激走!愛憎馬車編 〜その3〜 迫る盗賊のケーファ。その手に握られていたのは、小型のマシンガンだった。 桜花「積荷ごとこちらを吹き飛ばす気・・・」 レグ「見境のない奴め」 レグニスは舌打ちとともに周囲を見回した。もう爆薬の予備が無い。なんとかしてあのマシンガンをどうにかしないと・・・ と、その目がシュレットへと留まる。 レグ「・・・貸せっ!」 シュレット「あああっ、僕のハンマー!」 手綱を握ったまま身動きのできないシュレットの腰から、強引にハンマーを奪い取る。 レグ「あとで拾ってきてやる」 簡単に言うと、レグニスはハンマーを投擲した。 常識を越えた肩から放たれたハンマーは、猛烈な勢いとともにマシンガンの銃口へと激突。ぐにゃりと銃口がへし曲がる。 その瞬間、盗賊は引き金を引いた。 爆発 桜花「暴発した!?」 シュレット「ぼ・・・僕のハンマー・・・」 マシンガンを持っていたケーファの右腕は、完全に吹き飛んでいた。 盗賊「くっ、貴様らぁ!」 盗賊が吼え、残る左腕で剣を抜き放つと、馬車に向かって一気に突進してくる。 レグ「まずい、加速しろ!」 シュレット「ハンマー・・・僕の・・・特製の幻糸製ハンマー・・・」 レグ「・・・・・・」 そうこうしている間にも、ケーファが追いついてきた。ブロードソードがうなりをあげて襲い掛かる。 レグ「! ちっ」 衝撃。馬車の幌が半分ほど削りとられ、破片が舞い散った。 ブラ「・・・なぜだ」 ブラーマが呆然とつぶやく。目の前の、飛び散る破片から自分をかばった人物に向けて。 レグ「外傷は無いな」 ブラ「なぜ私をかばった! なぜそんなことをする!」 叫ぶブラーマ。かばわれたことはうれしいはずなのに、ドロドロとした思いばかり湧き上がる。感情の制御ができない。 だがレグニスは心底なんでもなさそうに、 レグ「お前をかばうのに、理由がいるのか?」 ブラ「えっ・・・」 その一言に、すべてが水で洗われたようにブラーマは我に返った。 (私は・・・何を考えていたのだ。こいつは私を護ってくれた。私もこいつの『絶対の味方』になるのではなかったのか? 歌術だって、私を信頼して頼んだものであろうに・・・) しだいに頭が冷え、今までの行動が思い出される。 (こいつにそんな甲斐性ない。いや、そんな思考すらないというのに、わわわ私は一人でなにをそんなに・・・) 見る間に顔が赤くなる。 レグ「・・・? どうしたブラーマ?」 ブラ「いやいやいやなんでもない。なんでもないんだ」 慌てて首を振るブラーマ、後ろでベルティがため息をついた後、再びニヤニヤと笑い出す。わからない、といった顔でレグニスは首をかしげた。 と、その目が急に厳しくなる。レグニスは荷物の一つに走り寄ると荒々しく掛けられていた布を引き剥がした。 それは奏甲用の小型クロスボウだった。 レグ「これだ」 ベルティ「これだ・・・って、そんなものどうすんの? 大人数人がかりじゃないと持ち上がんないよ」 疑問に答えることなく、レグニスはクロスボウに矢をつがえると、 レグ「おおおおおっ!」 ベルティ「・・・嘘・・・」 持ち上げた。そのままよろよろと、馬車の後方・・・盗賊のケーファへと先端を向ける。 レグ「ブラーマ!」 ブラ「な、なんだ?」 レグ「照準を頼む。ここからではうまく見えん。桜花は引き金を!」 ブラ「承知した」 桜花「わかりました、任せてください!」 ブラーマがクロスボウに飛びつき、桜花が刀を抜く。 ブラ「レグ、もう少し上。あと右、そうそのへんだ。桜花殿まだ撃つな、まだ・・・・・・今だ!」 ブラーマが叫び、桜花が刀の峰で引き金を叩く。 ヒュン、と音をたてて矢が飛び出し、盗賊のケーファの頭部に見事に突き刺さった。 ベルティ&シュレット『やったぁ!』 盗賊「ば、馬鹿なぁーっ!」 盗賊の声は、転倒したケーファとともに次第に遠ざかっていった。 薬はなんとか間に合った。なんでもこの薬は虹諸島でしか作れない特別な物だったらしい。 ちなみにレグニスは、ハンマーを探すのに夜遅くまでかかったそうだ。そして翌朝・・・ 桜花「では私達はこれで」 ブラ「うむ。その・・・いろいろと迷惑をかけてすまない」 桜花「気にしないでください」 そう言って桜花は笑うと、手を差し出した。ブラーマはその手を握り返す。 桜花「がんばってくださいね。レグニスさんって、相当鈍いみたいですから」 ブラ「わかっている。全力を尽くす所存・・・って、桜花殿!」 桜花「ふふ、応援してますよ」 その日の午後、腕を組んで歩く一組のペアがいた。 レグ「ブラーマ・・・」 ブラ「なんだ」 レグ「他人から見えない死角で腕をつねるな。痛い」 ブラ「ああそのことか。気にするな」 レグ「しかし痛いのだが・・・」 ブラ「気・に・す・る・な♪」 レグ「・・・・・・」 腕を組んで歩く一組のペア。傍から見れば、仲の良いことこの上なかった。 終わり 軽い話もいいモンです。シリアス書いてる人もたまには挑戦してみては?