IF ”The Last episode ”『差異を見なす目』


「室長、聞いてます?」

レストランの前で待つこと30分、やっと中に通された。

「人間は聞いていないつもりでも頭に情報は入ってくるものだ」

前を歩く上官から声がかえる。さっきよりも声が低い、空腹で機嫌が悪い証拠だ。

「では続けますが、室長がぼんやりしている間に一回分とばされていましたよ?」

「何のことだ?」

「何のことでしょうね?」

質問を質問で返す。どうせ聞いていないのだ、これぐらいすねてもバチはあたらないだろう。

「まいいや、出るときの約束とおりここは私が奢ろう」

上官がイスを引き席に促す。

「安心しました。今月厳しくって」

「悪いな、僕が昇格しないから下が痞えているんだ」

上官はドカッと対面の席に座るとメニューをつまらなそうに見つめる。

「そう思うならもう少し居眠りせずがんばってください、私の方が上になってしまいます」

「それは困る」

「私も嫌です」

「下に無理な願いを聞いてくれる人がいなくなってしまう」

「そのような甘い考えの部下の指揮を執る自信が私にはありません」

お互い憮然とした顔のままメニューを見る。

「さっさと選ぶか・・」

「そうですね」



      ※      ※      ※



「ロムロ隊長、遅いですね・・」

そう言って目の前の少年は木々の僅かな隙間から空を仰いだ。

「急に先に行けとはな、臨機応変にも限度があると思うぞ」

傍らの歌姫はそれでも涼しげな顔で本をめくっている。

「そろそろ時間だ、待つか進むかはっきりしろ」

「え、僕が決めるんですか?」

長身細身の男が先ほどの少年に選択を迫る。

「俺は雇われだからな、ここで選択権があるのは俺じゃない」

「むう〜困ったな・・アールゥどうしようか・・」

「ここはお前の判断に任せる」

「アールまでそんなことを言う・・」

少年は情けない顔でこちらに目を向ける。

「パメラさんならどうします?」

本気で困っている少年に、出発前に言われた事の意味がなんとなくわかったような気がした。

『あなたに説得してほしいのは他でもなく彼等自身かもしれません』

私の護衛を勤める隊の指揮官、たしかジェイドといったか・・。彼は私にそう言ったのだ。

志が低い、責任の所在を自分に置きたがらない。

典型的な『今どきの若い人間は・・』と小言がでてきそうな人達。

「そうですね・・ここは一刻も速くリーズ・パスに着くべきでしょうから」

「ですよね・・仕方ありません。隊長抜きですが出発しましょう」

やっと方針が定まる、私が言わなければもっと時間がかかったのではないだろうか?

程なく、申し訳程度のカモフラージュを破り、2機の絶対奏甲が姿を現した。

きれい・・頼りない彼らが扱うには有り余る奏甲だ。

フィメル・メーヒェンという一般には出回っていない奏甲、別の隊から借りたものだそうだ。

「パメラさん、準備が出来ました。乗ってください」

それでも腕だけは確かなようで、私が乗り込みやすいように奏甲を傾ける。

「すいません、では急ぎましょうか」

「はい」

僅かな隙間を飛び奏甲に乗る。辺りに巻き起こる風が私の心を表しているようだった。



      ※      ※      ※



「すいません、近道を選んだのが裏目にでたようです」

爆音が絶え間なく耳を揺さぶる。

「避けて行くわけには行かないのですか?」

近道を裏目したのはシュピルドーゼの『千の槍』シャルラッハロート・クーゲルを主力とする機動砲撃隊。

「回避行動を行えばそれだけ敵に射角を整える時間を与えてしまう、
 敵は攻撃範囲を分担して目の前に入って来たもの撃っている。
 それぞれのエリアで初弾さえしのげば何とかなる」

安全をまるで無視した理論が展開される。

「当たったらどうするのですか?」

「だから、当たらないようにしているだろう」

この奏甲の前に随伴の1機が盾になり先導をしてはいるけど・・。

(後・・どれくらい・・)

「敵があきらめるまでだ。単純作業ではへたに目標数値を知らないほうがいい」

どういう歌術かしらないけど、先導機が防御膜を展開して2機を守りつつ空を突き進んでいる。

(ダメ、これ以上・・もたない・・)

「もたせろ、無理だと思ってからが正念場だ」

先導機の歌姫の弱々しい声が響く、少しは労わりの言葉を投げかけるべきではないのだろうか?

