イレギュラーナンバー 003O『春雪恋歌〜ハルフルユキ〜客臘』 ベルティ「ヘッへぇ〜、桜花の負け猫〜」 その日もいつもの様に、いつもの事が起こり、いつもの風景が展開されている。 桜花「う・・・やはり、私は賭け事は・・・」 夜、宿の一室での寝る前のひととき。 シュレット「これで、桜花の3連敗っと」 紙にバツ印を楽しそうに付け足す。 ルルカ「そういう所・・ますます優夜さんに似てますね・・」 ラルカ「・・・そっくり」 今日は珍客が2名。珍しそうに桜花とベルティのやり取りを見ている。 ベルティ「え゛、嘘・・・やめてよ〜」 カードを投げ出しながらうめく。 ルルカ「ええと、まあ誰にも何か特技という者は・・」 ラルカ「ある・・」 シュレット「これで、ますます磨きがかかったね」 ベルティ「・・・何が言いたいのよチビスケ・・」 シュレット「女優夜」 きっぱり平然と呟く。 ベルティ「むき〜そんな戯言を言うのは、この口か!この口か!」 シュレット「はぁにふるんらぁ、らめぇろぉ〜ほぉのほぉんなりゅうや」 ベルティ「まだ言うか!この、この」 口を広げられてもやめないシュレット、ベルティには何を言っているかわかるらしい。 いつものレクリエーションがはじまる。 ラルカ「オンナ、優夜?」 ルルカ「ラルカは、真似しなくていいんですよ」 桜花「そういえば、その優夜さんはどうしたのです?」 ルルカ「あ、ええ。今頃、馬小屋ではないかと」 桜花達との相部屋で宿代を浮かせようと考えたらしいが、 ベルティの飛び蹴りが炸裂し、馬小屋に放り込まれたのだ。 桜花「大丈夫なのですか・・その・・」 ルルカ「大丈夫です。馬小屋ならマジックだけ回復して歳はとりませんから」 ラルカ「・・メイキュウで・・でカイフク」 桜花「・・は?」 ルルカ「何でも無いです、ただの冗談です」 ベルティ「それより、桜花。負けたんだから、話しの続き」 シュレット「ほぉうらよ、つるぅき、つるぅき」 シュレットを羽交い締めにしながら桜花に向き直る。 桜花「仕方がないですね・・・」 ルルカ「何です、話しって?」 ベルティ「この前の街でね、現世の頃の思い出を、思い出したんだって」 シュレット「・・がふ、そうだよ、桜花の子供の頃の初恋物語♪」 羽交い締めから開放されて、二人で解説する。 桜花「そんな!・・・たいした話しではないです・・」 ルルカ「はあ〜桜花さんも隅に置けないですね〜」 ベルティ「そそ、だから真中に置いちゃう♪」 シュレット「どうせルルカ達が居るんだし、また最初から聞きたい」 桜花「ええっ、最初からですか!」 ベルティ「こいうのは、何度聞いても面白いし。さあ、観念なさい」 仁王立ちして腕を組む。 ルルカ「あ、できればお願いします」 ラルカ「聞きたい・・」 桜花「・・・どうしても最初からと・・・」 上目遣いにベルティを見る。 ベルティ「桜花の負け猫〜♪」 桜花「・・・わかりました、約束でもありますし・・・」 ※ ※ ※ それはまだ、雪の振る頃・・。 「さあ、桜花。はやくいらっしゃい」 電車が止まり。母親に連れられ黒い服、黒い髪の少女が駅のホームに降りる。 「寒い・・」 少女は白い息を吐くと、身体を縮めて身震いする。 「だから、ちゃんとマフラーを着けなさいって言ったでしょ」 少し先を歩きながら母親は言葉を続ける。 「いい、御爺ちゃんの所に行くのだから。いい子にするのですよ」 「・・・はい・・」 ※ ※ ※ ルルカ「あの・・桜花さん、この時幾つだったのですか?」 桜花「ええ・・と、確か11歳です」 ルルカ「じゃあ、ラルカと同じぐらいですね」 ラルカ「うん」 ※ ※ ※ そのとき、桜花はなぜ今、『本家』に来なければならないのかまったく知らされていなかった。 ただ、母親から。しばらく、御爺様の所で生活します。とだけ継げられ一緒に連れられてきた。 生活が変わるのは今に始まった事ではなかった。が、けっして慣れる事も無かった。 それは特に学校でのこと・・。 「・・・・桜花・・です」 伏目がちに、消え去りそうな声で呟く。 転校生の恒例行事、教室に入った瞬間の幾つもの好機の視線。 まずそれに耐えるのが、その時の桜花には一苦労だった。 「ねえ、ねえ、志度。転校生の子、凄く可愛いよ」 「そうかぁ?なんか背ばっかり高くて、根暗そうだなぁ」 教室の窓際、二人の男子生徒が他のクラスの子供と同じように視線を向けていた。 「さあて、どの席に座ってもらおうかな」 担任が明るく振るまい、教室を見渡す。 「はい、は〜い。ここが空いてま〜す」 先程、志度と呼ばれた少年が強引に空いている席を作る。 「わ、わ。し、志度・・いきなり」 志度の後ろの席の少年が慌てる。 「後で牛乳とヤキソバパンな」 志度が後ろの少年に呟く。 「う〜、牛乳はダメ、サラダならいい」 「サラダか・・お前が食べろよ、また美空に小言、言われるぞ」 「志度だって・・同じじゃないか」 話しに夢中の二人に桜花が近づく。 「あの・・・・通れない」 二人の顔を見ずに呟く。 