・・・恐れ入ります」消え去りそうな声で答える。 ご息女・・マリーツィア嬢の部屋、今は台風が過ぎ去った後のようだった。 奇跡的にマリーツィア嬢は無事だったが。 カイゼル「申し訳無い、内の者がとんだ失礼を・・」振りかえりメルトラに謝罪する。 メルトラ「いえ、いいのです。マリーが無事であれば・・・」表情を変えることなく答える。 カイゼル「すまない、サレナ、ネレイスここはもういい、先に休め」顔を向けずに妙に平静な声で言う。 サレナ・ネレイス「・・・!?」 カイゼル「聞こえなかったのか!先に休め」少し声を荒げる。 ネレイス「・・・畏まりました」 サレナ 「・・・・・・ハイ」 二人は一礼して部屋を出る。 メルトラ「あまり、お気になさらずに・・マリーも無事ですし」とうのマリーツィアはベッドから動かずに窓の外を見つめている。 カイゼル「・・・ですが、先程から。一言も・・・」 メルトラ「あの・・申し上げにくいのですが・・マリーは・・・失語症なのです」 カイゼル「失語症?・・先程たしかマリー嬢は、歌姫だと・・・」歌姫が失語症、妙な取り合わせだ。 メルトラ「はい、お恥ずかしいことですが・・・」そう言ってマリーツィアに歩み寄る。 メルトラ「マリー?お部屋を変えます。ついていらっしゃい」メルトラを見つめるマリーツィア、しばらく見つめて、コクリと頷く。 メルトラ「カイゼル様、申し訳ありませんが・・」 カイゼル「・・ああ、これはすいません、先に周りを見てきます。何かあったらすぐ読んでください」 廊下に出るカイゼル。何かが引っかかる、しかし何が引っかかるのかはっきりとわからなかった。 デッド・アングルは屋根の上にいた。追っ手がこないのを確かめて屋根の上に座りこむ。 デッド(何なんだ、あの子供は・・・) ナイフを振り上げたその瞬間・・・ マリー(あなたに私は殺せない) デッド(こいつ、心でも読んだのか・・・) マリー(私を殺して・・でも、あなたは私を殺せない・・・) デッド(ふざけたガキだ!) そのとき部屋のドアが勢いよく開いた。 デッド(その後は・・・散々だった)銃撃と嵐のような突風、その場から退避するのがやっとだった。 ???「・・結局、確かめにいったようだね・・・」しゃがれた声が後ろから掛かる。 デッド「また、おまえか・・・」振り向く気も無い。 ???「・・綺麗な子だろう?・・だけど・・結局何もできなかったようだね」くっくっくと嫌味に笑う。 デッド「何者だあれは」 ???「・・おまえさんは・・もう気が付いているんじゃないのかい・・あんたのうた・・」 デッド「それ以上!言うな!」振り向きざまにナイフを投げる。 しかし、そこには何も無く。屋根にナイフが突き刺さる。 デッド「化け物が!」はき捨てるとように呟く。空が白み始める、憎々しげに朝日を見つめた。 サレナ「・・・はぁ・・」今日何度目かのため息をつく。 あれからカイゼルとはほとんど会話をしていない。居場所が無く館の図書室に退避していた。 適当に取った本をめくる、目は文を追うが内容は入ってこない。 メルトラ「お元気が無いようですね・・」いつのまにかメルトラが側らに入た。 サレナ 「・・・あ、はぁ・・」 メルトラ「そうそう、少し見てもらいたい物があるのですが・・」 サレナ 「・・すいません、ちょっと今は・・・」何をするにもやる気が出ない。 メルトラ「そうですか・・。カイゼル様からも是非にとの申し出なのですが・・」 サレナ 「カイゼル様がですが」がばっと起き上がる。 メルトラ「はい、調べ物をしていたのですが、サレナ様ならご存知と・・」 サレナ 「あ、はい、わかりましたお手伝いします」 メルトラ「ありがとうございます、こちらです」 メルトラの後を多少元気になったサレナが追いかける。 カイゼル「・・・で、今サレナは手伝いをしていると・・」 その日の夜。夕食の中でその話しを始めて聞いた。 夕食にはサレナ以外全員が出席している。 昨日のことは自分もいい対応ではなかった、ネレイスは慣れていたが、サレナはまだ人に怒られるということ自体に慣れていないのかもしれない。 そのあたりをネレイスに遠まわしに諭されて一日中捜していたのだ。優秀なメイドの主人は疲れる。 メルトラ「はい、大変熱心でしたので勝手な判断でしたが・・」 カイゼル「構いません、お役に立っているのならば」お互い、冷静に自分を見つめ直すにはいいかもしれない。 夕食に顔を出さないのはどうかと思うが、今回は大目に見ることにした。 カイゼル「それで、今日の警護のことですが・・」 メルトラ「はい、賊はマリーを狙っているようなので、そちらにいていただければと・・」 カイゼル「貴方はどうするのです?」 メルトラ「地下にいるサレナ様と、一緒に調べ物の続きを・・」 カイゼル「では、ネレイスを付けましょう。無防備なのはまずい・・」 メルトラ「お心遣い感謝します。ですが、地下への入口は一つ、頑丈な扉でしっかりと鍵をかけておきますので・・」 カイゼル「わかりました、サレナをお願いします」 こうして、2夜目の夜が訪れる。 ネレイス「マリー様を地下へ・・というわけにはいかないのですね・・」 マリーツィアの隣の部屋、キャロルを寝かしつけてネレイスが戻ってくる。 