振動が激しくなる。防御膜が弱まっているようだ。

「どこか隠れる場所を捜しましょう、マリーさんがもちませんよ」

「まだだ、もう進路変更しても遅い」

更に振動が激しくなる既に防御膜は無くなったのだろう、それでも奏甲は突き進むことを止めない。

前の奏甲から煙があがる頃、永遠に続くと思われていたそれは、始まりの時と同じように急に止んだ。



      ※      ※      ※


「危険は承知の上でしたが・・」

砲撃の雨から逃れて数刻、切り立った谷の隙間にどうにか身を隠すことが出来た。

「どうしたんですかパメラさん?」

「あまりにもあなた達がお粗末すぎないかということです」

「はあ、すいません。手際の悪さはいつものことなんですが・・」

「大目に見てやってくれ、忍は立場上副隊長という事になっているが
 ほとんど指揮を執ったことが無いのでな」

「だったら歌姫であるあなたが、助けるなり支えるなりするべきでしょう」

なぜこうも彼等はマイペースなのだろうか、そのくせお互いをかえりみず無茶ばかり。

英雄と歌姫ならばもっと助け合うものではないのか。

「そうだな、必要と考えればそうしなくもない」

この歌姫、アーデルネイドといったか、全く涼しい顔を崩さない。

「しかし、どうしますかね・・稼動できる奏甲は既に1機のみ・・」

全員が横目でそれを見る。美しかった奏甲は見事に大地に突き刺さっていた。

「簡単だ、残りをお前が動かせばいい。もうそこまできているのだし」

長身細身の男は子供の使いのように事も無げに言う。

「でも、さすがに全員乗れませんよ」

「俺が乗る必要は無いがマリーは連れて行け。代わりの歌姫がいれば休憩を挟まずに飛び続けることが出来る」

「・・そりゃ、僕は平気ですけど・・効率が落ちますよ」

「あなたたちは!!」

私は思い切り大声を上げた。

「歌姫をまるで道具みたいに・・何様のつもりですか!」

『白銀の暁』は歌姫と英雄が共にある事を第1とするのではなかったのか、

私はそれを信じて評議会軍から抜けたというのに・・。

「ふん・・理想や権利を掲げるのは結構だが、お前や俺達は所詮道具にすぎない」皮肉げに男が呟く。

「でも、一人一人が同じ目的のために動いているじゃないですか」

「目的は間違ってない・・けど、それだけじゃダメなんです」少年は生真面目に返答する。

「あなた達は『白銀の暁』なんでしょう?一体何を考えているんです」

「別に何も、ただ我々は理想の裏にある真実を知りたいだけだ」歌姫は毅然とこちらを見つめ返した。

「まるで『白銀の暁』が間違っているみたいな事をいうんですね」

彼等のただならない雰囲気に多少気おされる。

「パメラさん・・これだけは言っておきます。『白銀の暁』はけして間違っていない、
 でも、この戦争そのものを利用しようとする人間が居るんです」

「ジェイド・カンクネン、このまま白銀にいるなら覚えておいた方がいい名だ」

「上官を・・疑うんですか・・?」

「疑わしいのがたまたま上官だった、いや視界に入ったと言うべきかな」

「僕達は今は言うとおりにしていますが、いずれは・・」

どこまでも信じられない人達だ、疑わしい上官の命令にあそこまで命をかけられるものなのだろうか。

自分の信じた物に私はそこまで・・

「あなた達が何を考えているのかはわかりました。
 ですけど、そこまで淡々と命令をこなすあなたたちを私は好きになれません」

それだけ言うのがやっとだった。うまく自分を説明できないけど何かが引っかかるのだ、

私は私の英雄とこんなボロボロにはなりたくはない。




      ※      ※      ※



結局、あのデッドという男が抜けた。

「・・・・・・」

「そっち、狭くありませんか?」

元は一人用のサブシートだったが一人増えてもまだ余裕があった。

「大丈夫です・・」

その返事をまたず奏甲は私たちを乗せ再び空に戻る。

