IF ”The Last episode ”『グリーンウッド』 「遅いな・・重要参考人だったのだが逃げられたか・・」 隣でディアナさんは口を噛んでいます。 「仕方ないですよ、アンリという人はとっても強いのでしょう」 私はなるべく優しく声をかけてみました。 「うむ、元は評議会のエースだったのだ、それなりの腕だろうな 役不足の相手だったかもしれんな・・」 周囲を見渡せる丘の上で私とディアナさんは日が傾きつつある空を見上げていました。 「『役不足』ですか、本来の意味でですか?」 「ん?ああ・・軽く流してくれ、私は親の七光りで軍に居るおちこぼれだ。 そんな口から出た言葉だ」 「優しいのですね」 「・・・そうかな、判断が甘いだけだろう」 「そんなことないです、あなたの仇がいるかもしれないのに、私たちの事を考えて行動してくれてます」 「君たちの友人がこの事件に巻き込まれているかもしれないとわかった以上、 人命も考慮すべきだと判断しただけだ」 「・・忍さんは白銀の暁、あなたの敵ですよ」 「私の敵は白銀の暁だ、忍という君たちの友人ではない」 少し確かめるのが怖かった事実をディアナさんはさらりと流した。 「・・・・やっぱり優しいですよ」 「無情ではないことは認めよう。だが、さっきも言ったように私はそんなに褒められた人間ではない」 「あ〜・・・いい感じの雰囲気のところ申し訳ないが」 「なんですか優夜さん!大事な話の途中なのですから空気読んでください!」 「腹も減ったしそろそろ帰ろうぜい、ディアナ隊長もさぁ隊員の状況には気を配ってくれよ〜」 「こういうときばっかり隊長隊長って優夜さんはぁ・・」 「・・こいつを『白銀のヴァイス』といって軍に突き出すという手もあったな」 「・・・・ディアナさん」 「冗談だ。ルルカ君、二人の歌姫に連絡を、そろそろ捜索を打ち切ろう」 「・・はい、それがだいぶ遠くへ行ってしまったみたいで、 さっきからこちらの呼びかけに返事がありません」 「ふむ・・では・・」 「捜しに行こうなんて言わないでくれよ隊長、俺の任務はルルカと隊長の護衛なんだからさ」 「優夜さん!またそんな事言って!」 「・・ふむ、下手に動くのも悪いが状況が掴めないのも気分が悪い。 優夜君、こちらを護衛しつつ二組の捜索をしようと思うのだが」 「ええ〜そんなにいろいろできないよ〜」 「迎えにいくだけだ、きっと何も無い。彼等の腕は信用しているのだろう?」 「そりゃそうだけどな〜」 「なら問題無い。少しはやく合流するだけだ」 しぶしぶ私達を乗せて歩き出す優夜さん。 「・・・・」 「どうした、ルルカ君?」 「い、いえ。優夜さんがあんなに素直に動いているので・・」 私が言っていたらあと半時は掛かっていたかもしれません。 「誰にも弱みはあるものだよ」 「そ、そういうものなのですか?」 「そういう事にしておこう、お互いのためにも・・今はそのほうがいい」 「は、はぁ・・」 ※ ※ ※ 「あの野郎ちょこまかと・・」 ガキの操る黒鳥はいまだに空の上だった。 「どうしたアンリ・イール?僕はここだ遠慮無く打ち込んでこい」 「黙れ!ガキは帰って寝る時間だぜ!」 夕日を背にする黒鳥はこちらの攻撃をすんでの所でかわしつづける。 こいつだけが相手ならそうやっかいではないのだが・・。 「テュティス!奴の歌姫をなんとかできないかのか!パメラに近づけない!」 『無理ですぅ〜奏甲を押し返す結界なんてはじめてですぅ〜普通じゃないないですよ〜』 「確かに・・普通じゃあないな」パメラの横に浮かぶそれを見た。 『・・・・・・』 何度かガキとの間合いを離しパメラの確保を試したが、傍らに浮かぶそれに全て阻まれた。 『そもそも空に浮かぶ歌術なんて私・・聞いた事ないです・・』 「・・ああ、俺が教えて欲しいくらいだ」 本当にあれば今すぐにでも飛んでって、あの生意気なガキを串刺しにしている。 『・・・・・・』 最初は人形だと思った。パメラの傍らに浮かぶそれは黒髪に黒いドレス、 無表情でこちらに向ける黒い目。 魔女・・そんな馬鹿馬鹿しい単語が頭をよぎる、だが浮かぶそれに一番ふさわしいと思った。 『退屈だわ・・こんなことをしていて・・・本当にあの人に会えるの?』 