「補助電源にて起動」
 昨夜から一夜明けて。いや、明けるか明けないかの時間帯。
《了解、サブドライブ起動。動力レベル『待機』にて起動》
低く唸るような音が響きだす。振動は無い

「HUD作動。およびアビオニクスも作動」
 日が昇るか、昇らないか。いま、太陽が顔を出し始めた。
《了解、HUD点灯、アビオニクス起動》
暗く、狭い奏座内に明かりがともる。足元から緑色の四角がズラズラと浮き上がり、顔を照らす。

「点検を開始」
 工房の格納庫もいまだに暗い。念のために明かりはつけていない。
《点検項目A群を開始。完了。同じくB群を開始。完了。C群を開始。完了。》
緑の四角が大幅に消える。といってもまだ沢山ある。

「メインドライブ点火。外部映像表示」
 その中で、一つの奏甲が熱を帯び始める。
《メインドライブ点火、出力上昇。レベル『準備』へ。メインディスプレイに外部映像を表示》
奏甲の目に光がともり、真っ暗だった目の前が若干明るくなる。といっても外が外だからまだ暗い。

「偵察装備テスト」
 静かな格納庫がにわかに活気付く。
《各種偵察装備へ疑似信号を送信………計算結果は全て合致》
全身に付いた装備が淡くひかり、コンソール中央、3Dレーダーディスプレイの真ん中から外側へ白い輪が走る。

「ラジエータチェック」
 奏甲は檻の中で目を光らせるが、微動だにしない。
《主冷却装置、正常に稼動。各放熱板も異常なし》
背中の板が上下に動き、放熱口から一瞬だけ熱い空気が吐き出される。

「全間接のロックを解除。固定用アームを除去」
 檻のように奏甲を囲っていたアームが開き、檻の外へ一歩を踏み出す。
《全間接のロックを解除。固定用アーム開放》
それまで若干離れていた関節が引き込まれ、「ガチャコン」と音がする。右足を一歩前へ。
 
 開いた出口に向かい歩き出す。

 途中、壁に掛けてあるショットガンを右手で握る。

 工房を出て、最後の確認
「ブースター作動テスト」
 出てきた奏甲が一度止まり、四肢以外が動く。
《腰部ブースター、ホバーブースター、イオンブースター。全て問題なし》
腰のブースターは前に後ろに、右に左に。背中のイオンブースターも同様に。
 全ての点検は終了。日は半分ほどが昇っている。

『……ん…まだ…眠い……
 あ…終わりましたかー?終わりましたねー?』

第4話「2度寝のデイブレイク」

 今まで、兎に角カッコつけて、トルネードも真面目にカッコつけて、頑張ってカッコつけた『発進シーン』は。
宿縁の歌姫様の寝ぼけた一言で粉塵へと帰した。

「………………」
《………………》
ぐうの音も出ないとはこの事か…など等、傷心の胸で思いつつ。二人は黙って作戦内容を確認する。

『あ、トルネードちゃん。カギカッコ変えたの?機械っぽくなってカッコイイねー』

 そんな所を褒められても……自分はカッコいい発進をしたかっただけなのに……
涙を流す事も許されないトルネードだが、どこかに存在する「心の中」でホロリと涙を落とした。
 
『あ、見て下さい。朝日がとっても綺麗ですよ』
《「……ソーダネー」》

 二人は勤めていい加減に、そして投げやりに、ばっちりハモって応えた。

『…? どうしたんですか?やっぱり、まだ眠いですか?』
 風は微妙にずれたヘッドセットを直し、任務の確認を無言で行った。

 任務は戦略偵察。女王が討たれたことで紫月城は奪還されたが、依然として蟲まだは存在する。
今回はその残りの奇声蟲が何処にどの程度存在するのかを素早く調べる。
紫月城周辺で殲滅を続けている討伐軍。その絶対防衛ラインとでも言うべきところを超え、短時間のうちに帰還する。
 偵察の結果をそのまま討伐軍本部へ報告。朝ごはんは皆と一緒に食べる予定だ。
以上、作戦説明終わり(by トルネード)

 そんなこんなで、朝日に向かいトボトボと歩き始めた。風+αだった。
『それじゃぁ、気を付けて〜。いってらっしゃ〜い』
 ……曲がりなりにもオイラ、奇声蟲がウヨウヨタムロする一番の危険地帯へ、単身突っ込む訳だよ……
も〜すこし何か言ってくれても……など等思いツツ。トルネードは朝日に消えた。

 で。

 任務自体はトルネードの能力をもってすれば簡単な物で。予定通りに進み、予定通りに報告、予定通りに帰還した。
「なんだ!?あの火の玉?朝っぱらからユーレイか!?」
『ベルクートさん…なんですか、あれ? 凄い速さで前線を越えていきますけど…』
 前線を戦術偵察中のフォイアロート・シュヴァルベをビックリさせた事を除いて。
「いや……オレも全然解らない。ありゃぁ本当に幽霊か?」
『まさか…本当に幽霊さんなはず無いでしょう……お母様に聞いてみましょう」
 あれやこれや。ま、兎に角無事に帰ってきた訳なのだよ。

