サブマシンガンが盛大に火を噴き、空薬莢が踊る。
吐き出された弾丸は真っ直ぐに飛翔。
 
 かざした右腕に弾丸はすい込まれ、赤い飛沫となって、青い腕を汚す。
《右腕に被弾。判定、右腕脱落、電源カット。および武器喪失》
赤に染まった右腕はだらりと下げられ、握っていたショットガンも取り落とす。
右腕はもう全く反応しない。

『お前にはもう此方を攻撃する手段は無い、私の勝ちだ。』
『全く……やはり一介の偵察奏甲と我がグラオグランツでは勝負を挑む事自体が無謀であったか……すまなかったな、
ここまで貧弱だとはおもわなんだ』
 
 上っ面は上品な。しかし、下品に勝ち誇ったココロが見え見えの台詞。
風は苦々しく、唇を噛み、強がった。
「……まだ右腕が取れただけだ……死んではいない……」

 その瞬間、気に障る大笑いが耳に刺さった。

  第5話 前編 「無謀なグローブスロー」

 長閑な昼下がり、黄金の工房の一角にある演習場にて、二機の絶対奏甲が睨みを………
モトイ、純白の奏甲は睨みを聞かせていた。
対して、青白率が7:3程の大型の絶対奏甲、言うまでも無く風が搭乗しているアンファング・ヌル。
パーソナルネーム『トルネード』は。
 まぁ、割と『やる気がありませんよ〜』と体で表現していた。

 事の発端は、少し前。
『黄金の工房グラオグランツ開発チーム』なる所から届いた、
片方だけの、手袋だった。

 流石に風も一発で何をしたいか判ったのか、
「ナンツー前時代的な……」
と呆れていた。
「果たし伏 評議会所属 戦術・戦略偵察要員 風様へ
○日、13:00時、第5大演習場にて待つ。
……なお、貴殿の絶対奏甲は偵察、電子戦を主任務とする奏甲のため、この依頼に対する拒否権を持っている。
だそうです」
 付録の果たし状を淡々と読み上げるエリ、いっそうの呆れ顔にて精一杯呆れる風。
格納庫にてカツ丼波を発信中のトルネード。
 その日、4人がカツ丼波に引っ掛かった事をトルネードは確認し、大いに満足した。
「『果たし伏』って……エリ、今お前『はたしじょう』って読んだだろ」
(活字でないと判らないことは止めよう)そう思った作者。


 「いやさぁ……決闘の相手にどうしてオイラを選ぶかなぁ……」
決闘申し込み日の日は休暇だ。
「ワザワザ休暇潰して、どうしてお門違いの決闘なんてすると思う?」
この休暇は市内へ出かけ、何か掘り出し物でも見つけようと思っていた。
「手袋投げるんなら、シャルラッハロートの新型にでも投げればいいでしょうが……」
《そんな事をブツブツ愚痴りながらも、第5大演習場にて待機する、風であった。
『イキナリ訳のわからない決闘を申しこまれながらも、律儀にそれに答えるオイラ。ああ、なんていい人。ビバオイラ』》
「お前は少し黙っていろ!」
《な〜んて、ウ・ソ。ホントはバカ高い報奨金目当てに、こう、つい、フラフラ〜っと……
『金が必要だった、金が手に入ればなんでも良かった』
風は後にこう証言したそ―――》

 奏座内のスピーカーのスイッチが切られ、沈黙を余儀なくされた。
 現在12:54分

 『でも……風さん。報奨金、結構削った上でここにいますよね?』
《『貴方の奏甲、修理費が高いって聞きましたが、コレで足りますでございましょうか?オホホホホ……』
などなど舐めきった態度で出された破格の報奨金の山……その時、風はこう言った。
『イヤイヤイヤイヤ、この半分はあなた方の修理代にとっておいて下さいよ〜』》
『はぁ…随分「小男」みたいな喋り方ですね……』
《『アラアラアラ、遠慮なさらなくて結構ですわよ。その心配はいりませんわ。オホホホホホホ……』
『イエイエイエイエイエイエ……本当に、後で可哀想ですから……』
なんてイジのぶつかり合いが静かに続き、……………》

 いつの間にか入っていたスイッチは諦め、コンソールを調節し、音量を最小にまで持っていく。
トルネードの恨みがましい声が聞こえるような、聞こえないような。
 現在12:58分

