「あ、じゃあ町の外にいたビリオーンはソード先輩のだったのか」
「ああ」
すでに空が青から赤へと変わる時間、
いくら隣町とはいえやはりかなりの距離がある。
「それにしても何で右腕が無いんだ?
 誰か腕の立つ英雄にでもやられたのか?」
普段は人で賑わう道も今はほとんど人はいない。
「そんなところだ」
夕日に照らされる道を進む、五つの影。
「ふ〜ん……」
しばらく歩き続けると、ちょっとした広場に出た。
「ん……」
いままで日の光を遮っていた建物がなくなり、
日陰の暗さに慣れていた目を焼かれる。
それでも彼――ザナウは手で目を覆いながら思った。
「いい夕日だ……」
 
           『成長する翼 〜再会 そして初めまして〜』
 
「それにしてもザナウさん」
「ん〜?」
いままで後ろで栞と雑談していたネリーが不意にザナウに話しかける。
「さっきからザナウさんの後ろにいるその子は……?」
ザナウの後ろ――正確には左斜め後ろにいる少女。
今は何故か怯えた目をしながらザナウの左腕にしがみ付いている。
「あ〜っと、この子は……」
どう説明したもんか?
いや、別に説明する必要はない。
ただ一言言えばいいのだ
『孤児だ』と
それだけで二人は理解するだろう
しかし、そんな事を本人の前で言えるはずがない
そもそもこの子の親が死んだとは思っていない
だったら答えは一つ
「しばらく俺たちが預かってるんだ、ほら」
ザナウはミルムを自分の前に立たせようとする、が
「むぅ〜〜〜」
何故か出ようとしない。
「どうした?」
「だ、だって……」
ミルムは少し言いづらそうにしながら
「怖い……お兄さん……?」
ソードを見ながら言った。
「あ……」
忘れかけてた真実。
この町に来た時にホラ吹いたんだよな、しかも誤解といてないし。
「あんな大ホラ信じてくれるなんて……お兄ちゃん嬉しい!」
ザナウはそう言いながらミルムの頭を撫でる。
「だが謝らん」
「いや! 謝りましょうよ!!」
「俺のプライドが許さん!!」
「そんなプライド捨ててください!!」
「何ぃ!? そもそもだなぁ!!」
結局いつも通りの言い合いが始まる。
「……こいつらは喧嘩しないと気がすまないのか?」
「でも、ザナウさん達らしくていいと思います」
喧嘩は結局紅色の空から濃い紺色の空に変わるまで続いた
 
勝敗:乱入者ソードによる一発K.O.
 
「はい、という訳でルスフォノクラスタで〜す」
「何が『という訳で』だ、ここまで来るのにどれだけの時間が経ったと思ってる」
辺りはすでに暗く、もはや外を出歩く人はいないに等しい。
「まぁ、気にするな♪」
言いながらザナウは工房の中へ入っていく。
栞はすまなそうな顔をしながらミルムを連れてザナウの後を追う。
「……気にするから言っとるんだ」
「はは……」
ソードとネリーの声はどこか疲れていた。
 
「ルスフォンさ〜〜〜ん!!」
いまだ奏甲の整備をしているので、工房の中はかなり大きな音を出している。
その音に負けないよう、ザナウは大声で目的の人を呼ぶ。
しばらくすると、工房の奥から慌ただしく走ってくる女性。
ルスフォンだ。
「ザナウさん! お久しぶりです!!」
ルスフォンはザナウの前まで走ってくると、右手を差し出した。
「ああ、お久〜」
ザナウは差し出された手を握る。
「それで、今日はどんな御用です? わざわざこの町まで来たという事は結構大きな事ですよね?」
ルスフォンは期待の目でザナウを見る。
「ん、ちょっと最近ボロが出てきたからそれの整備」
「……そですか」
とてもわかりやすく落胆する。
そんなルスフォンを見ながらザナウは言葉を続ける。
「そして、セフィーの改造だ!!」
その言葉とともに、ルスフォンは再び目を輝かせる。
「それでこそザナウさんです!!」
「やるぞ〜〜〜!!」
「お〜〜〜!!」
ザナウとルスフォンはしばらくどこかを見つめていた。
「あ〜、やる気になってる所すまんが……」
「あ、忘れてた」
とりあえず現実世界に戻ってきたようだ。
「え〜っと……どなた様でしょうか?」
「ソード・ストライフだ」
「コルネリア・シェーンベルクです。ネリーとお呼びください」
ソードはぶっきらぼうに、ネリーは丁重に自己紹介をする。
「はい、ソードさんにネリーさんですね。それで今日はどんな御用でここに?」
「こいつと同じく、奏甲の整備と強化だ。中々に『使える物』が手に入ったのでな」
ソードはザナウを一目見、簡潔に説明する。
「頼めるか?」
「もちろんです!! 改造大歓迎、どんと来いって感じです!!」
ルスフォンは喜びを押さえきれないのか、止まっていられず忙しそうに動いている。
「ところで、奏甲は何処ですか?」
「ああ、町の外においてある。直接来る訳にもいかないし」
「私は直に来て頂いてもよかったんですが」
「さすがにそれはまずいって」
ザナウは苦笑しながら言った。
「皆〜! 仕事追加です! ザナウさん達の奏甲を工房に搬入してください!!」
ルスフォンは工房全体によく響く声で叫んだ。
その言葉に答えるように工房スタッフがこちらに走ってくる。
「いや、俺は感謝される事なんて何も――ぐはぁ!?」
言いきる前にザナウの首に先頭を走っていたスタッフの腕が直撃
「むぐぅ!!」
次に体が浮いている所を鳩尾に正拳がめり込み
「どぅむぅ!!」
床に叩きつけられた所を顔面に肘が突き刺さる。
なんとなく名づけて《アーク・ストリームアタック》
『私達の……私達の睡眠時間を返せぇ!!』
さらに遅れてきたスタッフ達に踏み付けられる。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!?」
「ザナウさん!?」「お兄ちゃん!!」
 