座席の横に寡黙な歌姫、マリーツィアがいる。先ほど防御膜を展開していた歌姫だ。

たいしたものだ、私よりも小さい彼女のどこにそんな力があるのか・・。

今は疲れたのか全く動かない。即席で作った座席に座り、うつらうつらとしている。

「大丈夫?もう少し寝たほうがいいわ」

さっきの休憩中、私達が口論をしている間もずっと寝ていたようだ、
あれほどの事をしたのだ疲労はかなりのものだろう。

私の言葉を聞き。小さく頷くと彼女は目を閉じた。

気が付くと思ったよりも高く飛んでいた。あの少年が気を使っているのか揺れはほとんどない。

ふと、さっきのやり取りが思い出される。

彼等は上官の不正を、行動を警戒している。

そんな人間は評議会にだってあたりまえのようにたくさん居た。

無能な上官とそれに不満を抱く者の両方とも・・。

結局はどこも同じなのだろうか?だとしたら滑稽な話だ、そんな人間同士で争いを起こしているのだから。

だけど彼等はそれと気が付きながら、その場に留まり機会をじっと伺っている。

何かをしようとしている、それは良くも悪くも何かを変える力だと思う。

でも私自身それを受け入れることができない。

理由はわからないけど彼等の話を聞くと反発感が沸き起こる。

それでいい、もうすぐ目的地だ。そこに着けば私を必要としている人達がたくさんいる。

彼等とはそれで接点が無くなる。私はそれでいいのだ。多少の後ろめたさは時間が解決してくれる。

横に座る少女の寝顔から目を背けなんとか自分を納得させようと努力した。

「アール・・高度が下がってる」

「・・・すまない、さっき少し怪我をしたようだな・・」

奏甲を操る二人の会話が聞こえる。

「酷いんだね?どこか休む場所をさがすから」

「私に構うな、時間が無いのだろう」

まったくこの人達ときたら・・。

「忍さん、どこかに着陸してください。急に堕ちたりしたらたまりません」

伝声官で少年に伝える。犠牲の上の説得なんて私は願下げだ。

「わかりました。アールそういうことだから降りるね」

「・・・・勝手にしろ・・」

本当に自分をかえりみないんだから・・。

奏甲はたいした距離も進まず、また大地を目指した。



      ※      ※      ※



アーデルネイドの怪我は思っていたよりも酷かった。

降りてきた彼女の脇腹のあたりに血がにじんでいる。

「・・持つと思ったのだがな・・」

「も〜そんなに無茶しないでよ!僕はぜんぜん嬉しくないからね!」

少年が年相応の顔で怒っている。今までの冷静さが嘘のようだ。

「・・すまない」

アーデルネイドも顔を伏せ素直に耳を傾ける。

やはり彼等も『英雄と歌姫』なのだ、しごく当たり前の事だけど。

だとすれば尚更わからない。何故ここまで危険な所に身を置くのか。

「しかし、困りましたね・・彼女を載せて飛ぶのは危険です」

怪我が悪化しかねないし、かといって置いてもいけない。もとよりもう時間が無い。

「何をしているかと思えば・・」

そこに現れたのは長身細身の男・・。

「デッドさん、どうしてここに?」

「それはこっちのセリフだ、いくらも進まず降りてきたのはそっちだろうに・・」

この男は飛行奏甲に足で追いついてきたのか・・いや、自分たちが時間を費やしすぎたのだろう。

「すいません・・実は・・」

事情を聞いた、デッドアングルの答えは予想通りだった。

「さっきも言った。こういう事態のためにマリーを置いていったのだがな」

「でも、マリーさんは・・」

(私は・・大丈夫・・)

奏甲内で休んでいたはずのマリーツィアがよろよろと歩んでくる。

「マリー」

(うん・・)

「できるな」

(うん)

「あなた!それが自分の宿縁に言う言葉ですか!」

食って掛かろうとする私をマリーツィアがせいする。

「マリーツィア・・さん?」

しばらく見つめるとフルフルと顔を横にふる。心配するなというのか・・。

「マリーさん、マリーさん。斜めに立ってますよ、わかってます?」

(・・・?)