カイゼル「まあ、何か考えがあるのだろう。それよりキャロルはやけに静かじゃないか」 ここにきてからは、トラブルが起こるとまずいと判断して、昨日も適当に相手をしてやり早いうちに寝かしつけていたのだが。 ネレイス「何かに怯えているようでした。ここにきてからずっとそんな調子です」 カイゼル「ふむ、まあ静かならいいか」 デッド・アングルは再び館の中に進入していた。 デッド(さすがに同じ場所にはいないか・・・)この目で確認したわけではないが、気配と声が響いてこないので判断できた。 デッド(バカバカしい、あの声を信用しているのか)無意識の内に声があの少女だと信じこんでいる。ここは自分の居た世界とは違う、思い込みは禁物だ。 デッド(・・・しかし・・あの目は・・)少女の目を思い出す。それはいつぞやの少年、そして自分と同じ何かを見ている。 デッド(こんな所で、生死もなかろうに・・・)貴族の暮らしのどこに、そんなものが入る余地が有るのか・・。 デッド(とにかく、ここは普通じゃない)それは自身のこれまでの経験が知らせる警報だった。ここには何かが有る。 ???(また、来たの・・)不意にあの声が頭に響く。 デッド(何度も人様頭に語りかけるのはやめろ)ダメ元で会話を試みる。 マリー(・・はじめてだったから、はじめて話ができたから・・) デッド(・・そんなことは知らん、とにかくおまえを黙らせてやる) 不思議と相手の位置がわかる、既にその事に違和感を感じるほど冷静ではなかった。 サレナ「・・・ふぅ・・・」作業に一段落がついたので小休憩をとる。 メルトラからの頼まれ事、それは儀式の時に使うという歌の書き写しだった。 いくら歌術で快適に過ごせるようになっているといっても、地下は地下、湿っぽい雰囲気まではどうにもならない。 サレナ(しかし・・・)と、自分の書いた物を再度眺める。 サレナ(見たことの無い歌・・こんなものがあったなんて)5線譜に書いた歌はサレナが今まで見たことが無いものだった。 サレナ(それにこのインク・・)メルトラから大事に使ってくださいといわれたのだが。 サレナ(何か気持ちが悪い・・)インクの伸びはよく使いやすいのだがその色は・・。 メルトラ「サレナ様」 不意に後ろから呼ばれる、いつのまにかメルトラがそこに居た。 サレナ 「メルトラ・・様・・」ドアが開いた感じはしなかったはず。 メルトラ「進み具合はいかがですか?」 サレナ 「はい、もう少しで終わりますけど・・・」 メルトラ「まあお速い、やっぱりお任せしてよかったわ」5線譜の上に書かれたものを確かめる。 サレナ 「それが、インクが足りないようなのですが・・」 メルトラ「大丈夫です。変りはあります」そう言ってサレナの手を取る。 サレナ 「・・・!?」握られた手に力がこもる。サレナは顔をしかめた。 メルトラ「お手伝いしていただけます?」メルトラの目が怪しく光る。 サレナ 「・・な・・にを・・」意識が遠のいていく。 メルトラ「・・・魔女を封印します」サレナは意識を失いその場に倒れる。後には怪しく微笑えむメルトラがサレナを見つめていた。 カイゼル「・・・!?」不意に立ちあがる、イスが音をたてて倒れた。 ネレイス「カイゼル様?」 カイゼル「・・・サレナが、危険だ・・・」 ネレイス「カイゼル様どうしたのです?」カイゼルがこれほど取り乱したところを、今まで見たことが無かった。 カイゼル「少し下の様子を見てくる!ここは頼むぞ!」そう言って廊下を駆け出す。 ネレイス「あ、あの、もし、また緊急の場合は」 カイゼル「発砲は許可する!やはりこの館はおかしい!」 マリーツィアも心配だが、今はサレナが最優先だ。 やはりもっと疑って掛かるべきではなかった、上に立つ者ほど何を考えているかわからない。 カイゼル「ここにきて、カンが鈍ったか!」 あそこでは、剣より恐ろしいものが幾らでもあった。 それを嫌というほど見てきたのに・・。慣れてきたはずの廊下がずっと長く感じられた。 カイゼルが部屋を飛び出す少し前・・。 デッド・アングルは再びマリーツィアと対峙していた。 マリー(私とあなたは同じ・・・) デッド(勝手に一緒にするな)無言の会話が続く。 マリー(必要とされなくなったもの・・・) デッド(だからなんだ、同情するとでも言うのか) マリー(違う・・あなたは自分を偽っている) デッド(何が悪い、この偽りだらけ世界に順応しただけのこと) マリー(でも・・あなたは希望を持ちたい・・・) デッド(バカな!今更希望などと) マリー(だから、ここにいる。闇の中で一筋の光を捜すように) デッド(そんなことは無い!) マリー(私は月、あなたの闇の中に浮かぶ希望・・) デッド(図に乗るなよ!娘!今、殺してやる) 一気に踏みこみナイフをかざす。 マリー(あなたに私は殺せない・・あなたは私の月・・・) デッド・アングルは完全に冷静さを失っていた。しかし、それは真実を突かれて怯えているようにも見える。 マリー(私も偽っている、この世界を・・それを照らす希望・・)そして美しい歌声が辺りに響いた。 デッド(こいつ、声が出ないのではないのか)ずっと口を開かないのでそう思いこんでいた。 マリー(怖い夢は・・もうおしまい) エピソード 2.22D END |