イレギュラーナンバー 001D『闇と邂逅のエチュード』
 

デッド(E−8、ルーク)
デッドアングルの歌姫と共にある日々は、自身の生活に様々な変化をもたらした。
マリー(・・・F-2にポーン)
 
単純に二人がそこそこ生活できるようにしなければならず、更に連れは世間知らずな失語症の少女ときている。
 
デッド(D−7、ポーン)
相変わらず現世騎士団の追ってはやってくる、おおっぴらに外を歩くわけにもいかず、
目を離すと何処へ行くかわからない半身のおかげで更に注意が必要になった。
 
マリー(・・・・・ずるい・・)
デッド(さっさと考えろ、パスか?降参か?)
マリー(・・・・D−7にクイーン)
 
加えて、お金も稼がなければならない。
何かにつけ物をねだるマリーツィアに自分なりに最低限必要な物だけは与えてはいるが・・・。
 
デッド(いいのか?それではキングを守れんぞ?)
マリー(・・・う・・・降参・・)
 
それでもどうにもならないのが、マリーツィアのデッドアングルと一緒に居たいという気持ちだ。
絶対奏甲を使って仕事をすればいいのだが、やはり目立ちすぎる。
しかし、一人でなら幾らでも動けるがマリーツィアがうるさい。
 
マリー(・・・もう一回・・・)
デッド(・・・これで何回目だ、そろそろこっちも慎重にいかなければならん)
 
妥協策としてマリーツィアに与えたものそれが・・・。
 
マリー(・・・デッド・・チェス・・・上手・・)
デッド(あたりまえだ、そうでなければこんなことはしない)
 

チェスだった。夜の闇に生きる男にも意外な一面はある。
デッドアングルは自分のナイフで丁寧に削ったチェス盤と駒をマリーツィアに与えた。
マリー(・・これは)不思議そうに受け取る。
デッド(暇つぶしの道具だ、やり方は教えてやる。だが一つだけ条件がある)
マリー(・・・・?)
デッド(いつか俺に勝ってみせろ)
マリー(・・・もし、勝ったら?)
デッド(一つ勝つたびにお前の言うことを一つ聞いてやろう)
こうして交渉は成立した・・・・が。
 

デッド(まさか、依頼をこなしながらチェスをすることになるとはな)
依頼自体は簡単な物だ、屋敷に入って盗んで終わり。だがマリーツィアがこれほど勝負にこだわるとは思わなかった。
『交感』で何処でも会話が成り立つのも仇となった。
デッドアングルは今まさに、依頼された目標に忍びこむ所であり、マリーツィアは宿でチェス盤を睨みながら頭をひねっている。
チェスの駒は、盤に刻まれた縦の数字と横のアルファベットでお互いの手を認識している。
マリー(・・デッド・・見えて無いのに上手・・)
デッド(・・見ない方がわかることもある・・)
デッドアングル自身、見ないでチェスをするのは始めてではないが、本調子ではない頭のリハビリと、多少のハンデと思って付き合っていた。
 
マリー(おねがい・・もう一回だけ・・・)
デッド(仕方が無い、手早く決めるか)そう呟くとさっそうと目標の屋敷に飛んだ。
 
しばらくはチェスも依頼も滞り無く進むが。
マリー(C−7にナイト)
デッド(・・・マリー)廊下を進みながら問う。
マリー(C−7にナイト・・・デッドの番)
デッド(・・マリーツィア、そこに誰か居るだろう?)
マリー(・・・いる・・・けど、なぜ?)
デッド(さっきと打ち方がまるで違う・・)扉を確認する。ここで間違い無いようだ。
マリー(・・・わかるの?)
デッド(チェスとはそういうものだ、今何処に居る。部屋に居ろと言ったはずだ)鍵を確認する、たいした警備はしていないらしい。
マリー(・・・退屈だったから、一階に降りた)
デッド(・・・酒場か、あれほど目立つなと言ったはずだぞ)鍵を開ける、あまりにもこの屋敷の主は無用心すぎる。
マリー(大丈夫、ちょっと変った男の子に教えてもらってるだけ)
デッド(あまり目立つなよ)鍵が開く慎重にドアを開ける。
マリー(・・・大丈夫、だから・・続き・・・)
デッド(わかったわかった、C−7クイーンだ)知らぬ誰かとの勝負を仕方なく再開する。
 

