前回の話と登場人物紹介  
         ヴァーゼル・フィーレス  歳は御歳十七。マイペースな性格の割に意外に気転が利く、ごく普通の高校生。  
                       戦場のまっただ中に英雄?として召喚された(笑)。
         

         ティアス・ティアリア   同じく御歳十七。剣術においては男顔負けの凄腕、、若くして達人級の。
                       今のところ謎が多き少女、、。



キィーン、、キィン、、、、

男は冷たい地面の上に平伏すように大の字で倒れていた。

――またどこかで、男達が叫ぶ声と剣線が交わる音が床を通して響いてくる、、

手首と首筋の激痛のおかげで意識は失っていなかったが、身体の方は麻痺して指先をピクリとも動かすことが出来ない。

――そして、数秒して男達の声が聞こえなくなると同時に、誰かの倒れるドサッという音が聞こえてきた

俺はその事実を知り、自分が地面に平伏した今も事実が受け止められず呆然としたままだ。
きっとさっきの男達は、あの少女の悪魔のような剣線の前に倒れたんであろう、、、。

――カッカッと軽い足音が、自分の耳から遠く離れ掠れて聞こえなくなっていく、、

そう、、自分たちと同様に。


いつも通りの朝が来ると思っていた。
いつもどうり、キャラバンの通過ルートを話し合って、強襲を仕掛けて強奪して、アジトでドンチャン騒ぎをして夜が更けてゆく、、そのはずだった。
しかし、その日は大きく違った。
夜明けと共にアジトに奏甲部隊が攻めてきて、すぐに外で奏甲同士の戦闘が始まったのだ。
味方の奏甲部隊を援護したり、アジトの警備をしたり、する事は色々あった。

これでも、自分は大盗賊団の一員で人員の指揮も任されたことがある、、。
腕は立つ方だと自分では思うし、そう同胞にそれとなく言われたこともあった。
だから、お頭に同胞と共に呼び止められて、
真っ先に「外の奏甲部隊は陽動で今、数人でアジトが襲撃されている」という事実を知ったときも、決して臆することはなかった。
むしろ、功績を挙げるチャンスだとも思った。

しかし、、現実はそう甘くなかった。
確かに俺は腕が立つかもしれない、だが上にはもっと上がいる、、そのことを失念していた。
実際に敵として現れた少女はそうだった。
自分の遙か上をゆく、、。そう、いうなれば化け物のような存在だった。


同胞と共に襲撃されている倉庫に駆け込む。
手には剣を携えていた。
ドサッ
物音がした、、
振り返ると共に俺は剣を構え、隣の同胞はマシンガンの銃口をすかさずそちらへ向ける。
まず、目に入ったのがこちらに駆けてくる少女の姿だった。次にその少女の右手にある剣、、長さから言うと長剣に値する長さだ。
悠長に構えていられるわけもなく、吃驚するのを抑え地面をけって横に飛ぶ、、。

それと同時に隣の男の持ってるマシンガンの銃口が火を噴く、、、はずだった。
しかし実際には、マシンガンが同胞の手から離れて地面にガンッと音を立てて落ちていった。
「うわぁぁぁっ」痛々しく同胞が叫ぶ。
見れば、迫り来る少女の左手に小さいナイフのような物を指と指の間に挟んで持っていた。
・・・!?、、、。あの距離から投合してあてたのか!?・・
同胞の様子は気になるが、
・・・相手に集中しないとやられるっ・・
後ろには振り向けなかった。
そして、同胞を無力化した少女は、そのまま自分めがけて迫り剣を振るってきた。
とっさに剣を横に倒して、剣線を受け止めようとする。

