いつもと似たような日々を過ごし、
いつもと同じく一日が終わる、そう思っていた。
でもその夜……私の町は奇声蟲に襲われてしまった。
 
『あなたはここに隠れて静かにしてなさい!』
背が高い女性らしき影が小さな少女を床の倉庫のような所に押し込む。
『嫌ぁ! 私も一緒に行く!』
しかし、少女は女性の手を掴んでは離さない。
『いい加減にしなさい!!』
女性は駄々をこねる少女に一喝した。
少女はその一喝にビクリと身を震わせ、泣きそうな顔をする。
女性はその顔を見て、微笑する。
『大丈夫……大人しくしてれば空から青い巨人に乗った英雄様が助けに来てくれるわ……』
その言葉に少女は顔をパッと輝かせ
『本当……?』
女性はさらに笑みを深くし
『ええ、本当よ……大人しく出来る?』
『うん!』
元気よく答えられた返事に女性は頭を撫で。
『じゃあ、大人しくしてるのよ――』
と言いながら床を閉めた。
 

『ザナウと栞と女の子』
 

「どうして君はまともに起こしてくれないかなぁ!?」
「あなたがすぐに起きてくれないからです!!」
ある宿屋の通路から聞こえてくる少年と少女の叫び声。
「そもそもあなたが自分で起きてくれればもっと楽なんです!」
「ぐ! それを言われるとつらい……」
どうやら少年が負けているらしい。
「いや……でも朝ってのんびりしたくなるものだろ?」
「ザナウさんはのんびりしすぎなんです!」
少年の名はザナウ、どこかのんびりした感じの印象がある顔つきをしている。
ザナウは自分の頭をかきながら
「栞……怒ってばかりいると皺が増えるぞ」
そんな事を言った。
「誰が怒らせてるんですか〜〜〜!!」
少女の名は栞、普段は大人しいが今は怒りに我を忘れている。
二人は激しい言い合いをしながら食堂に入る。
栞は厨房にいる一人の女性に言う。
「セレナさんもザナウさんに何か言ってやってください!」
厨房にいる女性、名前はセレナ、彼女は楽しそうに呟く。
「あ〜はいはい、毎度仲の良い事で」
栞はさらに大きな声で叫ぶ。
「どうやったらそんな風に聞こえるんです!?」
「あ〜、栞君」
「なんです!?」
「周りに迷惑だゾ」
「え?」
食堂にいる人々は皆栞達の方を向いて、迷惑どころか楽しそうに笑っていた。
「あう……」
栞は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
 
ザナウと栞の言い合いから少し経った後、突然セレナが何かを思い出したかのように言った。
「そうだった、お前達に依頼人が来てたんだ」
「もっと早く言えよ!」
「もっと早く言ってください!」
二人は同時に声を出した。
「ははは! 悪い悪い、さっきの言い合いがインパクト強くてさ」
と笑いながら言う。
栞はついさっきの事を思い出したのか、また顔を少し赤くする。
(しばらくは駄目っぽいな……)
「ところでその依頼人は?」
「あんたの真後ろ」
セレナはザナウを――正確にはザナウの後ろにいるだろう人を指差す。
「は?」
後ろを向くと、何か異様なオーラを放つ人物が『目の前』にいた。
 
ギャァァァァァァァァァァァァァ……
 
ザナウの悲鳴が町中に響き渡ってから2分後、3人は机に座っていた。
「まさか英雄様に叫ばれるとは思いもしませんでした……」
「すいません……」
栞は本当にすまなそうに言う。
「まさか目の前に立ってるとは……」
まだ動悸が荒いのか、ザナウは少し苦しそうに言う。
「とりあえず仕事はなんでしょう?」
「あ、はい。 そうですね」
依頼人は仕事の内容を話し始める。
先日、隣――といってもここからはかなり遠い町が奇声蟲に襲われたらしい。
機奏英雄達も戦いはしたが、さすがに数が多すぎて対処しきれず、
やむを得ず退避してしまった。
町にはもう誰もいなく、どのような状況かも分からないらしい。
「そこであなた達に町の調査をしてもらいたいのです」
「なるほど……」
二人は少し考えてから。
「わかりました。 その依頼、引き受けましょう」
「ありがとうございます」
依頼人は嬉しそうに感謝の言葉を述べた。
「それで……」
ザナウは少しすまなそうな顔をする。
「はい?」
「報酬はどんな感じですか?」
「ザナウさん……」
栞は心底呆れたような顔をする。
「あ! そうでしたね、それでは報酬は――」
 