「………やっと来たか、時間前とは言え……相手より遅く来るってのは感心できないな……」
姿を見せたのは純白の奏甲が三機。噂の『グラオグランツ』
「少々遅れたかな?すまないな……まさかこの依頼、受けるとは思わなんだ。よくぞ来たな」
右肩に仁王立ちしている歌姫と思しき女性が喋る。生身の人間が聞いたら到底聞こえないであろうが、奏甲越しにしっかりと聞こえる。
ただ、その後の「わざわざ叩き潰される為に出向いてこようとは、天晴れな英雄だ」
という小声まで聞こえてしまうのは、アンファングならではだった。

 姫を下ろし、演習場の中央にて佇む二機の奏甲
『この決闘……逃げなかった事、褒めてやるぞ』
グラオの英雄よりお褒めを頂いた。
《合意と見て宜しいですね――――!?》
うるさいヤツがしゃしゃり出て来た。
「お前に褒めて欲しくて来た訳ではない」
極めてクールを装って、言い返す。
《ワタクシ、最高評議会から派遣されました。クラトル正式審判員………》
「さっさと始めよう」
音量ボタンを押し続けながら、演習は始まった。


 演習、開始


『喰らえっ……!!』
左手が持ち上がり、サブマシンガンが盛大に火を吐く。距離は十分に離れている、並の奏甲と英雄でも避けられる牽制だ。
しかし、微動だにせず右手を盾にし、その弾丸を受け止める。ペイント弾を使用しているので真っ赤な飛沫が腕を染める。
《右腕に被弾判定。右腕、大破。電源カット。及び武器一式喪失》
トルネードの事務的な口調。風は無表情、いや……心なしか、口の端が吊り上っている様に見える。

『ッハ!! 流石お前の造った奏甲だ。反応するヒマも無かったか!!』
『なんと!? 私もこれ程とは思わなんだ。ようやってくれた』
初弾の命中に大いに沸き返るグラオ側。
その中に二人、違和感を感じた者がいた。

(……まさか?あんな弾があの人に当たるわけないわ……)
(……ま、あの人のことだから自分なりにハンデでもつけたつもりなんじゃない?)

ついでに風側。
《あ〜あ、右腕、取れちゃった……》
『すいませ〜ん。いま、クシャミしちゃって………』
「いや……まぁ、こんなもんだろう……」
危機感ZEROだった。

『さて……見た所、武装はもう無いようだが? これで終わりか?』
『すまないな、現世から英雄の様な事をしていると聞いたから、是非お手合わせ願おうと思ったのだが、やはり勝手が違うか』
声にこそ出しはしないが、心中で高らかに笑うグラオペア。

唇をキツクかみ締め、ぶるぶると振るえ―――ている訳がない風達。
《……なんだか、随分とまぁ調子に乗っているようですよ?カゼさんや》
「勝手に乗らせておけばいい……仮にも今は戦闘中だ。相手の事を気にかけてる程、暇ではない」
《それじゃ、少しは戦闘らしくしてみますか》

動かない右腕を下げたまま、敵に向かって歩き出す。
数歩歩いたところでようやく隙だらけに銃を構えた。

『なんだ?まだやるのか?武器も無しにか?
 いいだろう、蜂の巣にしてやる』
 大雑把に弾をばら撒き、全てが外れた。
 
《ドコを見ている〜》
大きく右に飛び退り、雑にばら撒かれた弾丸を悠々回避。
そのまま一気に近づく、普段なら格闘戦は仕掛けない。しかし、今は武器が無い。

『くそっ……!!』
とんでもない速度で近づいてくる、マシンガン……間に合わない!!
 マシンガンを下ろし、ロングソードを引き抜き―――

 抜かせる前に肉薄、相手の左手を掴み水面蹴り。そして離脱。
壮大な轟音と砂煙がまう。

 煙がひくと、白い胸を三つの赤い斑点で汚したグラオグランツが、まだ立てないでいた。

 「お前は死んだ。こちらの勝ちだ」
風は静かに、しかし確かにそれだけ言うと、上げていた左手を下ろした。
 
 演習場に吹いた風が、少しの砂を巻き上げた。

 『こ、このっ……!! 舐めやがって!』
怒りに任せて剣を引き抜き、トルネードへ跳びかかり。

 轟音と共に起きた振動の連続により、動作は全て中止された。

 巨大な足のすぐ近く、幾つもの空薬莢がカラカラと音を立てて転がる。
甲高い金属音の余韻覚めやらぬまま、赤熱した重低音が、砂塵を巻き上げ辺りに響いた。


 太陽を背負ったアンファングの頭部、不気味な四つ目が揺らめいていた。

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