倒れそうなマリーツィアを少年が慌てて支える。

気持ちはありがたいけど、こんな状態では・・。

「怪我人は俺が預かろう、マリー自身もやる気でいる。気兼ねなく飛んでこい」

この男は血も涙も無いのだろうか?

「・・・私がこの男の世話になるとはな、とんだ笑い話だ」

アーデルネイドが思いっきり邪見に睨む、確かにこの男を信用するというのは無理な話だ。

「私情を挟む暇は無いだろう、さっさとマリーとそこの女を連れて行って来い」

「他に策も無し・・か。いけ、忍。私には構うな」

半ば追い立てられるように私とマリーツィアと忍は奏甲に向かう。

「はは、まいったな。デッドさんはマリーさんの事になると一歩も引きませんからね・・」

それは何かズレている気がする。

「それよりもパメラさん、もう少しで着きますからね」

「ええ」

相変わらずこの少年はマイペースだ、自分の宿縁を置いて背中には別の歌姫を背負って、

さっきの怒り方や淡々と自分達の信念を語る彼、

「忍さん。一つ、聞いてもいいですか」

「はい」

「あなたは何者なんです?」

「あ、はあ?」

私よりも幼い身で重い物を背負おうとする少年。

普通ではない。嫌、普通ではなければ私が納得できない。

「何者に見えます?」

何が可笑しいのか笑顔をこちらに向ける。

「・・機奏英雄」

「じゃあそうなんでしょうね」

「・・くわえて、ちょっと生意気」

「あはは・・」

「・・そして、全てを知っているような不思議な人」

「・・知っていても、行動にうつさなければ同じ事です」

「だから、行くの?誰も誉めてくれない、誰も望んでないかもしれないのに?」

「これは僕が望み、誰かがいつか望むことだから」

「自信・・あるんだ」

「ありますよ、僕は一人じゃないし」

「そう・・そう言えるのって、なんかいいね」

私も一人じゃない。あの人が居たからここにいるんだ。

「そろそろマリーさんを起こしましょうか?もう一息ですし」

二つの視線が少女に注がれる。

「いえ、彼女は寝かせておいてあげましょう」

「え、でも・・」

「歌姫は、ここにもいますよ」



      ※      ※      ※



私は何をしているのだろう。

今だって私は自分から逃げている。でもこの手の届く先に助けられる人がいる。

たまたま私の手の届く範囲に出来ることがあっただけだ。

「それでも、一歩踏み出したのはあなた自身です。パメラさん」

少年・・いや忍が私の心を知ってか知らずかそう呟く。

私は英雄気取りだった。説得に行くなんて誰でもよかったのだ。

選ばれる責任や今を知らないまま、ただ上辺だけの英雄的行為に酔っていた。

しかしこれが現実だ、全体の宣伝のために互いを思い合う心を内に秘め、
ただ冷静に今をこなしていく人達がいる。

誰も褒めない、危険だらけ、己の信念だけを信じて進む。

私は強くない、この人達のようにはなれない。

でも、知ってしまった事を無視し、目を背けて生きていけるほど私は器用じゃない。

いや、それも詭弁だ。私はこれ以上自分がちっぽけな存在だと思いたくないだけだ。

結局、自分とこの人達の差を認めたくなかったのだ。

最後の最後のどうしようもない状況になってはじめてその感情に向き合うことが出来た。

「もう少しです。あの山を越えれば着きます」

宿縁以外の人と奏甲を操るのは確かに難しい。

しかし、単純な確立で言えばこういったケースの方がずっと多いはずだ。

だからこそ宿縁の力が望まれるとも言えるし、その先は彼らのような部隊を生み出す温床にもなっている。

そうならないために私は飛ぶ、この争いの真の理由なんてしったことではない。

私は底の浅い正義感しか持っていない。だけどそれ自体を隠し取繕うのは止めた。

いきなり立派になれるわけが無いのだ。私はここからはじめる、そう決めた。



      ※      ※      ※



視界が開けた。もう初日から何日経過したかは覚えていない。

しかし、そこあったのは・・。

「この煙・・戦闘の後」

「こっちの峠はずっと小競り合いをしていたんじゃないの・・」