「マリーもう少し、もう少しさ。『あの人』が望む混沌は確実に広がりつつある。 君は目の前に立つ物を全て捻じ伏せてくれればいい、君に流れる血の力でね・・」 『そう・・そうなの・・いいわ。デッド・・はやく・・はやく来て・・でないとわたし・・』 魔女の周辺に光が集まる。 「アンリ!!」パメラの悲鳴に我にかえる。 「テュティス!デカイのが来る!歌術でなんとかしろ!」 『無理です〜避けてくださ〜い』 『・・全てを・・灰に、してしまう・・』 放たれた光球をギリギリでかわす。後方から大音響が帰ってきた。 「加減ってものを知らないのか!こいつら!」 常識なんてものは既にこの場には存在しないらしい。 「ジェイドの奴・・やってくれたな・・」 お互いまだ利用価値があったはずだが、あいつの方が若干見切りをつけるのが早かったらしい。 それとも俺を試しているのか・・。 「そろそろ、そのジェイドとかいう人間の居場所へ案内してくれないかな? 僕を駒にして扱おうとする人間の顔を、是非拝見したいね・・」 「何度も言わせるな!ガキの使いなる気は無いんだよ!」 それが俺を玩び続ける理由らしい、とことんふざけたガキだ。 「わかったよ、じゃあ少し痛い目を見てもらおうか・・」 急に向きを変え、黒鳥が突進してくる。 「そう何度も同じ手を・・」 動きに合わせランスを向け、 「食うかよ!!」 ランスごと奏甲の右手を突き出す。 串刺しにした。確かに手応えはあった・・が。 「残念だけど、あなたは僕に勝てない・・」 「・・・・何」 「そんなんじゃ、これは止まらないけど・・」 黒鳥はランスで真っ芯を貫かれたままこちらに顔を向ける。 「・・あなたの馬はどこまで持つのかな?」 羽が、振り下ろされた。 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」 『アンリ様!!』 自分の右腕が急に熱を持つ、がむしゃらに動きその場を離れた。 「あ・・あぁぁ」 パメラとテュティスの声が遠くに聞こえる。 「残念、残念だよ。あなたの武器ではこれを止めることは出来ない、 僕は、負けれないんだよ・・」 胴を離れても右腕はランスを握ったままだった。 「ふふ、こういうのよくいなかった?ほら、子供がよく小動物にいたずらをしたりとかしてさ、 矢とか杭とかで刺されたままになってるやつ、あれってすごく可哀相だよね?」 奴は何が可笑しいのか急に早口でまくしたてた。黒鳥は串刺しのまま小躍りしている。 「アンリ、あなたもそう思うでしょ?だったら抜いて欲しいな、僕は平気だけど なんか格好悪いじゃない、飛ぶにも不便だし・・」 口調はまるで困っているようには思えない、むしろ喜んでいるようににすら思う。 「・・・・・抜いてやるよ・・」 体制を立て直し、軽く前進させる。 「望み通り刺し貫いてやらあ!!!」 全速で黒鳥に体当たりをかける。 「その前に・・」 残った手でぶら下がっている右手ごとランスを掴む。 「全弾もっていけぇぇぇぇ!」 そのままパメラ達の方に突っ込みランスの内蔵火器のトリガーを引いた。 串刺しの黒鳥はその体に零距離で弾丸の雨を食らいながら引きずられていく。 ドン、ドン、ドン、鈍い音をたてながら黒鳥はのけぞる 「うおぉぉぉぉぉぉ!!」 トリガーを引きっぱなしのまま丘に突進する。しかし、寸前で魔女の結界にぶつかった。 雷のように激しい干渉波が襲う。だがこちらは前進をやめない、腕一本では押さえがきかず ランスの底を奏甲の腹で支える。指もトリガーを引いたままだ。 「いい加減にぃ・・くたばりやがれぇぇぇ!!!」 前後からの攻撃、これで死ななきゃ人間じゃない。 「・・・・く、さすがにこれは・・マリーさんこの槍を吹き飛ばしてくれないかな?」 『・・いいわ・・でも、あなたも、無事じゃ済まないかも・・』 「構いません、この人のがんばりに免じて力の差をしっかりと見せてあげます」 『・・・・・・・そう』 突然、ランスが押し戻された。 こちらの突進を完全に無視してランスのみが弾丸の玉のように返される。 奏甲の腕が奇妙な形にねじれ、更に体で抑えていた形が仇になりランスの底が奏甲の腹に食い込む。 「う・・げぇ」 俺はそのまま吹き飛ばされた。 ※ ※ ※ それから、どれくらい経ったでしょうか・・。 「アンリ様、起きてください。アンリ様!!」 倒れこんだままの私達、黒い鳥はあれから全く動かずこちらを見据えています。 「アンリ様、アンリ様、アンリ様!!」 外に出て、奏座に駆け寄りたかったですが今はまだ戦闘中です。 「もう、終わりみたいだね・・」 少年の声は遊びが終わってしまったと言わんばかりです。 「まだです・・あなたなんかに、あなたなんかに・・」 折角、アンリ様とパメラ様は再会できたのにこんな事って・・・。 「テュティスって言ったっけ・・がんばるね。でも、もうやめておきなよ その馬はボロボロでもう動けない。主人もお休みのようだし・・」 「黙りなさい!アンリ様が動けなくても、私が・・テュティス・フォーレストが あなたのお相手をしてあげます!!」 怖い、アンリ様が戦っている時も怖くて何もできなかった、でも・・ここで負けるわけにはいかない。 「勇ましいね、でも歌姫一人じゃ奏甲は動かせないのだろう・・」 「それくらい・・私にだって!!」 お願い!動いて!カルミィーンロート! あなたの・・ご主人様を、パメラ様を助けるの! クラクラと何かが動いた気がした。 「へぇ、がんばるじゃない」 視界が高くなる。いつもよりも周囲がはっきりと見える。 「これは・・・カルミィーン?・・そう・・そうよ。2人でご主人様達を助けましょう」 片腕は無く、前足も片方動かないけどなんとか立ちあがった。 「あなた・・無理だわ・・もういい、もういいのよ。あなただけでも・・アンリを連れて逃げて・・」 パメラ様が泣いています。ごめんなさいパメラ様、私、引けません。 あなたとアンリ様を逢わせるまでは・・。 「そう・・じゃあ、3人、君的に言えば4人かな・・ がんばりを賞して痛みを感じる間も無く消してあげるよ・・」 「え、なっ・・きゃぁぁぁぁぁ」 何をされたのかもわからず吹き飛ばされました。 目の前には黒い鳥が立っています。 「く、ううぅ」 アンリ様、わたしがんばってます。怖いけどがんばってますよ。 でも、やれるだけやっても・・やっぱり私はダメみたいです・・だから・・。 「よくがんばったね、さあ、もう眠りな・・」 だから、最後に祈ってもいいですか?・・・奇跡を・・。 ※ ※ ※ 後でなんとブラーマに非難されようと、このタイミング以外はなかった。 「すまない、しばらく様子を見させてもらった」 黒い鳥がカルミィーンロートにとどめを差す直前、横槍にカウンターを打ちこむ。 「今日は来客の多い日だね・・」 黒い鳥との間合いが開く、さすがにダメージはあるらしい。 『え、あ・・あの』 「おまえの望み通りこの場を治める、立て」 『レグ、もう少し言いようが・・』 ブラーマの問を黙殺する、緊張の解ける相手ではない。 「俺が時間を稼ぐ、その間に立て。そして奴の注意をこちらに引きつけろ」 『え、あ・・・は、はい』 「無粋だな・・一流の悲劇を三流のハッピーエンドにする気かい?」 「どちらも俺は望まない・・ただ一つ・・応えろ、紫城」 「・・・・何故その名を知っている?」 「忍からの伝言だ・・」 今までにない反応・・いや、ずっと見ていて疑う余地すらなかったのだが。 「『共にこの世界で死ね』・・」 ※ ※ ※ 『レグニス様は何を言っているんだろう・・』 髪をかきあげ、目の前で起っている事にもう一度目を凝らす。 『ベルティ、こちらはいつでも行けます。そちらの織歌は?』 『ん、ああ大丈夫。今だいたい終わったから』 高台から今までの事は全て目撃していた。 助けに行けなかったのは実力が違いすぎるのが目に見えていたからだ。 「策は・・・・あるかもしれません」 不意に桜花のもらした一言から一気に事態が急変した。 今、レグニスさんはやられっぱなしだったカルミィーンと共に黒い鳥と間合いを詰めている。 『桜花行くわよ・・特訓の成果、今こそ見せましょう!』 奏甲を乗り換えて、私の歌術が使いやすくなった今ならいけるかもしれない。 『・・兄様?・・まさか・・・』 『桜花?聞いてる?行くわよ!』 『・・あ、は、はい』 レグニスさんが先に出てから様子がおかしい・・。 