エピソード 2.44 『富と栄光の行進曲・第4』
 
バッド「・・・で、だいたいのことはわかったが」
洞窟の内の広い空間で六人は合流した。
お互い先ほどのこともあり多少警戒していたが、
さすがにこの場の自分以外が幻覚というのはあまりにとっぴな考えだ。
念のため、アーデルネイドが歌術『秘められし言葉』で英雄探知を試みた、
今までの場所では無理だったがここでは歌術が使えるらしい。
 
アール「まあ、そんなものだろう」確かな反応があったので安心する。
忍  「・・・・・」
バッド「おい、どうした。ぼさっとして」
忍  「え、いや、別に・・」
ルルカ「大丈夫ですか?優夜さんの癖がうつりましたか?」
優夜 「ルルカよ・・また微妙に聞き捨てならんことを言ってないか?」
忍  「いや、何でもないですほんと。すいません」
ルルカ「それならいいんですけど・・」忍の顔を見て先ほどの幻覚とのやり取りを思い出す。
さっきのが幻覚だとわっかていても、何か奇妙な感じがする。
 
優夜 「今度はお前まで、ぼさっとして・・・おい、しっかりしろ。お前にまでうつったのか」軽くこずく。
ルルカ「あ、はい。な、なんです?うつった?ええ、うつったかもしれません・・」話半分で返事をする。
優夜 「うわ、なんか傷つくなそれ。半身がせっかく心配しているに・・泣くぞ・・俺は」
冗談まじりに言っていたのだが、聞き逃したのをいいことに更に突っ込む。
ルルカ「勝手に泣いてください・・他の人に迷惑にならない程度に・・」
 
優夜 「あおっ!あおっ!あおっ!」突然手を叩きながら叫ぶ。

ルルカ「な、なんです・・それ」少し身を引き生暖かい目で見る。同じようなネタは何度か振っていたが、これは初めてだった。
忍  「たぶん・・・アザラシの泣き真似・・」ボソッと呟く。

ルルカ「・・・はい?」
バッド「あっちの世界の動物だ。普通は海にいるのだが、
    人が芸を仕込んで見世物として、客相手に楽しませたりもする」呆れながら注釈をいれる。

優夜 「あおっ!あおっ!あおっ!」わかってくれたのが嬉しいのか更にアザラシ芸を続ける。
ルルカ「わかりましたからもう止めたください!本当にこれじゃ見世物です!」心の中で泣きながら止める。

忍  「・・・きっとそういう所も真似してるのでは・・・」何気なく呟く。
ルルカ「うっ・・それはあまりにも・・・」更に生暖かい視線を忍に向ける。
バッド「おまえも言うね、今のはきついんじゃないのか」

忍  「・・あ、いや。そんなつもりじゃ・・」ルルカに微妙な目で見られてたじろぐ。
優夜 「だめだなルルカ、せっかく忍君が俺の芸の真髄を見抜いたというのに」いつのまに復活したのかルルカを後ろからこずく。
バッド「まあ、本当にそうならたいした物だが」腕組みしながらウンウンと頷く。
 
ルルカ「何故かいつのまに私が悪者っぽいのですが・・」
優夜 「それはルルカが、まだまだ甘ちゃんだということだ。それを口に出した時点でお前の負けだ。
     それより忍君、よくぞ見抜いた。あれには更にセイウチとトドという別バージョンが・・」

ルルカ「いいから!やめてください!」いつになく本気で怒る。
 
優夜 「はい」旗色は悪くないが、ルルカを十分からかったので従っておく。
    こういうことは引き際が重要だ。頭は有利なときに下げる、どこかで聞いた格言だ。
 
アール「遊んでいる所ですまいが・・・いつのまにか入口に戻されているのだがな」

見渡す一同、確かに最初にきた広い空間だった。自分たちの奏甲もある。

忍  「あれ・・・」
バッド「少し遊びがすぎたかな・・」ぼりぼりと頭を掻く。
 
シィギュン「それと、奇声蟲が一体待ち構えています・・」
入口付近にはでんと、構えるように特大の奇声蟲が鎮座していた。

優夜 「おおう。なんかラストっぽいな、やっぱりこうでなくっちゃな」
ルルカ「軽口はいいですから、さっさと奏甲に乗ってください」心底げんなりした様子で、奏甲に追いたてる。
 
