悠然なる旅路 ストーリー5『真鍮の輝き』 「しかしまぁ、なんだかんだでコイツも流通してきたな。」 悠然は整備が終わり、キレイになった愛機の足元で呟く。 その視線の先には広い整備場の中に1、2機あるローザリッタァを捉えていた。 「珍しいって言われたのほんの少しでしたね。…なんか少し寂しいかも。」 由宇羅も彼女にしては珍しく、しんみりと答える。 「それに対して…リーゼタイプは生産地だけあって結構あるよなぁ。」 視線をずらすとそこには軍事国家シュピルドーゼの誇る巨人機、 リーゼタイプの機体が何機も並んでいる。 元々は対大型奇声蟲用に開発されたこの機体は、 対奏甲戦がメインになった今ではその巨体とパワーを生かし、 大口径砲のプラットホームを設けて火力支援機の主力のとしての地位を得ている。 そしてそれだけではなく、パワーを生かした格闘戦すら可能な高性能機だ。 もっとも、その巨体のせいでコストは非常に高いのだが。 「悠然君、こっちも終わったわよ。それじゃ行きましょう?」 「行ってもいいんですよね…?」 そのリーゼタイプの中の一機が悠然達に近寄り声をかけてくる。 正直言ってただの奏甲でさえ生身に近寄られると怖いと思うのに、 それ以上に大きいリーゼに近寄られた為2人は恐怖を覚えた。 しかしそれは顔には出さず了解の旨を身振りで伝える。 「さて…それじゃ行こうか。」 「はい、そうしましょう。」 そして一行は工房を後にした。 * 一行はあれからすでに何週間も旅を続けてシュピルドーゼにまで来ていた。 途中で出力が上がった愛機に悠然が振り回されたり、小雪が風邪を引いたり、 蟲の群れと何回か遭遇したりしたものの、まぁ順調な旅と言えるだろう。 そして奇声蟲群れ退治の依頼をこなした次の日である。 「次はツィナイグングでいいんですよね?」 「えぇ、一回ルリルラって行ってみたかったのよね〜。なんたってアーカイア一の観光都市だし。」 「温泉、楽しみです。」 リーゼに乗る2人はかなり乗り気なようだ。 声も弾んでいる。 「別にそんないい所じゃないですよ?暖かいから変人多いし…。」 「そうなのか?俺にもかなり良い町に見えたけど。」 それに大して由宇羅は非常に嫌そうに言った。 どうやら帰りたくない何かがあるらしい。 しかし悠然にもそれが分からない以上、この場でその意味が分かるのは由宇羅だけである。 残りの3人は疑問符を頭の上に浮かべていた。 「ん?…あれマリーエングランツじゃないか? しかもビリオーン・ブリッツまでいるぞ。」 しかしその疑問はすぐに流れてしまった。 一行の進む方向に非常に目立っている奏甲の集団が見え、 その先頭のマリーエングランツが堂々というよりは機体を見せ付けるように歩いているからだ。 「あら、本当ねぇ…。まったく、何処の貴族かしら。 あういう成金趣味はいい感じしないわね。」 「その上いい武器まで持ち歩いて… お金持ちがなんですか!高級品があればいいってもんじゃありません!」 実家を思い出したのかフローネは苦い顔をし、 お金持ちにいい記憶がないのか由宇羅が過敏に反応する。 「まぁまぁ2人供…確かに感じ悪いけど聞こえたらどうするのさ。 あういうのは延々と絡んでくるよ?」 「か、陰口はよくないですよぅ…。」 悠然は苦笑いしながら、小雪は嗜めながらいつものように相手に道を譲る。 しかしそれが怒り心頭である由宇羅の神経を逆撫でしてしまったらしい。 「2人とも!あういう輩になんか道譲らなくていいんです! 道譲る価値があるのは頭下げながら通る人達だけです!!」 「っ!?その声は!!」 * 辺りは異様な雰囲気に包まれていた。 