激闘編 〜全力〜 新種と思われる蟲が吼える。それに伴い、周辺の衛兵種たちが動きを活発にする。 レグ「奴が頭か・・・。叩くぞ」 ブラ『無茶をいうな、自分の状態をわかっているのか!』 レグニスのシャルVは、ブラーマの歌によって出力こそ持ち直したものの、いまだ全身がぼろぼろの状態だ。 武器もすでに限界に近い。衛兵すら仕留められるかどうかといったところだ。 レグ「わかっている。だが、他の奴らはあれの相手ができる状態じゃない」 周辺で戦っていた奏甲たちも、限界のようだ。新種に気がついているものの、目の前に迫る衛兵の相手だけで手一杯の様子である。 レグ「それにまだ、俺には<余力>がある」 ブラ『レグ、お前まさか・・・』 レグ「リミッターをカットする。戦闘補佐歌術を頼むぞ」 ブラ『<全力>を出すつもりか!?』 生体兵器として肉体改造をうけたレグニスの力は常人をはるかにこえている。そして絶対奏甲は<常人>が乗ることを前提として作られているものだ。 もしレグニスが力を全開にして奏甲を操作しようものなら、奏甲はあっさりと崩壊してしまうだろう。 だがリミッターを解除し、戦闘補佐歌術で奏甲を強化したときのみ、ごく短時間ではあるがレグニスは奏甲を全力で操作することができるのだ。 レグ「この場で余力があるのは俺だけだ。やるしかあるまい」 ブラ『・・・お前のことだ、何を言っても無駄だろうな。わかった』 ブラーマはため息をつくとわずかに苦笑した。 ブラ『ただし二十秒だ。今の私では、それ以上はもたん』 レグ「それだけで十分だ。・・・いくぞ」 つぶやくと、レグニスはリミッターを切った。機体の出力が跳ね上がり、それと同時に歌術の力が奏甲を包み込む。 レグ「目標確認。・・・殲滅!」 シャルVが蟲たちの間を一瞬にして駆け抜けた。傷ついた奏甲とは思えぬその動きに衛兵たちは全く反応できない。 蟲の群れをかいくぐり、一気に新種へと肉薄する。新種は咆哮をあげると鋭い爪で襲い掛かった。残像すら残す勢いで回避するとレグニスは小剣を側面に叩き付けた。 蟲の外殻に無数の火花が散る。斬撃は一度ではない、一瞬の間に連続で叩きこまれていた。 不快な音が響く。レグニスの小剣が衝撃に耐えられず真っ二つに折れてしまったのだ。 レグニスは右腕に装甲代わりにくくりつけてあった小剣を引き剥がすと、新種の外殻へと突き立てた。 度重なる斬撃にダメージを受けていた外殻に、その切っ先が深々と突き刺さる。さらにレグニスはその剣の柄目がけて拳を叩きつけた。 新種が吼え、血が噴出す。そのまま新種はよろめくと、地面の上に崩れ落ちた。 レグ「・・・目標の撃破を確認。・・・作戦終了。帰還する」 ブラ「よくやったな」 奏甲から降りてきたレグニスに、ブラーマが微笑みかけた。レグニスはふらつきながらも、 レグ「状況を教えてくれ」 ブラ「うむ。予想通り蟲の統制は乱れ、包囲網が崩れた。救援部隊も間も無く到着するそうだ」 レグ「やはりあいつが司令塔だったか・・・」 つぶやき、激戦をくぐりぬけた愛機を見上げる。 全力を出した反動もあって、装甲も、間接部も、幻糸炉も、すべてがいかれていた。もはや奏甲の形をしたスクラップだ。 レグニスは視線を彼女へと戻すと、 レグ「・・・ブラーマ」 ブラ「? なんだ?」 レグ「今一つだけ、言いたいことがある」 ブラ「奇遇だな、私も言いたいことがある。おそらくお前と同じことだ」 レグ「・・・同時に言うか?」 ブラ「いいだろう、では・・・」 二人『疲れた』 同時にその言葉を発すると、二人はばったりとその場に倒れた 二人が目覚めたのはその三日後、すべてが無事に終わったあとだった。 終わりです。 趣味で書きました、ぎりぎりの消耗戦って結構燃えるシーンですが、わしの腕ではこんなものです。