優夜 「言われんでも、お宝のためだ」自分の奏甲に向かう。
ルルカ「あの・・・優夜さん」
優夜 「ん?」少し振りかえる。
ルルカ「・・がんばって・・ください」
優夜はルルカの言葉に後ろでに手を振り答える。
 
バッド「今回は俺だけで乗る。シィギュン、他の二人を頼むぞ」
シィギュン「わかりました、お気を付けて」
洞窟の奥まで戻るシィギュンを見届けて、バッドラックは奏甲に向かう。
 
忍  「・・・・」
アール「さっきからどうした?また何か一人で抱えこんでいるのか?」
忍  「・・大丈夫、何でも無い。・・行ってきます」
 
奇声蟲はどうやら待ってくれているようで、入口から動かない。
各人、奏甲に乗りこむ。それぞれに対して歌が紡がれる。
 
バッド「で、やっこさんは?」
シィギュン(以前、洞窟入口で道を塞いでいます)
忍  「どうします?あれだけ大きいのは今まで見たことがありませんよ」
優夜 「どうした忍君、怖気づいたか?宝はきっとすぐそこだぞ」
ルルカ(優夜さんはもう少し怖気づいてください)
アール(とにかく、やるしかなからろう?)
 
大型奇声蟲は入口塞ぐように立ち、ウネウネとそれだけで奏甲が掴めそうな太い触手を動かしている。
 
バッド「んじゃま、先手必勝ってことで」ゼーレンの両手のアームガンを乱射する。
それを合図に忍は左、優夜は右から接近する。
 
アームガンの攻撃をものともせず、大型奇声蟲は左右から迫る2騎の奏甲に触手を振るう。
優夜「なんかこっちに向かってくる方が多くないか?」寸前でかわしながらロングソードを振るう。
忍 「気のせいじゃないですか?」触手に構わず、本体に向かう。
 
シィギュン(歌術で支援しますか?)
バッド「いやまだだ、相手の出方を見る。それより『ビブラート』は大丈夫だな?」
シィギュン(はい、ですがあれを屋内で使用するのは・・)
バッド「まあ、状況次第だな。死んじまっちゃしょうがない」
シィギュン(わかりました。くれぐれも御二人がいることを忘れずに・・)
バッド「わかってる。俺を信じろ」そう言って射撃に集中する。
 
忍 「なんとか本体に取りついたけど・・」
触手を何本か切り落とし、本体まできた忍だったが。
忍 「やっぱり大きすぎですよ、これ」ソードで傷つけてみても致命傷までは程遠い。
 
優夜「あわわわ、やっぱりきっついな」
ルルカ(バッドさんも忍さんもがんばっているんですから、しっかりしてください)
回避するのがやっとの優夜に応援をおくるが、
 
優夜「しかしなぁ、これで奏甲に傷がついたらまた修理費がなぁ」
ルルカ(やられたら終わりなんですから、その心配は後回しにしてください!)
優夜「しかし、何もしてないわけではないぞ」
優夜が逃げ回っているおかげで、忍がやすやすと懐に入り込めたのは事実だった。
 
バッド「あ、わりぃ優夜」
優夜 「へ・・」確かめるまもなくアームガンの弾がシャルVに命中する。肩の装甲が吹き飛ぶ。
 
優夜 「旦那ぁ!何か恨みでも・・・」
バッド「いや、悪い。まさかそっち逃げるとは思わなかったからよ」
優夜 「本当の敵は味方!?」
バッド「まあ、気にするな。ままある事だ」
優夜 「気にするって!美味しい所をもっていくんだから・・」
ルルカ(お願いですから、戦闘を気にしてください・・)
 