目の前のマリーがいきなりローザに相対するように立ち止まり、 残る4機のビリオーンもそれに続く配置に付いたのだ。 「どうすんだよ由宇羅!やっこさん殺る気満々だぞ!? しかも華色奏甲!大将達のと同じレベル!!」 悠然は従軍時代に見たミリアルデ・ブリッツとブリッツ・ノイエの 圧倒的性能を思い出し、顔を青ざめさせながら叫ぶ。 しかし、予想に反して相手はハッチを開けて出てきた。 「久しぶりじゃな由宇羅!陰口とは相変わらず品がないのう!!」 なんとなくこちらもしなければならないような気がして、悠然はハッチを開ける。 するとすぐに由宇羅はハッチから身を乗り出した。 「ヘ、ヘルガ!?あんた機奏英雄いないんじゃなかったの!?」 どうやら2人は知り合いだったらしい。 ハッチから出てきた少女は首にチョーカーがあるので歌姫のようだ。 しかし服にしろ装飾品にしろ、どれも高級品だというのが一目で分かる物を使っている。 どうやらフローネの言った貴族というのは合っているらしい。 「愚問じゃ、機奏英雄が現れたからこうして奏甲に乗っておるに決まっておろう。 そんな事も分からんとは、頭の回転が鈍ったかの?」 「なっ…!」 「ゆ、由宇羅ちょっと。あの人知り合いなのか?」 暴走寸前の由宇羅を抑えようと悠然は声をかける。 「お母さんが出入り商人だった貴族の一人っ子で、 昔からいつも高級品を見せびらかしてきた嫌な奴です!!」 しかしどうやら悠然の努力は無駄だったようだ。 クールダウン所か、むしろ昔を思い出してヒートアップしている。 「何じゃと!?お主が見た事がないというから哀れんで見せてやったのであろうが!!」 「余計なお世話なんです!…あぁもう!なんでこんな奴に会うの!?」 「お、落ち着けって!落ちるぞ!」 悠然は興奮して暴れ出した由宇羅を羽交い絞めにして抑え付ける。 興奮で忘れているようだが、ここは8ザイル近い高さの場所だ。 当然落ちたらただではすまない。 「無様じゃのう…。ふ、それがお主の機奏英雄か。我の勝ちのようじゃな。」 すると、ヘルガというらしい歌姫の後ろかから一人の優男が出てきた。 ルックスとスタイルが非常に良い、金髪碧眼の男だ。 男は口元に皮肉っぽい笑いを浮かべ言う。 「やれやれ…女性にそのような行為は関心しないよ?そこの胴長君。」 「ぬぁぁっ!?き、貴様ぁっ!気にしてる事をっ!!」 「悠然君…気にしちゃ駄目よ。」 「うあぁぁぁぁぁ〜っ!!」 気にしてた事を言われた上、いつの間にかハッチ開けてた フローネの追い討ちに流石の悠然も本気で泣く。 本人はフォローのつもりなのだろうが、むしろ追い詰めている。 「あぁ、そこの美しいお嬢さん。僕と食事をご一緒しませんか?」 その男はフローネを見るなり芝居がかった動作でナンパを始めた。 どうやらかなりの女好きのようだ。 「い、いえ。遠慮しておくわ…。」 流石にその動作に引いたのだろう、フローネの額にも冷や汗が見える。 「ならそこのお嬢ちゃんはどうだい?おいしいパフェをご馳走しよう。」 「え…えぇっ!?私!?」 男はあろう事か小雪にまで声をかける。 当然こんな事態に耐性のない小雪は狼狽している。 しかしすぐにフローネが庇うように背中に隠してしまった。 流石に危険だと思ったらしい。 「ふん!何が『我の勝ちのようじゃな』ですか!ただの女好きじゃない!!」 「そうだそうだ!貴様なんぞ男の風上にも置けん!!」 2人はすでに相手を敵と認識したのか、態度が敵に対するそれになっている。 「なんじゃと!ひがみはよくないぞ由宇羅!!」 「そこの胴長短足の君には言われたくないね。」 しかし相手も負けずに口で言い返す。 