登場人物紹介

悠然 基本的にはただのお人好しで、何故かおばさんうけがいい18歳。
   かなりのロボット好きで奏甲には五月蝿く、
   何よりも頑丈さと信頼性を求める為に突撃式にしか乗らない。
   意外と女好きで、1.0以上の視力でかわいい娘は見逃さない。
   でも声かけたりするなどの行動には移さず、ただ見てるだけ。

由宇羅 ハルフェア出身で悠然の相棒。常に笑顔を絶やさない14歳。
    怒る時も笑顔で、いつも以上に笑顔が輝いてる時は死の宣告と同義である。
    親がファゴッツ出身の商人の為、経済観念が非常に発達している。
    サラッと恐ろしい事を言えるトンでも娘だが、実際に恐い物に直面すると弱い。
    悠然に対する主な不満は、すぐにかわいい女の子に目移りする事。

ローザリッタァ 自由民が生産している奏甲で、本来工房所属の
        悠然達では手に入らない機体だが…?



悠然なる旅路 ストーリー1『深紅の重騎士』


町の外をかこむ砂漠に、見張り台の少女は片腕がない人影を見た。
人影は鎧でも着込んでいるのか、その隻腕の体は酷くゴツゴツして見える。

人影が近づいてくるにつれて「ズゥーン…ズゥーン」という音が聞こえてきて、
少女はそれが奇声蟲絶対迎撃兵器『絶対奏甲』であると分かった。
砂漠には何も遮る物が無く、対比を取れる物がないとは言え
全高10ザイル(約10メートル)にもおよぶ鋼の巨人と人間とを間違えた事に、
少女は笑いを禁じえなかった。

*

悠然「はぁ…もうコイツは駄目かな?。
   相手はたかが2、3匹程度の衛兵の群れって言うから依頼受けたのに…。」
そんな事を言いながら、悠然は一歩ごとにギシギシ鳴る愛機の現状を評した。

由宇羅「原因の1つは、悠然さんがろくに確認も取らずに『それはお困りでしょう』
    なんて言って、ほいほいと依頼受けてしまわれた事ではないかと。」
そう言う由宇羅の顔は…笑顔だった。そりゃもうこの上ない位に最高の。
悠然「え?でも…町の人も困ってたみたいだったし…」
由宇羅「(ニコニコ)」
悠然「その…だから…」
由宇羅「(ニコニコ)」
悠然「…ごめんなさい、以後気を付けます。」

そう言う悠然を見て、由宇羅は「仕方ないですね」といった表情を見せると
由宇羅「分かって下さればいいんです。それにしてもあの役人さん、
    私達を殺すおつもりだったんでしょうか?
    貴族種までいるなんて一言も仰られませんでしたし。
    報酬割り増しして貰わなければ、はっきり言って割りに合いません。」
などと、この少女にしては珍しく愚痴をこぼした。

悠然は「流石は商人の娘」などと思いつつ、
もはや下取りにすら出せないほどボロボロになった奏甲を町へ向けて歩かせる。
今2人が乗っているのはプルファ・ケーファという、頑丈さがうりの奏甲だ。
正直この機体の頑丈さが無ければ、2人とも奇声蟲に殺される所だったのだ。
そして片腕を犠牲にしつつ、辛くも蟲の群れを退治してきた帰りである。
悠然は自分の奏甲選択は間違っていなかった事を確信しつつも、
次の奏甲の購入費用に頭を悩ましていた。

*

ファゴッツ砂漠にあるほどほどの大きさの町の役場、それが今回の依頼主だった。
とは言ってもトロンメルの国境近くだが交易ルートからは少々外れた、
人口も町の規模もいまいちぱっとしない町で
役人も例に漏れずぱっとしない人であった。
悠然と由宇羅は、町役場の掲示板に張ってあった
「町の近くに小規模だが蟲の群れがいるので退治して欲しい」という依頼を引き受けていたのだ。

町に戻ってきて依頼完遂の報告に訪れた町役場から悠然は苦笑いしながら、
由宇羅は満面の笑顔で出てきた。
どうやら由宇羅の母親仕込みの交渉術により、
十二分なほどに報酬の割り増しが出来たようである。