忍  「すいません、僕一人ではどうにもならないで援護をお願いしたいのですが・・」
バッド「おっと、すまねぇ。んじゃ、とっておきをいくか」
優夜 「旦那、そんなもんがあるならさっさと出してくれ・・ても・・」
後半の優夜セリフが凍りつく、ゼーレンの後部から中折れ式の大砲が現れた。
忍  「なんですかそれ?」
バッド「はっはぁ〜、聞いて驚くなよ。対奇声蟲用多目的大型幻糸砲『ビブラート』だ!」
展開が完了したその大砲は、普通の奏甲の1.5倍程の砲身だった。
優夜 「やめて、まじで死ぬ・・・こっちが」
バッド「安心しろ出力は絞って撃つ」
忍  「そんなこと言って・・ただ撃ちたいだけなんじゃないですか?」
バッド「大丈夫だ俺を信じろ!」声に乾いたものが混じる。
 
優夜 「いや・・無理」
バッド「しかし、これには今はアームガンとビブラートしか積んでいないぞ・・」
優夜 「何でそんな極端な武装なんだよ!」
忍  「やっぱり撃ちたかったんだ・・・」
シィギュン(バット様やはり・・それは・・)
バッド「っかし〜なぁ〜今ここにある殲滅兵器はこれぐらいだからな〜」
優夜 「そんなん俺達まで殲滅だって!」
シィギュン(私に考えがあります、一端御二人に戻ってきてもらってください)
バッド「さっき見つけた古代歌術か?」
シィギュン(はい)
バッド「わかった任せよう・・・っとか言って最低出力で撃ってみたりしてな!なんとか避けろよ二人共!」
目が眩むほどの閃光が収束し放たれる。
 
優夜 「げぇ、まじで撃った・・あのおっさん」
ルルカ(あわわわ、早く壁際に避けてください死んじゃいます!)
忍  「こっちはまだ取りついてるんですよ!」
アール(あのバカ!忍!緊急回避!)
咄嗟に壁際に寄る2騎、その間を閃光が駆け抜ける。
 
大型奇声蟲に命中したが致命傷にはなっていないが奇声蟲の動きが止まる。
 
なんとか最初の位置に戻ってきた2騎。
優夜 「おっさん!殺す気か〜」
バッド「避けられたんだからいいだろう。安心しろと言ったはずだ」憮然と答える。
忍  「物事を考えてからやってください!」
バッド「少し時間を稼がにゃならんかったからな、シィギュンに策があるそうだ」
一度起動状態を通常に戻す。
 
シィギュン「はい、みなさんが散り散りになったときに見つけたものです」そう言って歌術書を取り出す。
ルルカ「それは?」
シィギュン「『3人の歌姫のソナタ』に似てきますが違うもののようです。これを使ってみよう思うのですが」
アール「似ているというと、やはり複数の歌姫が必要なのか?」
シィギュン「はい、少し高度な歌術ですが今の皆さんならできるはずです」
ルルカ「それは・・やってみないと・・」
優夜 「いや、俺はあれをむやみに撃たれるぐらいなら何でもいいぞ・・」
忍  「右に同じです・・」
アール「まあ、こちらで何かできる分ましだな」
ルルカ「それもそうですね・・」
バッド「おまえらな・・・」
 
多数決であっさり行動方針が決まり、それぞれ準備をする。
再び英雄達は、先ほどと同じ位置に奏甲を動かす。
 
バッド「いいか歌術に効果がみとめられなかったら、即撃つからな!」
優夜 「わかったよ、そんときは骨でも拾ってくれ」
忍  「右に同じです・・・」
 
再び戦闘起動をする奏甲。ゼーレンの援護で2騎は突進する。
大型奇声蟲は再生能力があるのか再び触手を振るう。
 
シィギュン(こちらもいきます)
ルルカ(もうあんなことは御免です・・)
アール(人死にが出る前になんとかしないとな)
 
それぞれが歌術書の旋律に沿って歌を紡ぐ。
 
優夜「ルルカどうした?奏甲の動きが鈍いぞ」
ルルカ(こっちは慣れない歌術で手一杯なんです)
優夜「がんばれ、失敗したらバッドの旦那が撃っちまう」
ルルカ(う゛・・もっと他の励まし方は無いのですか・・)
 