 で、工房の食堂はそろそろ開き始めて、さっさと食べて今日も一日キリキリ働こう。
と思うんだけど、奏甲が一機、こんな時間だけどそろそろ帰ってくるわけで、自分たちだけ先に食べるのって道徳的にどうよ?
そんな微妙な空気が朝の清々しい空気と半々な、これまた微妙な格納庫。
 そして微妙な時間に例の奏甲が帰ってきた。いや、時間にピッタリなんだけど。

 そうこう言っているうちに。格納庫の敷居をまたいで、さっきの檻にトルネードは入っていく。
檻が閉まり、奏甲の目は輝きを失くす。胸が複雑に開き、中から消防士みたいな格好の『風』が出てくる。
近くにいた整備士からクリップボードを渡され、ペンのお尻で頭を掻いた。

 「今日も壊れてませんね。また補修は再塗装位ですか?」
「いえ、午後からまた出る予定なので、それはその時に。いまはブースターと間接の点検を軽くお願いします。後は……」
言って愛機の胸を裏手で二回、叩き。
「コイツの言った事をお願いします」
《……カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼カツ丼……
……へ?いまアッシをお呼びになりましたか?》
 ……コイツ、大丈夫かなぁ……? 渡された整備項目を抱いて、心底不安になる。整備士さんだった。

 足場の悪いキャットウォークを危なげも無く歩いて。にわかにごった返す格納庫を後目に。パイロットスーツの上着を脱いで。
風は自室への廊下を黙々と歩く。考えるのはただ一つ。スナワチ。
(朝ご飯……なににしようか……)
それ一つのみ。ちなみに現在は魚の干物だ。

 で、着替えなきゃいけないので自室に帰ってきた訳よ。エリとの相部屋……心持ち、体に悪い気がする。
まぁそんな事も朝飯で一杯の頭の中には微塵も入ってこないわけで、もしエリが着替えてたらどうしよう?とかこれっぽっちも
考えずにドアノブを回した風であった。

 で。

 幸いな事に着替え中とかそういった危機的な事態は無かった。だからといって、エリが部屋にいない訳ではない。
ベットの上で楽にしている。
ええそれはもう。小柄な事も相まって、『チョコン』といった擬音はピッタリだろう。21だけど。

 可愛らしく「寝ている」様は天使に見え、周囲1m程は大体3ルクスほど明るく見えた。

一段と明るいベッド周辺。なんかどんより暗いドア周辺。
ひたすら無言を押し通し、風は机の椅子に上着をかける。その後、おもむろにペン立てへ手を伸ばし、愛用のペンをギュ〜ッと握る。

「……オデコに『中』と書かなければならない……!!」
エリを『海老ソリ固めが得意の中華系超人』へと仕立てるべく、風は魔の手を伸ばす。

 (ど〜りで偵察が終わってから声が聞こえないわけだ。別段悲鳴とかも無いから、なんだろう?とは思っていたが、
よもや、まさか、こんなところでぐっすりと眠っていたとは思わなんだ………)
などなど、心の中だけで愚痴りながら、やや早足でおぞましく近寄る。
 一方エリは。
「……ん…ゃ……や……」
ごろりと寝返りを打ち、唇から寝言が漏れる。
 風は既に小さくブツブツブツブツ……
「…ヤ……ヤ……ヤマネコさ〜ん…出番ですよ〜……?」
「カンジャタウンかよ……。お前は一体どんな夢を見ている……」

 ホンの少し前までは憎悪もあらわに中華系超人へ仕立てようとしていたが……今の寝言で毒が抜けてしまった…
エビゾリで引き千切られるのも嫌だし。そろそろ起きてもらうか…
 上半身を引き起こし、ダラリと下がる頭にこう言う。
「もう皆起きている時間だぞ。二度寝もそろそろ終わりにしろ!」
だが、帰ってきた言葉は残酷なものであった。
「ん〜……アーマードギアの、めかデザイナ〜としてゆーめーな『沢森さん』ですが……他に関わった作品はなんでしょう……」
「なぜその単語群がお前の口から飛び出してくる……?」
「…いち〜『超時空少女マジュロス』……
に〜『地球要塞アマルナ』……
さ〜ん『アキモ FFR−MR−41』……。さぁ…どれでしょう〜……」
「全部沢森さん関わってるって……」
「……ハズレ〜……セイカイはよんの…『マジュロス2』でした〜……」
「オイ。セコイ、セコすぎるぞその問題。しかもマジュロス2は沢森さんノータッチだし。
…いや、そんなセコイ問題はどうでもいいから、早く起きろ。朝飯の時間だぞ! 起きろ、このポンコツクロシェット!!」
 
