冬也の兵器開発日誌

時雨 冬也
 十九歳、男性。寝てて気がついたら戦場のど真ん中に転がっていたというシュールな始まりを持つ。
 「まずは疑え」を信条とし、性格は表向き明るく裏は色々と根暗。
 ただし我慢の許容量が少なく限界を超えると溜息を突きまくるか切れるかのどちからに突入する。
 前者ならまだいいが後者だと手に持った武器を手当たり次第撃ちまくるので危険。
 大型兵器を好み、特にバズーカやガトリング砲をこよなく愛用する。
 そのマニアっぷりは凄まじいものがあり、無ければ作ってしまうほど。
 ちなみにその戦術はひたすら「砲撃」。
 当たるまいが当たろうが効かなかろうが効こうがとにかく撃って撃って撃ちまくるというもので、彼と一度でも共闘した英雄は決して前に出ようとしないという。
 ちなみに本人は撃てればそれで満足らしく、弾切れを起すと速攻で撤退する悪癖がある(弾を補給したら再び出撃。損害は二の次らしい)。
 また、ステラと出会う前にある機関で兵器の研究をしていたという噂がある。

ステラ
 十八歳、歌姫。元自由民だがぶち切れた冬也の説得(?)に心を打たれ、また彼との宿縁もあって歌姫となる。
 が、どうも生理的に冬也と肌が合わないらしくリンクは低かったりする。
 自由民出身だからか過激な発言が多いが、その一方で少女らしい事に憧れるお茶目な面もある。
 単体での戦闘力も冬也以上だが、奏甲に乗っている時はもっぱら暴走氏がちな冬也の制御の方に手を焼いていたりする苦労人。
 なんだかんだ言って冬也をほうっておけず、文句を言いながらもパートナーをこなしている。

ヘル・ハウンド
 冬也の乗る奏甲でゼーレンヴァンデルグの改造機。
 といっても違いはボディカラーが黒メインにパープルのラインに変わっているのと、頭部が狼を思わせる形状のものに変更されているというだけである。
 また、冬也の開発した新型兵器のプラットフォームになる事も多い。
 標準状態で両腕の固定装備がガトリングランチャーに、両肩の装備が毎度毎度違う試験装備に変わっている。
 ちなみに試験兵器の爆発による各座を四回程経験していたりする。

その5 ”お魚とハリセン”


 ぶぉん、と音を立ててローゼリッタァのグレートアクスが振るわれ、それをヘル・ハウンドが紙一重でかわす。だが、完全にはかわし切れず装甲に皹が入る。
『あははははっ! さっきの勢いはどうしたのっ!?』
「くそっ、調子に乗りやがって……っ!! ステラ、何かいい案ないかっ!?」
『駄目だな……、何か薬物で強要されているだろうし、歌術的に拘束されているのでは手の施しようが無いっ! くそっ!』
「ちっ、ならば……」
『言っておくけど、ローゼリッタァの稼動限界まで待ってたらこの娘腐人だよ?』
「…………っ!」
 冬也は歯をかみ締めると、再び振るわれるグレートアクスの回避に専念した。
 咄嗟に屈んだヘル・ハウンドの頭のすぐ上を、グレートアクスが狂風を伴って通り過ぎていく。
『あはははははっ!! 手も足もでないねっ! やっぱり貴方は甘ちゃんねぇ!!』
「っ、しまっ……」
ズガァンッ!
 思わずたたらを踏んだ瞬間、唸りを上げたアクスがヘル・ハウンドのどてっぱらに炸裂した。
 増加装甲版が大きく歪み、ヘル・ハウンドの巨体が横なぎに倒れこむ。
『っ……!』
「っ! ステラ、大丈夫か?!」
『ああ、装甲版のおかげで大した被害ではない……』
「違う、お前の体だ! リバースは!?」
『そ、そそそれなら大丈夫だ。それよりどうする…・・・?』
「…………」
 冬也はケーブルから伝わってくるステラの言葉には答えず、ヘル・ハウンドを起き上がらせた。
 たちまち迫ってくるローゼリッタァの攻撃を、剣と盾で裁きながら後退する。
 囚われているという歌姫がハッタリだという可能性もあるが、確立は低い上まちがってれば大事なので、ここはとりあえず防御に徹するしかない。
 その後で、どうするかが問題だ。
 方法は、ある。だが、冬也はそれをよしとしなかった。