『大丈夫です・・では参ります』 すっと桜花のキルシュブリューテが丸腰で構える。 『よし、いくわよ〜』 先程まで歌っていた歌を再び紡ぐ。 「瞬・刹・連・花!!」 「春・雪・連・歌!!」 異口同音を口にして私と桜花はそれぞれの動作に入る。 「桔梗!」 叫ぶ桜花のキルシュに長刀が握られていた。こちらも負けていられない。 「ハルフルユキ・・全てを包む春雪の幻・・」 声にあわせ辺りに花吹雪が舞う。 まずは奇襲。私の幻影歌術の中、桜花のキルシュは黒い鳥に肉薄した。 「ちぃ・・次から次と・・」 すんででかわす黒い鳥、だがあちらからは桜花はほとんど見えていないはずだ。 「菖蒲(あやめ)!菖蒲(しょうぶ)!」 キルシュの長刀が光ながら消え、手には得意の二刀が握られる。 ずっと見ている私でもわからないぐらい鮮やかな流れだ。 手数で押しこむ、さすがの黒い鳥もまだ完全に対処しきれていない。 「そんな、攻撃など・・!」 何度か打ちこむうちに、黒い鳥が動きをあわせ間合いを取ろうとする。 だが、それも予想済みだ。 二刀を同じに打ちこみそのまま右に半回転、 「紫蘭!」 回転の勢いに乗せて打ちこむ両腕に、こんどは長い薙刀が握られていた。 急に攻めの間合いとリズムが変わる。黒鳥の羽が削り取られる。 「く・・その武器・・貴様・・」 薙刀を返しどうにか空に逃げる黒い鳥、おっと・・私も見物ばかりしていられない最後の仕上げだ。 「逃がしません・・・・露草!」 ドンと大地に薙刀を突き立てる。見る間にそれは大きな弓に変わった。 「イセシメルハ、ハナノキッサキ」 幻影の幻糸を弓に集める。輝く矢をキルシュが引き絞った。 空を貫き、黒い鳥をかすめる。 『当たった!?』 「いえ、わずかにそれました、が・・」 黒い鳥に反撃の様子は無かった。 「ふ・・ここが引き際といった所か・・多少不本意ではあるけど幕引きとしては悪く無い・・ まあいい、まだ時間はある・・・しかし・・」 鳥は桜花とレグニスさんを一瞥する。 「・・・・面白く、なりそうだよ・・なあ、桜花」 ※ ※ ※ 先程の事が嘘のようにあたりは静まっていました。 『桜花、大丈夫?』 『ええ、さすがに少し疲れましたが・・大丈夫』 ティバインアームと呼ばれているそれをここまで酷使した事は今まで無かった。 自身に返ってくる疲労も今までの比ではなく・・。 『レグニスさんは?』 『そこから少し離れたところ、お馬さんの相手をしてるみたい』 『わかりました』 それでも私は確かめなければならない。ふらつく足を運び、うずくまる奏甲に向ける。 「レグニスさん」 少し離れた所から呼びかけた。 「桜花か・・カルミィーンからの応答が無い。手伝ってくれ」 「レグニスさん・・先程のやりとりのときたしか・・」 『紫城』と、確かに言っていた。 「すまんが、軽々しく話さないよう言われている」 「・・そう、ですか・・あの、一つだけ、一つだけ確認させてください」 「あの矢は本当に外れたのか?」 「えっ?」 「最後におまえが放った矢はほんとうに外れたのか?」 「レグニスさん・・何を・・」 外れた?外した?私が・・外した?私は・・兄様を・・私は・・ 「桜花」 「は、はい」 「カルミィーンからの応答が無い。手伝ってくれ」 「・・・・・はい」 ※ ※ ※ 全てが終わった。でも・・。 「パメラ・・」 あの人が目の前に居ることがいまだに信じられない。 「アンリ・・アンリなの?」 「ああ、俺だ、アンリだ。パメラ」 服は裂け、血で黒く汚れている。 日は沈み表情はわからない、それでもしっかりと私に歩みよって来る。 「随分・・またせたな」 「そうでも・・ない」 「あの子は?・・あなたと一緒だったあの子は?」 まだ顔も見たことのない子、あの子がいなければ私達はここには居ない。 「ああ、眠っている。たいぶ、無理をさせたからな・・」 「・・・・・アンリ?」 急に抱きしめられた。 「アンリ・・その・・腕・・」 背中に手を回す。あるべき場所に片腕が無かった。 「テュティスにやった、あいつは寂しがりやだからな・・・それに・・」 「それに?」顔を伏せアンリが口篭もる。自分が嫌な女だと思った。 「お前を抱く腕が残っていれば、それでいい・・」 もう一度、強く抱きしめられた。 〜続く〜 |