ミルム日記 その31
 
 今日は下で宴会騒ぎなので自分達の部屋にいました。
しばらくボーっとしているとお兄ちゃんがドアを開けて入ってきました。
 
「ザナウさん、お帰りな」
ドサ
「ちょっ! どうしたんですか!?」
「どんな……理屈だよ……」
「へ?」
「吐いたら酔ってるって……」
「…………?」
 
とりあえず話をまとめると、
お兄ちゃんがやる事が無くなったので隅でお茶を飲んでいると、
セレナおばさんに話し掛けられたようです。
 
「ザナウ、一杯どうだ?」
「未成年ですわおば」
カッ!
「ほら、飲め」
「いらん、と言うか何であんたまで皆に混じって飲んじゃってるのさ」
「ノリだノリ」
「そうか、ノリか」
「そう、ノリ」
「そうかそうか」
「だからお前もノリで飲め〜〜〜!!」
「もごぉ〜〜〜!?」
大ジョッキ一杯全部飲んでしまったそうです。
「うぅ〜、せっかくのお茶が台無しだ……入れ直そ」
「…………」
ズズズ……
「はぁ、やっぱこっちのが数倍いいねぇ……」
「あんた、何とも無いのかい?」
「あ? あぁ、俺酒に強いらしいから」
「飲んでもないのに何でわかるんだい?」
「検査でね、アルコール……だったかどうか憶えてないけど……
まぁ、塗って赤くなればなるほど弱いらしいけど、俺まったく変わらんかったから強いんじゃない?」
「強いのに何で飲まないのさ」
「俺あんた達みたいに馬鹿になりたくないし」
ピキ
「まぁ第一に嫌いってのもあるけど――って何故俺を取り押さえる」
「腹が立ったからお前をどんな手を使っても酔わせる」
「はぁ?」
「吐いたらお前の負けだ」
「…………?」
「よし、GO」
 
ギャアアアアァァァァ…………!!
 
「訳……わかんねぇ……」
 
結局お兄ちゃんは最後の最後まで酔わなかったそうです、飲みすぎで吐きそうでしたけど。

ミルム日記 その32
 
 今日は食堂でちょっとした小競り合いがありましたが、
お兄ちゃんが軽くおとなしくさせてしまいました。
 
「いや〜、助かったよザナウ」
「いや、あんたがやった方が数倍速いだろ……」
「手が離せなかったんだよ、面倒くさいし」
「最後ので台無しだな」
そう言った後小さく溜息をはくと、私達のテーブルに戻ってきました。
「お兄ちゃん強いね」
「はは、俺が強かったら世界中の人全員最強だぞ」
「ううん、ミルムだったら睨まれただけで泣いちゃうよ」
「泣いても同情されるだけでつらいだけだぞ〜」
お兄ちゃんはタレながら片手をひらひらさせていました。
「あら、でもザナウさん私の前で泣き喚きませんでしたっけ?」
「…………」
その言葉を聞くと、お兄ちゃんは2階へ上っていってしまいました。
隣を見るとお姉ちゃんが「しまった」という顔をしていました。
「その話……本当なの?」
「ええ……私が知る限りは一回ですけど……」
 
お姉ちゃんはそれ以降その話をしてくれませんでした。

ミルム日記 その33
 
 今日は特に大きな騒ぎはありませんでした。
なので昨日の事を少し書いてみます。
 
 私はよく考えるとお兄ちゃん達に会う前の過去を知りません。
訊かなかった訳ではありませんが、すぐに話を逸らされます。
お兄ちゃんは「聞いても面白い事なんか何も無いよ」と言い、
お姉ちゃんは「ごめんね……」と言ったきり何も話してくれません。
 
 お姉ちゃんはお兄ちゃんは泣いた事があると言いましたが。
私にはその姿が想像できません。
お兄ちゃんはいつも明るく振舞い、馬鹿な事をやっているからです。
どうして泣いたのだろう。
何かが怖かったのか、苦しかったのか
 
――とても悲しい事があったのか。
 
お兄ちゃんは何も言ってくれません、
お姉ちゃんは何も教えてくれません、
私はあの人達の事を何も知りません。
 
私は二人の過去に触れてもいいのでしょうか?