 奏座への一撃による、パイロットへの直接攻撃。

 確かにこれなら囚われている歌姫を必要以上に傷つける事はなく、安全に戦闘を終了できる。だが、出来ない。それだけは冬也には出来なかった。
 だから、探す。誰も殺さずに戦いを終わらせる方法を。
 だが、現実は非情だった。
『もうっ! 本当にしぶといわねっ!! じゃあ、これならどうっ!?』
「げっ!!」
 ローゼリッタァが腰の後ろから引っ張り出した装備を見て、冬也は思わず悲鳴を漏らした。
 グレネードランチャー。一撃で奏甲を破壊しうる威力を持つ射撃兵器である。当然、ヘル・ハウンドの機動力で回避しきれる代物ではない。
『覚悟はいい? じゃあ……』
 ローゼリッタァが左腕にそれを構え、今まさに放とうとしたとき。


『ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ●●●■■■■××△△☆▼っ!!』


 何だか形容しがたい雄叫びと共に、一機のブラオヴァッサァが森を突き破って姿を現した。何故か手にはハリセン。

『って、何よあれぇ!?』
「ぬおおおっ! って、あれ、見覚えが……」
『……奇遇ね、私もだ』
 突然の珍入者に慌てまくるシルヴィアと、何だかデジャビュを覚えて立ち尽くす冬也とステラ。
 と、どっからどう見ても暴走して手に持ったハリセンを振り回しまくってびちびち跳ねているブラオヴァッサァから、若い男の悲鳴が全周波で流れてきた。
『おおおおおおっ!! 翠霞、手前乗らなかったのはこれ知ってたからかぁああああっ!! 止まって、止まってぇえええええええええっ!!』
『………この声は……』
「……おぅい、水無月。お前何をやってるんだ……」
『おおっ!? そこにいるのはいつぞやのデンジャラス英雄っ!!』
「誰がデンジャラス英雄だっ!! ていうかどうなってんだそのブラオヴァッサァは?!」
『ってそうだったっ! おい、とっととここから逃げろ! 喰われるぞっ!』
「喰われるって、何にだよ?」
 冬也のもっともといえばもっともな疑問。
 だが、それに反応した訳ではあるまいがブラオヴァッサァは突然ローゼリッタァとヘル・ハウンドにその視線を向けると。


 何故かある筈の無い口を開いて目を爛々と輝かせた。


 んで、思わず両者が固まった瞬間、お魚はローゼに飛び掛っていった。
 たちまち、びちびちと跳ねる音と装甲の削れる音とハリセンの乱打する音と半狂乱のシルヴィアの悲鳴が響き渡る。。
『って、ギャーーーーーーーッ!?』
「うわああああああっ!?」
『きゃあああああああっ!?』
 三者三様の悲鳴。まあ、無理もない。
「ななななななななな何だ、それっ!?」
『お魚』
「違うッ!! そんなの聞いてるんじゃない、何だそれ!? 奏甲って奏甲喰うのかっ!? 違うだろっ!?」
 びしっと指差すヘル・ハウンドの指の先、ぷるぷる震えているそのさきで、
 ブラオヴァッサァがびちびちと跳ねながらローゼリッタァに組み付き、腰部装甲版に噛み付いている。
 シルヴィアはといえば、唐突で容赦ない事態に半泣きになりながらテンバっている。
『あー、いや、何かこのブラオ調整が不安定みたいでよく暴走するんだよ。で、エネルギー不足からか他の奏甲の幻糸炉を狙うようになってさー』
「………幻糸炉? ……そうか、その手が……」
『いや、私はそういう問題ではないと思うのだが、冬也?』
『うええええええんっ!! 何なのよ、何なのよこの魚っ!!??』
『ってうわーーっ! ちょっとそこの紅い奏甲、ナニ向けてるんですかっ!? ちょ、やめ、零距離でグレネードは勘弁してーーーーっ!!』
「ステラ! 装甲排除、高機動形態でアイツに接近して幻糸炉を引きずり出すぞっ!」
『いや、目の前の事をスルーするのもどうかと……』
『吹っ飛べーーーーっ!!』
『嫌アアアアアアアアアアアアあああああああああああああっ!!??』


つづく


何か一言:乱痴気騒ぎ

その6 ”殻と思い”


