counterfeit croits
虚偽の星芒

第一話『始まりの噺、バース』


砂が吹き荒れる荒野。
乾いた空気は土埃混じりで、知らぬ間に髪は砂だらけだ。

茶褐色の岩肌が地平線の彼方まで続いているこの地域は、
絶えず強い風が吹き荒れる枯れた山岳地帯として有名だ。
俺のグラオグランツに打ち付ける砂利交じりの風の音が、五月蝿いことこの上ない。

……まぁ、それでも。
いつもなら、この風は耳に届くだけの雑音でしかない。
しかし、今。

レン「…寒い」

タカユキ「…ちょっと待ってくれ」

背中からハッチの中に入ってくる砂交じりの風が、非常に鬱陶しい。
そのせいで、ご機嫌斜めのレンはおちおち眠ることも――――――、

レン「…ぐぅ」

タカユキ「………はぁ」

できない、というわけでもないが。

今、俺とレンの背中に打ち付ける強い風。
これは、決して俺のせいではなく……まして、レンのせいなんかでは絶対にない。
何が悪いかといえば、そう。

レン「うるさい…風」

この砂塵。
粗い砂粒がふんだんに盛り込まれたこの風が、唯一責めるに値するモノだろう。



風が入り込んでいるのは、勿論ハッチが開いているからである。

スリップストリームとかなんとか。
巻き込まれた風がハッチに此処に入ってくるのは、自明の理。

そして、ハッチが開きっぱなしになっているのは、

タカユキ「砂にやられるとは…ツイてない」

さっきハッチを開けたままで暫く待機させていたのが、悪かったらしい。
ジョイント部分に砂が入り込んでしまったらしく、どうやってもハッチがしまらない。

周囲に街の無い荒野のど真ん中、ということも運が悪かった。
お陰で、さっきから俺とレンはこうしてハッチに入り込む冷たい風と砂埃に辟易しつつ、
それに耐えながら、どこか砂取りが出来そうな整備場のある町を探す羽目になった。

レン「……タカユキ、あれ」

ふと気付くと、前方二百メートル程度の荒野の果てに、小さな町工場が見えていた。

タカユキ「―――ふぅ。やっと、街か」

レン「修理…」

髪や服についた砂埃を払いながら、眠そうにレンがそう呟いた。

タカユキ「そうだな、宿をとる前に修理してもらうか」

俺達は、街の外に奏甲を停めて整備場を探すことにした。





タカユキ「ここか・・・・?」

俺達は今、街の中心からは少し離れた場所に位置する、ひとつの広い工場に来ていた。
見上げても天辺が見えないほどに大きな整備場は、一目でここがそれなりに本格的な設備が揃っているのだと
判断させるに十分なインパクトを持っていた。

街で色々と聞いてみたのだが・・・・・・
ショップの店主によると、ここの技術士がこの街で一番腕が良いらしい。
整備士ではなく技術士というのが少々不安だったのだが、

ショップの店主「あそこの技術長は、メンテだけじゃなくてオリジナルの絶対奏甲の組み立てなんかもやっている超一流ですよ。
        どうです、お兄さん? わたしの店で何か買っていってくれたら、すぐやって貰えるように連絡入れて差し上げますよ?」

・・・・・ということなので、早めに整備に出したかった俺は食料や備品の補給等も兼ねて
その店で買い物をし、店主が話していた技術長がやっている工場に向かったのだ。

見ると、奏甲用の出入り口とは別に、脇の方に人間用の出入り口が設置されている。
俺たちはそこから整備場の中に入り、とにかく誰か人に話を聞こうとハンガーの中を歩き出した。

レン「タカユキ・・・・あれ、なに?」

工場の内周をぐるりと回る鉄橋を歩いていると、どうやら何かを見付けたらしいレンが
そう俺に聞いた。

レンが指を指した先には、8機ほどのシャルラッハロートがいた。

タカユキ「ああ、店の人が言ってただろ。今は大変な仕事が入って忙しいから、口添えが無いと今直ぐの修理は難しいって。
     その仕事っていうのが、あれのことだったんじゃないのか?」」

レン「そっちじゃなくて、あの真ん中にあるほう」

タカユキ「え?」

レンに言われるまでは気づかなかったが、8機のシャルラッハロートの真ん中あたりに、
確かに青いシートを被されている絶対奏甲がある。

整備されているのかと見間違えたシャルラッハロートだが、よく見ると駆動している。
整備する為の工場で何故、奏甲が駆動する必要があるのだろうか?