このままでは決着が付かないと思ったのだろう。 結局の所気が合うのか、アイコンタクトで意思疎通をとると2人は叫んだ。 「こうなったら…。」 「こうなれば…。」 「「勝負です(じゃ)!!!」」 「ふ、望む所さ。この僕、ラウド=シュメッツに勝てるかな?」 「…え?」 ここに、絶対奏甲VS華色奏甲というハンディキャップマッチが開催されようとしていた。 * 「ゆ、由宇羅正気か!?相手は華色奏甲なんだぞ!? ここは口喧嘩に持ち込んで対等な勝負するべきだろ!! なんでわざわざ不利な闘いするんだ!!?」 ビリオーンとリーゼで作った円陣の即席コロシアムの中で悠然は叫ぶ。 「アイツにだけは負ける訳にいかないんです!とにかく潰しちゃって下さい!!」 しかし由宇羅は暴走しっぱなしで止まらない。 ここまで激しい対抗心を抱くとは、どうやらよほど昔からの因縁らしい。 「いや…でも…。」 「でもも何もありません!負けたら一週間ご飯抜きですよ!!」 「…やらせて頂きます。」 「お兄さん…。」 小遣いを貰ってない(くれない)悠然にとって、食事抜きにされるのは本気で死活問題だ。 正直言ってかなり情けなく、あの小雪でさえ何も言わずにはいられなかった。 「フローネさん…骨は拾って下さい…。」 「悠然君…小雪悲しませたら許さないわよ。」 しかしギャラリーは無情だった。 取り付く島もないとはこの事だろうか。 「あーもう!こうなったらヤケだ!リミッターOFF!全力でいくぞ!!」 「はいっ!」 由宇羅が歌い出すと共に幻糸炉は普段とは明らかに違う、力強い音を立て始める。 時を同じくして敵のマリーも戦闘準備が整ったらしい。 煌びやかな装飾の施されたルーンソードを抜くと、切りかかってくる。 「舐めてんのか!」 しかしそれはリミッターを切ってないローザでさえ、たやすく受け流せる攻撃だった。 そして距離を取る為の牽制としてスタッフを横凪ぎに振るう。 ボコン。 「ぐわっ…。」 しかし何故かコクピットに直撃し、それきりマリーは動かない。 「…あれ?」 「…はい?」 「あぁっ、ラウド様目を覚まして下され!」 「「「「「「「「「「弱っ!!!?」」」」」」」」」」 悠然達のみならずビリオーンの機奏英雄及び歌姫達までもが叫ぶ。 確かにスタッフはマリーのコクピットの装甲を僅かに凹ませた。 ラウドはたったそれだけの衝撃で気を失ってしまったらしい。 「や、やりましたね悠然さん!華色奏甲を倒しましたよ!!」 「いや…釈然としないものが…。」 悠然の呟きはその場にいる全員の気持ちであった。 * 戦闘が終わり気絶したラウドをヘルガが介抱し、それをビリオーンの歌姫達が手伝っている。 その時初老の女性が由宇羅に声をかけてきた。 「由宇羅様…いつもお嬢様がご迷惑をおかけします。」 「あ、クララさん。お元気そうで何よりです。」 顔見知りで信頼出来る人らしく、由宇羅も警戒心無く返事をする。 「はい、由宇羅様もお元気そうで。あの…お嬢様を許してあげて下さい。 お嬢様は素直ではありませんからお友達が由宇羅様しかいないのです。 由宇羅様が機奏英雄の方と共にハルフェアを出られてからは、 お嬢様は元気がありませんでしたから。」 その顔はラウドが気絶したというのに嬉しそうである。 それもそのはず、彼女はヘルガの世話役なのだ。 そして由宇羅はクララの言葉に呆然としてしまった。 彼女が知るヘルガは常に傍若無人で破天荒、 自分の悔しい顔を見る事だけが生きがいと言い切る性格破綻者だったのだ。 「ヘルガが…ですか?」 「はい、あのような元気なお嬢様は久しぶりでございます。」 そう言われると由宇羅は微妙な表情をする。 