英雄:レグニス・ハンプホーン 17歳 研究所で肉体改造をうけた軍事用生体兵器 人嫌い 歌姫:ブラーマ 15歳 知的で一言多いが本質的にはやさしい 出会い編 レグニス(以下レグ)「・・・ここはどこだ」 自分は確か、研究所の自室にいたはずだ。今日は実戦投入のための最終調整があるからとか言って、自室待機を命じられたからだ。 だがふと景色が揺らいだと思った次の瞬間、この山の中に立っていたのだ。 レグ「これが最終調整・・・か?」 だとしたら、いったいなにをすればいいのか。どうやらそれすら考えろということらしい。 レグ「意地の悪い上官のようだな」 皮肉を込めてつぶやき、レグニスは歩き始めた。ただ立っていても始まらない、とりあえずは山を降りるように歩をすすめてみる。 と、しばらく歩いたところで高台のようなところにでた。麓の町がよく見える。石造りの小さな町だ。 レグ「妙だな、研究所近くに町だと? しかもこんな造りの・・・」 不審の目で町を見下ろすレグニス。だがその時、突如町から轟音が響き、粉塵が舞い上がった。爆薬ではない。別の何かだ。 レグ「・・・」 レグニスは無言のまま目を細めると、町に向かって走り始めた。 町は突如現れた小型の蟲によって大混乱に陥っていた。逃げ惑う人々の中、彼女は一人奥歯をかみ締める。 ブラーマ(以下ブラ)「くっ、こんな辺境にまで蟲が出るとは・・・」 アーカイア全土の異変が、いよいよ本格化しているようだ。ブラーマは蟲をきっとにらみつけると、手に持っていた本を開く。 その様子に気付いた近くの少女が、彼女に声をかけた。 友「なにやってるのブラーマ。早く逃げないと!」 ブラ「先に行ってくれ。私がこいつを足止めする」 友「そんな、いったいどうやって? この町には奏甲も工房も、英雄だっていないのよ!」 ブラ「歌術を使う」 ブラーマの言葉に友人は唖然とした。 友「な、なにをいってるの。あなた英雄なんていないでしょ」 ブラ「以前から学んでいた。倒すほど力は出ないだろうが、動きぐらい封じられるだろう。その間にお前は近くの町に連絡を」 友「も、もう。ちゃんと生きててよ」 走り去っていく友人を見届けると、ブラーマは蟲へと向き直り、集中し始めた。大丈夫、うまくいく。 だが彼女のしていることに気付いたのか、蟲は突然向きを変えると彼女へと突進してきた。 ブラ(発動が・・・間に合わん!) 思わず彼女が目を閉じかけた、そのときだった。 横から飛び出してきた人影が、猛然と蟲に突撃、あろうことか弾き飛ばした。 ブラ「なっ・・・、男?」 人影はこの世界にいないはずの性別、つまり男だった。 おそらくは召還された英雄だろうが、ブラーマにはとてもそうは思えなかった。その男は、蟲など比べ物にならないほどの殺気を纏っていたのだ。 レグ「こいつが試験相手か? まあいい、壊す」 男・・・レグニスがつぶやく。蟲は瓦礫を押しのけて立ち上がると、新たな敵へと襲い掛かった。 鋭い爪がレグニスもろとも地を貫く。 レグ「スピード、パワー、すべてにおいて不合格だ。出直して来い」 蟲が貫いたのは、彼の残像だった。レグニスは蟲の真上に乗ると、その拳を振り下ろした。 粉砕。強固な外殻を一撃で叩き割り、噴出した体液が彼の体を染め上げる。蟲はぴくぴくと痙攣し、やがて動かなくなった。 レグニスが蟲の死体から飛び降りた。 ブラ「ひっ・・・」 ブラーマの喉から悲鳴が漏れる。そこで初めて彼女に気付いたのか、レグニスがブラーマへと目を向けた。その瞬間、 めまいにも似た奇妙な感覚が二人を襲う。どこか懐かしい、不思議な感覚。見つめあった目が離せない。 やがてどちらからともなく口をひらいた。 レグ「お前は・・・」 ブラ「貴様は・・・」 二人『誰だ』 二人の声は、無人の町に同時に響いた すいませんちょっと長くなりました。機会があればまた書きたいです。