由宇羅「あの役人さんの顔、思い出しただけで笑いがこみ上げてきますね。」
…訂正、それだけでは飽き足らず徹底的に追い詰め、苛めぬいてきたようだ。
悠然「それに関してはノーコメント…。しかしまぁ購入費用の5分の3を
   出させるなんて、いつもの事ながら凄い交渉術だよな。
   あれが無かったらシャルラッハロートさえ買えたかどうか…。」
由宇羅「あら、あそこまでいけたのは相手があの役人さんだったからですよ。
    もし相手がファゴッツの人間だったら、
    あそこまでは行かなかったでしょうし。」
悠然「ふ〜ん…そんなもんか。」

そんな風に雑談しながら、2人は郊外にある工房へと向かった。
…その途中で悠然がかわいい女の子を見てて
由宇羅に足を踏まれたのは、もはやいつもの事である。

*

奏甲を製造、整備する工房は相当な面積の土地が必要であり、
奏甲が街中に入るにも限界がある為に郊外にあるのが普通であった。
2人は工房に着くと、今までの愛機にお礼と別れをしてから引き取ってもらった。
由宇羅は引き取って貰うさいに少しでもお金を得ようとしていたが、
幻糸炉の下取り料と奏甲から幻糸炉を取り出す分解料が丁度打ち消しあっていて無理だった。
その後倉庫の中に入ると、奥で赤熱した金属を加工したりしている上
場所も砂漠なんて環境だった為、ひどく暑かった。

由宇羅「いつ来てもここは暑いですね…。
    悠然さん、早く奏甲を選んでしまいましょうよ。」
悠然「まぁ待てって、これから命を預ける相棒を選ぶんだ。
   そんな簡単に決められる訳ないだろ?」
そう言ってから流れる汗を拭い、悠然は近くにいた整備員に呼びかけた。

悠然「あぁ、ちょっと。新しい奏甲が欲しいんだけど、
   今すぐ買える奏甲はどれかな?予算は…これだけね。」
整備員「えっ…と、ちょっと待ってて下さい。今値段表をお持ちしますから。」
そう言うと、整備員は事務所の方に行ってしまった。
悠然(今の娘かわいかったな〜。お、あの子なんて暑いから
   ランニング一枚。しかも巨乳。いや〜眼福眼福。)
由宇羅「…悠然さん?今、一体何処を、見ていらしたんですか?(ニコニコ)」
悠然「え?い、いやあの奏甲いいな〜と思っ…」

言い訳してる途中で言葉が途切れ、呆然としている事を不審に思い
由宇羅も同じ所を見てみると、そこには赤い、見た事もない奏甲があった。
…ちなみに足元には、さっき悠然が見てた巨乳の整備員がいる。

悠然「…あの奏甲、きっと突撃式だ。それも新型の。」
由宇羅「あの奏甲が…気にいったんですか?」
悠然の雰囲気につられたのか、由宇羅も浮ついた声で言った。
すると、そこにさっきの整備員が戻ってきた。

整備員「あの、値段表お持ちしましたけど…。」
悠然「あ、あぁゴメン。あの赤い奏甲は何かな?
   見た事ないタイプなんだけど。」
整備員「あれですか?え〜っと…工房が技術提供してる何処かの組織が
    開発した機体で、突撃式の新型だそうです。 
    なんでも、技術提供のお礼として
    何機か工房に譲渡されたうちの一機とか。」
悠然「なんかあやふやな情報ばかりだね…。スペックとかは?」
整備員「すみません、私にはこれ以上の事は…あ、分かる人呼んできますね。」
そう言うと、どうやら責任者らしい恰幅のいい女性にその整備員は声をかけた。

整備員「すみません、この人があの赤い奏甲を
    気に入っちゃったみたいなんですけど。」
責任者の「え?ローザリッタァをかい?こんな辺境で奏甲買うなんて、
     変わった兄ちゃんもいるもんだねぇ…。分かった、
     悪いけどあんたは私の机の上にある赤い本を取ってきてくんないかい?」
整備員は「はい」と言うと、また事務所に戻っていった。

