IF ”The Last episode ”『白い男』



私は面倒は嫌い。

「たまにはこういうのもいいね〜」

丘の上で寝そべる、昼の日差しが気持ちいい。

「あ、こんな所に居た。おいベルティ、おいてっちゃうぞ〜」

頭の上かから声が掛かったけど無視。どうせろくな事ではないんだ、もう少し平和でいたい。

「聞こえてるんだろう、話しはついたからさっさと出発するよ」

見上げると日差しを隠すには少し背の足りない影が遮る。

「で、どうなのよ?あれは静かになったの?」

「えっとね・・なんか一緒に行く事になっちゃった・・」

「バカじゃないの!私が居ると話しが進まないからあんたと桜花に任せたんじゃない」
「しょうがないじゃん!桜花が困っている人ほっとけないの知ってるでしょ!」

「まったく・・さすが歩く道徳絵本、涙が出るほど嬉しいわ」
起きあがり、辺りを見まわす。

「・・じゃ、ちゃっちゃとすまそうよ」

「かったるい〜あの声と顔はなるべくなら見たくないのに・・」
この世界には数多のいい男がいるはずなのだけど、何故私の目の前にはあんなのばかりなのか・・。


      ※      ※      ※


その二人組みに会ったのは半日ほどの前・・

英雄と歌姫、今では別に不思議でもなんでもない。
奏甲が無いから次の町まで乗せていってほしいと言うのも多少あつかましいけどまあいい・・。

でも、気に入らない事が一つあるのよね・・。

「だからね。そこで言ってやったんだよ、そんなに金に困ってるんなら
 エタファでペットボトルアタッカーでも始めればってさ」

「・・あそう・・で、どこが面白いのそれ?」

ゆっくりと進む奏甲、その手の平に私と例の男が居る。

「だからね。ボトルを持って勢いよくぶつかって、割れたボトルの中身を弁償させるんだけど、
 割れないボトルでやれってところが・・」
話しの内容に関係なくハイテンション。
ジュークの解説ほどつまらないものは無いと知らないのかこの男・・。

「ねえ、これを黙らせてよ。あんた、これの歌姫なんでしょ」
奏甲の肩に目を向ける、そこに優雅に座っている男の連れが居る。

「すいません、久しぶりなのではしゃいでいるのです」
フードを目深に被っているその女、口元は笑っている。

「こっちはねえ、嫌な男を思い出してイライラしてんの!」

「何!僕とそっくりな奴がいるってぇ!そうかそんな美少年が他にもいたか・・」

「誰が美少年か!その締まりの無い顔が至上最低の英雄そっくりだって言っんの!」

男はきょとんとして肩の女を見ながら「ヨルン、それって僕達と同じ人間かな?」

「その件は先ほど紅野様に聞きましたが無関係です。ただ、ヴァイス様に良く似ているそうですよ」

「そんなに似てるならうちにスカウトしようかな・・」

「お願いですから止めてください」
「お願いだから止めて!」
私とヨルンという名の女がハモる、ノリは軽いがけして常識が無い人間ではないらしい。


      ※      ※      ※


どこぞのへっぽこ英雄似のヴァイス曰く、

私達が今居る国、シュピルドーゼは微妙な立場らしい。
今行われている戦争は評議会軍と白銀の暁が争っているのだけれど、
黄金の歌姫様が復活され、評議会軍の崩れかかっていた統制は一気に崩壊したそうだ。

