vol 1.0 奇妙な邂逅 搭乗人物紹介 ソード:機奏英雄。結構戦場馴れしているタイプ。 ネリー:歌姫。真面目。でも結構没個性。 奏甲についてもちょっと… ビリオーン・ブリッツTC(ターボ・カスタム) ビリオーンのパワーを全体的に強化した機体。両手にマシンガンを持っており、副武装内蔵のバックパックも装備している。 カスタムに伴う重量増加に対処するため、両脛外側にブースターを装備(航空機のように連続して噴射するのではなく、 ダッシュ時やジャンプ時に初期加速を補助するために一瞬だけ噴射する)、また同じく両脛に急速旋回時に機体を支えるためのスパイクを装備している。 とは言っても重い機体をパワーに任せてムリヤリすっ飛ばす構成のため、 スパイクを用いても小回り能力は通常機と比べてかなり悪く、Gもきつい。 森に響く銃声。金属板を裂くような耳障りな声。森の中、やや開けた場所で、奏甲と奇声蟲が跳ね回っていた。 「っちぃ!」 接近を許したことに舌打ちしつつ、ソードはビリオーンを操った。迫る鉤爪。爪の起動と平行になるように旋回する機体。 蒼と紺に染められたビリオーンの脚に、浅く爪痕が刻まれる。 「――しつけぇっ!!」 苛付きを気合に変え、蹴り転がした奇声蟲の外殻の隙間に右手のマシンガンを突っ込んで3点射を3度。 硬い殻の内部を銃弾は存分に跳ね回り、内部をずたずたにされた奇声蟲は体液を噴き出しながら痙攣した。 『8時、左後方です!』 その言葉が終わらない内に上半身を捻り、フリーになっていた左手のマシンガンを発砲。 弾丸の奔流は跳びかかって来た奇声蟲に連続して着弾し、脚の何本かをもぎ取った。 死骸からマシンガンの銃口を引っこ抜いて走る。 脚をもがれ、地面にたたきつけられながらもしぶとく動こうとしている頭を踏み潰して、ソードは周囲の森に視線を走らせた。 銃声の残滓が遠ざかり、空気に静けさが戻ってくる。物音は、聞こえない…いや。 ――耳を澄ますと、聞こえてくる。生い茂る樹木の隙間から粘性を帯びた気配に乗って、それは聞こえてくる。 きち…かしゃ… 硬いもの、それも奏甲の素材のように響く音ではない。例えるなら…「殻付きのナマモノ」の音。 数は――多い。3、4体やそこらではない。 ちき… 音が止まる。ソードは動かない。 「…ネリー」 呼びかける。ラインでつながっている歌姫からの返事は遅滞無く意識に届いてくる。 『はい』 「今の内に回復頼む」 『わかりました…重くなるかもしれません、注意してくださいね』 「応」 『声』は途切れ、代わりにラインを通して聞こえてくるのは織り上げられる歌。意識の端でその旋律をなぞりながら、注意は前方に向けておく。 今は、自分から動くのは得策ではなさそうだ。 向こうの森は樹木の密度が高く、弾丸は遮られる。同じ森でも多少なりとも開けたこちらの場所のほうが自分―マシンガン2丁―には戦いやすい。 奇声蟲も動かない。 ソードも動かない。 動かない。 動かない。 …動かない?何故? 『ソードさん!』 「――」 ネリーの『声』。困惑したような、心配しているような、重大なことに気付いたような。そんな声音。 …唐突に認識する。首の後ろ、針を刺されるような感覚。 ああ、これはあれだ。蟲の気配。蟲が後ろに居る。てことは何だ、バックアタックか?蟲も意外と――って―― 「っ…」 とっさに機体を前屈させる。風を切る音と共に、先ほど機体の頭があった場所を通過していく影。 機体は前屈している。腕を上げるのは無理。なら残る攻撃手段は――脚を使うか。 「らぁっ!」 脚に外付けしたブースターを起動、右足を跳ね上げる。 視界の端に見える無防備な腹に、足の裏が接触すると同時にブースターと共に外付けしていたスパイクを打ち出した。 どづん、と言う重々しい音と共に太い金属の杭が蟲を串刺しにする。 一瞬の静止。ビリオーンが前屈したまま右足をほぼ垂直に上げ、脚の先には奇声蟲がハヤニエになっている。 動き出す。ビリオーンの脚が、その先の奇声蟲の死骸が、重力に引かれて滑りだした。 正面から飛び出してくる影、影、影。 …待ってやがったのか? 不味い。そう考えながらも体は動く。 死骸を振り飛ばしながらスパイクを収納、右足を地面に落として両腕を上げる。狙いはつける必要は無い。撃てば当たる。 吐き出される銃弾。金属の暴風は奇声蟲達を引き裂いていき…すぐに止まった。 がちん、と音を立てて停止するマシンガン。止まった原因は至極単純。マガジンに弾が無くなった、それだけだ。 きぢ、しゅり。きちち… 弾丸の壁が消滅し、仲間の死骸を乗り越えて奇声蟲がやってくる。 「…俺の屍を超えていけ、って言葉があったっけなぁ」 『そんな事言ってる場合じゃ…!』 「ああ、そうだ…なっ!」 どぉむっ! 跳躍と同時にブースター起動。爆発のような音が響いて、機体が浮き上がる。 低く、長い跳躍で後退しながら、マシンガンのマガジンを左右同時にリリース。 腰のサイドに装着した予備マガジンにキャッチを叩きつけ、一瞬だけ手を離してボルトを引く。 