エピソード 2.31Syu 『夢想家達の幻想曲・第一』 ・・ふと、空をみる・・あの人もこの空の向こうで・・今もきっと・・ シュレット「ええ〜なんで〜、いいんじゃん別に」 日差しが傾きかけた工房の前で、シュレットはがんばっていた。 工房長 「すまないね、今はここの人数は間にあってるんだよ」 シュレット「だって、だって。腕は確かだよ、ほらほら」そう言って自分の鍛えた刀を見せる。 工房長 「そうだね〜特別な注文があれば考えるけど・・」そう言って工房奥を見る。 桜花達が街から街へ移動する生活に慣れた頃、なんとなくそれぞれの行動パターンも決まりつつあった。 陣営に所属しない英雄は、基本的に生活費を稼ぐために仕事を請け負う。一部裕福なコネがあるような場合は別としてだが・・。 桜花達は当然前者だ、後ろ盾などありはしない。生活のためにお金を稼がなければならないのだが・・。 桜花 「困っている人を見過ごすわけにはいきません」と言って、金銭交渉前に動いてしまう桜花と、 ベルティ「ごめ〜ん、ついつい買っちゃってさ」という浪費癖のあるベルティーナ。 当然お金は減っていく一方だ、しかし女三人の旅はいろいろ物入りになる。 そういった事を踏まえて、比較的まともな神経のシュレットが財政を支えることになる。 桜花が奏甲で働いた分の収入が一番多いのだが、動いた分消耗が激しいのが絶対奏甲である。 『歩いているだけで壊れる』とはよく言ったもので、とにかく維持費がばかにならない。 まだ桜花の乗るローザリッタァはましな方で、先日ロールアウトした、カルミィーンロートは維持費が約10倍、リーゼ・リミットに関しては約15倍になる。 しかもカルミィーンは戦場で大量投入されているらしい。 シュレットはどこにそんなお金があるのかと余計な心配をしてしまう。 そういった現実と自分達の状況を踏まえて、シュレットが訪れる街々の工房でアルバイトをするのは、必然といえば必然といえるだろう。 そして今日も到着した街で、早々に自分を売り込みにいったのだが・・。 工房長 「ごめんね、やっぱり間にあってるよ」しばらく仕事の伝票をめくっていたが、仕事自体がほとんど無いらしい。平和なことは何よりだが。 シュレット「そこをなんとか、こっちも生活かかってるんだ」自分達の暮らしの平和のため奮闘する。 ??? 「それじゃあ、僕が仕事を頼もうかな・・」不意に後ろから声が掛かる。 男の声、当然機奏英雄だ。 工房長 「おや、フェイルじゃないか。仕事をくれるんだったらこっちも助かるけど」 フェイル 「ええ、奇声蟲退治が終わったから、整備を頼もうと思ってね」 シュレットと同じくらいの歳格好、まだあどけなさの残る栗色髪が印象的な少年だった。 工房長 「じゃあ、レミュもまた工房だね」 フェイル 「すいません、またお世話になります」 シュレット「何々?お兄さんが仕事くれるの?」 フェイル 「そうだね、腕しだいかな」そう言ってシュレットを見る。 シュレット「なんだよ、バカにしてるな!」自分の背の低さで舐められと思い食って掛かる。 フェイル 「ごめん、ごめん。随分可愛い職人さんだと思ってね」 シュレット「う・・・そんなこと言っても、まけてやんないからね」 こうしてシュレットは、フェイルの奏甲ハルニッシュ・ヴルムを整備することになった。 ベルティ「良かったじゃない、仕事がもらえて」 その晩の夕食の席上、シュレットは宿で今日あったことを報告する。 シュレット「誰のためだと思ってるのさ・・」 ベルティ 「私のため・・かな?」そう言ってシュレットの器から肉を取り上げる。 シュレット「あ〜!僕の肉。取るなよ!」取り返そうとフォークを構える。 ベルティ 「あれ、いらないんじゃなかったのかな?」そう言って口に運ぶ。 シュレット「せっかく楽しみに取っておいたのに・・」 桜花 「行儀が悪いですよベルティ。シュレット、私の分をあげますから」そう言って器をシュレットの前に置く。 シュレット「いいの桜花?」 桜花 「私は十分頂きました。あまり食事を取り過ぎると、夜の鍛錬に差し支えます」 席を立つ桜花、それを見送る二人。 シュレット「あっそうだ、桜花。