エピソ−ド 2.41『富と栄光の行進曲』 暗闇の中、灯りが左右に揺れる。 ルルカ「あ、明る所にでましたよ」左手にランタンを下げて、辺りを見まわす。 ジメジメした洞窟特有の雰囲気は変らないが、今までの狭い通路に比べれば精神的には幾分楽である。 ルルカ「少し休みましょうか。大丈夫です、みなさんとはぐれてしまいましたが、すぐに合流できますよ」 後ろの人物に語りかける。 後ろから返事が無いのを不信に思い振りかえるルルカ、少し遅れて入ってきた人物を確認して更に語りかける。 ルルカ「どうしたのですか?元気無いですよ、忍さん」 後ろの人物・・・忍は考え事をしていたのかやっと気が付く。 忍 「え、ああ。すいません」 バッドラックのいいかげんさを心の中で毒づいていたのだが、慌てて思考を現実に戻した。 忍(あの人は危険とわかっててやってるんじゃないだろうか・・) 宿で誘われた時の事を思い出していた。 時間は一日ほど前に遡る。 バッド「宝捜しに行こうではないか諸君!」 ちょうど朝食時で、宿にはたくさん人間がいる。 そんな中、久しぶりに会った天凪達と忍達が穏やかに朝食をしている所だった。 アール「朝食時だ、後にしてもらおう」それだけ言って黙々と食べる。 優夜 「悪い、せっかくのまともなご飯なんだから、今忙しい」 ルルカ「優夜さん、それじゃあ私達が滅茶苦茶貧乏みたいじゃないですか!」 忍 「以前、こともあります。返事は話しを聞いてからにします・・・とりあえずご飯食べたらどうです?」 いろんな意味で全員、ノリが悪い。 バッド「う、おまえら俺を疫病神みたいに見やがって・・」 出鼻をくじかれ隣のテーブルに腰掛ける。そのテーブルには既にシィギュンが座っていた。 アール「違うのか?今までこちらが得をしたことはほとんど無いが」別の料理をとる。 優夜 「おや、忍君。いらないのならそれもらうよ」そう言って忍の皿から摘み上げる。 ルルカ「そんな意地汚いことはやめてください」 忍 「あ、ああ、別にいいです。気にしてないですから」 一人は毒舌を返し、後は楽しそうに盛り上がっている。 バッド「・・・やれやれだ・・」自分の前を見る。頼んでいないのに好みの料理が並んでいた。 シィギュン「バッド様もはやくお済ませください、その方がよろしいかと」 バッド「・・お、おう・・・」自分の半身の手際の良さと、周りの勢いにおされて席に座り直した。 アール「で・・・」 食事も済み、一段落した所でアーデルネイドが切り出す。 バッド「まあ、これを見てくれ」1枚のボロボロの紙を取り出す。 ルルカ「何ですか、これは?」 優夜 「馬鹿者、これほど見事な宝の地図が何処にあるというのだ。見ろこの焦げ具合、 端の程よいボロボロさ加減、極めつけのドクロマーク!まさしく、宝!、英語で言うとTAKARAだ!」 忍 「あの、それ全然英語じゃないです・・」 微妙に生暖かい風がテーブルをかけぬける。 バッド「まあ、察しの通りこれは宝の地図だ、ちょっとしたつてで手に入れた物なんだが、 以前からいろいろ世話になっているお前達に、少しでも感謝の気持ちを返そうと思ってな」 優夜 「嘘臭い」ボソッと呟く。 バッド「何が?」 優夜 「その感謝の気持ちを返そうっていう旦那の気持ちが・・」 バッド「じゃあ、地図の事は信用しているってことでいいのか?」 忍 「いや、地図が嘘ならシィギュンさんが止めるし。ねえ、シィギュンさん?」 シィギュン「はい、お察しの通りです。忍様」丁寧に答える。 バッド「はいはい、俺の信用が無いのはよーくわかった。で、どうする?折角だから一緒に捜さないか?どうせ暇だろうお前達」 ルルカ「それが確実なら願っても無いことですけど・・・」 優夜 「お前も微妙に失礼なこと言ってないか、ルルカよ?」 ルルカ「そうですか?そうだとしたら何処かの頼り無い英雄様の考え方がうつっただけです」 優夜 「きっと、その英雄様は深い考えがあってそうしているのだ、俺にはよくわかるぞ」 忍 「あの・・僕達は一応『白銀の暁』に所属しているんですが・・・」 つい先日まで、フェァマイン攻防戦で小隊の面々とかなりの激戦を繰り返していたのだ。 今は斥候の意味を含めて本体より先に街を転々としている。 バッド「どうせバージルが上にいるんだろう?俺が言っておくからそこは安心しろ」 アール「お前はいつの間に、白銀の上層部に繋ぎを取れるようになったのだ?」 バッド「ほら、俺って結構偉いからさ。この前坊主が女装しているときに・・」 忍 「やめてください!人が忘れかけていたのに・・」意外とまだ気にしていたらしい。 優夜 「俺達は別に構わないよ、そろそろ新しい装備が欲しかったし・・」 ルルカ「優夜さんが無駄遣いしなければ、もう少し何とかなってます」 アール「まあ、余裕が無くも無いな。たまにはいいんじゃないか」 忍 「確かに予定どおりに部隊に戻れれば文句は無いですけど・・」 というわけで、準備もそこそこに出発した六人だった。 しばらくはそれぞれの奏甲で進む。忍はグラオグランツ、優夜はシャルV、バッドラックは・・、 忍 「何ですかその奏甲は?」 