vol 0.5 戦い済んで

「…ふう…む」

 一つ息をついて、伸びを一つ…しようとしたら、コクピットの内壁に手が当たった。
 貴族種と殴り合った挙句スクラップになったマリーから今の機体…ビリオーンに乗り換え、はや数週間。
 今や俺の手足の延長も同然になったビリオーンは、煙を吹く2体のケーファを見下ろして停止していた。

 「やれやれ」

 最近はこういうのが妙に多い。
 召喚されて来た「英雄様」達はあの演説を期に走り出した。ある者は評議会に従い、またある者はそれに逆らい、そうでなければ…
 俺のようにふらふらするか、今引っ立てられていった奴等のように欲に任せるかだ。

「人間だぁねぇ」

 考えている内に、自分でも謎な言葉が口をついた。
 …おかしなモノだ。
 いつも通りに―少なくとも自分はそうだ、傭兵ではあったが―生活していたら、いきなり呼び出され、「英雄様」とかよばれ、
 何がなんだかわからんうちに妙な化物と闘って、その上あの演説。そう遠くない内に自分たちもあんな化物になる…?
 おかしいとか言う以前に、訳がわからない。
 とりあえず集団の熱に当てられるのはまずそうだったので、冷静に事態を見極める意味も含めて旅がてら人助けをすることを選んだ。
 そう言うわけで、俺とは関わりが…無くは無いかもしれない戦場ははるか彼方の空の下、白銀が押され気味だそうだ。

「…ま、いいか」

 どちらが正しいのかなんてことは、今は考えなくて良い。情報を集めていけばその内わかるだろう。
 今はこうして、住民に感謝されて、礼金をもらって…『良かったです』とか言ってアイツが笑っていてくれるなら、それでいい。

「出るか…」

 ……結局依然と同じ結論に達して、俺は奏甲のハッチを開いた。

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