明日から桜花の奏甲もしばらく整備に出すから、 いきなり奏甲で居合抜きとか試しちゃダメだからね!」 行きがけの桜花に注意する。 桜花 「あ・・・はい」きょとんとして答える。 言わなければ試していたことだろう。桜花は基本的に物分りがいいが、思い立ったら他のことが見えなくなることが多い。 シュレット「これで、明日からゆっくり仕事ができる・・・そういえば桜花ってなんであんなに背、高いんだろ?」 シュレットに比べるまでもなく、桜花は平均より背が高い。ベルティーナは平均的なので三人並ぶと見事な階段状になる。 ベルティ 「何、気にしてんの?」 シュレット「だってぇ、三人ともいっこずつ違うのにこの差は不公平じゃん」 ベルティ 「気にしてんの、背だけじゃないでしょ?」意地悪に呟く。 シュレット「な、な、な、なにさ、なにさ。どうせ僕はお子様ですよ」 ベルティ 「そうそう、お子様は食べ過ぎちゃダメですよっと♪」更にシュレットの器から肉を取る。 シュレット「あ〜それ僕がもらったやつだぞ!返せよ!」 ベルティ 「はふのふぉとはしら(何の事かしら)」食べながら答える。 シュレット「・・・もういい寝る」あきらめて部屋に戻る。 勝ち誇り見送るベルティーナ。 ベルティ 「しかし、あの子今まであんなに気にした事あったっけかな」 次の日、シュレットは工房奥にあるフェイルのハルニッシュの整備を始めていた。 フェイル 「ちょっと変ってるけど大丈夫かな?」 シュレット「ちょっとって、かなり変だよ・・」 確かに変っていた、通常のハルニッシュの装備は対地、対空を考慮して飛び道具が基本である。だがフェイル機は基本武装の両腕のガトリングガンを取り除き、ブレード状のウィングが取りつけられている。その他にも運動性向上用にスタビライザーが幾つか追加されていた。 シュレット「こんなんでどうやって戦うの?」 フェイル 「うーん、敵の横をすり抜けざまに斬る」 シュレット「冗談!それって体当たりと変らないじゃん」 フェイル 「そうとも言うかな・・」ちょっと自信無く答える。 シュレット「まあいいや、仕事だし。え〜と内容は損傷して装甲の交換と、空中機動性テストってあるけど・・」 フェイル「そうだよ、とりあえず装甲の交換がすんだら、この先の丘の上に来てよ。何も無ければそこに一日いるから」 シュレット「わかった、まっかせてよ♪」 装甲交換は昼頃に終了した。思ったより被弾した所が無くたいした仕事ではなかった。 さっそく、言われた通り丘の上にいく。 シュレット「おわったよ〜」 大きな木の木陰にフェイルの影を見つけて駆け寄る、フェイルは丘の上にイーゼルとキャンバスを広げて、筆を走らせていた。 フェイル 「へ〜、早いねレミュよりも早いんじゃないかな」 シュレット「レミュって?」 フェイル 「僕のパートナーの歌姫だよ、今は別の仕事をしているけど・・」 シュレット「そっか・・・それより君、絵描くんだ」キャンバスを覗きこむ。 フェイル 「あっちでやっていたんだけどね、ここは綺麗な所が多いから描いていて面白いよ」 シュレット「ふーん。で、こっちに描いてあるのは?見たこと無い景色だけど・・」 側らのスケッチブックを指す。それにはいくつかのスケッチが描かれていた。 フェイル 「これは僕が居た世界の風景、描き掛けばかりだけどね・・」 シュレット「へぇ〜、うまいね特にこれが一番」そう言って1枚を指す。 フェイル 「これは・・桜って木だね。日本っていう僕とは別の国から持ってきた木なんだって、 1年にほんのちょっとしか花を咲かせないんだ、でも何故これが一番なの?」 シュレット「なんとなくだけど・・一番気持ちがこもっているような気がしてさ、自分が物を造るせいかな、 なんとなくそういうのわかるんだよね・・」少し照れながら答える。 フェイル 「へぇすごいな、だったら幾つかあるから見ていていいよ、今描いているのが上がったら、奏甲の飛行テストをするから付き合ってくれるかな?」 シュレット「いいよ」そう言ってフェイルの側らに座りこむ。 シュレットがあれこれ質問するのを丁寧に答えるフェイル。快晴の空、午後の日差しは程よく暖かく。穏やかな風が丘の上に吹いていた。 エピソード 2.31Syu END |