更に観察すると、シャルラッハロートは丁度、蒼いシートの奏甲を囲むように立っていた。
いや、“配置されていた”。
―――まるで、『あれ』を護衛しているかのようだ。

すると、何か貴重な奏甲か……それとも、高価な武装でもしているのか、それともどこぞの大富豪だろうか?
だとしても、少しばかり警護が厳重すぎる気がする。
いくら旧式・安価のシャルラッハロートとはいえ、あれだけの数を揃えるのはそこらの人間には不可能だと思うのだが……。
と、

??「うちの妹が言ってた修理して欲しい人達ってのは、あんたらのことかい?」

……と。
その奏甲の集団を見上げながら歩いていると、横から声を掛けられた。

振り向くと、三十代ほどの作業着を着た女性がそこにいた。
薄緑色の作業着は油と砂埃に汚れ、パーマのかかった茶髪に巻いたバンダナは年季が入ってボロボロだ。
誰が見ても、整備士だと一目で分かる風貌だろう。

タカユキ「妹・・・・ですか?」

??「あぁ。雑貨屋をやっている妹から、急ぎの客が奏甲を整備できる人を探している、
   ということで連絡がきたんだけど・・・・・あんた達のことじゃないのかい?」

なるほど、合点がいった。

タカユキ「ええ、その客は、俺達で間違いないと思います。
     ・・・・ということは、あなたがここの技術長さんですか?」

技術長「そうだよ、わたしはここの技術長で、技術士間じゃそれなりに
    信用が置かれてる。どんな仕事でも、安心して任せてくれて構わないよ」

と、技術長は迷いも無く胸をはって、そう豪語した。

レン「おばさん・・・・・あそこにあるの、なに?」

さっきまで俺達が見ていた謎の奏甲を指差して、レンが技術長にそう尋ねた。

技術長「あれかい? あれは、珍しくもお偉いさんから来た仕事でね。この工場で作り上げた一番の自信作さ」

タカユキ「へぇ・・そうなんですか」

中身が何なのかはわからないが、自信作というのならあの護衛にも少しは納得がいった。

技術長「まぁねぇ。何せ資金はほとんど限度なく出資されてたから。
    これで駄作を作り上げたなんていったら、わたしは首吊りものだよ。
    おっと、すまないね変なこと言っちまって。ま、あとは企業秘密ってやつだよ」

タカユキ「いえ、こちらこそ。変な事を聞いてしまったようで」

そう言って、俺は頭を下げた。

レンはというと……何故だろう。
布に覆われた“自信作”を、さっきからずっと、見詰めていた

技術長「そんなに気にしなくてもいいさ。それで、あんた達の奏甲はどこにあるんだい?
    あと、どこを整備して欲しいのかも教えてくれないかい」

・・・・・そうだった。話に興じてすっかり忘れていた。

タカユキ「奏甲は街の外に停めてあります。ここに来るまでの間に砂にやられたみたいで、
     ハッチが閉まらなくなったんですよ。」


技術長「ふむ、なるほどね・・・・。ここらの気候は独特だからね、初めての人にはよくある話さ。
    もしかしたら他のところも砂でいかれてるかもしれないから、ついでに色々見てやるよ。
    これから奏甲を取りに行くついでに、状態も確認したいから場所まで案内してくれないかい?」

タカユキ「ええ、いいですよ。ここからそれほど距離もありませんし」

・・・・・と。
そこでふと、レンが俺の服の裾を掴んでいるのに気づいた。

タカユキ「・・・? どうしたんだレン?」

俺がレンのほうを向くと、

レン「・・・・ねむい」

そう言うなり、レンは俺のほうにどさりと倒れ込んだ。

タカユキ「――っと」

倒れてくるレンを受け止めて、どうしたことかと様子を見たら・・・・・

タカユキ「あぁ・・・・、なるほど」

なんのことはない。レンは、眠っていた。
いつもならハッチの中に風と砂が入り込むなんてことは無いし、
今回は結構長い時間移動していたから、疲れが溜まっていたんだろう。

