IF ”The Last episode ”『思いかける空へ』




事態は刻々と進んでいた。

「計器チェック、異常無しです。いけます」

物事の良し悪しは後で考えればいいし、それはそれぞれの主観でしかない。

「了解した。忍君、繰り返すがこれは重要な作戦だミスは許されない」

「わかっています。必ずパメラさんをリーズ・パスへ届けますよ」

「すみません、私が我侭を言ったばかりに・・」

「気にしないでくださいパメラさん、こういうの慣れてますから」

「大丈夫ですよ、この隊の英雄で忍さんが一番女性に優しいですから」

「あ、はあ・・」

「ランシア、あまりふざけないように」

「やれやれ、まるで遠足だな・・」

(ランシア、デッドだって十分優しい)

「あはは、冗談だよマリーちゃん」

数週間前ぐらいから、僕達の部隊が上に注目されるようになった。

「アーデルネイド君も完全には慣れてないだろうが頼む」

「大丈夫だ、この日のために先日、あの男の所に使いに出したのだろう?」

既に白銀の暁はリーズ・パス、ノインパスの両峠の攻略作戦を発動していた。

「ええまあ、彼が直属の上官になってからあまり自由には動けませんから」

「本当にあの人は、僕達の隊から軍を抜ける人間がいる事を知ってるんですか?」

「ええ、赴任の挨拶の時に言われましたよ
 『やるならもう少しうまくやる事だな、出撃の間隔が不自然過ぎる』ってね
 それ以後何も言ってきませんが・・」

ジェイド・カンクネン、僕達の上官になって男。

フェァマインでの再編成から白銀の暁に参加、

以前の経歴は一切不明、軍内でどんなやりとりがあったがしらないけど、

この短期間で幾つかの部隊を指揮する権限を得るほどになった。

他にも異端審問会という怪しげな会のメンバーだったりする。

アール曰く「何のことは無い。私の師匠を『危険思想』と言って冤罪にかけるような所だ」との事。

その事件は英雄召喚前の事だったそうだが、そんな所に所属しようとする人間だ。
それだけでも要注意人物と言える。

「作戦を確認します。私とデッド君もフィメルで一緒に飛びますが、
 彼女を乗せている忍君の奏甲が一番重要です。必ず六日以内にリーズ・パスに辿りついてください」

「了解です」

両峠攻略といっても同じように戦況が進むわけもなく。

先に展開されたリーズ・パスの戦いは拮抗したままだった。

しかし、遅れてはじまったノイン・パス戦は違った展開をむかえた。

両軍が睨み合うところまでは同じだったが、投降してきた歌姫達から進言があった。

私達に相手の説得させて欲しいと、当初、聞く耳を持たなかった上層部だったが、

ジェイド他数人の穏健派仕官から賛成の声があがった。

ノイン・パスで両軍が睨み合う中、わずかな時間でそれは実行された。

投降した歌姫と相手方の歌姫の極秘裏の接触が行われ、

説得は相手方の歌姫からその英雄へと対象は移り、

驚くほど迅速な対応によりノイン・パスは誰も予想しなかった、無血攻略が実現した。

この成功に勢いづいたジェイド率いる一派は更にリーズ・パスに使者を送り、

この事態を戦闘中の両軍に伝える事で戦闘を有利に運ばせようという作戦を提唱した。

この作戦は即日採用され、使者には最初に進言した歌姫のパメラ・パウと、

事実上戦力比に入っていない僕達の部隊『アイン・フリューゲル』

そして偵察隊専用機だったフィメル・メーヒェンが用意されたのだった。

一見、人道的に見えるが、この作戦の立案にはジェイドがかなりの部分にかかわっている、油断はできない。

「奴はこのフィメル・メーヒェンの建造にも関っていたらしいな」

(デッド、どこでそんな事聞いた?)