ガキィィィンッ、、

重音が響く。
・・・受け止められたか!?、、なんつう、剣筋の重さだ、・・・

そして次の動作に入ろうとする俺の耳に届いたのは―――

「うーん。ちょっとは骨のある人が出てきたね、、」

――少女の美しい声色だった。

その瞬間、素人ではとうてい見切れない高速の剣戟が走った――。



         『長き夢の始まり   中編(ヴァーゼル編)』


  ハア、ハア、ハァ、、


・・・体が熱い、、それも灼けるように・・・

   ハア、、ハア、、ゴホッ、、ゴ、ゴッホ、ゴッホ、、

・・・そして、死ぬほど息苦しぃ・・・

ココがドコで、あのアカイ巨人はナンなのか?
さっきの爆発は?
オレは爆風で吹っ飛んで、地面に倒れているのか?
そもそも、オレは本当に生きているのか?
ただ、頭でそう考えているだけで、実際にはもう死んでいるのかも知れない。
もしかしたら、俺がいつの間にか部屋で眠ってしまって。これはただ一時の夢なのかも、、、。
ちょっと経ったら、夢だったことに気づいて「ああ怖い夢を見た」ってことで終わるのかも知れない。
そう考えれば、筋が通る。
これは自分の思い描いた夢の話なんだと、、納得できる。
だから、死ぬことはないのだと。

――頭上や身体の上を掠めながら、収まってきた爆風とともに黒煙が流れてゆく

だが、この死が自分の背中に迫ってくるような感覚、、。
起きなければ二度と戻って来れなくて、永遠に、暗闇を彷徨う、、、。
死んでしまう、、、。
そんな気がしてならなかった。

――そして、黒煙が晴れ、曇り空が見えてくる

・・・まあ、これが夢だとしても、現実だとしても・・・
傷だらけの荒野を倒れているヴァーゼル。
「このまま諦めて、死んでゆくつもりは更々ない、、」
痛々しくもゆっくり立ち上がり、ヴァーゼルはそう、決意して呟いた。
「多分、、、、」
自信はなさそうだが。


ドゴォォォオン、、
未だに赤と黒の巨人の激戦が続く起伏した荒野を、、遠くに見える2,3に繋がってならんだ建物に向かって。
・・・まずは、あそこが怪しい。・・・
まずは一歩。
そして、走り始めた。後ろには振り向かずに、、。

ヴァーゼルはそこを目指して走る。

自分でそう決めた。
すべてを諦める前にやるだけのことをやり、そう簡単には死んでやるものかと。
必死に藻掻いてやると。
そう決めた。
向かう途中で、俺は羽織るための布と護身のために長剣と短剣を拾った。
しかし、ちゃんと磨かれていて新品のような物ではない。
布は肌の露出をさけるためだけに羽織っており、ボロ布としか言いようがない。
そして剣の方はと言うと、荒野の地面に深々と刺さっていた物を拝借したので、錆び付いていて刃こぼれしまくりだ。
多分、短剣は別としても、この刀身の錆び付いた長剣は鉄パイプ程度の威力にしかならないだろう。
それでも、手に取ったのは役に立たないかもしれないが、丸腰よりは安心でき心の支えになってくれると思ったからだ。

ヴァーゼルは短剣を腰にくくりつけ、錆びた長剣を両手で構えてみる。
肩で大きく息をして心を落ち着かせて、バランスをとるために背中に重心をまわす。
剣を構えて、一振り。
・・・すごい、、錆びていても俺の手には余るなほど、、、・・・
切り返して、もう一振りする、、が。遠心力で増した剣の重さに耐えられなくなって、手から離れて地面に刺さる。
ヴァーゼルは剣を構えようとはせず、そのまま引きずるように逆手で持つ。
・・・やっぱ、そう簡単にうまくなるわけ無いかぁ、、・・・

そんなこんなで
長い距離を走り続けて、やっと建物の200,300メートルの所まで来きていた。
・・・やっぱ荒野だけだと精神的にもきつい、、。あと少し、、、・・・
見る見る建物にが近づいて、、、建物の扉の前で止まる。
「ふう、、やっと到着」
その扉は2メートル四方の鉄の扉、どうやら建物でいう裏口のようなものだ。

ヴァーゼルは休む暇無く、取っ手に手をかけて扉を開ける。
建物の中は倉庫のように物がいっぱい積んであって、少し埃っぽかった。
・・・少し薄暗い。いったい何の建物なんだ?・・・
建物の中がは少し騒がしいようだった。
ゼルは何があったのかと慎重に中の様子をうかがい、物陰に隠れながらその建物の中心へと足を運ぶ。
・・・もしかしたら、戦わなきゃいけないかも知れない・・・
建物の奥から物音もしてくる。
人の声と金属と金属がぶつかり合うような音。
・・・これは、、剣と剣が交じえる音!?・・・
息を潜めながらも進む、緊張を押し殺すように柄を強く握る。
剣を持つ手に汗がにじんでくる。
・・・確かに外が戦場なら、この建物が戦場になっていてもおかしくはない、、が・・・
どうやら人影からして、二十代以上で男達だったと思う。
どうやら剣や銃を所持しているらしい。
それがヴァーゼルと物陰を挟んだ向こうの通路を慌てたように駆けていく。
覚悟を決め、物陰から相手の様子を窺おうとして顔を上げた、、その時。