レン「・・・・・すぅ・・・・・すぅ」

タカユキ「おやすみ、レン」

俺はレンを背負い、技術長に向き直った。

タカユキ「すみません。こいつを寝せてやりたいので、奏甲はまた後でいいですか?」

技術長「あぁ。それなら、あんたの奏甲はこっちでトレーラーを持って回収しておくよ」

――――どうやら、この技術長はなかなかに人がいいらしい。

タカユキ「すみません。助かります」

技術長「なぁに、別にいいってことさ。それじゃ、ゆっくりとお休みよ」

俺は技術長に礼を言って、宿へに向かった。





机が一つと、ベッドが二つあるだけの簡素な部屋だった。
レンはふかふかのベッドに埋まり、幸せそうな寝息を立てている。
俺はというと昼寝をする気にもならなかったので、
もう五回は読んだつまらない推理小説に目を走らせていた。

そうして、俺がそれに飽きて違う小説に三度ほど取り替えた頃だろうか。

コンコン。

??「こんにちはー。さきほどの雑貨屋の者ですがー」

タカユキ「はーい」

ドアを開けると、整備場を紹介してくれた雑貨屋の女性が立っていた。

ショップの店主「どうも、こんにちは。姉が大体の修理が終わったそうなので、
        整備場の方まで来て欲しいということです」

タカユキ「あぁ、わざわざ伝えに来てくれたんですか。ありがとうございます。
     それじゃあ、これから向かい―――っと」

そこで、寝たままのレンをどうしようかと振り向いた・・・・とき。

レン「・・・・・・・おはよぅ」

レンがむくりとベッドから身体を起こし、さも眠そうに眼を擦りながら、俺たちの方を見た。
浅い眠りだったのか、どうやら話し声で起きてしまったようだ。

タカユキ「グラオグランツの修理が終わったらしいから、
     今から整備場のほうに行くけど……レンはどうする?」

レン「まだすこし眠いけど・・・・・わたしも一緒にいく」

レンはベッドから這い出て、乱れた髪もそのままに俺のところまで、ゆっくりと歩いてきた。
―――が、俺のところまできた途端、そのままもたれ掛かってきた。

タカユキ「まぁ・・・・俺が背負っていくからさ、レンは着くまで寝てるといい」

レン「うん・・・・ありがとう・・・・」

静かに寝息を立てだしたレンをそっと背負い、

タカユキ「ありがとうございます、助かりました。」

ショップの店主「いえ、丁度こっちの方に用事があったので」

タカユキ「そうだったんですか? それじゃ、俺達は行きますね」

俺は軽く頭を下げて、部屋を出た。

背中に、店主さんの声が掛かる

ショップの店主「道々お気をつけて。
        ―――あっ、あと修理費の清算もありますから、お財布。忘れないでくださいね」

店主さんに苦笑いしながら、俺は整備場に向かった。





ガキィィィンッ!


酷い、轟音が聞こえる。鋼と刃金がぶつかり合う、激しい剣戟が。

整備場に進入した俺の前では、絶句するようなとんでもない光景が繰り広げられていた。

タカユキ「―――おいおい、何で俺のグラオグランツが暴れてるんだ・・・・・」

どういう理由かはわからないが、俺のグラオグランツが勝手に動き回り、
近くの物を手当たり次第に破壊していた。

蒼いシートの奏甲を護衛していたシャルラッハロート達が
ソードを抜き出し、グラオグランツと対峙する。

タカユキ「グラオグランツを抑える気か!?」

その光景を見上げながら慌てふためいていると

技術長「おーい! あんた、大変だよ!」

どうやら物陰に隠れていたらしい技術長が、こちらに向かい走ってきた。

タカユキ「大変なのは見ればわかりますよ! 一体何があったんですか?」

こちらも自分の機体が破壊活動を行っているのだから、きちんと説明をして貰いたい。

技術長「それが、例のハッチ付近の砂取りをし終わった時に、いきなり屋根を突き破って
    見たこともない奇声蟲が一杯入ってきたんだよ!」

タカユキ「え……! 寄声蟲が!?」

技術長「あぁ。こっちが驚いて立ちすくんでる事をいいことに、
    奴等辺りにあった奏甲を壊したあと、残ったあんたの奏甲に取り憑いちまったのさ。
    あとは見ての通り。どういう仕掛けか知らないけど、あんたの奏甲は奇声蟲に操られちまってる」