程なく歌術の効果が現れはじめる。
 
忍 「優夜さん後ろ!」
優夜「へ・・っとっとと」後ろから触手の攻撃をなんとかかわす。
ルルカ(すごいですね、後ろに目があるみたいですよ)いつになく鮮やかな動きの優夜に驚く。
優夜「ほんとに後ろからの映像が見えるのだが・・」
今、自分の見ているものとは別の映像が頭に送りこまれる。
忍 「こちらもです、それも一つじゃない自分とは別の映像が二つ・・」
バッド「ぼさっとしてるな、戦闘中だぞ!優夜も奏甲の手を見てぼんやりしてるんじゃない」
優夜「旦那・・この距離でよくわかったな・・」
バッド「これが歌術の効果なんだろうよ、
   おもしれぇじゃねえか三人分の視界があれば命中もさせやすってね」そう言ってビブラートを撃つ。
忍  「だから!それは」しかし、バットラック視界と意思が伝わり寸前でかわす。
 
優夜 「旦那の狙いがわかるようになったのはいいけどよ・・」
忍  「僕達は何と戦ってるんでしょう・・・」
 
バッド「はっはっは、おもしれぇ撃ちたい放題だ!」ビブラートをバーストモードで乱射する。
 
前からは触手、後ろからは光弾の雨。その中を器用に戦う2騎の奏甲。
優夜 「俺ってこんなに動けたっけ?」視界や考えが同調している以上に、お互いの経験や能力も統合されているらしい。
ルルカ(すごいですよ優夜さん、まるで英雄みたいです)
優夜 「何か酷いことを言われてるのだが・・」
 
それは機奏英雄の間のみに留まらず歌姫達も同様だった。
アール(ふむ、すごいな。戦況が手に取るよにわかる)
シィギュン(奇声蟲は弱っているようです、皆さんがんばってください)
 
優夜 「んじゃ一気に決めるか!いくぞ」
忍  「はい!」
同時に駆け出す2騎、襲いかかる触手にまったく同じ動きで対処する。
それは一つの意志が奇声蟲と戦っているのと同じだった。
 
後ろから来る光弾に、振りかえりもせず突進する2騎。
優夜 「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい」
忍  「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

バッド「これで!しまいだぁ!」ビブラートの出力を上げた一撃を放つ。

大型奇声蟲の左右から交差しながら斬りつける。
更にえぐられた切り口を一際大きな光弾が貫いた。
 
 
 
優夜「いや〜、今回は疲れた・・・・」
バッド「まったくだ・・・・」
二人のだらしない声が響く。
大型奇声蟲を倒しそれなりの宝(今まで奇声蟲に挑んだ奏甲の残骸等)を回収し岐路についた一行。
優夜「やっぱり、仕事の後は温泉に限るね。なあ旦那」
とにかく温泉に入りたいの一言で、宿に戻るなり温泉につかる二人。
 
バッド「おうよ、それに酒だ、これが無いと始まらんぞ〜坊主」
そう言って湯の上に酒をのせた盆を浮かべ、優夜にすすめる。

優夜 「おっ、悪いね旦那、こうでなくっちゃな」酒を受け取り一気にあおる。
バッド「そういえば忍の姿が見えんが・・」
優夜 「ああ?ふっふっふ。彼なら大人の階段をのぼっている頃かと・・」怪しげな含み笑いをする。
バッド「女湯か!確かに顔だけ見ればわからんかもしれんが・・」
優夜 「まさかっ!そんな直球勝負はしません、彼の事だからすぐ出てきてしまうでしょうしね・・・ふっふっふ」
 
一方、その忍はというと・・
忍  (優夜さん達遅いな、混浴に入りたいって強引にいうから・・)
 
ちなみに優夜達の入っていたのは男湯である。ここは男湯と女湯と混浴がある贅沢な作りの宿だった。
 
優夜 「と、いうわけさ」
バッド「で・・一体何を期待しているんだ・・」
優夜 「忍少年のうろたえた顔♪」
バッド「まあ、確かにすましてるか、すずしい顔してるかのどっちかだからな」
優夜 「それに多感な時期だから、異性に興味を持つお年頃だろうし・・」
バッド「しかし、それじゃあ俺達に楽しみが無いんじゃないか?」
優夜 「それについて、少し真面目なお話が・・」
バッド「お、おう」
いつになく真面目な顔つきに優夜にたじろぐ。
 

