久々の休み。
悠然と小雪は部屋で読書し、由宇羅とフローネはリビングで歌術の練習をしていた。
「う〜ん…少し声が高いわね。もう少し落としてみてくれない?」
「なら…〜♪」
「こんどは低すぎよ。もうほんの少しだけ…」

―バタン!

「由宇羅!頼む、欲しい武器買があるんだ!!」


悠然なる旅路 ストーリー7『したくない事』


「駄目です」
由宇羅は悠然が持つ最新の「絶対奏甲カタログ」を見るなり言い切った。
「いや、話を聞くくらいしてくれても…」
「奏甲用のは大金が必要ですから駄目です」

元々ケチなのだが、悠然の意見に対しては更にケチになる由宇羅は駄目の一点張りだ。
「(と、取り付く島もないな。こうなったら…)
 フローネさん、話くらいは聞いてくれてもいいと思いません?」
「まぁ…話だけなら、ね」
さして同意の意思は感じないが、取り合えず話を聞いてくれそうな雰囲気にはなった。

「この前の戦闘で思ったんだけど、ローザにも中距離武器があれば戦術の幅も広がると思わ…」
「銃器は駄目ですよ。弾代が勿体ないです」
「…話は最後まで聞いた方がいいぞ。いい感じしないから」
悠然は同時に「何故自分には強く当たるのか」などと考えつつ話を元に戻す。

「それで話を元に戻すけど、この投合用の斧『ブーメランアクス』なら銃が苦手なローザでも使えるし、
 拾えば何回でも使えて経済的だし、良いと思うんだ」
悠然は絶対奏甲カタログに入っている武器カタログから、
全体的に丸く重心が投げやすいようにデザインされた少々変わった小さめの斧を指差す。
ちなみに武器カタログは実用品から使い方すら分からない珍品まで載っている雑多な内容だ。
「一振り11万G。確かに奏甲用としては割と安めなんですけど…」
「へぇ〜、面白い武器があるのね」
「昨日工房で二振り17万Gで安売りしてるのを見て、気になったから確認してみたらコレだったんだ」
「でも戦闘中に回収なんて出来ませんし、使えるの2回だけですよ?
 確かに長期的に見ればコストパフォーマンスが良いですが、極所的に見ると最悪です」

由宇羅の最もな意見に対し、予想してたのだろう悠然は焦る事なく答える。
「大丈夫。ジャベリンなんかと違って使い捨てじゃないから作る側も考えてて、
 柄の所にアークワイヤー結びつける場所があるんだ。ほら」
「という事は、戦闘中でも回収出来るって訳?」
「それだけじゃなくて、相手にワイヤーを絡みつかせる事も出来るんです」
フローネの質問にも、余程欲しいのかセールスマンじみてきた悠然はさらりと答える。

「つまりアークワイヤーもいっしょに買えと?したら結局20万G超えるじゃないですか。やっぱり駄目です」
「言い忘れてたけどアークワイヤーもセットになってた。きっと、よほど売れないんだろうなぁ…」
「曰くつきっぽくて嫌な感じね…」
「同感です…」
悠然がしみじみ言うが、由宇羅とフローネは嫌な顔をした。

しかしその後も全く引かないので、2人は顔を見合わせ悠然にしては珍しい行動に怪訝な顔をした。
「…そんなに欲しいんですか?」
「欲しいっていうか、近づいて殴るしか能が無いのは流石にどうかと思って…。
 ほら、最近122mmだけで片付いちゃって出番が無いから」
「つまり、私と小雪ばかりに働かせるのは心苦しいという事?」
「うん、まぁ…」
それを認める時の、何処となく後ろめたそうな表情に2人も何も言えなくなる。

「…はぁ、そういう事なら最初にそう言ってくれれば反対なんてしなかったのに。
 少し回りくどいですよ、悠然さん」
「ゴメン…」
「それで、それを使いこなす自信はあるんですか?」
「自信はないけど、絶対に無駄にはしない」
「…はぁ、仕方ないですね」
そうして一応話に決着が付き、再び歌術の練習を始めようとしたその時…

ドタドタドタ…バタン!!