がしゃり、じゃこん。 機体はまだ宙に浮いている。 再度腕を上げる。狙いをつける。着地。踏ん張った足が滑る。地面を抉りながら、ビリオーンがスライドしていく。 左のマシンガンを発砲。機体が安定していないまま放った弾丸は奇声蟲の周囲の地面を爆ぜさせただけだった。だが、牽制には十分。 ある程度減速したのを見計らって、両足のスパイクを打ちつける。地面に潜り込むスパイク。飛んでいこうとする機体。 がくん、と下半身だけが急激に停止した。後方にもっていかれそうになる上半身を力づくで引き戻し、 先ほどの射撃で足の止まった奇声蟲の群れへフルオート射撃を浴びせ掛ける。 爆ぜる砕ける抉れる潰れる。 弾丸の嵐にさらされた奇声蟲が仲間の死骸を乗り越えては新たな死骸となり、さらにそれを乗り越えてやってくる新手も死骸になっていく。 まず左、続いて右の弾丸が切れた。マガジンをリリースして予備マガジンを装着、再度発砲を開始。同時にリロードはせず、常に発砲している状態を保つ。 そしてまた左をリロード。マガジンの予備が無くなる。そのころには奇声蟲の群れもだいぶ数が減っていた。 …なんとか、なるか。 そう、思ったとたん。 ごきん。 明らかに不自然な音を立てて、マシンガンが停止した。 弾丸が無くなったわけではない。今リロードしたばかりだ。嫌な予感がしながらマシンガンに目をやって…ソードは予感の的中に嘆いた。 …ジャムった。 排莢口に空薬莢が詰まり、スライドに引っかかって動かなくなっている。 …ああ、欠片も信じてはいないし、ここは異世界ですけど神様。何でこー言う状況に限って俺にはこー言う不運が振りかかるんでしょーか? 『――さん!』 「…あ?」 完全に悲鳴の域に入っている『声』に、思考の海に逃避していた意識が一瞬で引き戻される。 ぶつん。 回線が切り替わり、視界が現実を映し出す。最初に認識したのは…顎。 「おおっ!?」 激突。衝撃。蟲の猛烈な勢いのタックル。支える。とっさにスパイクを突き刺した地面が軋む。 更に衝撃。スパイクを支えきれなくなった地面がめげる。押され、倒れ――衝撃。 がりがりがり… 「あー…ヤバイな…」 『――!――!!』 装甲が削られる音がコクピットに響く。もはや何を言っているのか判別できない『声』が頭に響く。 オーケー、とりあえず状況の整理だ。 タックルを食らって転がった。現在のしかかられて削られ中。以上。 …どうしよう? どんどんのしかかられる。どんどんどんどん奏甲の装甲が削られる。コクピットは耳障りな音で満たされ、ネリーの『声』も聞こえない。 ネリーの集中が途切れた所為か出力も上がらず、このままでは奇声蟲達を弾き飛ばすことも出来ない。 …駄目か。しょうがない、こうなったら生身で… 機体を捨てて遁走する事を決断し、リンクを切るようにネリーに呼びかけようとしたとき。 轟音。物体が空気を押しのけながら高速でやってくる音。 そして、硬い物同士がぶつかり合う、音まで硬質な激突音。 …がぁんっ! 横合いから文字通り飛んで来たモノに蹴散らされ、ビリオーンにとりついていた奇声蟲達が吹き飛んだ。 「っと!」 奇声蟲の注意が闖入者に向いた一瞬の隙を逃さず残りの奇声蟲を弾き飛ばし、起き上がって距離をとる。 視界を上げる。既に結構な距離があるが、風を引きずりながら旋回して再度こちらに向かってくる特徴的なシルエットは確認できる。 「…ハルニッシュ…?」 多少違う気がするが――まあいい。とにかくあれに乗っている機奏英雄に感謝しておこう。 「ネリー!」 『……あ、はい!』 答える『声』と共に下がっていた出力が戻る。 動作を確認しながら左右を見回してマシンガンを探し…あった。駆け寄り、拾い上げてスライドに挟まった薬莢を叩き出す。 …よし。 またハルニッシュが高速で通過していく。機動力を生かした一撃離脱戦法で上手く群れを引っ掻きまわしてくれているようだ。 その内にもう片方のマシンガンも拾い、群れに狙いをつけ、ハルニッシュにタイミングを合わせて射撃――しようとしたとき、急にハルニッシュの動きが鈍った。 「――ん?」 …何だ? 見る見るうちにハルニッシュに奇声蟲が群がっていく。一体何故―― 「ちょ……! すいませんでしたぁ! 私が悪かったです!…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 聞こえてきた男の悲鳴。機奏英雄のものだろうが… ふと、思いつく。 …切られた、のか? 「…やれやれ」 そこに至るまでの経過を想像して、苦笑する。 そういうタイプの人間と言うことか。…後で話して見るのも面白いかもな。 どこか力の抜ける悲鳴を聞きながら、ソードは借りを返すべくマシンガンを構えた。 …歌姫が目立たない…まあ、戦場に視点を置いたと言うことで。 キャラクタ登場を快く承諾してくださったザナウさんに感謝します。 …上手く書ける自信が無かったのでこんな風になってしまいました。これからどうなるか、想像して楽しんでください(謝)…では。 |