ルルカ「納得がいきません!」
 
そう言って手を振り下ろす。机があればドンと音をたてた所だが、
ここは温泉である。バシャとお湯がはねるだけだ。
 
ルルカ以下女性陣二名もすっかり優夜の策略にはまっていた。
アール「しょうがないだろう、古典的な手に引っ掛かるこっちも迂闊だった」器用に長い髪を結った頭を振りながら答える。

優夜の策略・・俗に言う『男湯と女湯、のれんの入れかえ』である。この場合は女湯と混浴だが。
シィギュン「ここは元々混浴なのだそうですし、問題は無いでしょう」同じく髪を結い上げたシィギュンが汗を拭きながら答える。
 
ルルカ「だからと言って、あの能天気な万年頭に春が来ている人が高笑いしているかと思うと・・」
アール「なら説教しにいくか?優夜はきっと男湯だぞ」
ルルカ「う゛〜いつか、ぎゃふんと言わせてやります・・」拳をぐっと握って心に誓う。
 
忍  「ア、アノウモウソノヘンデ・・」
遠くの方から忍の声が聞こえてくる。
 
ルルカ「忍さんも忍さんです!何故今すぐ男湯に乗り込まないのですか!」と忍のいるであろう方向をに言う。
忍  「え、や、でも、そっちにはみんないるし・・・」入口近くの女性陣の事を言っているらしい。
ルルカ「裸の一つや二つがなんです!私なんか優夜さんの策略で何度、肌かを・・・」自分が何を言っているか気が付き赤くなり黙る。
アール「随分だいたんだな」
シィギュン「お若い人は積極的なのでしょう」
 
ルルカ「う゛〜それはともかく、とにかくいつもの忍さんらしくさらりと言葉の暴力でのしちゃってください!」
忍  「なんですか言葉の暴力って・・」
アール「心配するな、少し酒がはいっているだけだ」
忍  「アール!そんなものどこから持ってきたのさ」
 
シィギュン「いけませんでしたか?バッド様がこうして飲むのがおいしいと言っていたので」
忍  「シ、シィギュンさん・・・あの人は〜なんて事を・・・」頭を抱えながら湯船に沈む。
 
アール「いいからお前もこっちに来て飲め!」ザバザバと波を立てて忍の方に向かう。
忍  「アール・・・酔ってるでしょ・・・」
アール「もちろんだ!」そう言うと忍の手を引っつかみ戻る。
忍  「問うだけ・・・無駄・・か・・」心で涙を流す。
湯船を引きずられながらのその言葉は、まるで格好がついてなかった。
 

再び男湯・・。
バッド「・・・なるほど・・・な・・」普段は余り見せない渋い顔で呟く。
酒を飲む手を休めて優夜の話しを聞いていた。
 
優夜 「でしょう?だから空を飛べる奴とか、暗視がきく奏甲ならかなりいい感じなんじゃないかなって思うわけさ」
バッド「視界の共有か・・確かにあの歌術ならそれも可能かもしれん・・」
優夜 「それに考えていることもすぐ伝わるんだから、連携もバッチリ」
バッド「ああ、確かにこれには連携は重要だ、だがな」
疑問点が浮かぶバッドラック、しかし優夜が手で制す。
 
優夜 「わかってるさ、歌姫のことだろう?大丈夫、そのためのダビングシステムさ」
バッド「しかしな、あの古代歌術の効果がどれほどきくのかわからんぞ?
   しかもダビングシステムは現世代の奏甲から配備されているはず・・いきなり本番は危険だろう」
優夜 「やっぱそうかな〜かなりいける案だと思うんだけどな〜」
バッド「いや、お前にしてはなかなか上出来じゃないか、まさかここまで考えるとはな・・」
優夜 「ったりまえさ、これに関しては命をかけるぜ」
バッド「ああ、そういう賭けは悪くない、男のロマンだからな・・」
 
バッド・優夜「温泉の覗きは!」
 
温泉の覗きに歌術を行使し絶対奏甲を駆り出す・・そんな考えをするのはこの二人の英雄の頭の中でだけであろう・・・たぶん。
英雄達の語り合う漢(おとこ)のロマンはしばらく続いた。
 