「いつもの食事を続ければ何週間はもつお金と、
 奇声蟲に遭遇・損傷した場合の危険手当と奏甲整備……と」
ザナウは工房で水色の奏甲、セフィーロ・フリューゲルに乗り込みながら報酬を思い出す。
「条件とても良いと思いません?」
栞はセフィーの足元で呟く。
「奇声蟲と遭遇する事は決まってるようなもんだろ」
「でしょうね……」
ザナウはコクピットのハッチを閉める。
『システム起動、各部に問題なし、アークドライブ正常起動。 よし、乗れ栞』
外部スピーカーからザナウの声が響き、セフィーの手が栞の前に下ろされる。
「コクピットには入れてくれないんですか?
 狭くても一人ぐらい乗れるはずですが……」
不平をもらしながらも栞はセフィーの手に乗る。
『絶対駄目、俺の精神が耐えられない』
断言する。
「どういう意味です? それ」
『どうとでもとってくれ』
ザナウはそう言いながらセフィーを工房の外に出す。
『ザナウ・カナウ! セフィーロ・フリューゲル! 行くぞ!』
その叫びと共に、セフィーは大空へと飛び立った。
 
「さっきの掛け声、何か意味あるんですか?」
『いんや、何も』
 
セフィーで飛び続けて数時間、ザナウ達は問題の町の見える場所まで来ていた。
『静かだなぁ……』
「静かですねぇ……」
しばらく町を眺める。
『特に動きはないな……そろそろ行くか、
 栞はここで待っててくれ』
「わかりました……あの」
栞は少し恥ずかしそうにする。
『ん?』
「気をつけて……くださいね?」
スピーカーから軽い笑い声が聞こえ
『もちろんだ!』
と元気よく答えた。
 
(どうです?)
栞の声が頭に響いてくる。
セフィーは町の上空を飛びながら辺りを見渡していた。
「ひどいもんだな……」
町はザナウの言った通り、町はひどい有様だった。
家だった物。
奏甲だった物。
蟲だった物。
そして――。
「 だった物……」
建物の壁に叩きつけられたかのごとく飛び散った赤い色。
一つだったはずなのに二つになっている物。
「うぐ……」
(吐き気がする……)
それでもザナウは目を逸らさなかった。
これも現実だからだ。
(大丈夫……ですか?)
栞は不安げに訊いてくる。
「ああ……大丈夫だ」
もちろんやせ我慢だ、しかし
(心配掛けられないしな)
そう思いながらザナウは他を探索し始めた。
 
さらに1時間後、ザナウは町のほとんどを探索し終えていた。
(ふむ……これといって特に問題無し……か?)
そう思った瞬間
 
ズズゥン……
 
「!!」
どこかで何かが倒れる音がした。
(ザナウさん! どうしました!?)
「何かがいる! 栞! 戦闘モードだ!」
(わかりました!)
セフィーは何かが倒れたせいで舞い上がった煙を目指して飛び始めた。
 
「はぁ……はぁ……」
少女は何かから逃げるように走っていた。
一体何から逃げているのか?
答えはすぐに出た。
(ドズン!!)
「!?」
近くの壁を突き破りながら奇声蟲が飛び出してきた。
「うぅ……!」
少女は蟲から逃げるべくさらに加速する。
だが、瓦礫に足を躓かせてしまう。
「あうっ……!!」
勢いよく転んだところを蟲が触手で少女の体を縛り上げる。
「い……」
目にはすでに涙が溜まっていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
少女の叫び声が辺りに響き渡る。
『この……! 変態ロリコン野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
その声が聞こえたと思った瞬間、青い巨人が蟲の上に落ちてきた。
「え?」
『青い巨人に乗った英雄様が助けに来てくれるわ……』
それは女性が言った通りの事だった。
 
