ミルム日記 その1
 
今日は町で買い物中、お兄ちゃんに
「何か欲しい物でもあるか?」
と訊かれたので何となく目に付いた日記帳を買ってもらいました。
お兄ちゃん曰く
「日記なんていつか書き忘れるものだ……」
と明後日の方向を見ながら言ってましたが、私はなるべく毎日書こうと思います。
 
早速今日の事を書こうと思います。
 
町から帰ってからお兄ちゃんとお姉ちゃんが日記の事で話してました。
「日記なんて夏休みの宿題くらいでしか書いたことねぇな、俺」
「そんな物があるんですか?」
「ああ、大抵休み後半まで書き忘れててな、最初の方はうろ覚えで書くんだよ、
 気がついたら捏造し始めてる自分がいるわけだ」
「はぁ……」
「もっとひどいのはヒマワリの観察日記だな」
「どんな風にひどいんですか?」
「世話自体忘れてな、気がついたら庭の隅で枯れてやんの」
「ひど……」
「しょうがないから友達の丸写し。今思うとすごい事やらかしてんな、俺」
「その頃から馬鹿だったんですね……」
「それは聞き捨てならんな……子供は皆馬鹿なんだよ」
「言い切るあなたはいつもすごいと思います……」
 
あれ? 何か書きたいものと違う気がする……。
でもこれはこれで面白いのでいいと思います。
今日はここまでにして、また明日の事を書こう。

ミルム日記 その2
 
 今日はいつもより騒がしく、ガラスのような物が割れる音がしました。
私が『ソファー』から起き上がり、窓を見るとガラスのような物じゃなく、
ガラスが割れてました。
何事かお姉ちゃんに訊こうと台所の方を見ると、すごい形相で野菜を微塵切りにしていました。
「私じゃなくて小さな子供のほうに手を出すなんて……最低です!!」
最後の言葉と共に包丁が『ダン!!』と大きな音を立てて振り落とされました。
正直怖かったです。
何故か話しかけるのは危険な気がしたので下に降りる事にしました。
 
 下に下りるとセレナおばさんに包帯を巻かれているお兄ちゃんがいました。
どうやら窓が割れたのはお兄ちゃんが吹っ飛んだからみたいです。
「あんた今度は何をやらかしたんだい?」
「知るか、朝栞に起こされたら隣にミルムが寝てただけだ」
『そりゃお前が悪い』
「全員で同じ事言うなぁ!!」
「酒かい? 酒があんたを変えたのかい?」
「飲んでないし!! そもそも俺は昨日普通に寝てたし!!」
「男は皆そう言うんだよ……」
「何であんたがそんな事知ってんだよ!!」
「お兄ちゃん、セレナおばさんおはようございます」
「ああ、おはようミルム……」
「強く……強く生きるんだよ……!」
「まだ引っ張るか!!」
 
今日も朝から賑やかでした。

ミルム日記 その3
 
 今日は朝ごはんを食べているところに常連さんの英雄様が話しかけてきました。
「ザナウ、野球やらねぇか?」
「野球? 商品は何だ」
「負けたチームがここの食堂で夕飯を奢る」
「ノった、アタッカーの武装は?」
アタッカー? 武装?
「鉄製バットだ、改造は反則だ」
「ん、スナイパーは?」
「普通の硬球だな、別のチームでは鉄球と手榴弾が流行ってるらしいが、
 あれは駄目だ、わざとピンを外したり当ててくる輩が出る」
「だろうな……ストックは?」
「5人までだ」
「厳しいな……」
他にもいろいろ話してましたが、よくわからないので聞かない事にしました。
「そんな訳で行って来るわ」
「あ〜行って来い行って来い、そして帰らぬ人になれ」
「それは宿泊代踏み倒していいという事か?」
「……やっぱ帰って来い」
「どっちだよ」
 