戻って混浴・・。
男湯の不穏な会談なぞ知るよしも無く、こちらはこちらで盛り上がっていた。
 
ルルカ「納得がいきません!」
 
そう言って手を振り下ろす。机があればドンと音をたてた所だが、
ここは温泉である。バシャとお湯がはねるだけだ。しかも酒が回ったのか手付きが危うい。
 
忍  「・・・何か?」近くに来て後ろを向いていたが、首筋に目線が刺さる。
今度は忍に物申したいようだ。
 
ルルカ「なぜ男の忍さんが、そんなに色っぽいのですか!」完全に絡み酒である。
 
忍  「・・そんなことを言われても・・」気まずいので視線を逸らす。
ルルカ「そのうなじ・・その振り向きの表情・・ずるい・・ずるいです」目はトロンとして、その目に正確に物が映っているかは疑わしい。
 
アール「それはそれで面白いものだぞ、妹ができたみたいでな。ルルカもそう思えばいい」顔がかなり赤い、こちらもかなり酔っている。
 
ルルカ「私はまだ16です」正確には15歳なのだが。
アール「なら問題は無い、忍は14だ。ルルカがお姉さんだな」
ルルカ「嘘!?」
忍  「・・・ほんとです、14ですよ僕」
 
ルルカ「・・え゛・・・忍さんが14・・忍さんが14・・・きっとあちらとアーカイアでは時間の流れ違うのです
    ・・・きっとそうですそうでなければ・・」
 
もはや周りの声は聞こえてないようだ。残っている酒を引っつかむルルカ。
 
ルルカ「納得がいきません!」そう言って残りを一気に飲み干す。
 
アール「おいおいルルカ」
シィギュン「あらあらあら・・」
 
そのまま湯船に沈むルルカをシィギュンが支える。
シィギュン「私が運んでおきましょう。忍様、後はお願いしますね」
忍  「え、はい?」
湯船から上がるシィギュン。
 
見送る忍、その肩をアーデルネイドが掴む。
アール「よし、我が妹よ背中でも流してやろう」忍の手をつかみ湯船を上がる。
忍  「え゛いや遠慮します・・」ルルカに圧倒されていたが、アーデルネイドも酒癖が悪い。
アール「まあまあそういうな」
そうしてしばらく忍は、アーデルネイドの酒の相手をする羽目になった。
 

翌朝・・。
二日酔いで頭がふらふらなルルカと、久しぶりに漢ロマンで盛り上がった優夜が対照的に朝食をとっていた。
優夜「忍君達はもういったようだな・・」
ルルカ「あ〜はい、シィギュンさん達も朝早くに出て行かれましたよ・・」頭を押さえて少しづつ朝食を口に運ぶ。
優夜「忙しいことで・・ま、俺達は気楽いこうや。今回の事で資金はあるし、しばらく遊べるな」
ルルカ「あ〜そのことですが・・私達の取り分はありません」
優夜「・・・・何?」
ルルカ「だから、私達の取り分はありませんと言っています」
 
優夜「・・・・ルルカよちょっとそこに座りなさい」声が震えている。
ルルカ「さっきから座ってますしそのままの意味です、
   私達は以前シィギュンさん達にお世話になった分の報酬がまだでしたので今回の事で清算しました」

優夜 「ば、ばかな・・それにしても余るはずだろうに・・」
ルルカ「優夜さんが無駄遣いすると思って、シィギュンさんにお預けしました」
本当は酔って運ばれた後、古代歌術『刻のコンチェルト』の写本と幾つかの宝石を受け取っていたのだが。
優夜 「本当か!?」
ルルカ「本当です。少し頂きましたが、奏甲の修理を頼んだら無くなりました」
優夜 「おっさん達は何処に向かった!今回の誤射はおっさんが悪いぞ!」
ルルカ「知りません、あの人達の事ですからまた何処かで会えます」
優夜 「うぬぬ、先に温泉に向かったのが仇になったか・・しかし、ルルカ。本当は隠しているんじゃないのか?」
ルルカ「隠す場所なんてありません、それと私の荷物を勝手に捜さないでくださいね」
 
優夜 「ぬう、ルルカよそこに座りなさい・・・」
ルルカ「だからさっきから座ってますって・・」 
 
数日後に整備から戻ってきたシャルVの奏座の裏に、幾つか宝石が輝いていたという。
 

エピソード 2.44 END

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