悠然なる旅路ストーリー6『お邪魔虫』


「アレが目標…相当デカい群れですね」
「そうね…まぁ作戦通りにすればなんとかなるわよ」
深紅の奏甲と巨大な乳白色の奏甲が崖の上から数km先の巨大な奇声蟲の群れを眺めている。

「貴族は…凄いです。3匹もいますよ」
深紅の奏甲の後部座席から双眼鏡で群れを見ていた座る少女の言葉に前に座る青年はため息をつく。
「…やっぱりキツくない?死んだら元も子もないんだぞ?」
「違約金払わないといけないじゃないですか。前金で半分貰ってますから無理です」
少女の言葉に青年はため息を再びついた。

*

悠然達はたまたま通りかかった町で奇声蟲の群れ退治を依頼されていた。
その群れは町から奏甲で2日ほど行った辺りに集まっていて、
近隣からかなりの数が流れてきたのか相当な規模になっているという。
その為に一気に殲滅するのは諦め、まずは頭から潰そうという事で貴族種を
直接砲撃出来るリーゼ・リミットを擁するPT―つまり悠然達―に白羽の矢が当たったのだ。

「それじゃ行くわよ小雪。狙いは…まずはあの一番近くにいる奴から」
「う、うん」
フローネの歌声と共にリーゼが戦闘稼動を開始し、122mm砲の狙いを定める。

「(角度もう少し下げて…あと0.5度…いいわ!)」
「え〜いっ!」
フローネの指示に従って細かな照準をし、小雪はリーゼに発射を命じる。
次の瞬間轟音が鳴り響き、数km先にいた貴族種の頭部が吹き飛んだ。

「(命中!あっちもこっらに気付いたわ。悠然君出番よ!)」
「まかせて下さい!」
悠然達に気付いた群れは敵奏甲を倒そうと移動を始め、
その中でも特に悠然達に近い位置にいた蟲はすでに距離が1kmを切っていた。
悠然はローザを戦闘稼動させると、スタッフを抜きながら崖をすべり落ちていく。

「(ファゴッツソングかけるわ!だから護衛宜しくね!)」
「どうも!」
リーゼがフローネの歌術を増幅し、それが2機の奏甲内部の幻糸に働きかけ動きをよくする。

「リーゼに近寄れると思うな!」
そのまま突撃し群れと接触したローザは、スタッフを横凪ぎにフルスイングし4匹ほどの衛兵を弾き飛ばす。
それだけでは倒せないが、元々の役割である足止めには十分だ。
要はリーゼが貴族種をすべて打ち抜くまで、時間を稼ぎさえすればいいのだから。
「行くなぁっ!」
弾き飛ばされた仲間の横を通り抜けてリーゼに向おうとする衛兵を
ゴルフのような下からの打撃でひっくり返し、無防備な腹を全体重で踏み潰す。

そんな感じで次々と蟲を弾き飛ばして防衛戦を続ける。
「くそっ…流石にノイズがキツいな…」
しかし最高ランクの耐ノイズ能力を誇るローザと言えども、
数十匹の衛兵との戦いとなればノイズの影響から逃れる事は難しい。
更に後ろにはまだ百匹近く控えているのである。
ノイズによる頭痛にも似た痛みに耐えながら、由宇羅はフローネに尋ねる。
「(まだ片付かないんですか!?長くは持ちません!!)」
「(さっき2匹目倒した所!後1匹だけど速くて当たらないのよ!!)」

砲撃を避ける為に素早く動き続ける最後の貴族種へ
なんとか照準を合わせて小雪が122mm砲を撃とうとしたその瞬間、

「戦場の華麗なる貴族、ラウド=シュメッツ推参!
 この東方夢幻騎士団こそが貴族種を倒すのに相応しい…!」

馬鹿が戦場に乱入してきた。

*

「総員、突撃ーっ!」

ラウドの号令と共に、奇声蟲とリーゼの中間辺りに突如として現れた東方夢幻騎士団は突撃を始めた。
彼らは残る一体の貴族種を目標に、一斉射撃で蟲の群れに穴を開けてそこを突き進んでいく。
「お姉ちゃん。砂煙が邪魔で撃てないよ…」
しかしそのせいで貴族種の周辺で砂煙が発生し、狙撃は不可能になってしまった。

「邪魔だイケメン騎士団!大砲撃てないだろ!!」
「貴族種を倒し、栄光を掴むはこの私だっ!」
だが栄光の二文字に囚われたラウドには声は届かない。

「覚悟!蟲の貴族よ!!」
そのままビリオーン4機の援護射撃にエスコートされ、
貴族種まで辿り着いたマリーは剣を縦一文字に振り下ろす。

しかし
「くはっ!」
悠然と戦った時と同じくあっさりと避けられ、逆に体当たりされて気絶してしまった。

「「「「あぁっ!?団長!!」」」」
ビリオーンを駆るイケメンズはそれを見て叫ぶが、その間に貴族種はマリーを齧り始めていた。
せめてもの救いは最高級素材でできている頑丈さ故に、そう簡単にはコクピットを破られない事だろう。

「団長が!団長があぁ!!」
「しがみ付かないで下さいヘイムさん!」
それを見て錯乱したヘイムは、戦場のど真ん中だというのにローザにしがみ付いて来た。
「お願いですから助けて下さい!!」
「自分で助ければいいでしょう!」
「団長と同じ程度の実力の私達では二の舞になります!」
あまりと言えばあまりの台詞だが、説得力だけはある台詞だ。