自由落下に加え、加速もした突撃にもかかわらず、
蟲はセフィーの足から逃れようともがく。
「腐った根性してる割にはいい生命力だなぁおい」
呆れを通り越して感嘆してしまう。
「だからと言って許すはずないけどな」
そう言いながら少女を捕らえている触手を斬り、蟲に止めをさす。
(蟲だからって、気持ちが和らぐわけじゃないけどな……)
セフィーは少女の方を振り向く。
(どうです? ザナウさん)
少女は小さな体で一生懸命自分の体に絡まった触手を外していた。
「子供……だな、ちょいと話してみるわ」
(7・8歳かな?)
そう思いながらザナウはコクピットを開く。
「大丈夫か〜?」
少女はしばらくザナウの顔を見つめていたが、
不意に辺りを見回した後、またザナウの顔を見、
(私?)
という顔をしていた。
「いや、君以外にまだ人がいるならむしろ教えて欲しいんだけど……」
少女は精一杯横に首を振る。
「あ〜……とりあえず落ち着こう、息を大きく吸って〜」
少女は言われたとおりに吸う。
「吐いて〜」
息を吐く
「はい、もう一度〜」
少女はもう一度深呼吸をする。
「落ち着いた?」
『はい……』
控えめな声を集音マイクが拾う。
(やっと喋ってくれた……)
そんな事を思う。
「君一人?」
『はい……』
「他の人は?」
『わかりません……』
少女は悲しそうに俯く。
『すいません……』
「へ?」
『お役に立てなくて……』
「あ〜、いやいや大丈夫! 気にしてないから!」
さらに俯く。
(ああ! 何か俺がいじめてるみたいで嫌!!)
いっその事どこかへ飛んでいってしまおうか、と思い始めた矢先、
何か重要な事を忘れている気がしてきた。
(何でこんなとこにいるんだっけ?)
町の調査に来たから。
(何故調査に来たんだろう?)
奇声蟲に襲われて町の状況が分からなくなったから。
(奇声蟲?)
しばらく考え込んでいると、何か複数の物体がこちらに向かってくる音が聞こえてきた。
「はぅあ!?」
その叫びに少女はビクリと体を振るわせる。
『ど……どうかしましたか……?』
「蟲は一匹見たら三十匹だった!!」
ザナウはそう叫びながらセフィーの手を少女の近くに置く。
「可及的速やかに乗って!」
『はい……?』
「蟲がここに近づいてきてる! さっきの俺の知り合いみたいなのが!」
その言葉に少女は顔を強張らせる。
少女は少しためらうと、セフィーの手の上に乗った。
「よし!」
ザナウは少女がセフィーの手に少女が乗ったのを確認すると、
その手をコクピット手前まで持っていった。
「きゃ!?」
声が近くで聞こえるようになる。
「悪いけど、手の上じゃ危険だ! 入ってくれ!」
少女は不安そうな顔をしながらコクピット内に入ってくる。
(そんな俺怖いかなぁ……ちょっと傷つく)
そんな事を考えてる間にも少女はコクピットに入りきる。
「閉鎖!」
コクピットが閉まる音と共に、奇声蟲が姿を現した。
 
(ザナウさん、どうかしましたか?)
栞の声が聞こえてくる。
セフィーは蟲に包囲されていた。
「また蟲が出た、今度は5匹だな……思ったより少ない」
ザナウはセフィーをホバリングさせながら言う。
蟲はこちらの様子を見ているのか、いきなり襲いかかっては来ない。
(油断しないでくださいね)
「わかってる。 君、かなり揺れるから何かに掴まってて」
少女は何かに掴まろうとコクピット内を見る、が
掴まる物がないのか、困った顔でこっちを見てくる。
「え〜っと……」
(どうしたもんか?)
本気でどうするか考えている間に蟲も痺れを切らしたのか、
すぐにでも襲い掛かってきそうだ。
「ああもう! 俺のどこかにでも掴まってくれ!」
少女は少し悩んだが、勢いよく首に飛びついてくる。
その瞬間、前の方にいた一体の蟲がセフィーに向かって襲い掛かって来た。
(たった一体で突っ込んでくる根性は認めるが)
セフィーは腰に付けられていたブロードソードを抜く。
「勇気と無謀は違う!」
セフィーは剣を垂直に一気に振り落とす。
それだけで蟲は体液を振り撒きながら吹っ飛んで行く。
(まぁ、いっせいに来られても困るだけだけど……)
その思考に答えるように、今度は3体同時に突っ込んでくる。
「期待に答えられても困るんだが……」
セフィーは両肩から火を吹く。
肩に付けられた小型旋回ブースターだ。
これによってセフィーは高速戦闘だけでなく、高機動戦闘も出来るようになった。
「だりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
セフィーはその場で剣を構えながら高速回転し、突っ込んできた蟲を弾き飛ばす。
しかし、攻撃力がほとんど無いため、弾き飛ばすのが限界だ。
「身動き取れなくなるなら十分!」
吹っ飛んだ3体の中で一体が引っくり返って元に戻ろうと足をじたばたさせていた。
セフィーはその蟲の頭に剣を突きたてる。
しばらく足が動いていたが、何かが抜けたように動かなくなる。
蟲に止めをさしているうちに、残りの2体は体制を立て直していた。
「面倒くさいから一気に片付ける!」
セフィーは蟲に突撃し、剣を頭に突き刺す。
そこにもう一体がセフィーに向かって牙を突き刺そうとする。
「剣がふさがっているからといって、攻撃できないと思ったら大間違いだ!」
セフィーはブースターの力を借りて、蟲付きの剣を突っ込んできた蟲にぶつける。
当然牙は剣付きの蟲に突き刺さる。
牙が蟲に引っ掛かっているうちにセフィーは剣を抜く、そして
「ちぇありゃぁ!」
牙を突き刺して身動きできなくなってしまった蟲を叩き切る。
「ラスト!」
今まで微動だにしなかった先程の4体より一回り大きい蟲のみだった。
セフィーは最後の蟲に向かって一気に飛ぶ。
その途中でセフィーは剣を蟲に向かって投げる、
蟲にとっても意外だったのか、反応できずに剣の半ばまで突き刺さる。
セフィーは先程と同じように回転し、
「こんちくしょおぉぉぉぉぉ!」
と叫びながら、遠心力の乗った拳を剣の柄に叩きつけた。
 
