登場人物紹介

悠然　お人好しでいまいち自主性にかける１８歳。
　　　闘争心も比較的弱く、すぐに他人に譲ってしまう。
　　　だがかなりのロボット好きで、奏甲に関してはそうでもない。
　　　ちなみに突撃式にしか乗らない突撃式至上主義者。
　　　そして操縦技術は中の中か、中の下程度。
　　　だが運動神経は悪い癖に無駄に反射神経が良く、
　　　防御に徹するなら敵が一流でもそうそうやられる事はない。
　　　ポザネオ島防衛戦で、味方誤射で死にそうになった事がある。
　　　と言っても後ろから撃たれてコクピットに弾が飛び込んできただけだが。

由宇羅　親が商人だから経済観念の発達が著しい１４歳。
　　　　浪費家という訳ではないが、お人好しで損しやすい性格の
　　　　悠然のせいで更に磨きがかかってきた。
　　　　髪はセミロングで茶色、体型はこれからに期待と言った所。
　　　　名前が現世の日本人風なのは
　　　　２００年前の先祖が歌姫で、その相方の女性機奏英雄から取った為らしい。
　　　　第２話ではそういう場面は無かったが、悠然を苛める趣味がある。

ローザリッタァ　辺境の町で運良く手に入れた新型奏甲。愛称はそのままローザ。
　　　　　　　　分厚い装甲と、歌術運用能力がない為に得られた
　　　　　　　　高い対歌術および対奇声能力により破格の防御力を誇る。
　　　　　　　　主兵装はクォータースタッフオブアーク。
　　　　　　　　これは名前こそ杖だが実際は身の丈ほどもある巨大な棍棒で、
　　　　　　　　更に幻糸分解能力で奏甲の装甲強度低下を起こす凶悪兵器。
　　　　　　　　それとツインコクピットを装備している。
　　　　　　　　前話で装備していたアーマープレートは
　　　　　　　　戦いで砕けて使用不可になり、やむなく廃棄した。
　　　　　　　　今現在右の角が半ばで折れ、右肩装甲と左の手甲が割れ、左薬指が欠け、
　　　　　　　　右脚のすねの前にある装甲は無くなり、全身の装甲もボロボロである。



悠然なる旅路　ストーリー３『お願いだから目を開けて！』


白いの奏甲は窮地に立たされていた。
相手の一体一体は恐るるに値しない強さだ。
しかしそれは正面から対峙した場合の話である。

流石に３６０度全方位を囲まれ、攻撃されては手も足も出ない。
更に都合の悪い事にその奏甲の旋回性能は決していい訳ではなく、
近接されると攻撃する手段は殴る蹴る位しかない武装も問題だった。

そしてその奏甲から聞こえる歌声は、焦りが反映したのか苦しそうであった。

＊

悠然と由宇羅の駆るローザリッタァはボロボロの機体に
身の丈程もある棍棒と大剣を背負い、幻糸炉を腰に付け歩いていた。
場所はすでにファゴッツ砂漠の半ばで、岩が露出している緑のない荒地である。
砂漠と言うと砂ばかりの砂丘というイメージがあるかもしれないが、
本来の砂漠の大部分はこのような岩が多く露出している岩場なのだ。

悠然「…なぁ、やっぱりどう考えてもこの荷物は無茶だって。
　　　内部フレームは無事なのに一歩毎にギシギシ言うんだけど…。」
悠然は「このまま歩いたら脚がいかれる」と思い、何回目かも分からない台詞を言う。

由宇羅「何回言っても駄目ですよ、これが無かったら大赤字になっちゃうんです。
　　　　ふふふ…私の家計簿に赤い文字を書かせるなんて、あの盗賊さん許せませんよね〜。」
見てる方が薄ら寒くなってくるような笑いを浮かべ、そう言う由宇羅を見て
悠然（駄目だ！今反論したら殺される！！）
と半ば本気で思いながら、悠然は脚部に出来るだけ負担がかからないよう慎重にローザを歩かせる。

そして後ろから聞こえてくる不気味な笑い声から逃避する為に遠くに目をやると、
遠くに砂煙がたっているのに気が付いた。
悠然「ん…？　なぁ由宇羅、あの砂煙なんだろうな？」
由宇羅「え？…確かになんでしょうね。砂嵐にしては不自然ですし。」
そしてそちらに注意を向けると由宇羅はある事に気が付いた。
由宇羅「……待って下さい。あそこから奇声と織り歌が聞こえてきます！
　　　　しかも、かなり苦しそうです！」