とりあえず私とお姉ちゃんも付いてくことになりました。
 
全部書くととても長くなってしまうので最後だけ書くことにします。
でも
「地雷仕掛けるのは卑怯だぞ!!」
とか
「えび○りハイジャンプを再現しようとすな!!」
との叫び声が聞こえてきたのは怖かったです。
戦況は5対5、9回裏で2アウト。
最後の打者はお兄ちゃんです。
「ザナウ……俺は今日のすべてを賭けた……後は頼む……!!」
そう言った後、何故かガクリと倒れてしまいました。
「ああ、でっかいのを打ち上げてやるぜ……」
お兄ちゃんは何故か原型がなくなり始めている試合場へ歩いていきました。
「ザナウ!! てめぇ朝から栞ちゃんといちゃいちゃしやがって!!
 正直羨ましいんだよ!!」
「あれをいちゃいちゃ言うならゴジ○とキン○ギドラの戦いもいちゃいちゃになるだろうがぁ!!」
その言葉を聞いた瞬間、お姉ちゃんの顔が引きつったのを私は忘れません。
「受けてみろ!! 俺の恨みと嫉みの一球を!!」
投げられた瞬間、お兄ちゃんの周囲の空気が変わった気がします。
「その程度の球で俺を止められると思ったら大間違いだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
お兄ちゃんが球を打ったときの音はこんな感じでした。
 
ゴッ!! キュウン――
 
一瞬で球が見えなくなりました。
スナイパーさんはその場で髪を白くして崩れ落ちていました。
そしてお兄ちゃんはホームインした瞬間お姉ちゃんに飛び蹴られました。
 
 今は下の食堂で宴会騒ぎをしています。
私も少し騒ぎに入った後寝ようと思います。
また、明日も書けたらいいな……

ミルム日記 その4
 
 今日は特に何事も無く、部屋でのんびりとしてました。
毎日が騒がしいとちょっと物足りない気がします。
「栞」
「何です?」
「俺のために飯を作ってくれ」
「…………」
「…………」
「机の上に頭を乗せて涎を垂らしてなければドキっとしたかもしれませんのにねぇ……」
「切実なんだよ」
「はいはい分かりました、ちょっと待っててくださいね」
「あいさ〜」
お兄ちゃんとお姉ちゃんはやっぱり仲が良いと思います。
他に面白い出来事も無かったので今日はここまでにします。

ミルム日記 その5
 
 今日はお兄ちゃんの謎に迫りたいと思います。
 
「お兄ちゃん」
「ん〜?」
「お兄ちゃんは不死身なの?」
「……いいかい? ミルム、お兄ちゃんも死ぬ時は死にます」
「え……でもこの前2階の窓から頭で落ちても――」
「死にます」
「で……でも」
「死にます」
「えっと……」
「死にます」
「うん……」
「ん、いい子いい子」
 
とても怖かったです

ミルム日記 その6
 
 今日は町でちょっとした祭りをやっていたので、お兄ちゃんたちと一緒に遊びに行きました。
 
「お〜、金魚救いか」
「何か違うような気がするんですけど」
「気のせいだ」
「そうですか? う〜ん……」
「とりあえず一回やってみるか、お姉さん一回」
「はい〜」
「よっしゃ」
お兄ちゃんは次々にお椀に金魚を入れてきます。
「お〜、お客さん上手いですね〜ってそれ網じゃないですか!!
 何勝手に使っちゃってるんですか!!」
「細かい事は気にするな〜」
「細かくないし、気にしますよ!! それ売り物なんですから!!」
「度量が小さい人だ……」
「何なんですかこの人〜〜〜!?」
 
この後お兄ちゃんはお姉ちゃんに商品の金魚鉢で頭を殴られました。
損害賠償で3500Gを払わされました。

ミルム日記 その7
 
 今日はお兄ちゃんが時々口にする『ルスフォンさん』がどんな人か訊こうと思います。
 
「お兄ちゃん、ルスフォンさんってどんな人なの?」
「改造マニア」
「まにあ?」
「そう、マニア。俺のセフィーもあの人が改造したんよ」
「ふ〜ん」
「と言っても完全じゃないんだよな……」
「どうして?」
「実はまだ改造案はあったんだが、時間が無くてな……不完全なんだよ」
「せふぃーは充分強いよ?」
「まだいろいろと問題点があるからな、その内もう一回いかなきゃ……」
「ん〜……」
 
お兄ちゃんはまだせふぃーを強くするみたいです。
今度はどんな形になるんだろう?