『お疲れ様です、ザナウさん』
集音マイクから栞の声が聞こえてくる。
ザナウはコクピット内で気絶寸前の少女を見る。
(だ……大丈夫か?)
さすがに戦闘に無茶があったらしい。
とりあえずコクピットから出てから介抱することにした。
 
「この子が先程言っていた子供ですか?」
「まぁ、そうなんだが……」
少女は目を開けながら震えていた。
「俺始めて見るわ、目を開けながら意識が無く、震えてる人」
「私もです……」
とりあえずザナウは
「大丈夫か〜?」
と、頬を軽く叩いて少女に呼びかける。
数回続けると不意に少女はビクっと震え、上半身だけ勢いよく起きる。
「わ! 私!?」
「落ち着け! 深呼吸だ!」
初めて会ったときと同じことをした後、ザナウは少女に事情を聞いた。
「私はあの町でいつもどうりの毎日を送ってたんですけど……
 昨日の夜、急に奇声蟲に襲われたんです……」
「何で君だけあそこにいたの?」
「私はお母さんに床下に入れられてたから……」
そこまで言って少女は何かに気がついたかのように顔を上げる。
「そうだ! 私のお母さんは!?」
ザナウ達は少し苦い顔をする。
「わからない……俺達が来たときには町はあの有様で、
 調査中では君にしか会っていない……」
その言葉に少女は泣きそうな顔になる。
「ああ〜!! でもほとんどの人達は避難してるからきっとどこかの町にいるよ!」
「そ……そうですよ! きっとどこかで元気にしてますよ!」
しかし少女の顔はあまり晴れなかった。
「そうですね……ありがとうございます、え〜っと……」
3人は顔を見合わせる。
「よく考えたら自己紹介してなかったな……」
ザナウは苦笑する。
「俺の名前は、か……ザナウ・カナウだ、ザナウお兄さんと呼んでくれっ!?」
栞の左がザナウの腹部にもろに入り、吹っ飛ぶ。
栞は何事も無かったのように自己紹介を続ける。
「私は雪乃栞、栞と呼んでください」
「私は……ミルム、ミルム・フォーレです」
ミルムは控えめに答える。
「それで、ミルムちゃんはどうします? とりあえず町まで送りますけど……」
「俺がセレナさんに頼み込んでも良いぞ……?」
ザナウは少し苦しそうに言う。
ミルムは少し悩んでから
「私は――」
 
いつもどうりの朝、ザナウは栞の洗礼を受けたせいで頭が痛かった。
「なぁ栞……」
「なんです?」
ザナウは頭を抑えながら言う。
「もっとやさしく……」
「自分で起きてください」
「ひどい……」
ザナウは疲れているのか、声に覇気が無い。
「セレナさん、栞に言ってやってくださいよ〜」
厨房で料理を作っているだろう人に声をかける。
「はいはい、あんた達は本当に毎日飽きないねぇ……」
いつもどおりの声が響いてくる。
「おはようございます、ザナウお兄さん、栞お姉さん」
ミルムの声が食堂に響く。
結局、ミルムはザナウ達に付いて来ることにしたらしい。
「おはよ〜ミルム」
「おはよう、ミルムちゃん」
「はい、おはようございます」
ミルムは笑顔で挨拶をした。
 
 
 
 あとがき〜
長い長い、駄文の癖に長すぎるっぜ!
そんな訳でここには初投稿でっす。
微妙にハイテンションなのは疲れてるからです。
 
 自己評価〜
やるせないほど描写が微妙な気がする……
しばらく書いてないうちに皆様うまくなりすぎです!
自分も頑張らねば……。
自分が持てる限りの妄想をぎゅんぎゅん回すっきゃない!

誤字脱字があったら報告してください。

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