「うわ、わ、ごめんなさい・・」 いきなり話しかけられて、慌てて飛び退く。 「おっと、わりぃな。でか女」 志度も同じように身を引く。 「で・・か・女・・」 じわっと桜花の涙腺が湿る。 第2の試練、必ず言われるこの言葉を、桜花はいつも絶えらなかった。 「あ〜!こら、志度!いきなり何してるんだよ!」 少年はポカポカと志度に殴りかかる。 「え〜、だってデカイじゃん」 志度は悪びれる様子も無く、しれっと言い続ける。 「ま・た・・で・・か・・女って」 反射的に涙がでる。桜花はついに本格的に泣き出してしまった。 「え、またって・・言ってはいないぞ、デカイって言っただけじゃん」 「も〜バカ志度!いいから黙れよ!」 「こら!そこいきなり何をしてるの!」 やっと担任が気が付いたが、場が収まるまでしばらく時間を要した。 ※ ※ ※ ラルカ「桜花・・・泣き虫?」 桜花「お恥ずかしい、話しです」 ルルカ「桜花さんは昔から背が高かったのですね」 ※ ※ ※ 「で、なんでこいつも招待しなきゃならないんだ」 その日の帰り道、桜花と志度と先程の少年、喜司雄は並んで歩いていた。 「あたりまえだろう、先生もしっかり仲直りしろって言ってたじゃないか」 ふてくされている志度に、喜司雄がくってかかる。 「別に俺は気にしないけどな、仲良くしたいのはお前の方だろ」 「わ、わ、もう。何言うんだよ〜」 喜司雄は耳まで真っ赤になる。 「それよりも、知らないぞ。美空が何を言っても」 「え、何がさ」 もう少しいじめるつもりだったが志度は、話題を変える。 「俺の誕生会は、会員限定なんだからな」 「なんの会員なのさ・・・」 「俺と勝負して勝った奴会員!」 「・・・ちなみに僕は?」 「そうだな・・・女に惚れっぽい対決」 「なんで今、考えるかな・・・それに惚れっぽいってなにさ」 「そのまま意味だろ、今だってそこのデカ女に・・」 「わ〜わ〜わ〜」 また、変な事を言い出したので慌てて止める喜司雄、恐る恐る桜花を見る。 「・・・何?」 視線が注がれ、やっと2人の方を見る桜花。どうやら聞いていなかったらしい。 「・・・やっぱり可愛いなぁ」 「バカだ、こいつやっぱりバカだ」 志度はやっていられないといった素振りで、先に歩き自分の家の門をくぐる。 「ついたぞ」 何の変哲も無い、2階建ての一軒家だった。 「小さい・・」 ポツリと桜花が呟く。 「んだとぉ、俺の家に文句でもあるのか!」 「まあまあまあ」 怒る志度を押して、家に入る喜司雄。 「おっかえり〜」 玄関に入ると、2階からドタドタと元気の良い足音が近づいてくる。 「お〜う、美空。帰ったぞ」 靴を適当に脱ぎ捨て、ドカドカと上がる。 「お兄ちゃん、お〜そ〜い。喜司雄さんも一緒に来てたんだ・・・・ね?」 見慣れない人影に、階段を降りる速度が落ちる。 「「・・この人、誰?」」 二人の少女が同じに発する。 「ええっと、あの子は美空ちゃんって言って志度の妹だよ」 「で、妹よ。聞いて驚け。この女は喜司雄の許婚だ!」 「「嘘!!」」今度は美空と喜司雄がハモル。 「・・・・・・・・・・・・嘘・・」桜花がポツリと呟く。 「な、な、何なんですか?この人は名を・・名を名乗りなさい!」 気が動転して、おかしな言葉で問いただす美空。 「華氏玖・・桜花・・」 「菓子・・食おうか?」美空はそのままオウム返しに言う。 「う・・・うう・・」 そして最後の試練、どの学校でも散々言われていたこの言葉。反射的に桜花の涙腺が緩む。 「美空ちゃん!!」たまらず、喜司雄は大声をだす。 「え!?・・・ええ?」普段怒鳴らない喜司雄の声にキョトンとする美空。 「あ〜あ、俺し〜らない」と口笛を拭く真似の志度。 学校でも同じ事があったのだ、知らないはずがの無いのだが・・。 その場が収まり、志度の誕生会が始まるには更に時間がかかった。 ※ ※ ※ ラルカ「桜花・・・すごく泣き虫」 ベルティ「あはははははははははは・・」 桜花「笑いすぎです・・」 ひたすら笑うベルティに、憮然とした視線を送る。 ルルカ「あれ?でも・・桜花さん確か、フルネームは『紅野桜花』ですよね?」 桜花「ええ、でもあの頃はいろいろありまして・・」 シュレット「それにこれからが、面白いんだから」 桜花「シュレットまで・・・」 ルルカ「なんだがわくわくします、はやく聞かせてください」 ラルカ「聞きたい・・」 桜花「わかりました・・少し長くなりますよ」 とっくにいつもの就寝時間は過ぎていたが、桜花は話しを再開した。 ・・あとがき・・ はいっ、お楽しんで頂けているでしょうか? 自己満足と笑わば笑えって感じで。今回は今まで以上に突っ走ります。 今回も完全に回想話です・・ルルカ&ラルカ嬢をお招きして、 天凪さんの文体を真似しつつ、展開してます。 桜花に秘密があるわけではないので、変に勘ぐらず安心して読めます。 しかし、今回の回想までの導入が自分の中で最高傑作だと思う、お馬鹿な自分がいます。 ちなみには『客臘』は”かくろう”と読みます。 |