 なんとも程度の低いズル問題は忘れた事にして、このままエリの寝言に付き合ってる暇は有るけど、
こちらとしては、早いトコ魚の干物も食べたいので。どっかで聞いた事あるような無いような…な台詞でガクガクと肩を揺さぶる。
エリの頭が2〜3回アッチヘコッチへ。すると
「……んぁ……あ、カゼサン……」
「やっと起きたか、さっさと飯、食べに行くぞ」
「……ご飯………あ、誰が『朝飯クロシェット』ですか!!」
「……混ざってる上に、危ないんだか危なくないんだか、良く分からない台詞だな……」

 で、結局。寝ぼけ眼のエリはシャッキリ眼になって。イザ食堂、すれ違う人の中にはもう食べ終えた人も多々含まれるであろう。
「それがですね、なんだか…猫の人形みたいなのになって、ミーミー鳴いて、ナゾナゾを解いていた夢をみたんです」
鯵(に似た味のする魚)の干物を箸でつつき、二度寝でみた夢を断片的に語るエリ。
「解った。それ以上言うな。間違いなくアレだ」
朝ご飯を全て片付けて、程よい熱さの番茶(と思しき飲料)をすする風。
 のほほんと過ぎゆく朝であった。
 

 《これが私の新しいオモチャか……少しは楽しませて――》
「グラオグランツ。お前のオモチャじゃない、今回の演習相手だ」
《…………え〜なになに……我が黄金の工房自慢の新型量産機……エトセトラエトセトラ》
「肝心なところを諸々省略するな」
《…………期待の新人とか、ドラフト1位とか。そんな感じの奏甲だそうです!!》
(掻い摘みすぎだ……)
《クワッ!!》とか自分で効果音を入れながら、トルネードは熱っぽく、それだけ語った。
《で、なしてまた新鋭気鋭のドラフト1位量産機が、一介の偵察機相手に手袋を投げてきたの?
これ、端から見ればヨワイモノイジメだよ〜》
「異邦人が造った奏甲の鼻、明かしてやりたいんだろうねぇ……知らないけど」
《はた迷惑な話……ま、タマには『チョットツヨイモノイジメ』も面白いかな〜》
それよりもトルネード、『ドラフト1位量産機』ってなんか変。

 格納庫から所変わって。

「悪いねぇ、皿洗い手伝ってもらちゃって」
「いえ、気にしないで下さい。他にする事ないですから」
 場所:食堂
 職種:皿洗い
 また暫くして

「悪いねぇ、お昼の手伝いまでしてもらっちゃって」
「い〜え〜気にしないで下さい。あの人、ホントーに忙しいみたいですから。さっさと済ませちゃいましょう」
 場所:やっぱり食堂
 職種:キャベツ(っぽいモノ)切り

 小柄な女性はそのまま、黙々と……と言うより『ギラギラ、メラメラ、ユラユラ』思いつく限りのあまり芳しくない擬音を並べ立てて
一心不乱に、ギアチェンジを繰り返し、キャベツを刻んでいた。
五分もすると、山のようにあったキャベツはあと一掴みだった。
  
 がしっ!!

ラスト・キャベツを掴む手が二つ、
 しわが多く元気色の肌。オバチャンの手。
 細い指、しまった肌、艶のある爪。小柄な女性の手。
 
 一瞬の沈黙

「……私がやりますから、大丈夫ですよ……」
柔和な顔で微笑む女性。
「そ、そうかい?じゃあ、アタシはスープをやるよ……」
微妙に引きつった顔で、手を離すオバチャン。
オバチャンはそれより数日の間、微笑む顔の前に見た。
一瞬の顔に、悩ませられる事になる。

 時間は昼食時ヘ

「……あのさ、エリ。左手の人差し指、なんだか爪が短くなってない?」
カツ丼の紅ショウガをつまみつつ。風は小さな疑問をぶつけた
「左手ですか……? あ、短くなってる。よく気がつきましたね……ドコで……………ッ!?」
一抹の心当たりを覚え、
ヒレカツのキャベツを残したエリであった。



おまけ。
「お母様、今朝変なカツ丼を見たのですが……」
「………ごめんなさい、リーラ『カツ丼』が…なんですって?」
「いえ…カツ丼ではなくて奏甲です。奏甲」
おまけ、終わり

 後書き
 まずは、急な話なのにキャラクターを貸していただいたベルクートさんに感謝の意を述べます。
ありがとうございました。
 
 ハイ、コレを描くために一体どれだけ時間が掛かったことやら。
恐ろしいので考えません。タカシです。
 前回マデは、ワリカシ真面目路線でしたので、今回はハズシテ行きました。如何でしょうか?
風だって人間です。奇声蟲ウヨウヨの場所に単身突入して、帰ってきたら「寝てました」じゃぁ
納得イカンのですよ。やっぱり。
エリもエリで、皿洗い終わって格納庫いったら、相手にされたかったじゃぁ。
キャベツに当たりたくなるのですよ。ヤッパリ。
 それにしても今回はパロディー多かったな……お茶の間の笑いを誘えればまだいいが、
出来なかったらそれこそしらけるなぁ…
では、次回!!

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