「お願いです!団長達を助けて下さい!!」
今度はヘイム達、東方夢幻騎士団の面々が飛び込んできた。

*

「いや、いきなり助けて下さいと言われても…。取り合えず落ち着いて下さいよ」
一瞬唖然とした悠然達だが、取り合えず宥める事にした。
「落ち着いてなんかいられません!団長達が今どうしてるかと思うと…あぁ!!」
しかし彼らは止まらなかった。
まるで暴走列車のような勢いだ。

興奮し過ぎで話にならなそうなので
「仕方ないわね…」
そう言うなりフローネは何かを歌い始める。
すると東方夢幻騎士団の面々は急に大人しくなり、最後には人形のようになってしまった。
「…これでよし、と。さて何があったのか聞かせてもらえるかしらヘイム君?」
「それは…」

「なぁ、あれって洗脳系の歌術だよな。禁忌歌術だったような気がするんだけど…」
「正確には魅了系ですけど…多分そうです…」
「お姉ちゃん、そんなの使ったの…?」
ヘイムが経緯を話し始めるその横で、悠然と由宇羅、そしていつの間にか部屋から出てきた小雪は
『フローネは絶対に怒らせないようにしよう』と硬く誓っていた。

*

ヘイムの話した内容を要約するとこうだ。
たまたま滞在してい街で盗賊団の噂を聞いたラウドが名誉を得る絶好の機会といきり立ち、盗賊退治をする事になってしまった。
そして意気揚々と盗賊退治を始めたはいいが、いつものようにラウドが気絶しそのまま捕虜に。
助ける間もなく捕虜にされてしまったので、残った彼らは体制を立て直す為に一度撤退。
この地では唯一の知り合いである悠然達の所に助力を頼みに来た、という訳である。

「盗賊退治、ですか…相手の戦力はどれだけあるんですか?」
「プルファ・ケーファが2機、シャルラッハロートTとVが一機づつです」
由宇羅は歌術の影響が抜けてきたヘイムからそれだけ聞きだすと、予想される損失を考え始める。
「奏甲と戦うのは嫌なんだけどな…」
その横で悠然が何気なくもらした一言に、ヘイム達は過敏に反応した。
「そんな事言わずにお願いします!」
「いや…でも」
「こうしてる間にも団長達はどんな扱いされてるか!!」
そのあまりの必死さに、悠然は断りたいのだが断れなくなってしまった。
由宇羅とフローネとアイコンタクトで確認を取ったが、向こうも同じのようだった。
2人の目が悠然に代表者として言えと言ってるので、仕方なく悠然は答える。
「…分かりました。お手伝いさせて頂きます」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」

*

「ヘイムさん、一つだけ条件があるんですけど」
盗賊退治の相談などを終え、工房に奏甲修理しに行こうとするヘイムを悠然は呼び止めた。
「なんでしょう?悠然さん」
「リーゼなんですが…直接戦闘はやらせないで下さい」
「な、なんでですか?リーゼは最大の戦力じゃ…」
いきなりの発言に、ヘイムは驚き訳を尋ねる。

「小雪ちゃんに人殺させるんですか?
 リーゼの攻撃力で奏甲を破壊したら、コンダクターは確実に死にますよ」
「あ…」
「どうかお願いします」
そう言い頭を下げた悠然にヘイムは何も言えず、そのまま行くしかなかった。

*

「悠然君、ありがとね」
「いえ…別にいいんですよ」
その夜、フローネは悠然の部屋に来ていた。
たまたま聞こえた悠然とヘイムの会話のお礼を言う為だ。

「それで勝ち目ありそうなの?」
「工房でビリオーンの操作性を上げて来るように言ったので彼らも戦力になるでしょうし、多分なんとかなるかと。
 それにリーゼを歌姫の護衛に回してもこっちの方が一機多いですしね。
 俺を含む4機を敵と1対1で戦わせ、残った一機に後ろから襲わせます」
「でも1対1で大丈夫なの?」
「倒す事を考えずに防御に専念してれば、そうそうやられませんよ。
 いつも俺がしてるじゃないですか」
「なるほど…確かになんとかなりそうね」
悠然君も色々考えてるのね、などと多少失礼な事を考えながらフローネは納得した。
「さて…明日は大変そうだし、そろそろ寝るわ。お休み」
「お休みなさい」

悠然はフローネが部屋から出ていくのを見送ると、窓から外を眺めながら思った。
「(全く、人殺ししたくないのは自分の癖に俺は…。クソっ!どうして俺がこんな事を)」
悠然は自己嫌悪と自分の流されやすさにイライラがつのり、気付くと全力で壁を殴っていた。
しかしその痛みは、更に怒りをつのらせるだけでしかなかった…。


ストーリー7END



後書き

はい、後半は珍しくシリアスでした。
あと4回ほどでこの悠然なる旅路も終わる予定なので、
未熟な文章ですがまぁ見捨てないで下さい。

次は、一回書いてみたかった奏甲同士の集団戦です。
書ける自身はこれっぽっちもないですが、多分なんとかなるでしょう。(ならんならん)
そしてついにあの奏甲が真の実力を発揮して大暴れの予定です。
あの奏甲ってどれかって?
嫌だなもう、そんなヒントはあげませんよ。
それは読んでからの楽しみって事で。(笑

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