それを聞くや否や、悠然は砂煙目指して通常稼動のままローザを走らせ始めた。
悠然「由宇羅、まずは通信！あっちの状況を確認して！」
すると由宇羅もそのつもりだったのか、言い終わる前に歌い出していた。

＊

？？？（もしもし！大丈夫ですか！？）
いきなり聞こえてきた声にリーゼ・リミットの歌姫フローネは一瞬驚いて歌を止めてしまったが、
すぐにまた歌い始めると返事を返した。
フローネ（誰だか知らないけど、助けてくれるの！？
　　　　　なら近くにいる衛兵をお願い！
　　　　　近接武器がないから手も足も出なくなっちゃったのよ！）

一瞬歌が途切れた事を疑問に思ったのであろう、
彼女の前で必死でリーゼを操っている少女小雪はフローネに声をかけた。
小雪「お、お姉ちゃんどうしたの？！」
フローネ（通りすがりの人が助けに来てくれるって。
　　　　　だからあと少しだけ耐えて！）
それを聞くと小雪は不安そうな顔からうれしそうな顔になった。
小雪「ほ、本当！？　うん、分かった！」

そして１分もすると赤い見覚えのない奏甲がこちらに走ってくるのが見えてきた。
フローネ（な、なんかボロボロだけど大丈夫なの？）
その奏甲のあまりのボロボロさに不安になり、ついついフローネは聞いてしまった。
？？？（好きでこうなった訳じゃなりません！
　　　　それに動きには支障はありませんから大丈夫です！）
そういう声が聞こえてきてすぐに、今度は男の声が聞こえてきた。
どうやらあの赤い奏甲の機奏英雄らしい。
？？（グレートソードを投げる！
　　　武器がないなら使って！）

そういうと赤い奏甲は背中に背負っていた２つの巨大武器のうち
大剣の方をこっちへ向かって全力で投げてくる。
それは空中で回転しながら弧を描き、リーゼの横にいた衛兵に突き刺さった。

今度はきちんと聞こえていたのだろう、小雪はそれに手をかけながらお礼を言った。
小雪「ありがとう！助かりましたぁ！」
それは何処となく舌っ足らずで高い声であった。

＊

？？（ありがとう！助かりましたぁ！）
返事を聞きながらグレートソードに手をかけるリーゼを見て悠然は思った。
悠然（なんで大砲が１門しかないんだ？）
そのリーゼの背中には１２２ｍｍ砲が右側の１門しかなかった。
もう片方の砲架には巨大な箱がマウントされている。
しかしそれを考えるのをすぐに止めてしまった。

リーゼが片手でグレートソ−ドを掴むと、それを片手で軽々と振り回し始めたのだ。
技術なんて物は欠片もない振り方だがその勢いは嵐のようで、
リーゼに群がっていた衛兵を次々と潰していく。

悠然（グレートソードを片手剣代わりにすんなよな…。流石はデカいだけある。）
それをケーブルを伝って聞いていたのだろう、由宇羅も同意する。
由宇羅（本当ですよね…。でももう衛兵から助ける必要はないみたいです。）
彼も同じ考えだったのだろう、リーゼに対して
悠然「もう衛兵から助ける必要はないよな！？
　　　なら貴族の足止めしてるから衛兵倒し次第大砲で貴族を撃って！」
と叫びスタッフを抜くと、少し離れた所から
リーゼに向かって進んでいる貴族種へ向かってローザを走らせた。

悠然は貴族種の前に出るとケーファの右腕を失った時を思い出したが、
その記憶を押し殺して貴族種にスタッフを叩き付ける。
悠然「ふっ！」

それは予想以上に上手くあたり、貴族種の左前足を砕いた。
しかし次の瞬間、貴族種の口から至近距離で奇声が放たれる。
どうやら奇声を放とうとしていたので反応が鈍っていたようだ。
？？？？（だ、大丈夫なの！？）
それによって甚大なダメージを受けたと思ったのだろう、リーゼの歌姫が声をかけてくる。
しかし向こうの心配とは裏腹に、２人は少ししかダメージを受けてなかった。

