エピソード 2.52 『終わり無き遁走曲〜夢のレプリカ〜 第ニ』
 

変装をして一階に降りる忍。しかし、一階は既に賑やかになっていた。
 
桜花「可愛いですね、コニーちゃんというのですか」コニーを抱きながら、珍しそうに覗きこむ。
コニー「う〜、だぁ」
 
ベルティ「またレグニス様と再開できるなんて、やっぱり私達は宿縁の・・」
ブラーマ「・・・ベルティ・・その変な色目をやめたもらえないか・・」
シュレット「そうそ、バカなこと言ってないで、はやく食べちゃいなよ」
 
はっきり言って姦しい・・。
 
忍は何も言わずにレグニスの隣に座ると、女性陣の様子を眺めながら夕食を頂く。
レグニス「遅かったな」
隣を見ずにポツリと呟く。
忍「あ、やっぱりわかります?」
レグニス「動きでな・・一度見れば固有のクセでだいたいわかる」
忍「う〜ん。せっかくなので僕の半身のマネをしてみたのですが・・」
 
忍を一度上から下まで眺めるレグニス。
レグニス「お前が、それでまったく同じ格好だというのなら見たことは無いな・・」
 
レグニス「おい、ブラーマ」
その声で姦しくしていた女性陣が振り向く。
レグニス「この人物を見たことは無いか」
そう言って忍に視線を向ける。
ブラーマ「・・?、何を言っているんだ?」
 
レグニス「言葉が悪かった、さっきの少年がわざわざ半身の・・」
忍「妹のです。さっき英雄様に言われて話を聞いてくれると聞いたので来たのですが」
言いかけたレグニスをさえぎり、慌ててとって着けた説明をする。
 
ブラーマ「そうなのか、わざわざ大変だな。で、あの少年はどうしたのだ?」
忍「はい、ええと。何か手がかりを見つけたそうで、私に書き置きの手紙を残して出て行きました」
そう言って手紙をテーブルの前に出す。
 
桜花「こちらの方は?」
レグニス「さっき、そこで会った英雄・・」
忍「の半身の妹です」
レグニスの言葉に更に割って入り、テーブルの下でレグニスを突つきつつきっぱりと言い放つ。
 
忍(レグニスさん、お願いですから話をあわせてください)
レグニスの視線に唇だけを動かして答える忍。
 
レグニス(何故そこで自分を偽る)
レグニスも夕食を食べながら、口だけを動かして話す。
 
忍(だって二人しかいないと思ったんですよ。あの人達は何なんです?)
レグニス(機奏英雄と歌姫とメカニックと言ったところか、前に一度戦った事がある。こちらの質問にも答えろ)
忍(ええと、女装している英雄だなんて変じゃないですか)
レグニス(さっき、あれだけの動きを見せていた事の方が常識外だと思うが)
忍(あれはいいんです。誰も見ていなかったし・・兎に角、
  話を会わせて下さい・・というか何も言わないでください・・僕を助けると思って)
 
レグニス(おかしな奴だな、まあいいだろう)
忍(すいません・・今度、落ち着いたら何かお礼はします)
レグニス(別に構わんのだがな・・期待せずに待っていよう)
 

忍は自分がアーデルネイドの妹という立場を捏造して、半身が居なくなった事を説明した。
 
桜花「・・・それは大変ですね」
ベルティ「きっと、その英雄に愛想を尽かしたんじゃないの?」
シュレット「よっぽど、酷かったんだねその英雄さん」
ベルティ「あれじゃない?いつかのダメ英雄みたいな奴なんじゃないの?」
シュレットが笑っている隙につまみ食いをする。
 
シュレット「ああっ!言ってる横からそういうことする普通!この女優夜!」
ベルティ「言ったわね〜、この一人失恋レストラン!」
シュレット「あ!あ!人が大事にしている思い出に〜」
ベルティ「あんたがいけないんじゃない、さっきのは言いすぎよ」
シュレット「ふん、悔しかったら英雄の一人でもものにしてみなよ」
ベルティ「私が本気になったら一発百中よ」
 
やっぱり姦しい・・。
 
ブラーマ「まあいい、どれ。レグ、コニーを頼む」
コニーをレグニスに任せて、手紙を受け取り眺める。二人のやりとりを待ったく気にしていない。
忍「あの・・いいんですか・止めなくて・・」
英雄としての自分が悪く言われているのに多少傷ついたが、いつのまにか話が摩り替わっている。
聞いた事のある名前が出たが、嫌な予感がしたので聞き流すことにした。
 
ブラーマ「いいんだ、いつもの事だろう」
桜花「はい・・何度もたしなめたのですが・・・」
ブラーマ「まあ、言って聞くような連中では無いな」
忍「はあ・・ならいいのですが・・」
 