悠然(あぁ、かわい娘ちゃんが…んで、残ったのはこのおばちゃんだけか…)
悠然は軽い絶望感に浸りつつも、おばちゃんに
赤い奏甲(どうやらローザリッタァというらしい)について聞く事にした。

悠然「それで、あれどういう機体なんですか?」
責任者「ローザリッタァっていう奏甲でね、自由民が作った奏甲だよ。」
由宇羅「自由民っていうと…あの反機奏英雄を掲げる過激派の?」
責任者「そう、その自由民さ。スペックは…お、丁度いい所に戻ってきたね。
    ほら、その本兄ちゃんに渡してやんな。
    スペックはそれに載ってるよ。」
渡された本の表紙には確かに「ローザリッタァ」と書かれている。
悠然と由宇羅は共に読み始めた。

*

一通り読み終えると、由宇羅はあまりいい顔をしてなかった。
悠然も同じ所が気になっていた為に、一応責任者に聞いてみた。
悠然「これには歌姫の負担が大きいって書いてありますけど…本当ですか?」
責任者「それは安心していいよ。
    負担が大きいのは歌姫2人で動かす時だけだから。
    全く、自由民も歌姫だけで奏甲動かそうなんて無茶するよ。
    一体それで何人廃人になったんだか…。」
それを聞くと由宇羅も一瞬暗い顔をしたが、
取り合えずは安心したようで他の疑問点を質問する事にした。

由宇羅「でも、なんで自由民の奏甲がこんな所に置いてあるんですか?
    自由民の拠点は確かヴァッサァマインだと思いましたけど。」
責任者のおばちゃんは一瞬「言っちゃっていいかな?」という顔をしたが
すぐに「ま、いいか。」と呟いた。結局喋る事にしたらしい。
責任者「それがね…素性が素性だけに北の方じゃ堂々と売れないんだってさ。
    こっちでも主だった交易路じゃ売れないってんで
    うちに置く事になったんだから。
    ま、そんな事は私の知った事じゃないんだけどねぇ。」

*

その他聞くべき事を一通り聞くと、2人は相談を始めた。
悠然「…なぁ、どうする?この奏甲結構いいと思うんだけど。」
由宇羅「正直に言って歌術運用能力がないのが不満ですけど、
    この子も悪い奏甲じゃありませんしいいですよ。」
悠然「え…いいのか?」
由宇羅「さっきの蟲退治だって、悠然さんが選んた奏甲だったから
    生き残れたんです。だから、奏甲選びに関しては誰よりも信用しています。」
悠然「由宇羅…ありがと、そう言って貰えると照れるけど嬉しいな…。」
由宇羅「それに、他の子選ぶつもりなんて無いでしょう?」
悠然「え…やっぱり分かる?」
由宇羅「分かりますよ。だって、悠然さん単純ですから。」
悠然(じゅ、14の小娘に単純言われた…単純て…単純…)

落ち込んで床にのの字を書いてる悠然を、由宇羅はあっさり無視すると
由宇羅「それじゃ、この奏甲を下さい。
    あそこに置いてあるのがさっきまで乗ってた奏甲の装備ですから、
    早速装備をお願いします。」
と、花のような笑顔で言った。



後書き

正直に言います。
これが俺の初SSです。
…いや、確かに10行にも満たないようなのはいくつか書きましたが、
こういう長いのは初めてです。
ちなみに最初に出てきた見張り台というのは、こういう蟲だの現世騎士団だの
盗賊団だのが闊歩している世界だったら普通あるだろうという
予測に基づき書きました。
工房が郊外にある云々もそうですね。
…はぁ、これ書くのに丸一日かけました。
それでこの出来なんですから、所詮はSS一年生と言った所でしょうか。
これからも細々と書いていきますので、皆さん見捨てないで暖かく見守って下さい。


修正についての後書き

言い回しが変だった所と、スナオさんからご指摘頂いた勘違いを修正しました。
それにしても、苛めっ子ですねぇ由宇羅。
これからずっと悠然が苛められ続けるのかと思うと、
大人しい女の子の1人や2人出してあげたくなります。
おぉ、そういう展開を考えると早速アイデアが。
新キャラの登場は3話以降になり、
いつの更新になるかは分かりませんが待ってて下さい。
それなりに暴れさせるつもりですので。w

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