黄金の歌姫様の意志に背いた評議会軍は実質的な要はトロンメル軍のみとなり、
黄金の歌姫様にはシュピルドーゼ軍が着いてるうそうな。

で、その両方を相手にしなければならないのが白銀の暁、つまりはこのヴァイスやヨルン達
ということなのだ。

「で・・いいのあんた達、ここは敵の国じゃない」

「だからお忍びで来ているんだ、あんまりおおっぴらに言わないでね」
ヴァイスは緊張感の無い顔でいう。大丈夫あんたならだれも疑わないから・・。

「で・・あんたのお仲間を捜すんだっけ?」
町には特に問題も無く入れた。それでも面倒はごめんなのでさっさと宿に入る。

「いんや、正確にはその奏甲なんだけどね。彼らはきっともう助からないだろうし」
部屋に通されるなりだらしなくイスに寄りかかるヴァイス。

「わかるのですか?」
奏甲から降りてきたばかりの桜花が聞き返す。

「連絡がとれなくなったイコールミッション失敗、これは遊びじゃないからね、彼らもそのつもりだろうさ」
「なんか本物の密偵みたいだわ」

「だからさっきからそう言ってるじゃない」
「いや、その顔だから信じられないし・・」

「それで、重ねてお願いしたい事があるのですが」
テーブルにお茶菓子を置くとヨルンがあらたまって私達を見回す。

ちなみ言うと、ヨルンは桜花以上に背が高く長い麻色髪が印象的な
認めたくないけど色気のある・・いわゆる『大人の女性』だ。

「その奏甲をさがす手伝いですか?」
「ええ、それもありますが・・ヴァイス様?」
む、何かアイコンタクトでやりあってる・・ち、別に羨ましくは無いわよ。

「ん、大丈夫じゃない。僕はこの人達を気に入ったよ」
「何それ?僕達を試してたってこと?」
シュレットが怒っている、当たり前だ人に値踏みされるのは嫌いだ。

「ごめん、ごめん。今日会ったのはたまたまだよ。
 ちょっと女性の腕の立つ英雄を捜していてね・・
 紅野さんの奏甲の足運びで腕が確かなのはわかったし・・」

「・・それは・・そうなのですか?」
「桜花、気をつけなさい。きっと服の上からでもスリーサイズを言い当てるタイプだわ」

「はっはっは、何を馬鹿な。誤差±2センチとか言わないよ、なあヨルン♪」

「はい・・どんな服装でもちょっと歩くだけで清らかな乙女の秘密を暴く
 別の意味でアーカイアの敵とは口が裂けても・・」

「ねえ桜花・・この二人・・つまみ出すならいまのうちかもよ・・」
「・・・・・」


      ※      ※      ※


「だから・・関らなきゃよかったんだって・・」
夜、宿の1階は何組かのグループで宴会状態だった。

「さあぁ呑もう、友よ宿縁とは異なる絆を祝して」
「おうさ、今日は俺のおごりだ。じゃんじゃんいってくれ!」

とりわけ私達のグループが一番賑やかだ。男二人が異常に盛り上がっている。

そう、『男二人が』だ・・。

「ルルカ・・よりにもよってなんでこんな時に・・」
「ええ・・・っと、何か理不尽な気もしますがとりあえず謝ります」

なるべく他人のふりをする私達。まだ穏便な合流だったかもしれないけど・・。

「いや、別にルルカは悪く無いし」
「なによチビスケ・・じゃあこの感情のやりばを何処に持っていけばいいのよ」

「「どうしたのベルティちゃん、呑んでないじゃない」」
「ええい、うるさい。この酔っ払いどもが!」
何故に二人揃って・・・ステレオで声を掛けるかな!
天凪優夜とヴァイス・・最悪の取り合わせだ。

「世の中には・・不思議なことがありますね・・」
さすがのヨルンも直に見るこの光景は驚いたようだ。

「すいません・・お金が入るからって優夜さん今日はご機嫌なんです・・」
「『今日も』・・じゃないの?」

「・・・うう、ベルティさん苛めないくださいよ・・」
「そうですよベルティ、久しぶりにルルカさん達と会ったのですから」
桜花に諭されちゃった・・はいはい、どうせ私はひがみっぽいですよ・・。

「でも、お金が入るってルルカ珍しいね・・何かお宝でも見つけたの?」
「ええ、それがシュレットさん、おかしな話しなんですよ。数日前にこの町に来ていきなり
 見知らぬ人に『この奏甲をあなたにお返しします』と言われて
 奏甲関連の書類一式をいただきまして・・優夜さんはそれを売るつもりのようです・・」

ん?何か・・引っかかるぞ、その話し・・。

「ルルカさんと言いましたね・・」
「はい、えっと・・」
「ヨルンです。お互い、賑やかな宿縁を持ってしまいましたね・・」
「あは、ははは・・」
ヨルンも何か感じたのだろうか、急にルルカに話しかける。