山の間から幾つも煙があがっている。

「無茶だ・・こんな消耗戦を挑むなんて・・」

高度を下げる。奏甲の残骸があちこちに転がっていた。

「こんな・・ことって・・」

目の前の光景に戸惑っている私達の目の前を何かが通り過ぎた。

「うわっと・・」

「何?」

それは雲を引き綺麗な弧を描いて反転し、ほどなく銃撃が放たれる。

「敵?」

「いやあれは・・」

慌てて回避行動にうつる。今まで見ていた世界が一気に傾く。

「誰ですか!応答してください!僕は味方です」

距離がつまり、追いすがる相手の姿がはっきりと見えた。それはこの数日間で見なれた奏甲・・。

「忍君・・何も言わずにここから離れなさい」

「ロムロ隊長!?・・どうしてなんです?」

飛行限界ぎりぎりの低速で折り重なるように戦闘機動を繰り返す2機。

「残念ですが、彼らの手は思っていたよりも長かったという事です・・」

「そんな、ちゃんと説明してください」

一瞬機首を上げ、ストール気味になりがながら下降する。

しかし、隊長機はフェイントにはのらずにきっちり着いて来る。

「こちらの仕官達はノイン・パスの部隊に先に結果を出されて焦っていたのでしょう・・
 私が先にこちらに到着した途端、急遽総力戦をはじめたました・・」

「そんな!?私はそんな事のためにここに来たわけじゃありません!
 それじゃあ私達が引き金みたいじゃないですか!」

「・・・パメラさん・・残念ですがそういう事になります、
 攻略部隊編成にはジェイドも参加したと聞きます。
 はじめからこうなると予想していたのでしょう・・」

会話をしながらでも、銃撃は止まない。忍君は無我夢中で奏甲を崖に滑りこませる。

「・・そして僕達を消してしまえば全ては闇の中・・という事ですか」

忍君の口から酷く冷たい声が搾り出される。

「私もランシアを盾にとられています、あなた達だけでも逃げなさい」

「それは・・そこまで危険視されるほど、僕達が何かを得ていると思っていいんですね?」

「あるいは別の思惑の布石か・・ともかく時間がありません、追撃隊がまもなく到着します」

「時期をまてと言うんですか・・」

「ええ、今あなた達が戻るのは危険過ぎる」

「・・・・わかりました」

急に上昇すると南に方角をあわせる。

「忍君!?」

「パメラさん・・今はこうするしかなさそうです・・」

現実はどこまでも過酷というのだろうか・・。

「バッドラックには連絡が行くようになってます。まずは彼等と合流しなさい」

「・・でも、ロムロ隊長は・・」

「心配は無用です、なんとかなります」

「忍君、追撃隊が・・」

レーダーに幾つかの点が映る。

「まだチャンスはあります、行きなさい!」

「・・・・隊長・・死なないでくださいね・・」

その言葉を最後に一気に加速した。一路南へ。



      ※      ※      ※



「速度があがらない・・追い付かれる」

隊長機は追ってこない、うまく理由を付けているのだろう。

「相手は三機、どうするの忍君」

さすがに味方を墜とすわけにはいかない。

「うるさければ黙らせればいい、簡単な事だよ」

「・・何を・・!?」

急に反転し追撃隊に攻撃をしかける。

不意をつかれ、一機のハルニッシュ・ヴルムが爆発する。

「何をやっているの!やめなさい!」

「大丈夫・・すぐに終わるさ」

今までとは比べ物にならない機動で接近し両翼で相手を切り裂く。

更に二つの爆発、一瞬の出来事だった。

「何てことを・・」

止める暇もなかった。

「やっと出てこられた。さあ、これから楽しくなりそうだ」

声音が違う、まるで別人だ。

「忍君・・あなたは・・」

「ん?ああ、なんて言うのかな・・そうそう『僕は一人じゃない』っていういことさ」

人を不安にさせる声だ。

この瞬間ほど顔が見れないのが有り難いと思ったことはない。

忍君の豹変に私はただ、一緒に乗せてきたマリーツィアの寝顔を見ることしか出来なかった。



〜続く〜

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