ドゴォォン・・
奥の建物の方で、もの凄い物音がした。
 ・・・!?、、な、何の音だ!・・・・
ゼルは物音のした方向に頭を動かすように宙を仰ぐ。
それと同時に偉そうな男の声が天井に響いてくる。
「おい、何やってるんだ!早く移動しろ」
どうやら、通路の向こうの方からヴァーゼルの近くにいる男達に向かって叫んでるようだ。
男達はそれに対して
「「お頭、、!一体何が!?、、」」
「この建物は襲撃をうけている。外の奏甲部隊は囮、つまり陽動だったらしいな」
お頭と呼ばれた男は淡々とした言葉で答える。
「!?じゃあ、、アジトを放棄して逃げ出すんですか、、!?」」
「いや、そんなことはしない。、、襲撃っていってもたった二、三人らしい」
「「と、いうことは、、?」」
「鈍いな。つまり、、どうやら俺たちの人員数を甘く見ていたようだな、、、奴らは」
男はニヤりと笑ってそう言った。
それをきくやいなや、男達はハッとしてお頭に礼をしてから、物音がした方向へ身体の向きを変え走ってゆく。

それを見て、お頭と呼ばれた男は走り去ってゆく男たちに「ぶっ潰してやれ」と言葉を付け足して、その姿を見送る。
「しかし、、さっきの音、、」
そして、今もなお外から戦闘の音が響いてくるを確認して呟く」
「どうやら、、、彼奴が自分ひとりだけ待機してるのに耐えられなくなって、自慢の奏甲でアジトを飛び出していったようだな、、」
「困ったヤツだ、、。」
そう呟いた言葉とは裏腹に、男の表情は笑みを隠せないぐらい口を引きつらせていた。


「、、、彼奴は最後の切り札(ジョーカー)だというのに」
そういって男は通路の向こうに消えていった。


ヴァーゼルは男達が去ったとを確認し、物陰から立ち上がり、、そして、緊張の糸が切れたようにドッと床に尻餅をつく。
「一体、、何がどうなってるんだ?、、」
天井を仰ぐようにみながら、ゼルは呟く。
しかし、その答えを言ってくれる人は誰もいない。
(いや、ほんとにいたら困るが)
・・・いったい何が起こっている・・?、それにさっきの衝撃音。分かったことは二つ以上の派閥が争い合っているって事ぐらいか・・

男達が去って妙にシンとした倉庫の通路にヴァーゼルのため息が響いた。



後書きー
えっと次は、ゲストとして悠然と柊さんがケーファに乗ってでてくれます!
今回はけっこう長くかけました、、、面白いかは分かりませんがね。
それと盗賊側の切り札もだしちゃいます♪

予告は題名だけ『長き夢の始まり、、、後編(それぞれ、、)』かな?結構な勢いで未定ですっ



お・ま・け

荒野に三つの絶対奏甲が右膝をたてて同じように並んで座っている。
そこは盗賊団のアジト(建物)から、3kmほど離れた所だった。
その絶対奏甲、、黒と白と紫のケーファのしたには二人の男と四人の少女や女性がたき火を囲う様に座っていた。

「私たちの出番ってまだなんでしょうか?」
静かに隣の自分の英雄の悠然とたき火の炎を交互に見つめながらその少女、、由宇羅は問いかけるようにいった。
その問いかけに「うーん」とうなりながら、悠然は隣に座ってるもうひとりの男、、柊 和十に視線を向ける。
すると
「多分まだ、、だろうな、、」
「、、、まだであろうな」
その視線に答えるように和十と、その歌姫のユリアナが若干ハモるように答える。

「・・・・・・・・・」

あたりに沈黙が走る。

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