「その書類、拝見させていただいてよろしいかしら?」
「あ、ええ。構いませんよ、優夜さんにこんなうまい話しが来るはずがありません
 きっと何かの間違いです」

ルルカは服の裾から包みを取り出す。しばらく見ないうちに逞しくなってるわね・・。
「これです」
「はい、すいません」

「どうなの、ヨルン?」
「何がですベルティさん?」
「とぼけないで、ヴァイスと優夜、渡された奏甲関連の書類、簡単な推測よ」
「ベルティ・・お金が関るとうるさいね」
「チビ、うるさい」

「これだけでは何とも・・これ自体が罠という可能性もあります」
「ふん、さすがに頭が回るわね・・でも行くんでしょ?」

「ええ、お仕事ですから・・」
不適な笑み・・この女油断できないわね・・。


      ※      ※      ※


「こんな事で本当に大丈夫なのか?」
キツイ表情、それもまた魅力的ではある。

「安心しなお嬢さん。今のシュピルドーゼに余裕は無いんだろう?じきに現れるさ」
俺を、いやファゴッツからお目付け役を雇うぐらいだからな・・。

ファゴッツにしてみれば戦争が長引くほど儲かるが、それにも限度がある。
状況ではどうもポザネオでの決戦は避けられそうにない。

そろそろこの戦争の落とし所を捜さなければならない。
まあ、そんな事俺にしてみれば同でもいい事だが・・。

ロムロやアーデルネイドの連絡を信じれば、俺の目的であるあの男は確実にこの国にいる。
ジェイド・カンクネン・・おまえは必ず俺が仕留める。

「バッドラック卿・・軽はずみな発現は控えていただきたい、
 我々は決戦にむけて自国の不安要素を少しでも取り除きたいだけだ。
 しかし・・本当なのだろうな白銀の暁の一部が我国に潜伏しているというのは・・」
目の前の若いシュピルドーゼの士官は多少焦っているようだった。
若いのだし仕方が無い事だが。

「間違いないぜ、まあベーゼン商会の情報力を疑うというなら話しは別だが・・」
大半はこっちで調べて事だけどな・・。

「ふん、森のローレライもインゼクテン・バルトの悪魔も全て奴等だというのだろう・・」

最近このシュピルドーゼでは事件が多発している。

森のローレライは最近この辺りに出没する正体不明の化け物のことだ、
話しを聞く限り、該当しそうな奏甲を一騎知っているがまだ断定するにははやい。

インゼクテン・バルトの悪魔・・こちらは間違いなくジェイドだろう、偵察に出ていた小隊は全て全滅、
ちなみにその小隊の生き残りがこの士官さんだったりする。
現在は遺跡の一つを乗っ取っているらしいが・・。

「ああ、ついでにこの奏甲もな・・白銀のもので間違いないさ。きっと奴等はくるだろうよ」
見上げるそれは少し前に噂になっていた奏甲そのものだった。

「それと、あとの二人は使えるのか?」

「ああ、心配無い。下手をすると白銀の暁の最強の戦力を相手にするかもしれないしな・・」
「・・・おい、それは幾らなんでも・・我々はこの奏甲の素性と白銀の現状がわかればそれでいいのだ」

「ああ、そこまで馬鹿じゃないだろうが・・」


      ※      ※      ※


「ま〜ずいね・・紅野さん見えるかい?」
目的の場所を目の前にヴァイスさんが呟きます。

「ええ、奏甲が一騎、他は建物の中でしょうか?」
「む〜既にどこぞの誰か手に落ちてるねこりゃ・・」

ルルカさん達が手に入れた奏甲を確かめに行くことになり、
ヴァイスさん達も同行することになりました。

「おいおい、あれは俺が貰った奏甲だよ」
「優夜さん、ややこしくなりますから黙ってください」

森をしばらく進んだところにあったその建物の前には奏甲が一騎見張りに立っています。
私達はギリギリ視認できる距離で作戦を考えりことにしました。

「だってあれは俺のなのに・・」
「まあまあ優夜君、全ては君と紅野さんのがんばり次第だ」
「だけど、戦争の手伝いは僕達は御免だからね」

「大丈夫です、シュレットさん。嫌ならばいつ降りてもらっても構いませんから」
「むう〜桜花どうする?」

「行きます。今考えても始まりません、ベルティ」
「あいよ〜」
離れた場所に置いてあったローザリッタァに向かう。

「じゃあ私達も、優夜さん」
「いや俺、パス、ピンチになったら出るよ、なんか危なそうだし・・」
「ヒーローはピンチに現れる?」
「そう、それだラルカ」

「やれやれ・・あんたは最初からあてにはしてないけどヴァイス、
 あんたも英雄なんだから奏甲の一騎ぐらいもってきなさいよ」
「あ〜僕は頭脳労働と隠密戦闘専門だから・・」