彼女達は泣いていた
心の底から泣いていた
故に彼女達の言葉はこの世で一番純粋かつ切実な想いでもあった
 
「まったく、どこかで聞いたことがある声だと思ったらお前か、ザナウ」
その言葉共に、複数の打撃音が止まる。
「あ、カイゼル様」
「……カイゼルだと?」
ソードが腕を組み、考え込む。
「お久しぶりです、栞さん」
「サレナさん! お久しぶりです」
サレナと栞が再会を喜んでいる横をカイゼルが通り、
まるで小学校の1学期から3学期まで使い続けられたボロ雑巾の様になって倒れているザナウの前に立つ。
「まったく、お前は何かしら騒動を起こさないと気がすまないのか?」
言葉に棘はあっても、その顔は楽しそうに笑っていた。
しかしザナウは反応しない。
「おいザナウ、ふざけてるのか?」
カイゼルはかがんでザナウの体を揺らす。
「う……うぅ……」
「! ザナウ、大丈夫か!?」
ザナウは何かを捜し求めるように手をさ迷わせる。
カイゼルはその手を握る。
「カイ……ゼル……」
「な、何だ?」
「どうして……一年戦争時の連邦軍は肩にキャノンを付けたがるんだろうな……」
そこまで言って、ザナウの手からガクリと力がなくなる。
「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カイゼルは心の底から叫んだ。
 
「いや〜、今回ばかりはマジ死ぬかと思いました」
ザナウは栞に怪我の治療をされながら言葉を放つ。
「というか何で死なないんだお前……」
「ん〜、最近自分でも不思議……」
ザナウは腕を軽く回し
「かなり痛いけどね〜」
苦笑しながら腕を元の位置に戻す。
「まったく……」
カイゼルは肩をすくめながら壁に寄りかかっているソードの方へ向かう。
「久しぶりだな」
カイゼルが自分の方へ向かってくるのを確認し、話しかける。
「ああ、まさかこんな所で会えるとは思わなかったよ」
カイゼルはソードの隣に同じように寄りかかる。
「最初に会った時はお互いギリギリだったな、今でもよく生き残れたもんだと思う」
「二人だけであの大群を相手にするとは思わなかったがな」
「まぁ、こんな所で立ち話もなんだ。 場所を変えないか?」
「そうだな」
お互い頷くと、壁に寄りかかるのをやめ、普通に立つ。
「あいたたたたたたたたたたたた!!!? もうちょい優しく!!」
「だったら動かないでください……」
栞はため息をつきながらもザナウの治療を続ける。
「ところで……あれをどう思う?」
カイゼルはザナウを指差しながらソードに訊く。
「アホだな」
「キッパリというなお前も……」
「だが――」
ソードは今も痛みに暴れているザナウを軽く見て
「中々に面白い奴だ」
ニヤリと笑いながらそう言った……。
 