それからのデッドアングルは全くついていなかった。
デッド(警報装置を見逃すとはな)さすがに歌術で造られたものまでは判別できない。
マリー(デッド・・B−5にポーンでチェック)こちらの勝負もデッドアングルの旗色が悪い。
デッド(まったくたいした奴だな・・)目に見えない相手に少なからず驚く。
マリー(デッド・・・降参?・・)やや嬉しそうに聞く。
デッド(バカなことを、あきらめるには早すぎる)そう言って近くの窓を蹴破る。
 
デッド(少々派手にいく。B−5ビショップだ)相手の守りの薄い所をつく。
あからさまに弱い所を突いてみたが・・・。
 
マリー(C−6にナイトでチェック)すかさず切り返す。
デッド(く・・・・罠か)目の前には数人の人影が見えた。
 

なんとか追っ手を撒いて逃げ切ったデッドアングルだったが・・・。
マリー(・・・・デッド・・負け・・・)
デッド(それどころでは無かったんだぞ、こっちはなぁ)
マリー(デッドの負け・・・)嬉しそうに呟く。
デッド(まったく、たいした奴だよ、お前は・・)
マリー(・・・男の子から、4度目を楽しみにしてますって・・)
デッド(4度目だと・・まさか・・おい、マリー)
マリー(・・・何?)
デッド(その男はどんな奴だ!)迂闊だった、落ち着いて手を見ればわかったことだった。
隙を見せて大胆に攻める。一度くらったばかりなのに・・。
 
マリー(私と同じぐらいの男の子・・デッドと同じ目をしてた・・)
デッド(・・・あいつか・・あいつめ・・味な真似を・・マリー、そいつはまだそこにいるか?)
マリー(今席を立った。可愛い・・歌姫さんですねって)誉められて照れているようだ。
デッド(ええい、奴に言ってやれ・・・・は無理か、では書いて奴に見せろ、『俺が選んだんだ当たり前だ』とな!)
マリー(?・・変なデッド・・)
デッド(いいから、さっさっと奴に見せろ、いいな)
マリー(・・・わかった)少し嬉しそうに返事をする。
デッド(まったくどいつもこいつも・・・)今日は散々な1日だ。だが自然と歩みは軽かった。
 

やっとの思いで宿に帰ったデッドアングル。
マリー(お帰り・・・デッド)部屋でマリーツィアが出迎える。
デッド「で、奴にはちゃんと見せたんだろうな」思い返すとバカなことをしたと思ったが、今更どうしようもない。
マリー(見せた・・笑ってた・・大事にしてあげてくださいって)
デッド「まったく散々な1日だな、俺はもう寝る、お前も適当に寝ろ」よろよろとベッドに潜り込む。
 
しかし、マリーツィアがデッドアングルの服を引っ張る。
マリー(デッド・・・負けたからお願い)じっとデッドアングルを見る。
デッド「何!」確かに勝ってみせろとはいったが・・。
マリー(デッドが負けたから、お願い・・・聞いて・・)じっとデッドアングルの目を見る。
デッド「ええい、好きにしろ。なんだ服か、ぬいぐるみか!」そう言ってベッドに横になる。
 
ふと、側らに暖かい感触を感じる。見るとマリーツィアが同じベッドで横になろうとしている。
デッド「おい、狭いぞ」隣のベッドに運ぼうとしたが。
マリー(一緒に・・休む・・・)そう言って寝息をたてはじめた。
 
しばらく小さな黒猫のようなマリーツィアを見つめて。
デッド「・・好きにしろ・・・・」
そう言ってシーツをかけてやり、反対側を向くとようやく長い1日が終わりをつげた。
 

イレギュラーナンバー 001D END

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