絶対奏甲、ゼーレンヴァンデルング。忍が見たこと無いのも無理は無い、 まだ一般にはロールアウトされていない、先行生産分なのだが。 バッド「ん、まあ、ちょっとしたつてだ」と適当に答える。 忍 (相変わらず無駄に顔の広い人だ・・)あまり気にせず先を進む。 半日進み目的の洞窟を見つける、洞窟内はしばらく奏甲でも進めたが。 バッド「んじゃここからは洞窟内が狭いから徒歩だな」 そう言って奏甲を降りる。 優夜 「旦那、ここに奏甲を置きっぱなしで大丈夫なのかよ」 バッド「安心しろ、誰もここは知りはせん」 ルルカ「本当ですか、シィギュンさん?」 シィギュン「はい、大丈夫ですよ」 忍 「だってさ、アール」 アール「まあ、シィギュンがそう言うなら問題無いだろう」 バッド「お前らな・・・」 各々奏甲を降り、準備をする。 バッド「並んで歩くのは二人が限度か・・隊列はそうだな・・忍、お前は感覚が優れているから前衛だ、 俺はしんがりを勤める。優夜は姫さん達を守ってくれ」 優夜 「あいよ、了解」 忍 「わかりました。でも、灯りは誰か持ってもらえますか?咄嗟に動けないので・・」 ルルカ「では、私が持ちます。歌術はアールさんとシィギュンさんにお任せします」 アール「まあ、妥当な所だろうな」 シィギュン「はい、わかりました」 一行はゆっくりと前進を始めた。 優夜 「所で旦那、この先はどうなってるんだい」 バッド「知らん」きっぱりと返す。 優夜 「は?」 バッド「地図はこの洞窟までしか描かれていないからな」 忍 「じゃ、じゃあ、この先何があるかは・・」 バッド「でたとこ勝負だ」 ルルカ「え、それって危なくないですか?」 アール「まあ、そんな所だろうと思ったが」 バッド「とりあえず、地図には英雄と歌姫の六人で来いと書かれていただけだ・・」 優夜 「何それ?」 バッド「結界か何かだろう、最初に来たときは入口ではじかれたからな・・」 忍 「もしかして、入口にあったシャルUの残骸って・・・」 バッド「気にするな、ままあることだ」 優夜 「おっさん、宝を一人占めしうようとしただろう?」 バッド「何を言う、シィギュンと二人占めだ」 アール「どっちも同じ意味だと思うが」 ルルカ「シィギュンさん大変ですね」 シィギュン「いえ、もう慣れてますので・・」 ルルカ「わかります、なんとなく・・」 優夜 「ルルカよ、何か微妙に痛いことを言ってないか?」 ルルカ「そうですか?それは気が付きませんでした・・」 急に先頭の忍が止まる。 忍 「まってください、何か音がしませんか?」 優夜 「そうか、別に何も・・」聞き耳をたてるがわからない。 バッド「そういえば、後ろの方からなんとなく音がするな・・」 振りかえる一同、今まで緩やかに下って来たが反対を振りかえると・・。 優夜 「何か岩っぽい物が転がってくるな・・・」 ルルカ「いえ、おもいっきり岩が転がって来てます・・」 バッド「バカ、さっさと走れ!押しつぶされたいか!」 その言葉を合図に一同走り出す。 アール「肉体労働は苦手なのだが・・」 ルルカ「私も走るのはちょっと・・・・」 バッド「いいから、死にたくなければ走れ」 大騒ぎで走る一同、しかしその前には・・。 忍 「止まってください、崖です!」 先を行っていた忍が叫ぶ。 優夜 「なこと言ったってどうするよ!」 ルルカ「思えば短い人生でした・・・」 バッド「こんな所で走馬灯を走らせるんじゃない!」 シィギュン「困りましたね・・これでは・・」 開けた場所に出たがその先は崖だった。 アール「・・これは、もしかすると・・」そう言ってもと来た道を戻る。 忍 「どうしたのさ、アール!」 アール「・・間違い無い・・とんだ茶番だ」 転がってきた岩の前に立つ。 バッド「おい、何をしている」 ルルカ「危ないです」 アーデルネイドを押しつぶすかに見えた岩は、そのまますり抜けて行く。 優夜 「嘘・・」 そのまま全員をすり抜けて岩は消えてしまった。 シィギュン「幻影・・ですね」 アール「そうだ、音はするが振動が無かったのでな。先は崖だったからそこに落とすつもりだったのだろう、たいしたイタズラだ」 優夜 「まあ、そうだろうとは思ってたけどな・・」壁にもたれかかる。 ルルカ「そんなこと言って一目散に逃げてましたが・・」 優夜 「はっはっは、あれはちょっとしたパーティージョークだよ」 ルルカ「そんなことを言っていると、足元をすくわれますよ」 言った矢先に突然転ぶ優夜。 優夜 「あた、なんだ」 ルルカ「冗談ばかり言っているからばちがあったんです」 優夜 「いや、壁がへこんでいくのだが・・・」 確かに優夜の持たれかかっていた壁が一部無くなっている。 程なく激しい振動が辺りを包む。来た道が埋まり足場が崩れる。 ルルカ「優夜さんバカ〜」 優夜 「俺か!俺のせいなのか!」 アール「これは・・どうしようもないな・・」 シィギュン「バッド様・・みなさん・・」 忍 「どこか捕まるところは・・」 バッド「そんなもん、この振動では無理だ・・」 崖下に落ちる一同。下には暗闇が一面に広がっていた。 エピソード 2.41 END |