この状況をみてなかったら、とてもじゃないが信じられない内容だった。
奇声蟲が絶対奏甲を操る? 聞いたこともない話だった。
けど現実にそれが目の前で起こっていたら、信じざるを得ない。

・・・・・・さしずめ寄生奏甲っていったところか。

タカユキ「それなら、あのシャルラッハロート達がなんとか蟲だけを倒してくれると助かるんですが・・・・・・」

レン「ダメ・・・・・」

タカユキ「―――レン、起きたのか」

さすがのレンでも、すぐ近くで戦闘音が響けば起きるのか……などと考えてる場合じゃない。。
レンは俺の背中から降りて、目の前の状況を確認していた。

タカユキ「駄目って・・・・・・・・何がだ?」

レン「よく見て・・・・。このままじゃ、あっちの人達はやられちゃうよ」

そうは言うが、レンが言っているほどシャルラッハロート達は苦戦してはいない。
むしろ優勢といっていいだろう。

タカユキ「――? レン、一体どういう……」


ドガァン!


そこで、先ほどまで優勢だったシャルラッハロートのうちの一体が、
グラオグランツの体当たりで吹っ飛ばされた。

どうやら、先ほどからグラオグランツと近接戦をしている数体の
シャルラッハロートの動きが鈍ってきているようだ。
数で押していた筈のシャルラッハロートが、段々と劣勢に追い込まれていく。

タカユキ「………どうしたんだ、アレ」

レン「グラオグランツに取り付いた奇声蟲のせいだよ・・・・・
   あの奇声蟲の声が、近くにいる奏甲の力を弱くしてるんだと思う」

・・・・・そうか。
確かにあんな近接距離で奇声蟲のノイズを浴びていたら、奏甲の出力はどんどん落ちるはずだ。
このまま戦闘が長引けばシャルラッハロート達は、行動不能になってしまう可能性が高い。

――――いや。恐らく、そこまで持ち堪えることもできないだろう。

現に、


ガキィーーーン!    ギィィィン!    ガシャーン、ガシャーン!!!


出力が弱まり、動きが鈍ったシャルラッハロートの2体に、グラオグランツのソードと
盾先の短剣の一撃が決まり、2体同時に撃破されてしまった。

残りのシャルラッハロートは6体。うち4体が前衛に出ており、既にノイズの影響で出力が下がっている状態だ。
他の2体は後衛で待機していたが・・

「う・・・・・うわぁぁぁぁぁーっ!」

前衛の機体が一機、また一機と撃破されて怖気づいたのか、
後衛の1機から英雄が歌姫を連れ逃げ出して行ってしまった。

これで残りは4機・・・・・、全機がやられるのは時間の問題だろう。

そうなれば恐らく、俺達のグラオグランツはこの街を破壊し尽くすだろう。
当然のことだが、そんなことをさせるわけにはいかない。

――――――なら、俺達のやる事は決まっている。

タカユキ「レン、あそこの空のシャルラッハロートでグラオグランツを止める。・・やれるな?」

レン「うん。もうねむくないし・・・・・・・それにタカユキと一緒だから」

だいじょうぶ。と、頼もしいことを言ってくれるレンの手を握る。

俺たちは、一気にシャルラッハロートの下まで駆けた。

技術長「あんた達!頑張りなよ!」

背中から技術長の声援を受け、俺達はシャルラッハロートに乗り込む。

タカユキ「機体状況確認・・・・・・・・・・・オールグリーン。
     ここまでは奇声蟲のノイズは届かなかったみたいだな。あのノイズ、効果範囲はあんまり無いのか。
     装備はソードとシールドだけで特殊兵装は無し、ノーマルのシャルラッハロートだときついが・・・」