「ここに来るのも久しぶりだな〜」
ルスフォノクラスタを出て数分。
ザナウ達は温泉喫茶キャロル(今はCloseの看板がぶら下がっている)の前まで来ていた。
「別れて以来、こっちには来てないんだろう?」
「まぁそうだけどさ」
「とりあえずとっとと入ってくれ、こっちはお前に付き合わされて疲れてるんだ」
ザナウとカイゼルの後ろでソードは気だるそうに言う。
「うわ、ひどい」
「いや、気持ちは痛いほどわかるな」
ドアノブに手をかけながらカイゼルはソードの言葉に同意する。
「これはあれか? 今巷で有名な集団イジメですか?」
「いえ、事実だからしょうがないかと……」
「どうして諦めきった表情でそんな事言うかなぁ」
「よっと」
ザナウがぼやいている間にカイゼルはドアを開く、
喫茶店特有の呼鈴が鳴る。
「あ、すいませんお客様、今日はもう閉店――
 カイゼル様とサレナ様じゃないですか、お帰りなさいませ」
中に入ると丁度片づけ中のネレイスがいた。
「ああ、お前もご苦労だな」
「いえいえ、この程度はまったく苦ではありませんよ」
「やっほ〜、お久しぶりっす」
ザナウはドアをくぐりながら気軽な挨拶をする。
「あらザナウ様、お久しぶりです」
ネレイスは一つお辞儀をした後、微笑む。
「相変わらずメイドやってるようでなにより」
ザナウは嬉しそうにうんうんと頷く。
「何か嬉しそうですねぇ……」
同じく喫茶店内部に入ってきた栞がぽつりと呟く。
ミルムは今は栞と手を繋いでいる。
「あらあら栞さんもお久しぶりです」
「あ、お久しぶりですネレイスさん!」
栞は慌ててお辞儀する。
「は〜、素敵なお店ですね〜」
少し遅れてネリーとソードが入ってくる。
「あら、そちらの方は初めて御会いになりますね」
「あ、はいコルネリア・シェーンベルクです、ネリーと呼んでください
 そしてこの人が――」
ジャキン!!
『はいぃ!?』
突然ソードとネレイスがどこかに持っていた拳銃を同時に構えていた。
「ちょっ……! ソードさん!?」
ネリーが心底驚いた顔でソードを見る。
二人はしばらくお互いの顔を睨みあう
しかし、次の行動は引き金を引く事ではなく、破顔だった。
「ふむ、かなり出来るようだな」
ソードは銃をしまいながらネレイスに話しかける。
「あなたもかなりの腕と見ます」
同じく銃をしまい
「私、ラウロッシュ家使用人部門主任。ネレイス・イニシエイトと申します。
 以後、御見知りおきを」
優雅に御辞儀する。
「俺はソード・ストライフだ、宜しく頼む」
二人は何かを認め合うように握手する。
「……それで」
その光景を少し離れていた位置で見ていた栞が隣に立っているザナウに訊く。
「結局今のは何だったんです?」
「俺に訊かれてもなぁ……」
ザナウは困った表情をしながら言った。
 
「あ〜疲れた……」
「ふふ、食べるに食べた後に暴れるからですよ」
あの後全員で簡単な自己紹介をし、夕食でかなり盛り上がった。
カイゼルとソードは自分より前に会った事があるらしく、昔話に華を咲かせていた。
ザナウ達(ミルムは疲れて寝ている)は今はネレイスに部屋の案内をされている。
「そういう事はキャロルに言ってくれ……それにしても――」
ザナウは不意に手で口元を覆う。
「ソー……とん!」
笑いをこらえきれないのか、体が微妙に震えている。
「ザ、ザナウさん……笑っちゃ失礼ですよ……!」
そういう栞も顔が少しにやけている。
「キャロル様はいつも素敵な愛称を考えてくれます――ここですね」
ネレイスはいくつかある内の一つのドアの前に立ち止まる。
「鍵は渡します。それでは私はこれから一仕事があるので」
「うい、さんきゅう」
「ありがとうございました」
ネレイスはそれではと言うと、歩いているとは思えない速度で来た道を戻っていく。
「さて、入るか」
「そうですね」
ザナウは鍵を使ってドアを開ける。
中は結構広く、物を片付ければそれなりに人数が寝れそうだ。
「さてと……」
ザナウは手に持っていた荷物とミルムを降ろすと、ソファーに寝転んだ。
「まさか寝る気ですか?」
「寝る気も何も寝るに決まってるだろう、今日は点検するらしいからセフィーいじれないし」
「ソファーにですか?」
「最近ベッドだと妙に寝づらくてな」
「それって結構重症な気がするんですけど……」
栞は軽くため息を吐く。
「栞も……早めに寝ろよ〜……」
意識が急速に闇に包まれていく、思っていたより疲れていたようだ。
「言われなくてもそうしますよ……お休みなさい、ザナウさん」
栞はそう言いながら既に寝てしまったザナウに毛布を掛けた。
 

作「まぁ、なんだ……」
栞「?」
作「御免なさい、かなり時間かかったくせに内容薄いです」
栞「そうですねぇ、次こそ次こそ言って結局書けませんでしたしねぇ」
作「うぐぅ、栞君ひどい」
栞「でも事実でしょう?」
作「はい……」
栞「はぁ……ザナウさんより情けない……」
作「うるさいよ! ……とりあえず」
栞「?」
作「溢れる妄想ぶっ飛ぶ浪漫! セフィーは一体どんな改造をされてしまうのか!?
  次回! 成長する翼 〜改造一日目〜 次もザナウが暴れます!!」
栞「期待せずに待っててくださいね〜」
ザ「一言余計!!」

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