「はぁ…まったく、仕方ないんですね!」 その由宇羅の顔は何処となく恥ずかしがっているように見えた。 それをクララは嬉しそうに見ていた。 * 所変わって悠然はビリオーンの機奏英雄の1人に声をかけられていた。 男は「東方夢幻騎士団副団長ヘイム=グラン」と書かれた名刺を渡してくる。 「あの…団長がご迷惑をおかけしました。」 ビリオーンの機奏英雄がそろいも揃って顔もスタイルも良かったので一瞬殺気だった悠然だが、 ラウドとは違う丁寧な対応についかしこまってしまう。 「い、いえこれはご丁寧にどうも。俺は村上悠然です。 こちらに実質的な被害はありませんし気にしないで下さい。」 そう言われ、男はホッとしたのか何処と無く顔を安堵のものにする。 「そう言って頂けると助かります。」 「いえいえ…しかし、凄いPT名ですねコレ。」 悠然は渡された名刺の文面を読み言う。 その表情には「すげーセンスだ」と思いっきり浮き出ていた。 それを言われるとヘイムは恥ずかしそうにしながら、 「それが…団長達が『組織にはしかるべき名前が必要だ』って決めたんですよ。 私は突然召還されて、路頭に迷ってたのを拾って貰ったんです。 それから歌姫探しから奏甲の調達までお世話になって…。 私だけじゃなくて他の皆もそうなんですよ。なぁ?」 その言葉に残りの3人の男達も頷く。 どうやらラウドとヘルガに対する忠誠心は厚いようだ。 「へぇ…あんなんでも一応人の役には立つんですね。」 「ははは…流石にあんなに弱いとは思いませんでしたが。 悠然さんはお強いようですし、今度指南して頂けないでしょうか?」 本当に一流だと思ったのだろう、ヘイムは尊敬の眼差しを向けてくる。 しかし悠然は狼狽しまくる。 彼は今まで奏甲相手にスタッフをまともに当てた事すらない、真性の超三流である。 当然そんな視線に耐えられるはずがない。 「い、いえそんな事は!スタッフまともに当たったなんてほとんどなくて!!」 「謙遜しないで下さいよ。実際に華色奏甲に勝ったじゃないですか。」 「アレを基準にしたら駄目ですって…。」 彼は実戦経験がないのだろう、かなり間違った価値観を持っているようだ。 基準が最低中の最低に位置してしまっている。 「まぁこれからもご迷惑をかけると思いますが、宜しくお願いします。」 「出来るだけ抑えて下さいよ?とばっちり受けるのは俺みたいですから。」 そしてお互いに苦笑いした後、2人は握手をした。 「ふぅ…なんだか賑やかな事になりそうね。」 フローネの呟きは風に溶け、誰の耳にも届く事はなかった。 謝罪&後書き 全国のマリー愛好者の皆さんごめんなさい。 …さて、謝罪も終わった所で後書きといきますか。 かつてチャットで言い出した「マリーに乗ったキザでヘボい機奏英雄」を出しました。 なんか予定よりも更に弱体化してしまった気がしますが、 元々機体に差がありすぎますしこれで丁度いいのではないでしょうか? 彼ら東方夢幻騎士団はこれから神出鬼没に出てきては場をかき回してもらいます。 当然かき回すのはラウドとヘルガで、残りはそのフォローに回る訳ですけど。 存在的には…スレ○ヤーズの○蛇の○ーガみたいな感じですか。 だから昨日ファゴッツにいたかと思うと今日はハルフェアにいたとしてもノープロブレムです。 そもそも彼らの行動履歴に理屈を持ち込んではいけません。 ラウドは己のカッコ良さをアピールする為ならばいかなる手段をも行使し、 ヘルガはただ由宇羅の悔しい顔を見るためだけに絡んできます。 ただでさえはた迷惑な集団なのに、金まであるんですから始末におえませんね。 それでは〜♪ |