「おまえが遊んでいる間」

(いじわる・・)

「マリーさんをいじめちゃだめですよ、詳しい事は後で聞きます」

ロムロさんの指摘もあって僕とデッドさんでジェイドの情報は出来る限り集めた。

フィメル・メーヒェンの建造費を水増しして何かの資金源にした所まではつきとめけど、

ギリギリの所で尻尾をださない。部隊への命令も人道的なレベルに収まっている。

結論は『限りなく黒だがそれを立証する物が無い』という見解で一致した。

「諸君、白銀の暁の未来のため。大いに活躍してくれたまえ」

スピーカー越しにくだんのジェイドから通信が入った。

「ジェイド指揮官、私心だがよろしいでしょうか?」

「作戦中だがいいだろう。なんだね、ロムロ君?」

「この作戦の重要性を鑑みれば、我々でなくとももっと経験のある人間はいくらでもいるはずです、
 あえて我々に任された事の真意をお聞かせ願いたい」

「ふむ・・我々は真に英雄というものを必要としているのだ、ロムロ君」

「と、いいますと?」

「勝利を掴むのは明日を担う若者でなくてはならん、その後のためにもな」

「それは全体のためのプロパガンダと受けとってよろしいのでしょうか?」

「君を物の解る人間と見込んで話しているんだ、我が意を汲んで欲しいものだね」

「どちらに転ぼうとも、シナリオは用意されていると?」

「英雄に悲劇はつきものだ、それが早くなるか遅くなるかは君達次第だよ、ロムロ君」

「了解しました。我々は三流のハッピーエンドでお応えします」

「ふ・・期待しているよ」

通信はそこで途絶えた。

「たぁいちょう〜いきなり確信に迫る会話をしないでくださいよ〜」

「そうですよロムロ様、私達は今危険な立場にいるんですから、もっと自覚してください」

聞いているこちらの方が寿命が縮む思いだ。

「すまないね、外の敵より内にある不確定要素を取り除いておきたかったからさ」

「しかし、これでハッキリしたな」

「ええ、まあ確かに・・」

そう、部隊が彼の手の内にあるのは確かだけど、僕達に選択肢が無いわけじゃない。

ジェイドは自分の野心のためにこの隊を利用しようとしている。

その目的を確かめるまで僕達は生き残らなくては・・。



      ※      ※      ※



「戦で負ける国の法則って知ってるか?」

「なんですかこんな時に・・」

私達は今、空の上に居る。

「退屈なんだよ、うちの隊長が哨戒任務ばっかり押しつけるからよ」

「仕方ないじゃないですか、任されるはずの現世騎士団の秘密施設が誰かに壊されちゃったんですから・・」

そこで戦果をあげていれば今頃はずっと欲しかった、服とか小物とかいろいろ買えたのに・・。

「あ〜あ、やっぱ俺運無いのかな・・新奏甲への変換もまだだし」

そう言ってため息をつく彼は、それでも空にその部隊ありと言われた『大鷲旅団』の末席に名を刻む人だ。

旅団は先のヴァッサマイン攻略戦で命令無視の撤退をしたため、

トロンメル軍に居づらくなり今はシュピルドーゼに厄介になっている。

戦争は以前継続中だけど、傭兵団として新出発した私達はいろいろな仕事を請け負っていた。

今回は保護してもらったシュピルドーゼへの恩返しも兼ねて、

ノイン・パスとリーズ・パスの間の制空権確保に乗り出している。

「大丈夫ですよ、きっとそのうちいいことありますって」

旅団は機種転換期で実力が上のメンバーから新奏甲を回してもらっていた。

彼はまだフォイアロート・シュヴァルベを駆っているけど、

私はこの奏甲の事が気に入っているのでこのままでもいいと思っている。

新奏甲というのも悪くないけど、それだけ危険な役が回ってくるのだから・・。

「まってください・・ノイン・パス方面より、機影、3機」

急に幻糸レーダーに反応が現れた。

「何、俺達が一番西よりだったな・・おい、評議会軍は上がっていないよな?」

「はい、今空を守っているのは旅団だけです」

「ようし、煙幕弾で他の奴にも知らせろ」

「わかりました」

やっと運が回ってきたみたい、相手に悪気はないけど彼のためにもここはがんばらないと・・。

「このスピード・・気を付けて下さい、新型です」

敵も気が付いたようですぐに散開をはじめた。

「いや、あいつ等は新型じゃない・・」

「え、知ってるんですか?」

「白銀の鳥だ・・こんな所で会うとはな・・」

その単語を聞いて私も思い出した、ヴァッサマインで見た白銀の暁の専用飛行奏甲。

私達が唯一落とせなかった相手。旅団ではそのシルエットや出自から『白銀の鳥』と呼んでいた。

「白鳥如きが・・今度こそ大鷲が墜としてやるぜ」

彼の声色が変る、本気の時の癖だ。