ミルム日記 その34
 
 今日は部屋に隅に置いてある白い包みの正体を訊きました。
 
「お兄ちゃん、あの白い包みは何?」
「ん〜? あれか……言ってなかったっけ?」
「ん」
「まぁ、大したもんでもないがな……」
お兄ちゃんはそう言うと白い包みを取って来て、
私の前で開きました。
その中身は白い大きな羽根が数枚入っていました。
「これは?」
「大破したシュヴァルベの羽根、何枚か残しておいた」
「綺麗だね……」
「そうか? セフィーに付いてるのも何ら変わらないぞ」
「どっちも綺麗」
「そうか……あいつもきっと喜んでるよ」
 
そう言っている時のお兄ちゃんはとても嬉しそうでした。
やっぱりお兄ちゃんは笑っている方がいいです。

ミルム日記 その35
 
 今日はお兄ちゃんに勉強を教えてもらいました。
 
「はい、8×8は?」
「え、え〜っと……」
「はい時間切れ〜」
「うぅ〜……」
「まだまだやね〜、掛け算なんて小学二年生の問題だぞい」
「うぅ……だって分かんないんだもん……」
「こういうのは暗記しちまうんだよ」
「暗記?」
「そう、リズムをとって歌のように。歌は好きだろ?」
「うん」
「だったら簡単だ。んじゃ言いやすい方を教えるか」
 
お兄ちゃんは五七をよく七五と間違えてました、
何やら七五三に似てるから言いづらいらしいです。

ミルム日記 その36
 
 昨日は日記が書けませんでした……。
何故かよくわかりませんが気がつけば朝になっていました、
しかもひどく頭痛がします。
あともう一つよくわからないのがお兄ちゃんやセレナおばさん達が
私に敬語を使うことです。
何やら
「昨日は無理やり飲ませてすいませんでした」
とか
「これからはおとなしくします」
やら言ってきます。
お兄ちゃんに何があったか訊くと
「昨日の夜は無かった事にさせてください」
とか意味の分からない返事が来ました。
 
何なんでしょう?

ミルム日記 その37
 
「お兄ちゃんは何で銃を使わないの?」
「今日は随分と突然だねぇ、ミルム君」
「どうして?」
お兄ちゃんは少し考え込んだあと
「ぶっちゃけお金が無いから」
たった一言でまとめました。
「……それだけ?」
「それだけ」
 
本当にそれだけ?

はりきりミルム日記 その38
 
 お兄ちゃん……何ではりきりなんですか……?
昨日は頭痛がひどかったので早めに寝たため、
日記が書けませんでした。
お兄ちゃんは
「まぁ今まで書けていただけすごい方だろ」
と言っていました。
何故か言い訳に聞こえるのは私だけでしょうか?
それと、そろそろ日記のページ数が少なくなってきました。
元が薄かったので、長持ちはしないと思っていましたが……。
 
お兄ちゃんの性格上いつ再開できるか分かりません。

ミルム日記 その39
 今日は特にやる事も無く、だらだらとした一日を過ごしました。
 
「ザナウさん……」
「ん〜?」
お兄ちゃんは床にうなだれながら返事をします。
「暇です……」
「奇遇だな、俺も暇なんだ……」
「だう〜」
「おらぁ! てめぇら暇なら手伝え!!」
バタンと大きな音を立てながらセレナおばさんが入ってきます。
「やだ」
ズダン!
お兄ちゃんの目の前に包丁が突き立てられます。
「悪いがお前さんには否定する権利などない……」
「私……(自由を)奪われてしまったのですね……」
「変な言いかたしてないで行くぞ」
「うぇーい」
そのままズルズルと引きずられて行きました。
 
階段辺りで小刻みに打撃音が聞こえたのは気のせいにしときます。

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