「じゃ、行こうか桜花、男共はあてにならないわ」
「・・・はあ、では行きましょう」
私から見ればヴァイスさんも優夜さんもどこか油断できない人ではありますけど・・。

「じゃあ正面から行っちゃっていいや、いま出てる一騎はヨルンが無効化するから」
「わかりました」
いきなり真打と戦う事になるかもしれない。でも・・。

「それも面白いかもしれません・・」
「え、桜花何か言った?」

「いえ、なんでもありません」
危険な事には変わりないはずなのに、この人達といると安心できる。
殺し合いになってしまうかもしれないのに、試合の時のほどよい緊張しか沸いてこない。

不謹慎かもしれないけれど、今の私はそれが嬉しかった。


      ※      ※      ※


「敵襲だと!見張りは!」
それほど大きくない屋内が慌しく動き始める。

「何らかの歌術で動きません、ディアナ隊長」

「ちぃ・・バッドラック卿」
さも当たり前のようにこちらを振返る。

「わかってる、んじゃ御両人ちょっくら頼むわ」
後ろの奏甲に声を掛ける。

「本気でやっていいのだな・・」
「ああ構わない、ロールアウトしたばかりなのだろう、テストと思っていいぜ」


      ※      ※      ※


「そんな・・!?」
行動不能の奏甲の脇から・・。

「なんだ、桜花ではないか」

「レグニスさん?どうして?」

「雇われた、ちょっとしたバイトだ」
何故世界はこうも狭いのでしょう・・。

「しかし・・その方々は軍の・・」
周りを動く人々は明らかに統制された人のそれだった。

「雇い主はバッドラックだ。気に入らなければいつ降りてもよいと言われてな・・
 お前こそいつから白銀の暁などに肩入れするようになった?」

「これは・・ここに優夜さんが戴いた奏甲があるというので・・」

「またあの男か・・いい加減縁を切ったらどうだ、ついでにあの首もな・・」
「そんなこと!?」

「冗談だ。で、どうするのだ。桜花よ」
「やります、やらせていただきます」
二刀で構えをとる。

「・・できれば、やりたくはなかったが・・」
「このような機会がなければあなたは私と本気で戦ってくれない」

「死ぬかもしれんぞ?」
「そうなってしまえば、私がただそれだけの人間だったという事です」
これは剣に生きる私の言葉であって、本来の私ではない。
それに、この人の闇を感じ取れるのはこんな機会でもなければ不可能だ。
紫城兄様と似た何かがこの人にはある。私はそれが知りたい。

「やれやれだ・・真剣を間に挟むとおまえは人が変わるな・・
 ブラーマ聞いての通りだが、歌術は不用だ全力で叩き伏せる」

「ベルティ、手出しは無用です。他の方にもそう伝えて」
「はいはい、間違ってもレグニス様を傷つけないでね♪」

「・・・・わかりました」
こんな時でも彼女はあっけらかんと言い放つ。
その言葉で私の張り詰めた糸は丁度よく解きほぐされる。

「参ります!」
「・・・・!」

向かい合った二騎は同じに踏みこんだ。



〜続く〜



三ヶ月振りぐらいでしょうか・・なかなかテンションがあがらずやっとといった感じです。
広げた風呂敷は少しづつ仕舞われて行くはずです・・。

相変わらず、レグニスや優夜を使わせて戴いてますが、
自分の中では各人が書かれている物と繋がっていそうでいないぐらいのスタンスで書いてます。
レグニスにはレグニスの優夜には優夜の物語があるのですから・・。

自分は自分のキャラクター達の物語をつづっていくので精一杯です・・。

今回は音楽の話しをしようと思いましたがネタの整理がつかなかったので次の機会にでも・・。

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