シュレットとベルティの口論は延々と続いたいたが、ブラーマは手紙をじっと眺める。
桜花も騒ぐ二人を目線で追いってはいたが、止めようとはしない。
 
ブラーマ「まあ内容は読めるが。なぜ、現世の字なのだ」
手紙をヒラヒラとさせて忍に聞く。
 
忍「英雄様だけが読めるようにとの配慮ではないかと・・」
ブラーマ「ふむ、たまたま私が知っていたからいいようなものを・・・」
桜花「これは・・日本語ですか・・。その方は日本人なのですね」
 
二人の会話に桜花も参加する。
レグニスはコニーの世話を任せられてそれ所ではなさそうだ。
 
三人は手紙を眺めて考える。
 

金のウロ 十の鷹ノ子   
 
縁の死に絵
        
此の方の音 金の女湯
 
ブラーマ「これに意味があるかどうかが、まず疑問だな」
桜花「直接は関係が無いと・・?」
 
ブラーマ「あくまで可能性の話だがな」
忍「関係はあると思います、アール・・いえ姉は、滅多にこういった事はしないので・・」
 
ブラーマ「なるほどな、今日はもう遅いし明日から聞きこみでもするか」
忍「すいません、助けてもらってしまって・・」
レグニス「ブラーマは頭脳労働向きだから、そういう所は期待していいと思うぞ」
 
ブラーマ「む・・そうだ、おおいに期待してくれ」
レグニスに誉められて俄然やる気になっているようだ。
 
その言葉を最後に、各々自分のあてがわれて部屋に戻る。
 
ブラーマ「では、この手紙は借りるぞ」
忍「はい、構いません」
 
ぞろぞろ全員が二階に上がる。
レグニス「ブラーマ、コニーを頼むぞ。やはり俺には向かん」
ブラーマ「うむ、わかった」
 
ベルティ「今日という今日は許さないわよ」
シュレット「それはこっちのセリフだよ」
ベルティとシュレットは、お互い決着がつかなかったらしく、早々と部屋に戻り延長戦のつもりのようだ。
 
桜花「困りましたね・・二人はまだ口喧嘩を続けるつもりのようです・・」
 
ブラーマ「なら、そっちの部屋に居させてもらえばいいだろう。どうせ英雄も歌姫も不在なのだし」
そういって忍に話を振る。
 
忍「え・・・はあ、まあ構いませんが・・・」
話が面倒になってきたので、なんとか穏便に済ませようと頭をめぐらせる。
 
桜花「では・・少しお邪魔しますが、よろしいですか?」
忍「ああ、まあ少しぐらいなら・・・」
 
面倒は面倒を呼ぶ、忍は自分の軽率な行動に後悔していた。
 
 
 
ダラン「理由を問うのかい、まったくお前は進歩が無いね」
アール「はあ、しかし疑問を持つ事は良い事だと言っていたではないですか」
ダラン「まあそうだけどね。理由なんてものは、言葉で解っても完全に理解できるものじゃないよ」
アール「・・それでも・・私は知りたい事がたくさんあります」
ダラン「それはお前のかってだけどね。一つ覚えておきな、
  例えば殺人者の人を殺す理由がわかったとして、同じ理由ならお前は殺されても納得がいくかい?」

アール「・・・それは、あまりにも乱暴な・・」
ダラン「同じ事だよ、お前さんが知りたいと思うことも、英雄がこの世界に現れる理由も、それを行った本人しか本当の思いは解らないのさ」
 
 
 
仕方なく忍は自分達の部屋に桜花を招き入れた。
桜花「そういえば、まだ名前を聞いてませんでしたね」
忍「ああ、そうでしたね。私はイリアルド・カルクラインで姉がアーデルネイド・カルクライン、英雄様は新見忍という方です」
咄嗟に適当な名前を考える。嘘がまた増えていくな、心の中で寂しげに笑う。
 
桜花「・・・あたなたとはどこかで、お会いした事があったような・・」
忍「気のせいじゃないですか」
もちろん忍は覚えている。だが前回、今回共にこんな格好では真実を語る気にはなれない。
 
桜花「しかし、大変ですね。お姉さんが居なくなってしまって・・」
忍「ええ、でも一番心配しているのはきっと忍様でしょう」
桜花「そうですね、今も捜しに出ているようですし・・ですけど、それがどういった観点での心配なのか・・」
忍「どういう事です」
 
桜花「ええ、ここにきてそれなりに、英雄と歌姫をたくさん見てきましたが中には歌姫を道具・・
  または都合のいい相手としか思っていない英雄の方もいました」
忍「それは・・英雄だけに限った事ではないでしょう」
心のどこかで警笛が鳴る、やめておけ言うべき事ではない。
しかし、口からはほとんど反射的に言葉が出る。アーデルネイドが居ないので余裕が無いのかもしれない。
 