急に身体が後ろに押し付けられる、彼がシュヴァルベを加速させたのだろう。

前回は撤退が主目的だったが今回は違う、彼は容赦しないはずだ。

少しだけ、あの白い奏甲に乗る人達に同情した。



戦闘が始まり数分して今回は立場が逆だと気が付いた。

彼らは理由は解らないが逃げに徹している。

その証拠に2機は先に行ってしまって、今は1対1になっていた。

「しんがりのつもりか、こいつ・・」

彼の腕をもってしても、いまだ白銀の鳥は空を飛び続けている。

「攻めてきませんね・・時間稼ぎでしょうか?」

「ち、おい。何のためだと思う?」

「増援?・・はありえないですね。先の2機はリーズ・パス方面に向かったようですし、
 機動力はあちらが上ですから、これ以上の敵が私達に構う理由はありません」

残念だけど相手の方が総合的な実力は上だ、それは彼も私もすぐにわかった。

「ち、これで最後のマガジンだってのに・・」

と、彼がマシンガンを構え直した直後。

ガシッと鈍い音と共に聞きなれない声が響いた。

「ふう、やっと捕まえましたよ」

「な、何をしやがる!」

どうやら白銀の鳥に捕まえられてしまったようです。

「暴れないでください、こちらに敵意はありません。
 あなた達を『大鷲旅団』と見込んで少し話がしたいだけです」

のんびりとした青年の声だ。

「けっ、聞くだけ聞いてやる」

仕方ない状況ですが、諦めが早すぎますって・・。
でも、その流されやすさで今まで生き延びてきたんですけどね。

「先日、知り合いが現世騎士団の秘密施設を破壊しました」

「おい、それは俺達の手柄になるはずだったやつじゃあ・・」

「たぶんそうでしょう、彼らだってそうたくさん施設を持ってないでしょうし」

「で、何だ?おこぼれでもお渡ししましょうってか?」

「そんな所です、あそこで何がおこなわれていたか知っていますね?」

「・・・『忌鈴(きりん)』、歌姫だけをターゲットにした新種のウィルス・・」

それは私の知らない情報だった。

「はい、まだ完成には至ってなかったようですが」

「完全に阻止できていない・・か?」

「ええ、残念ですが・・しかし私はその施設で得た情報を預かっています」

「それをくれるってか、条件は?」

「特にありません、しいて言えば彼らを必ず止めてください」

「言われなくても・・現世騎士団殲滅は団長の意思でもあるしな。白銀は協力しないのか?」

「すいません。ちょっと評議会と戦争をしているもので・・」

深刻な事なのにお使いの途中みたいな言い方だ。

「さっさとやめちまえよ。この戦お前達が負けるぜ」

「ええ、それもうすうすわかっています。問題はどう終わらせるかです」

「面白い奴だな。いいだろう現世騎士団の事は任せな。ただし戦をこれ以上長引かせるな、これが条件だ」

「わかりました、善処します」

いつのまにか立場が逆になっています。

「なあ、リーズ・パスに行くんだろ?この先はシュピルドーゼ『千の槍』が待ち構えてるぜ
 迂回した方がいいんじゃないか?」

あらら、機密情報なのに・・。

「そうしたいのは山々なんですが、何分先を急ぐ身なので・・」

「難儀な奴だな、軍が嫌になったら旅団に来い。歓迎してやるぞ」

「ははは、頭の隅に入れておきます」

そして、ちょっと変った青年から情報の記載されたカプセルを受け取る。

「そうだ、よく俺のマガジン交換のタイミングがわかったな」

「ああそれですか、ちょっとあなたが撃った数を数えてもらっていただけですよ」

「・・は?」

これにはさすがにびっくりしました。

「うちの歌姫がそういうのを得意なもので・・」

激しい空間戦闘中の事なのに得意とかいうレベルなのだろうか・・?

「はは・・はっはっは。気に入ったよお前達、いつかまた空で会おう」

「ええ、期待しないで待っていましょう」

その言葉を最後に、白銀の鳥はすぐに見えなくなってしまいました。

「面白い人達でしたね」

「そうだな・・」

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだよ」

「例の秘密施設が、そんな危険な場所と知りながら行こうとしたんですか?」

「ええ、ああ・・悪いな教えてなくて・・」

すぐに彼の頭をかく姿が浮かんだ。

「いいんですよ、その代わり前からお願いしていた黒真珠アクセサリー買ってくださいね」

隠していた事は正直に言えば悲しい、でもそれが彼の自信であり、現世騎士団の行いへの怒りであり、
私への信頼から導き出した選択だと思うと悪い気はしなかった。




〜続く〜

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