「お礼しますからお願いします!」
「(お礼!?)」
その勢いで出た一言に、由宇羅は過敏に反応した。
それはノイズによる頭痛なんて忘れる程に。

「(行きますよ悠然さん!
 ラウドさんは祖国の貴族、救わねばなりません!!)」
「由宇羅!?」
「(つべこべ言わずに行くんです!)」
「りょ、了解!」
後ろに座る由宇羅が手を振り上げる気配を感じた悠然は、ローザを貴族へ向ける。

「援護射撃はまかせて下さい!」
その台詞と共にビリオーン4機のサブマシンガンが火を噴き、
ローザとマリーの間にいた衛兵が次々と蜂の巣になった。
「(小雪ちゃんも援護お願い!)」
由宇羅の要請に、事の成り行きを傍観していたリーゼも砲撃を再開する。

「こうなりゃヤケだ!!」
ローザは援護射撃で作られた道を全力で走り抜け、
マリーを齧るのに夢中な貴族種の頭にスタッフを大上段で振り下ろした。
それは頭を破壊するまでは行かずとも陥没させ、貴族は痛みにのた打ち回りマリーは開放された。
「よし…く、重っ!」
悠然は開放されたマリーをかつぐと援護射撃が貴族種を牽制してる間に戻り始めるが、
頑丈なローザといえども奏甲をかつぐのは少々ツラい。
ギシギシミシミシと悲鳴を上げる機体に鞭打ち走るが、来る時の半分以下の速度だ。

ズドドドド…
そしてのろのろと走っている間に、怒り狂った貴族種が追いかけてきた。
配下の衛兵ですら跳ね飛ばし踏み潰すその目には、もはやローザしか映ってない。

「うわわわわわ!どうする!?コイツ捨てるか!!?」
「(駄目です!大事な金づるなんですよ!)」
「んな事言ってる場合か!」

その間も走り続けるが、衛兵ですら逃げ出すほどの勢いに距離がだんだんと縮まってきた。
「どうする!?ヤバいってコレ!!」
「(確かにマズいですね…。小雪ちゃん、貴族種撃てる?)」
「は、早くて無理…!」

一縷の願いを込めた願いも儚く散ったその時、
「「「「だ、団長に手は出させん!」」」」
4機のミビオーンが貴族種の前に立ち塞がった。
剣を構えるも少々腰が引けているのが情けないが、各機一歩も引こうとはしない。

スドン!ガガガガ…
「うわああっ!」
「ぬわっ!」
「うおぉっ!?」
「ふんっっ!」
そのまま彼らは正面から貴族種を受け止め、足で地面を削りながら止めようとする。
華色奏甲には及ばないまでも絶対奏甲としては高性能のビリオーン4機の力は凄まじく、
流石の貴族も進めなくなった。

「やぁっ!!」
力の均衡が取れ動けなくなってしまった貴族種の頭の傷に、ヘイムはルーンソードを突き刺す。
「グギャアアアァァァァァ!!」
最後に凄まじいノイズを放つと、貴族種はそのまま絶命した。
やたらと傍迷惑な断末魔である。
「わ、私が倒した…?」
最後のノイズの影響で点滅する視界の隅で動かない貴族種を捕らえ、ヘイムは呆然と呟いた。

しかし、
「(何のんびりしてるの!衛兵が戻ってくるわよ!!)」
貴族の勢いに逃げ出した衛兵達が戻り始めていた。
「やばっ!コイツかつぐの手伝ってくれ!!」
そして彼らはマリーを神輿のように担ぎ、急ぎその場を後にした。

*

彼らはその後、少し離れた所に待機していた当方夢幻騎士団の歌姫達と合流した。
マリーを単機で背負ったローザが脚の調子をおかしくしてしまったので、
これ以上歩けそうもないという理由もあるのだが。

「本当に助かりました…。やはり私達では貴族種の相手は無理のようですね」
「とか言って、結局最後の倒したのヘイムさんじゃないですか」
「いえ、悠然さんの与えた傷があったからですよ」

男はそうして談笑しているが、女の方はいつも通りに険悪だ。

「…ヘルガ、あなたは何回仕事の邪魔をすれば気が済むんです?
 いい加減に慰謝料を請求しますよ。それと今回のマリー救出費も」
「相変わらずの守銭奴じゃな。金が絡まないと動かぬのか?このごうつくばりめ…」
「なんですって…!」

と、そこに世話役のクララがヘルガに耳打ちしながら何かを手渡した。
「そ、それは…!」
それは形から推測するに10万ゴルト貨幣が何枚も詰まっている袋だ。

「ぬぬぬぬ…受け取るがいい!」
ヘルガは悔しそうに、由宇羅に向かって袋を投げ付ける。
ベチッ!
「痛っ!」
由宇羅は赤くなった額をさすりながら袋を拾うと、
「何するんですか!」
「ふんっ!金の亡者に鉄槌を下しただけじゃ!!」
と、いつも通りの口論を始めた。

結局口論が終わったのは1時間後で、その頃には2人とも歌姫の命である喉を潰していた。
ちなみ総収入は1週間は仕事しなくても暮らせるほどまで行ったとか行かないとか。


後書き

ヘイム君のの邪魔っぷりを表現しきれなかった…無念です。

今回はちょいと仕事風景をストーリーとは関係無しに書いてみました。
いつもいつも一本道のストーリーを走らせるのもアレと思いまして。

はぁ〜…書きたい物はたくさんあるのに、表現力がないのがツラいです。
ここは地道に本読んで勉強していくしかないですね。

取り合えず次回も頑張りまっせ〜。
ではでは。


オマケ

「さて、どうやってローザ運びましょうか?」
「リーゼで運べばいいじゃない。小雪、ローザ持って」

「…………」
「…………」
「…………」
「い、いくらなんでも…お姫様だっこは…」

「で、でもこれ以外の運び方が…」
「これしか…ないのか…」
「恥ずかしいですけど頑張りましょう、悠然さん…」

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