桜花「それは・・そうかもしれませんが」
忍「私もそれなりにいろいろ見てきたつもりですが、人はどこにいても変らないと思いました・・・
 それに・・いや、やめましょう、初対面でする話じゃないです」
なんとか心にブレーキをかける。
 
桜花「そうですね・・すいません、おかしな事を言ってしまって・・」
忍「別にいいですよ・・・そういえば、コニーちゃんはいつからブラーマさんが世話をしているんです?」
桜花「さあ、以前会ったときはお二人だけでしたので、つい最近だと・・」
 
忍「拾ったって本当だと思います?」
桜花「え・・・っと、私は知りません・・二人とも若いのですから・・・」
少し顔を赤くして曖昧に答える。
 
忍「でも、興味はありますよね?」
桜花「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありますけど・・・そ、そういうあなたどうなのです?」
顔を真っ赤にして答える。
 
忍「私はありますよ、赤ちゃん好きですし」
桜花「・・・・・・・・え゛・・・」
桜花が硬直して、二人の間に微妙な空気が流れる。
 
忍「あ・・いえ、私は赤ちゃんが好きだということで・・その・・ブラーマさんもどこからか貰って来たのかなと思って」
桜花の考えに気がつき、慌てて否定する。
 
桜花「あっ・・・そうですね、そういう事もありますよね」
桜花も無理やり自分に納得させる。
 
忍「赤ちゃんはあんなに小さいのに、力いっぱい泣くんですよね。自分の存在を固持するように、
 母親も子を育てるために自分の身を切る思いで育てる。昔は子持ちのおばさんが、あつかましくてしょうがなかったですけど、
 今思うと、そのあつかましさも子を育てるためなんだって思ってなんかすごいなって」
 
桜花「・・・・・・・・」
独白のようなその言葉に桜花はじっと忍を見ながら聞いていた。
 
忍「・・・・あ、すいません。また変な話をして・・」
桜花が何も言わないので、慌てて取り繕う。
 
桜花「いえ・・・やっぱりどこかで会ったようなと思って・・・」
同じよな考えの持ち主に、どこかで会ったのをはっきりと思い出した。
 
忍「え、気のせいですよ・・気のせい」
桜花「そうでしょうか」じっと忍を見る。
 
忍「そうですよ・・・」
桜花の真面目な視線に、斜めに眼をずらし改めてここに桜花を呼んだ事を後悔していた。
 
 
 
ダラン「それにね、世界の定義だって曖昧さね」
アール「確かにそれは、人の考えでいかようにも解釈できますが」
ダラン「そうだね・・・・例えば、今日と昨日が繋がっているなんて誰が認めてくれんだい?」
アール「それは・・自分の記憶で・・って先生、これはさっきにもまして乱暴では・・」
ダラン「生意気をお言いじゃないよ、自分の記憶ね・・・それだけじゃないだろう」
アール「あとは、他人との記憶の共有とかでしょうか・・」
ダラン「まあだいたいそんな所だね、しかしどちらも曖昧だよ・・決定的な何かが無い」
アール「では、他人との共有が多数であればそれは確固とした繋がりになるのでは・・・」
ダラン「ふふん、やはりそこに行きつくかい。結局世界を決めるのは多数決なのさ」
アール「ですが・・これは確実でしょう、そこに嘘はありません」
ダラン「そうかね、だが本当があるとも限らないよ」
アール「では何があると・・・」
ダラン「信じたい事だけさね。そこに事実が無くても、後付けでも事実を作り上げる力さ」
 
 
 
朝。レグニスの朝は早い、宿の中庭で身体を動かし、自分のコンディションのチェックをする。
忍「おはようございます」
後ろから声がかかる、忍が最初に会ったと時の格好で佇んでいた。
 
レグニス「もう、あの格好はいいのか」
忍「いえ、アールが見つかるまでは女装で通しますよ、なんかややこしくなってきたんで」
レグニス「気にする事も無い気がするがな」
忍「まあ、解りやすい嘘の方がいいかなと思って、説明するのも面倒なので」
レグニス「おかしな奴だ、そんな小さな事を気に病むこともないだろうに」
忍「結局は、我が身可愛さですけど」
レグニス「それは生物として当然だろう」
忍「・・・あなたも随分変ってますね」
レグニス「よく言われる・・で、何の用だ」
忍「いえ、少し運動がてらにお付き合い願おうと・・」
そういってナイフを差し出す。
レグニス「昨日最初に投げたの物だな、几帳面な奴だ。いいだろう」
 

エピソード 2.52 END
 

あとがき
全然話が進んでません・・・。
自分でもなんだか、わけが解らなくなってきました・・。
とりあえずTRPG風に、シティアドベンチャーを目指してますがどうなる事やら・・。
 
次回は、子連れ探偵ブラーマが活躍する予定です。

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