ミルム日記 その21 今日はセレナおばさんの店の手伝いをした後、 お兄ちゃんが私とお姉ちゃんにちょっと手伝って欲しいと言ってきました。 「訓練……ですか?」 「そんな大層なもんじゃないけどね〜」 「何をすればいいの?」 「うん、そこの木の束を俺に向けて投げてくれるだけでいいから」 「え……でもこれ店の薪じゃ……」 「いいから」 「じゃあ片付けはザナウさんですね」 「そんな事言うとお兄ちゃん爆裂するぞ」 「訓練でしてください――たぁ!」 お姉ちゃんは言い終わると同時に薪を投げました。 「はっはっは、不意打ちとは随分実戦的じゃないか栞く〜ん」 お兄ちゃんはそれを軽々と避けてしまいました。 「これでどうです!」 今度は連続で投げます。 「あぁ、栞く〜ん! さっきから殺意が見え隠れしてる気がするんだが〜!!」 お兄ちゃんはそれをまるで見えているかのように避けます。 しばらく投げては避けてを繰り返してましたが、 「ごはぁ!」 不意にお兄ちゃんは頭に高速で飛ぶ薪が直撃しました。 「よし……!」 お姉ちゃんは小さな声で喜ぶと、薪を投げるのをやめました。 「む〜、やっぱ連続使用は2〜3分か……うん、明日は普通に避けてみるか」 お兄ちゃんは頭を押さえながら呟きます。 何の事でしょう? ミルム日記 その22 今日もお手伝いが終わった後、お兄ちゃんの訓練に付き合いました。 「てい!」 お姉ちゃんが勢いよく薪を投げます。 「ん」 パン! お兄ちゃんは飛んできた薪を平手ではじきます、昨日とは避け方が違います。 その光景が昨日より長く続きます。 「まだ……投げるんですか?」 お姉ちゃんはかなり息が上がってます。 「最初の方で嬉々と投げるからだ……ま、今日はここまででいいか」 昨日と今日は避け方が違いました。 何故でしょう? ミルム日記 その23 今日は買い物の途中で雨が降りました、おかげでびしょ濡れです。 そのまま過ごす訳にもいかないので着替える事にしました。 「栞〜、お兄ちゃん風邪ひいちゃうよ〜」 ドアの外からお兄ちゃんの声が聞こえてきます。 「誰が私のお兄さんですか、もう少しそこにいてください」 「ひどい〜、っくし」 お兄ちゃんが小さく咳をします。 思っていたより小さかったのでびっくりです。 「あともうちょっとです」 「早く〜、っくし」 風邪をひかなければいいけど……。 ミルム日記 その24 お兄ちゃんならもしかしたら……と思ったけど、やっぱり風邪をひきました。 と言ってもあまり熱は無く、少しだるい程度だったそうです。 「にゅう……情けない」 いつものソファーの上でお兄ちゃんは少し弱く喋ります。 「大丈夫ですか?」 「あ〜、大丈夫じゃないから風邪ひいたんだけどね…… まぁ、俺のことは気にせず下を手伝ってきてくれや」 「……わかりました、何かあったら呼んでくださいね?」 「あいよ〜」 お兄ちゃんは手をひらひらさせながら私達を見送りました。 部屋から出るとお姉ちゃんが小さく 「あの人どうして変なときに意地張るのかなぁ……」 とぼやいていました。 結局お兄ちゃんは夜にはほとんど治っていました。 ミルム日記 その25 今日はお兄ちゃん達が久しぶりのお仕事だったのでいませんでした。 なのでセレナおばさんのお手伝いをしました。 「ミルムもすっかりここに慣れたよなぁ……」 おばさんがしみじみと言いました。 「そうかな?」 「ああ、初めてここに来た時はかなり戸惑ってた」 「ここに来る人達は優しいし、おもしろいもん」 「はは、ここに来る奴は結構特殊だからなぁ…… てかなんであんな奴らしか来ないんだろうな」 言い終わった後に小さくため息を吐いてました。 「ははは……」 やっぱりお兄ちゃん達も特殊なんでしょうか? ……あれ? 私も入るのかな? ミルム日記 その26 今日は特にやる事も無く、ただのんびりとした時間が過ぎました。 「お姉ちゃん、お兄ちゃんは?」 「ザナウさんだったらたぶん屋根の上です。 時間が余ると空を眺めてるか寝てるかの二択ですし。 部屋にいなければ屋根の上です」 やっぱお姉ちゃんはお兄ちゃんのことをよく見てます。 屋根を上るとお兄ちゃんがぼんやりと空を眺めていました。 「お兄ちゃん」 「ん〜? あ〜ミルムか〜」 声までのんびりしてました。 「空に何かあるの?」 「楽しい物だったら無いよ」 「じゃあ何でずっと眺めてるの?」 「こうやってぼーっと空を眺めてると、いろいろ考えられるからな」 「何を考えてたの?」 「……俺がまだあっちの世界にいた時の事」 この時、表情が少し暗くなった気がしました。 「お兄ちゃんの世界って――」 「さて! 下に戻りますか!」 お兄ちゃんはそう言うとすぐに部屋に戻ってしまいました。 話せない理由でもあるのでしょうか? ミルム日記 その27 今日はお兄ちゃん達が依頼で出かけてしまいました。 こうなると私はセレナおばさんのお手伝いです。 「ミルムちゃん水頂戴」 「はい」 「ミルムちゃ〜ん、注文〜」 「はい〜」 「ミルム〜、ちょっとこれ運んで〜」 「は〜い」 「ミルムた〜ん」 お兄ちゃん達がいないととっても忙しいです。 でもこれを今まで一人でこなしたセレナさんはすごいと思います。 それにしても時々「たん」と付ける人がいるんですけど…… 何なんだろう? ミルム日記 その28 今日は風が強い日でした。 風は髪を乱されるのでちょっと苦手です。 「ザナウさん! そんな所にいたら落ちますよ!?」 「馬っ鹿お前こういう日だから外に出るんだろうが!」 だからって屋根は危険だと思います…… 「ん〜、そよ風もいいけど時々こう吹き荒れるのもいいなぁ」 お兄ちゃんは本当に楽しそうに言います。 「でも雨は降って欲しくないなぁ」 誰だってそう思います…… ミルム日記 その29 今日はお兄ちゃん達が依頼から帰ってくると暗い顔をしていました。 「まさか……ねぇ」 「本当まさかでしたよ……」 お兄ちゃん達はハァ……っと同時にため息をつきました。 「まさか……殴っただけでセフィーの肩から下が外れるとは……」 「おかげでまた資金が……」 「そろそろルスフォンさんの所に行かないとまずいかねぇ……?」 「そうですねぇ……」 その後も何回もため息をはいていました。 ミルム日記 その30 今日はお兄ちゃん達と警備の依頼で夜の街を歩き回りました。 普段は依頼には連れて行ってくれませんが、 「まぁ、町中なら大丈夫だろ」 という微妙な理由で許可をもらいました。 「特に異常なし……暇だ」 お兄ちゃんはランタンを持ちながら不穏当な事を言いました。 「何か出て欲しいんですか?」 「それはそれで面倒くさいからいいや……」 夜の町はいつも日中に歩いている場所とは思えないほど別の物に見えました。 「怖いか?」 町並みを見渡していたらお兄ちゃんが話しかけてきました。 「ちょっと……お兄ちゃん達は怖くないの?」 『まったく』 私はこの人達にはいつまでも追いつけないな〜と思いました。 |