ミルム日記 その8
 
 今日は特にやる事が無かったので、お兄ちゃんと釣りにいこうとしました。
 
「よし、食料を調達しに行くぞミルム」
「うん」
「ちょっと待てザナウ」
「待たない」
カツーン
「いいから待て」
「はい」
「今から釣りに行くって事はそれだけ今日は暇があるってことだよな?」
「俺の食料調達は暇つぶしではない」
「店の手伝いをしろ。暇な時は手伝うが宿泊半額の条件だろうが」
「俺達の飯を質素にする気か」
「質素なのはお前が甲斐性無しだからだろ」
「うぐ……」
「ほれ、手伝え」
「わかったよ……」
 
お兄ちゃんは甲斐性無しなんでしょうか?

ミルム日記 その9
 
 今日はいつもより遅くこの日記を書いています。
とりあえず何故遅れたかを書いてみようと思います。
 
ゴト……
「?」
ゴト……ガサガサ
「何……かな?」
もうお兄ちゃん達は寝ているはずなのに隣の部屋から何かを漁る音がします。
私は恐る恐るドアを開け、隣の部屋に入ります。
「誰か……いるんですか?」
私は耳を澄ましながら音を発している場所へ向かいます。
ガサガサ
誰かがいるのはよくわかるのですが、暗くてまだよく見えません。
「どなたですか?」
「!?」
声をかけた瞬間、そこには驚いた顔をしたお兄ちゃんがいました。
「お、お兄ちゃん! 何――」
私が言い終わる前にお兄ちゃんは私の口を押さえ込んで来ました。
「落ち着け、別にプロトニウムを撒こうとかそんな事は考えてないから――
 ってミルムか……」
そう小声で言いながらお兄ちゃんは口から手を離しました。
「お兄ちゃん何やってるの……?」
とりあえず私も小声で話すことにします。
「見てのとおりつまみ食いだ」
確かによく見ると様々な食料が散らばっていました。
「ご飯一緒に食べたよ?」
「あれだけで足りるか、明日の朝には干からびてるぞ、俺」
「ザナウさんは私の料理にご不満ですか……そうですか」
ゾクゥ!
私でも感じられる殺気が後ろの方から感じました。
「まじぃ!!」
お兄ちゃんは頭を曲げると、お兄ちゃんの頭があった位置に何かが高速で通りました。
ゴギャ!
「いや、別に栞の料理には不満は無い!! ただ量がちょっと少ないなぁ〜って……」
暗がりでよく見えないので近づいてみてみると、先程の飛んできた物はフライパンでした。
「言い訳なんて聞きたくないです!!」
 
この話には暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
 
お兄ちゃんが悪いと思います。
何故だかそう思います、何故でしょう?

ミルム日記 その10
 
 朝、気がつくと私はお兄ちゃんの毛布で寝ていました。
寝ぼけた目で周りを見渡すと、何故かお兄ちゃんが血だらけで倒れていました。
何故でしょう?
昨日のことを思い出そうとすると頭が痛いです……。
「おはよう。ミルムちゃん」
「あ、お姉ちゃんおは――」
お姉ちゃんの顔を見た瞬間、何故か寒い感じがしました。
それと共に暗い部屋でお兄ちゃんが――
「どうしたの? ミルムちゃん」
その言葉に私の思考は止まりました。
「えっと……何でもない」
「そう、じゃあご飯作るの手伝ってくれる?」
「うん」
 
今日もいつもと変わらない日でした

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