無論、何の策も無しに戦いを挑むわけが無い。
まずは、あの煩わしいノイズをなんとかしよう。

タカユキ「レン! 歌術いけるか?」

戦況は・・・・・後衛のシャルラッハロートが加わったが、すでに2機は大破している

レン「今日の調子だと、三回までだと思う・・・・・」

タカユキ「十分。レン、あれを頼む」

レン「わかった」

それは、俺だけでは決して成し得ないレンだけの力。
歌姫が織り成す、歌術による神秘の力。

レン『聖なる白夢』

グラオグランツが今、最後の一機を撃破した。

レン『暖かき護り、冷たき障によりて』

破壊すべき対象を見失ったグラオグランツが、こちらに狙いを定め、ゆっくりと歩み寄ってくる。
ノイズで動きを止めてから、ゆっくりと倒すつもりだろう。

………けれど、それは無駄な策だ。

レン『邪なる幻声を霧に変えさん』

有効な距離になったのか、グラオグランツに取り付いた奇声蟲がノイズを発生させてくる!


レン『――――――“断絶なる霧影”』


寄声蟲【ギョォォォォォォォォォオ――――――!!!】

迸るノイズ。

これが奏甲に届けば、このシャルラッハロートも例外なく動きを鈍らせるだろう。

タカユキ「―――無駄だ」

だが、それは奏甲へ影響を及ぼす前に、レンの歌術により無効化される。

今、俺達の奏甲の周りには、幻糸による防御層が霧のように生じ、その霧が奏甲の炉に
ノイズが影響を及ぼすのを防いでいた。     

タカユキ「さて? そろそろ、俺のグラオグランツから離れて貰おうか」

そう言い放ち、俺はソードを構えグラオグランツに疾走する。

グラオグランツも正眼にソードを構え、俺の剣撃に応戦した


ガッ・・・キィィィィン    キィィィンッ!     キィィィィィンッ!


俺達の乗る機体とグラオグランツが、何度か剣戟を交わす。

タカユキ「・・・くっ!」

流し切れなかった衝撃が、こちらの機体を大きく揺らす。

……力任せな攻撃だが、こちらの汎用機には効果大だ。
純粋なソードの打ち合いでは、出力の差でどうしてもこちらが打ち負けてしまう。

だが、あちらは四肢と背部に奇声蟲が取り付いてグラオグランツを操ってるので、
反応速度はこちらが上回っている。

――――――だったら、勝機はこちらにある。

狙うは、四肢に取り付いた奇声蟲。


ズズン!


グラオグランツが、大きく一歩を踏み込んでソードを振り下ろす。

俺はそれをシールドで弾き・・・・・

タカユキ「甘いんだよ!」

振り上げたソードで、左腕ごと奇声蟲を切り裂いた。


キシャァァァァァーーー!


奇声蟲が断末魔を上げ息絶える。

―――あと4匹。

仲間が殺され怒ったのか、残りの右腕でソードを出鱈目に振ってくる。
それを、シールドだけで軌道を変え全て受け流し、半歩下がる。

タカユキ「隙だらけだ」

屈んだ状態でソードを大きく横に薙ぎ、両足の間接部に付いていた奇声蟲だけを弾き飛ばした。


シャァァァァー……!    キシャァァー――!?


残り、2匹!

タカユキ「………って、おい?」

不利を悟ったのか、グラオグランツが背を見せ逃げていく。

レン「タカユキ……逃げちゃう」

タカユキ「逃げるのは勝手だけどな・・・・その奏甲は俺のなんだよ!」

シャルラッハロートを疾走させる。
中破したグラオグランツに追いつくのは容易く、俺は背部の奇声蟲に向けソードを振り抜いた。

……しかし


ズガンッ!


振り下ろしたソードは、振り向いたグラオグランツの右腕を切り裂くだけに留まった。
残るは、背部の奇声蟲のみ。

タカユキ「もう後がないぞ、きっちりと落とし前つけて貰おうか・・・・・って、奇声蟲に言っても分かる訳ないか」

両腕を失ったグラオグランツが、じりと後退する。

背中に取り付いた寄声蟲が呻く。


ギィィ……!