由宇羅（まだ大丈夫です！この子は対奇声能力が高いんですから！）
そう由宇羅は自慢げに言うと、貴族種との戦いに集中している悠然の代わりにリーゼと交信する。
由宇羅（あと衛兵はどれくらいですか！）
？？？？（後２匹！…………終わったわ！）
その返事のすぐ後、リーゼは旋回し大砲をこちらに向けた。

？？（あ、当たっちゃうかもしれないからどいて下さい！）
リーゼの機奏英雄が泣きそうな声でそう叫ぶ。
しかし貴族種と格闘戦のさなかである。下手に離脱など出来はしない。
更には貴族種はこちらの意図を読み取ったらしく、
絶対にリーゼから見てローザの後ろから出ようとはしなかった。

悠然「相手の方が大きいんだから撃てない事はないだろ！？
　　　見ての通りボロボロなんだ！長くは持たん！」
それを聞くと更に泣きそうな声で、
？？（そんなの無理ですよぉ〜！）
と、なんとも情けない事を叫んだ。

その答えに悠然は苛立ち、更にスタッフを撃ちつけ右の牙を砕きながら答える。
悠然「あ〜もう！とにかく撃て！いいから撃て！狙えばきちんと当たるから！！」
？？（わ、分かりました！…え〜い！！）
それを聞き悠然は何処となく不安になりながらも、貴族種の爪をスタッフで防ぐ。
しかし次の瞬間、不安は恐怖に変貌した。
？？？？（なっ、なんで目をつぶって撃つのよ！）
悠然＆由宇羅「「なっ！？ちょっと待…！！」」

轟音が響き渡り２人の叫びをかき消すと、何かを砕く音が聞こえた。

＊

あの後、射された砲弾はローザと貴族種の近くの岩を砕いた。
その着弾に貴族種が怯んだ隙にローザが震えながら文字通り死ぬ気で退避し、
第二射にて貴族種を粉砕したのだ。

そして双方の奏甲の機奏英雄及び歌姫は奏甲を降りて対面している。
フローネ「本当に助かったわ。どうもありがとう。
　　　　　私はフローネでこの子は小雪よ。」
フローネは腰まである髪をポニーテールにした２０歳ほどの女性で、
小雪は小学生高学年程度でフローネと同じく腰まである髪の毛を首の後ろでくくっている少女だ。
由宇羅「いえ、あそこで無視してたら目覚めが悪かったですし、
　　　　別に大した事はしてませんよ。私は由宇羅でこの震えてるのが悠然さんです。」

そう言い指差した所にしゃがみ込んでガタガタ震えてる悠然がいた。
耳をすますと「誤射は嫌…誤射は…」という呟きが聞こえる。
どうやら味方に撃たれた記憶があり、忘れていたそれを思い出したようだ。
そしてその後ろには、心配そうな顔と申し訳ない顔を混ぜた表情の小雪がいる。
小雪「あの…すみませんでしたっ！」
小雪は腰が折れそうな程頭を下げながらそう言った。…音量的には叫ぶが正しい気もするが。
すると流石に悠然もこんな小さい子を無視する訳にはいかないようで、なんとか気を取り直した。
悠然「いや、別にいいんだよ小雪ちゃん、結局は当たらなかったんだし。心配させてゴメンね？」
どうやら紹介だけは聞いていたらしい。無駄に都合のいい耳である。

悠然（しかし…フローネさんスタイル良くて美人だなぁ。それに引き換えこっちは…。）
そんな事を思いながら、ちらっと悠然はフローネと由宇羅を見比べる。
復活して早々考える事がこれなのだから、この男もある意味大したものである。
その視線の意味が分かったのか、由宇羅は満面の笑顔を悠然に向けると背中をつねった。
もちろん小雪とフローネには見えないようにである。
悠然も美人にこれ以上みっともない所を見せたくないという、
なんとも情けない男の見栄でそれを我慢していた。

悠然「所で質問があるんですけど…もしかして小雪ちゃんがリーゼ操ってたんですか？」
そう言う悠然は小雪を見た。
フローネ「そう、この子が私の半身の小雪よ。可愛いでしょう？」
そう言われると小雪は顔を真っ赤にして、
恥ずかしさをごまかす為かフローネの後ろに隠れてしまった。

フローネ「ゴメンね、この子恥かしがりやなのよ。
　　　　　そんな所も可愛いんだけど。」
そう言いながらフローネは笑い、小雪は更に赤くなる。
それに２人は苦笑いで返すしかなかった。