 爆音。
 金属音。
 ハリセンの音。
 暴走ブラオの一撃がローゼリッタァの装甲を砕くのと、ローゼリッタァのグレネードの一撃がブラオを森の向こうまで吹っ飛ばすのと、
 ヘル・ハウンドが装甲と武装をパージするのは、全く同時だった。
 紅い装甲が地に落ち、ブラオがびちびちともがき、ヘル・ハウンドが文字通り猟犬のごとく疾駆する。
『!! あんた……っ!!』
 振動。
 パージした装甲が地に落ちる。シルヴィアがヘル・ハウンドの突進に気がつき、今だ硝煙を上げるグレネードを突きつける。
 冬也は一瞬顔を引き攣らせるが、そのまま突っ込んでいく。ローゼリッタァまであと数歩。
 轟音。
 ローゼリッタァの右腕に装備された砲身から、榴弾が打ち出される。
 高速で接近するそれを、冬也は四つん這いになって回避した。
 さっきまで奏座があった場所を、煙の尾を引いて榴弾が通り過ぎていく。
 駆ける。
 ヘル・ハウンドは本当の狼のように両手両足を使って疾駆した。凹凸に足をかけ、でっぱりを掴み、ローゼリッタァに向けてその巨体を押し出す。
『舐めるなと……言ったでしょうっ!!』
 グレネードでは間に合わないと判断したのか、ローゼリッタァはとっさに足元に突き刺していたグレートアクスを引き抜いた。
 それを、ヘル・ハウンドに向けて勢いよく振り下ろすっ!!
『もらったぁああっ!!』
「そっちこそ……舐めるなぁああああああっ!!」


ガキィイイッ!!



 森の街道に金属音が木霊する。 

『…………』

「…………」

 至近距離で組み合ったまま動かないローゼリッタァとヘル・ハウンド。
 紅い右手は黒の頭に振り下ろされ。
 黒い腕は赤い腹に向けて伸ばされ。

 黒い腕に、光の残り火を宿す幻糸炉が握り締められていた。


『………そんな……』

 呆然と呟き、ぐらり、と膝を突くローゼリッタァ。その振り下ろしたグレートアクスは、ヘル・ハウンドの”口”によって受け止められていた。
 零距離格闘兵器”ウルフファング”、数センチを誇る幻糸鉄さえも噛み砕く猟犬の牙が、大いなる斧を受け止めていたのだ。
 やがて完全にローゼリッタァの機能が停止したのを確認すると、冬也はグレートアクスからヘル・ハウンドの口を話、ローゼリッタァの頭部へと手をかけた。
 そのまま力任せに頭部をこじ開ける。
「良かった……」
 副奏座の中で眠る少女。それを目にして、冬也は溜息をついた。
 ちらり、と視線をやると、森のほうへ吹っ飛ばされたブラオが跳ね起きている。
 どーも再起動してしまったらしい。これからどうするか頭を抱えながら冬也は半身の乗る副奏座の入った追加装甲へと振り返り……。

『裏切り者には、死を』

 そこにいたのは、三機の紅い死神。それらは各々の得物を構え、追加装甲へと振り下ろそうとしている所だった。
「っ!!」
 とっさに駆け出す冬也。そんな彼に、ケーブルを通じて、ステラから意思が伝わってくる。だがそれは助けを求めるものでもなく、別れの言葉でもなく、ただ。

『逃げろ』


 伝わってきた一つの言葉。ソレと同時に織歌が途切れ、幻糸炉の出力が落ちていく。だが、冬也にはそんな事は関係なかった。
「そんな風に……」
 思い出されるのは黄昏の丘。少年が見取った少女は、最後まで透明なままだった。
 怒りも悲しみも喜びも何もかも押し込めて、その果てに何もかも失ってしまった、透明な笑み。
 結局、少年は少女の背負うものをかわってやれなかった。少女に、夢を語る事さえ出来なかった。



 だが、それでも。



 一つだけ。



 結ぶことが出来た約束がある。



「諦められるかよっ!!」
 冬也は、吼えた。魂を焼き尽くさんばかりの勢いで、過度の負担により、ヘル・ハウンドの間接にスパークが奔り、がくんと膝が落ちる。
 だが地面に落ちる前に両腕を突き、突き進む。死なせない。死なせやしない、それだけを糧に、体を走らせる。
 その思いに答えるように、ヘル・ハウンドが吼えた。その体が、漆黒に輝いていく。幻糸の異常活性による、発光現象。
 この瞬間、確かに冬也とヘル・ハウンドは一体となっていた。





 そして、漆黒の弾丸とかした地獄の猟犬は見事間一髪で間に合い、


 …………その全身を、三つの武器にて貫かれた。



つづく

何か一言:……とりあえず今度まとめて書き直そうかと思ってる。

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