タカユキ「さぁ、大人しく――――――っと!?」

ガシャァァァンッ!

こちらを向いていたグラオグランツが、いきなり前方に倒れ伏した。

好機と思い背中を見ると………………なんと、寄声蟲がいない。

レン「…あそこ!」

グラオグランツから数十M離れた場所に、走る奇声蟲がいた。

タカユキ「遅い!」

ソードを振り下ろす。


ドガン!


タカユキ「……ちっ」

奇声蟲の突然の方向転換に、ソードは地面を抉るだけに終わった。

出口を目指して走っていた筈なのに、何故……?

レン「タカユキ、早く!」

タカユキ「ぇ…?」

技術長「まずい! あの奇声蟲、CFに取り憑こうとしてる! あんた、止めておくれ!」

タカユキ「なッ……!?」

慌てて奇声蟲を追うが、すでに遅かった。

技術長が叫んだのとほぼ同時に、奇声蟲はシートの中に潜り込んでしまったいた。

タカユキ「ちぃ!」

操られる前に止めようと疾走する………………が。

既に、“それ”は起き上がってしまった。




――――――それは、蒼い、とても蒼い機体。




レン「タカユキ、ダメ! 逃げて!」

タカユキ「えっ?」

レンが悲痛な叫びを上げ、俺がその理由に気づくまでの数瞬。


ッ――――――――ダン!


タカユキ「なっ……!?」

蒼い機体が、一瞬でシャルラッハロートの前まで距離を詰める。


バキィィィィンッ!


的確にハッチを狙って突き上げてきた拳に、ほとんど反射で腕を合わせた。

タカユキ「くぁぁっ!?」

レン「―――――――ッ……!?」

咄嗟のことで、シールドで防ぐことが出来なかった。
汎用機など比べ物にならない一撃に、シャルラッハロートの左腕が大破する。

タカユキ「くっ……!」

俺は、奴から距離をとる為に後ろに跳んで体勢を直した。

………が、奴はもう俺達の事には興味が無いのか、そのまま整備場の屋根まで飛び上がり、
猛烈な勢いで疾走し、街の外壁を越えて何処か遠くへ疾り去ってしまった。

タカユキ「な、なんなんだよ…アイツ。………………っと、レン。大丈夫か?」

レン「う…ん、なんとか」

奇声蟲の操作じゃ、本来の性能は出せない筈だ。
グラオグランツの動きから察するに、出て五割。

………………それで、あの能力か。

技術長「あんたたち! 無事かい!?」

技術長が、慌てて奏甲の下まで駆けつけてきた。

だが、俺達は奏甲から出ることもせずに、ただたださっき起こった出来事、あの蒼い奏甲……
そして、奏甲を操る新型の奇声蟲について考えていた。







後書き

自分の初作品どうでしたでしょうか?
はっきり言って自分は満足いってないところがありますが、その辺りは今後修正していきたいと思います。
キャラクター設定や色々な資料などは今後、順々にアップしていきたいです。
まだまだ初心者なので1つのSSを書き上げるのに、かなりの時間が掛かりますがきちんと最後まで書いていこうと思います。
最後に、このSSを書き上げるのに協力していただいた、壊義さん。
とても助かりました、色々と手直しや案出しなど手助けしてもらったからここまで書き上げることが出来たと思います。
この場を借りて、お礼を申し上げます。あと今後も少しでもいいので協力してくださいねー。
PTメンバーのザナウ、悠然、ゼル達にも色々と質問に答えてもらったりしてほんとに助かってましたー。
今後もROL内共々よろしく!

では、2話で会いましょう〜


修正後書き

修正前の第一話を見た人は、「ぇ? 何だか後半全然違わない?」・・・・そう思うに違いないはずです。
実は修正前の物の後半はゲームをやるためだけに即効で書き上げたものです!(爆
あぁぁぁぁー、見捨てないでくださーーーーい。

とにかく、かなり修正しました。戦闘なんかは比べ物になりませんね、まったく。
『始まりの噺、バース』はこれが完全版です。・・・・・(多分

感想など、どんどんお待ちしてまーす。

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