由宇羅「所で…あの背中にある大きい箱はなんですか？」
小雪が落ち着くのを待って、由宇羅は気になっていた事を聞いてみた。
その指が指し示す所には左の砲架にマウントされた巨大なコンテナがある。
小雪「えっと…あれは…」
何故か小雪は言い淀んだが、フローネがあっさり答えてしまった。
フローネ「あれはコンテナハウスよ。２ＬＤＫで結構住み心地がいいんだから。
　　　　　小雪のアイデアなのよね〜。」

彼女の言葉に小雪はまたしても真っ赤になり、悠然は完全に硬直していた。
悠然（家？奏甲に家？最強の奏甲用兵器のマウントラッチに家？）
どうやらロボット好きとしての悠然がそれを受け付けないらしい。
しかし２人の歌姫はそんな２人を無視して喋り続ける。

由宇羅「へ〜、いいですね。町でも宿代いりませんし、
　　　　野宿する時だってテント張らなくていいですし。」
フローネ「そうなのよ。もう一回使うと楽でね。見晴らしもいいし最高よ。」
由宇羅「でも、水とか運び込むの大変じゃないですか？」
フローネ「そういう物は皆リーゼで背中に乗せて、それを運び込むだけでいいから大丈夫なの。」
由宇羅「なるほど…聞けば聞くほど羨ましくなってきます。」
小雪「で、でも今回みたいに戦ったあとだと片付けが大変な事があるんです…。」
どうやら小雪は復活したようだ。

由宇羅「あ、確かにそうかも知れませんね。家具なんかは固定してるんですか？」
フローネ「もちろんよ。引き出しだってロック機能付きなんだから。
　　　　　ロックし忘れた時が大変なんだけどね…。」
そう言って苦笑いするとさっきから全く動かない悠然を見て言う。
フローネ「ねぇ…悠然君が固まってるけど大丈夫なのかしら？」
一応心配そうにフローネは言う。しかし由宇羅は一瞬で切り捨てた。
由宇羅「無視して下さい。そのうち戻ってきますから。」
女三人集まれば姦しいとは良く言うが、その通りに３人は暫く話し続けていた。
…主に話してるのは由宇羅とフローネであったが。

＊

西の空が暗くなってきた頃、ようやく悠然は意識が戻った。
悠然「…おや？何時のまに暗く…。」
由宇羅「悠然さん。私今日はフローネさん達の家で寝ます。だからテントは１つでいいですよ。」
悠然「はい？」

どうやら彼女達は意気投合したらしい。
悠然は何処となく釈然としないものを感じながら、１人テントでマズい携帯食料をかじっていた。


後書き

フローネ姉さん最高！
やっぱり由宇羅みたいながめついツ○○タなんかより
他人の心配が出来る美人のお姉さんです！

え？小雪ちゃんはって？
彼女は…どうするんだ俺。（マテ
勢いで出しちゃった系のキャラですからねぇ…。

これから彼らがＰＴ組むかは決めてませんが、
少なくとも次の町までは一緒に行く事が決定しております。
それをどう利用するか！う〜ん、難しいですねぇ。
まぁぼちぼち適当に書いていきますよ。

それでは！



オマケ


フローネ「悠然君本当に呼ばなくていいの？
　　　　　彼だって暖かい食事食べたいんじゃない？」
小雪「一人は可哀相ですよ…。」
由宇羅「放っておくくらいが丁度いいんですよ、あの人は。
　　　　（むぅ…なんですかフローネさんと私の胸見比べたりして…）」
２人がそう言うのを、由宇羅は笑顔で切り捨てた。

フローネ「何に怒ってるかは知らないけど、２人の問題だし私は何も言わないわ。
　　　　　でも、そういうやり方は関心しないわよ？」
由宇羅（う…）
小雪「？」
フローネ「はいはい、小雪にはまだ早い話だったわね。
　　　　　それで…本当にいいのね？」
由宇羅「いいんです。私今日という日は許すつもりありませんから！」
大人の女性であるフローネの前だからか、
いつの間にか由宇羅はいつもは晒さない素の表情で話していた。

フローネ（やれやれ…悠然君も大変ね。）
フローネはそう思うと、後でこっそり暖かい食事を持っていってあげようと思うのであった。